１

　「よっこいしょっと」
　辻元は、最後の生ごみをごみ置き場に入れると、ドアを閉め、最後のタバコに火をつけた。
　ファミリーレストラン「グリフォン」は夏を迎え、一日中混雑していた。
　辻元は、閉店後の照明が消えた真っ暗な、がらんとした駐車場を横切り自動販売機で新しいタバコを買った。
「店長」
　アルバイトの野坂智子が声をかけた。
　高校三年生の智子は、夏休みの間だけ、本来禁じられている深夜のシフトで勤務しており実際そういう高校生は少なくなかった。
「みんながビリヤード行こうって言っていますよ」
「みんなタフだなあ・・・・」
「夏休みですから遊ばなくっちゃ」
　そう言って笑う智子を、辻本はあらためて見た。
　誘蛾灯の水銀灯にうっすらと照らされた智子の肌は白くメガネの奥に能面のように細い目、そして大きくもなければ小さくもないがつんっと上を向いた形のいい胸にくびれた腰、高校生とはいえ成熟した女の体だった。

「俺は行かないよ、みんなで行っておいで」
　辻元はポケットから四つに畳んだ5千円札を出して智子に渡した。
　やがて、5~6人のバイトと若い社員が礼を言って店を出るのを辻元は見送ってフロアの中央にある客席に一人座った
　今日、合計1000人近い客が訪れ戦場と化した店内は、小さなライトだけついて静まり返っており、その薄暗がりの中で、辻元はビールの栓を抜いた。
　ふいにバックヤードから足音がして辻元は殺気だった。
「しまった！通用口の鍵を閉めるのを忘れた！」
　深夜のファミリーレストランは物騒である。辻元は前に勤務していた店で強盗にあったことがあり、それ以来防犯には気をつけていたのだが。
　しかし、このコツコツという音は・・・女物の靴音か？

「・・・店長？」

　辻元の前に現れた小柄な人影は、野坂智子だった。