２．

「佐々さんの眼力ははずれですわ」
「そういう行為はそんなにいつもしているわけではありません」
　うつむきながら反論した。
「そうですか・・・、週に一回くらいとか」
「いいえ、二ヶ月に一回あるかどうかです」
「信じられない。彼はひとみ先生の魅力に気がついてないんじゃないですか」
　彼は怒ったように大きな声をあげた。
「先生はそれで大丈夫なんですか？」
　欲求が満たさているのかという意味であろうか。
「ええ・・・、別に」嘘がばれないように祈りながら小さな声で答える。
「んん・・・、そうかなあ」
　彼は独り言のようにつぶやくと、椅子から立ちあがり、部屋の中をうろうろし始めた。
　人差し指で顎をなぜながら、部屋の中に置いてある幾つかを眺め、何かを考えているようであった。

　しばらくすると、
「そうかっ、なるほど」と彼はぽんと手を叩いた。
「女性としてのひとみ先生を撮らせて下さい」
　そう言うと、椅子の上に置いてあったカメラを再び手にして、レンズをこちらに向けた。
「女性としてってどういうことですか」
「普段のありのまま、この部屋での暮らしぶりを撮りたいということです」
「いつものって言っても、ピアノ弾いたり、お掃除したりくらいしか・・・」
「それだけじゃあないでしょう」
　彼はファインダーから顔を上げると、食卓へ歩み寄り、上に乗っている果物篭にいれてあったバナナを一本取り上げた。
「これっ、持ってください」
　身体全体がかーっつと熱くなる。
　何気なく置いたつもりなのに、このバナナで何をしているのか悟られたのだろうか。
　目の前に突き出された曲がりの小さいバナナをおずおずと受け取る。
　次に彼は、出窓に置いてあったビー玉の入った小皿を取り上げ、私の横のソファーの上に置いた。
「やっぱり気づかれてるんだ」
　内腿の付け根の秘境に再び熱い液がしみ出してくる。

　さらに、筆箱の中から絵筆を取り出し、これもソファーの上に置く。
　キッチンの流しからは歯ブラシを持ってきた。
　最後に、ズボンの後ろのポケットから財布を出し、中から何やら取りだして私の腰の横に置いた。
　コンドームだった。
「な、なんのつもりですか」どきどきしながら尋ねる。
「なにって、単なる小道具ですよ」

　彼は平然と言ってのけると、カメラを構えた。
「さあ、いつものようにして」
　身体が震え、汗が噴き出してきた。
　声にならない声で、かろうじて
「いつもって、お腹はすいてませんっ」
　と言うと、彼は一直線に私に向かってきた。
「しょうがないなあ、いつものようにですよ」
　と言いながら、カメラを持っていない左手で私の右の乳房をいきなり揉み上げた。
「ぁぁあ〜っ、だっめっ」不意の愛撫を敏感になった胸に受け思わず喘ぎ声が漏れる。
「やめてっ」
　だが、彼は何も聞こえないように、激しく乳房を掴み続ける。
　次の瞬間、ワンピースとブラジャーの上から、二本の指で乳首を強く摘み上げられた。
「はっはぁぁ〜、ぁぁあっ」
　写真を取られている間中、固くなっていた乳首は痛さまでも快感に変えてしまう。
　今度は左の乳房に強い愛撫を感じた。
「ぁあああっ、・・・ぁあ」
　頭が真っ白になった。

「さあ、もう一度言いますよ、いつものようにして」
　彼は私から離れると、またカメラを構えなおした。
　私は手に持つバナナとカメラのレンズを交互に見つめる。
「さあっ、早く早く」
　彼が期待していることは明らかだった。
　そして、私のどこかにそれを彼に見て欲しい、カメラに撮って欲しいという気持ちが芽生え、どんどん大きくなっていった。
　ゆっくりとバナナを左手に持ち替えると、右手で皮をむき始める。
　２枚、３枚と皮を剥くと、丁寧に筋をとる。
　じーっとバナナを見つめ、大きく息を吐き出し、そして、その先端を舌で舐めた。
「カシャッカシャッ、カシャッ」ストロボが光る。
　もう一度、またもう一度と舌を出して、チロチロと舐めてみた。
　甘〜い香りが口の中に広がる。
　今度は、真ん中あたりから先端に向けて舌を這わせてみる。
「カシャッ・・・カシャッ」
「見られている、撮られている」
　そう思うと、どんどん感情が高ぶり、大胆になれそうな気がしてきた。

　先端を少しだけ口に含み、口の中で舌をちろちろと動かす。
「んんふっ〜」声にならない声が漏れる。
「いいね〜、そう、本当はいつも本物がしゃぶりたいんだよね」
「先生、上手だね〜、こっちまで興奮してきたよ」
　横目で彼を見ると、ぴちぴちの黒っぽいズボンに包まれた股間が大きく膨らんでいた。
「おっ、大きい」彼の男根は、このバナナより遥かに逞しそうだった。

　その瞬間、バナナは私の頭の中では彼の男根となった。
　私は、裏すじにそって舌の先を這わせ、かりの裏側を嘗め回す。
　剥いた皮を陰玉にみたて、左手の指先で優しく揉むように愛撫する。
「カシャッカシャッ、カシャッ」
　シャッターの音が彼の指の代わりに私の性感体に触れてくるようだった。
「んふっ、んん〜」バナナをくわえる口元から息が漏れる。
「おいしいかい、おちん○ん」
　舌による愛撫を続けながら、小さく頷く。
「ちゃんと、言ってごらん」命令するような口調だった。
「お、おいしい〜」口から一旦バナナを抜き、小さな声で答え、またバナナをくわえて、強く吸いあげる。

「じゃあ、その筆も使ってごらん」彼が囁いた。
　バナナの先端の周りを舌で舐め回しながら、右手でソファーの上をまさぐり、筆を握った。
　穂先で軽く、膝をなでてみる。
　甘美な感覚が一瞬膝に広がり、すーっと消えていった。
　反対側の膝、そして内腿をなぞる。
　頭を振って髪を掻き揚げ、耳から首筋にかけて筆を走らせる。
　股間がジーンと熱くなるほど気持ちいい。
「んっ、んん〜」
　バナナをしゃぶる口唇から吐息が漏れる。

　ワンピースの上から左の乳首の周りに円を描くように筆をなぞらせた。
　つんと突起した乳首に触れてくる柔らかな筆先の感触に堪え切れず、バナナを口から外し、
「ははぁああ〜、ぃいいっ」大きく喘ぎ声をあげ、再び、舌を大きく出してバナナを上下に舐め始めた。
「カシャッ・・・カシャッ」
　半開きの瞳の中に妖しい閃光が飛び込んできて、私をどんどん倒錯の世界へと引きずり込んでいく。
「もっと感じたいっ、乱れたいっ」
「淫らな私を見て欲しいっ」頭の中で叫んでいた。