「ピンポーン」
　玄関のチャイムが鳴った。
　手に持っていた果物籠をテーブルの真ん中に置くと、部屋の掃除のために来ていたエプロンを外し、玄関へ出向いた。
「ハーイ、どなたですか」
「扶○社の佐々です」
　来客者の名前を確認し、チェーンを外して玄関の扉を開けた。

　ヤ○ハから電話があったのは2週間ほど前のことだった。
　顧客に配っている社誌の特集「身近な先生」にピアノ教師をしている私を掲載したいとの申し入れだった。
　大勢の人に自分の写真を見られることに抵抗があり、最初は断ったのだが、推薦者に大学の恩師の名前を挙げられ、結局引き受けることになってしまったのだった。
　当初の予定では取材は明日だったが、午前中に記者兼カメラマンの佐々さんより電話が入り、急遽今日の午後にして欲しいとのことで、慌てて部屋の片付けをしていたのだった。

「おじゃまします」
　スリッパを履いて玄関を上がった佐々さんは、三十歳半ばくらいだろうか、背の高いがっしりとした知的な香りのする男性だ。
　リビングのピアノの横のソファーを勧めながら、自分はキッチンへ入りお紅茶の用意をする。
「どうぞお構いなく」彼はソファーには腰掛けず、部屋の中を歩きまわりながら壁にかかっている絵、テーブルの上に置かれている物・本などを物色している。
「まずいものは出てないかしら」急に不安に襲われた。

　お紅茶とクッキーの入ったお皿をサーブして、自分は小さな食卓の椅子に腰掛けた。
「いつもこのお部屋でレッスンされるんですか？」
「出張の場合と半々くらいでしょうか」
「素敵なお部屋ですね、女性の部屋の香りがします」
「生徒さんには成人した男性の方もいらっしゃいます？」
「ええ、定年された方もいらっしゃいます」
「お部屋で先生のようなグラマーな女性と二人きりになれるなら僕も生徒にして欲しいな」
「生徒さんに迫られたりすることもあるんでしょうね」
「まさか・・・」

　本当は、卑猥な言葉を掛けられたり、お尻やバストをタッチされたりしたことは何度かあった。
　定年後にピアノを始めた男性に襲われそうになったこともある。
　でも、そんなことは正直に言えることではなかった。

　１０分程度の雑談のあと、インタビューが始まった。
　自分のピアノ暦や教師暦、レッスンの方法、自分の教え方への恩師の影響、生徒さんとの思い出話など型通りの質問が続いた。
「それでは、あとは写真撮影をお願いできますか」
　そう言いながら、佐々さんは持ってきたバックから一眼レフカメラを取出し、ストロボを取り付け始めた。
　本格的なカメラマンの被写体になった経験のない私は、いかついカメラを見ただけで、胸の鼓動が早くなった。
「服装はそれでよろしいですか」彼は尋ねた。

　普段からスーツを着ることの少ない私は、撮影用に着る服で散々迷い、結局、この日は水色のワンピースを着ていた。
　大き目の胸を誇張することのないよう、胸の開いていない服を選んだのだが、その代わりこの服はすそがやや短めだった。
　ヒップが大きいので、椅子にすわると余計にすそが上がってしまい、膝上20cmくらいは太股が露出してしまうのだった。

「まずは、このソファーに座っていただけますか」
　佐々さんは、座っていたソファーから立ち上がると、窓際へ場所を移し、手慣れたように部屋の明るさを測定し、ファインダーを覗きカメラアングルを確かめ始めた。
「もう少し右ななめに座っていただけますか」
「もう少し顎を上げて、顔はやや右に、目線だけカメラを見てください」
　次から次へとポーズの指示をされ、言われた通りに身体を動かす。
「それじゃあ、撮ります」
「カシャッ・・・、カシャッカシャッ」
　簡易カメラでは考えられないようなシャッターを切る大きな音が小さなリビングに響き渡り、その度にストロボが閃光する。
「もう少し笑ってください、そう」
「カシャッカシャッカシャッ」

「もう少し深く腰掛けてください、・・・・・・もう少し」
　深く腰掛けると腰が沈み、その分膝が上がる。
　スカートの中が見えてしまうのでは、と心配になる。
「カシャッカシャッ、カシャッ」
　佐々さんのカメラが私の下半身を狙っているのではと思われてしかたがない。
　そしてそのスカートの中の大事な部分は、先程からのシャッター音とストロボの眩しさで少しずつ反応し始めていた。
　シャワーを浴びた後に選んだ白のシルク地のパンティーに隠れた秘境は、じわじわと熱くなり、むず痒いような感覚を生じていた。

