辻元のアパートの近くについたとき、これから起きることを予想して緊張していた操が、目の前を通過した桂月の車に気づく由も無かった。
　桂月もまた、再燃した辻元への想いで頭がいっぱいで気づかなかった。

　辻元が玄関を開けると、いつもと違って色っぽい操が立っていた。
「ちょうど食事に行こうと思ってたんだ、出かけようか。」
「作ってきたから、一緒に食べよう？」
　操は自分の手料理を袋に入れて持ってきていた。
　二人で向かい合って食べているときも、操は真っ赤な顔をしていた。
　操は、黒のブラジャーが透けるブラウスの胸元に辻元の視線を感じた、
「しかし今日はすごく大人っぽい格好で来たな、どうしたんだ？」
「悪い！？私だってたまにはこういう格好するんだから！」
　恥ずかしくて悪態をついたが、操は声が震えていた。
「ああ、ごめんごめん。」と辻元は謝った。
　どうして自分はいつもこうなんだろう、どうして素直になれないんだろう。
　やがて操は悲しくなってしまった。

　操はフローリングの床に正座しながら辻元の視線を意識して、ミニスカートの脚を閉じていたが、力が入りすぎて次第に疲れてきた。
　辻元と向かい合って座るこのガラスのテーブルの上に広げた手料理をどけたら、誰も触れたことのない部分を包む黒いパンティがはっきり見える体勢だった。
　やがて操は、食べ終わった食事を袋にしまいながらテーブルを空けた。
　そして、押し黙りながら辻元の視線をその部分に感じ、自分で5秒後と決めて心の中でカウントダウンをした。
　カウントがゼロになったとき、震える声で辻元に一言だけ言うのが精一杯だった。

「・・・・・・・・好きなの・・」

　辻元は困惑した。
　ついさっき桂月と、激しいセックスをしたばかりで、また次の相手だ。
　できるか？いや、操がこんなに勇気を出しているのを袖にはできない。
　辻元が操の手を取って自分のところに引き寄せると、操は体を堅くして辻元に寄り添った。
　キスを受け入れた操の唇の奥で歯がかちかち音をたてていた。
　それが恥ずかしくて操は歯を食いしばったが、体の震えが辻元に隠せなかった。

　夏も終りとはいえまだ日は長く、ブラウスのボタンをはずされた操は、明るいところで裸になる恥ずかしさで、ついに涙ぐんだ。
　しかし、辻元が「・・・・・・やめとくか・・」と言うと,、操は無言で辻元の腕を両手で握り、ブラジャーをつけた胸に持っていった。
　そして下着だけの姿にされた操はついに辻元のベッドに横たわった。
　シーツが桂月の体液でまだ少し湿っていたが、緊張している操は気づかなかった。

　操が処女と知った辻元は、ただでさえ時間をかける愛撫に一層時間をかけた。
　何度もキスをして、操の乳房をブラジャーの上からやさしく揉んだ。
「あっ・・・んっ・・・」
「脱がしていいと思ったら・・・・自分から言いなさい。」
「いやぁ・・言えないからだめぇ・・・」と操が答える、
　体の震えが少し収まってきたようだったが、それでも辻元は性急なことはしなかった。　辻元の背中におずおずと腕をまわし、操もまた不器用に辻元を愛撫しているつもりだった。
　暖かい、操はそう思った。
　体温の交換、それが女の、男に対して安心する最も重要な要素である。
　辻元は自分の体を密着させるように、少しずつ操の体に自分の体温を伝えた。
　やがて体が温まってくると、操の体から震えが取れて、操は辻元の耳元に囁いた。
「・・・・・脱がして・・・いいよ・・・。」

　ブラジャーをはずされて、乳房を剥き出しにされた操は目を閉じて横を向いた。
「・・・いや・・・・・」
　ピンク色の小さな乳首を辻元が舌で転がすと、操は生まれて初めての感覚を知った。
「あっ・・・ああああん・・・」
　どうしてこんな声が出るのか操にもわからなかったが、体の中から、何かが一気に噴き出してくるような感覚だった。

「これが・・・・・・（感じる）ってことなの？」

　操は両腕を左右に投げ出した。
　それは色気のないポーズだったが、体中の力が抜けて辻元の背中を抱けなかったのだ。「はっ・・・はっ・・・はぁっ・・・あん・・・」
　辻元に乳首を転がされ、操はなすがままになって感じていた。
　まだ緊張はしていたが、少なくとも恐怖心は操から消えた。
　長い時間そうして辻元は、操の乳首を刺激すると、やがて右手を下に滑らせた。
　操は最初、おもわず脚を閉じてしまったが、あらためて辻元が乳首を吸うと力を抜いて、少しずつ自分から脚を開いた。
　辻元が、指全体で操の性器をパンティの上から撫でると、操は体をぴくんっと跳ね上がらせ、そして自分はもう濡れているのだと知った。
　セックスのとき、女の体がどうなるかくらい処女の操にだってわかっている、
　しかしそれが実際に自分の体に起きたとき、軽い衝撃を受けて一層恥ずかしさがこみあげてきた。
　パンティを脱がされて、誰にも見せたことのない部分が辻元の前にさらけだされたとき、操は思わず脚を閉じそうになったが、両手でシーツを握り締め必死でこらえた。