「先生、とってもいい、とても奇麗ですよ」
「そんな・・・」はにかんだところをまた、シャッターを切られる。
「少し、足を組んでみましょうか、ひとみ先生」
　レンズを向けられながら先生と呼ばれることが、どこか倒錯した世界の匂いを感じさせる。
「さあ、先生」
　再び先生と呼ばれ、ぼーっとしながらゆっくりと左足をあげ、右足の上に組んだ。
「カシャッカシャッ」
「先生、とても素敵ですよ」
「カメラのプロから見ても、ひとみ先生はとても魅力的だ」
「初めて女性を撮ったときみたいに、ドキドキしますよ」
「カシャッカシャッ、カシャッ」

　プロカメラマンは口でモデルの気分を乗せると何かの記事で読んだことがあった。
　確かに、矢継ぎ早に投げかけられる誉め言葉は、とても心地よく、気分を高揚させていく。
「背もたれに寄り掛かり、少し胸を張ってみてください」
　そんなポーズを取る必要があるのかしらと思いつつも、言われたとおり、大き目の乳房を誇張するように胸をはった。
「カシャッ」
「素晴らしいっ、色っぽい」
　そんな言葉が、何の抵抗もなくスーっと耳に入ってくる。

「それじゃ、今度はピアノを弾いているところを」
　佐々さんに促され、ソファーから立ち上がり、ピアノの前の椅子に腰を下ろす。
「鍵盤に両手を置いて、顔だけこちらへ向けてください」
「カシャッカシャッ、カシャッ」
「そうそう、いい感じですよ、もう少し笑って」
「もう少し指を立てて、弾いている感じを出してください」
　そう言いながら彼の指が私の右手の指に軽く触れた。
　触れられた指先から熱くなったあそこまで電流が流れたような感覚が走った。
「もう少し、背筋を伸ばしてみて」
　今度は、彼の指先が背骨に沿ってスーっと背中を撫で上げる。
　ぞくぞっくと身体が震えた。

「リラックスして下さい」そう言いながら肩を揉まれた。

「少し髪を直しましょうか」耳元で囁かれ髪に触れられる。
「顔はもう少しこちらへ」人差し指と中指で顎に触られる。
「肩を張って」肩甲骨を撫でられる。
「上半身をやや右に」両側の脇腹を軽く手で押さえられ、身体を捩じられる。
「少し微笑んでみてください」敏感な下唇に触れてくる。
「髪を掻き揚げてみましょうか」髪を上げてる指が微かに耳に触れてくる。

　身体のあちこちに触れてくる彼の指の感触、シャッターの音、ストロボの閃光がどんどん私の気持ちを昂ぶらせ、気持ちの高揚とともに私の身体はこれらにより敏感に反応していく。
　スカートの中の秘部は熱い愛液を滴らせていた。
「パンティーにしみが広がっているに違いない」
　そう思うと、意識的に両膝に力が入る。
「ファインダーを見つめてください」声のするように目をやる。

　彼の持つカメラが何となくぼやけて見えた。
「瞳も潤んでいるのだ」そう悟った。
　彼に私の身体の内部に起こっている変化を気づかれては大変と、慌てて両方の目をハンカチで拭いた。

「疲れたでしょう、すこし休みましょう」
　カメラをフィルムを交換しながら彼が言った。
「ソファーででもリラックスしてください」
　彼に言われるままに、椅子から立ちあがりソファーに深々と腰を下ろした。
「また少しお話聞かせていただいていいですか」
　彼はソファーの前に食卓の椅子を動かし、こちらへ向けた背もたれに肘を置き、椅子をまたぐようにして座った。
「ええ・・・、どうぞ」
　右手に持つカメラのファインダーは下を向いていたが、彼の涼し気な目で見つめられると、どきどきする。

「ひとみ先生は・・・、彼氏はいらっしゃるんですか」
「えっ・・・、それって取材に必要な質問ですか？」
「いえ、単に一人の男としての興味です。先生が余りに魅力的だから」
「気分を悪くされたのでしたら撤回します」
　そう言うと、彼はぺこりと頭を下げた。
「一応、いますけど・・・」
「そうでしょうね、やはりピアノを弾かれるのですか」
「いいえ、大学の同好会の友達で」
「やっぱり、デートの度にセッ○スされるんでしょうね」
「セッ○ス」というストレートな言葉に、あそこがジュンと反応してしまう。
「やっぱり・・・とは？」
　危ない会話の入口に立っているのが分かりながら、まるで催眠術でも掛けられたように話題を拒絶することができない。
「先生みたいな身体中からフェロモン撒き散らしてるようなタイプの女性って、男なしではいられないって、そう感じるんです」
「プロカメラマンとしての経験からですか」
「そうかもしれません」
　彼の瞳がじーっと私を見つめている。
　全てを見透かされているようで、恥ずかしくなり目線をそらし、顔を下に向ける 。

「カシャッ」
「恥じらいのポーズ、いただきっ」
　そう言いながら、彼は素早くカメラを構え、シャッターを切った。
　不意をつかれ写真を撮られ、消えかかっていた身体の中の炎がまた激しく燃え始める。
　もうインタビューを切り上げて帰ったもらったほうがいい、頭の中でそんな考えが浮かび上がっては、体の中から起こる熱いうねりによって流されていく。