　恥ずかしくない。恥ずかしくなんかないんだ。女はみんなそうなんだ、
　あの智子だっていつもこの辻元に、こうさせているに違いないのだから。
　自分は智子から辻元を奪うのだ、負けてたまるか。
　気丈な操だったが、オナニーすら経験したことのないその部分に辻元が舌を這わせた瞬間それは崩れた。
「あああああああああああああっ・・・・ああああああああああん！」
　それは初体験の操にとって、快感というよりは電流だった。
　乳首を舌で転がされたときも、それはやってきたが、比較にならなかった。
　操は体中を反り返らせ、ぶるぶると震えた。
　怖い、辻元に抱かれることがじゃない、それはもう完全にその気になったからいい。
　操は自分の体に何が起こっているのかわからないのが怖かったのだ。
　しかもこの震えは、恐怖ではなく・・・・痙攣らしい。
「あっあっあああん・・・ああっ・・・すごくいいっ・・・」
　操は思わず口走ってしまったが、もうどうしようもなかった。

　初めてのときは痛いって聞いてたのに、こんなに感じるなんて・・・
　そうだ・・・男のものが入ってくる前に・・・女は男のものを口で刺激してあげるんだ。
　情報からの知識だったが操は、けなげにもそれをしようとしたが体が動かなかった。

　そして辻元が、操の中に入ってきた瞬間、操に情報通りの痛みが襲った。
「ああっ・・・い・・たい・・・ああああっ」
　操は自分の膣の中で何かがぷつんっと切れる感じがした。
　思わず体を離そうとしたが、辻元は腰のあたりを抱きしめ、さらに深く押し込んで来た。
「いたっ・・い・・・いやぁ・・ああ・・」
　痛みの中で、それでも操は自分の中に入った辻元の先端部分が子宮に達したのがわかった。

　自分は今、辻元と体の中からつながっているのだ、
　操は夢中で辻元を抱きしめ、辻元の肩越しに天井を凝視した。
　店長室で辻元の代わりに書類の清書をしていたときの、智子の顔が浮かんで来た。
　女の心に住む蛇、操という大蛇は、智子という蛇への宣戦を布告したのだ。

　辻元が腰を動かして、先端部分を操の子宮に打ちつけるたびに、膣粘膜から次第に快感が沸いてきたが、痛みが勝ってそれに没頭するほどではなかった
　それでも操は「あっ・・・あっ・・・あっ・・あっ」と小さく喘いだ。

　好き！・・・大好き・・・大好き・・・うれしい・・・
　操は夢中で辻元にしがみついていた。

　辻元は体位を変えて、操を四つん這いにした。
　変わった体位は、経験が浅いうちに知っておいた方が抵抗がなくなる。
　後から再び挿入された操は、腕の力が抜けていてへたりこんだため、尻を突き出した格好になり、辻元のものをさらに深く受け入れる体勢になった。
「あっ・・あっ・・いや・・・恥ずかしい・・・」
　自分がこんないやらしい格好をするなんて、操はたまらなくなってシーツを握り締めた。
　すっかり日も暮れて暗くなった部屋に、操のぎこちない喘ぎ声が響く。
　やがて辻元は、再び体位を正常位に戻して挿入し、スパートに入った。

「イクよ。」と辻元は操の耳元にささやいた。
　イク・・・男の人のイクってどういうこと？精液を出すっていうこと？
　ああ、そう言えば今避妊していない、これが生でするっていうこと・・？
　私・・・妊娠しちゃうかも知れない・・でも・・もうどうでもいい！
　操の頭をぐるぐると、色んな思考がめぐったが、操の口をついて出た言葉は
「イッて！・・・私でイッて・・・子供扱いしないで！」
　操は初めて自分の子宮に流し込まれる精液のぬくもりと、男のものの脈動を感じた。
　高校三年生、18歳の秋、井原操は女になった。

「・・・・・・私・・・・よかった？」辻元の腕の中で操は訊いた。
「うん、すごくね。」と辻元が答えた。
「私だって・・・・女なんだよ・・・」と操が言うと辻元は笑いながら
「わかってるよ、当然だろ？」と言った。

（智子とどっちがよかった？）とは言えなかった。
　操は立ちあがると裸のままシャワールームに歩いた。
　ほんの十五分ほど前まで、下着を見られるだけで顔から火が出そうだったのに今はもうあまり恥ずかしくないのは、真っ暗な部屋のせいか、心に何か変化が起きたのか、操にはわからなかったが、洗面台の鏡に映る自分を見て、小さくつぶやいた。
「私は・・・女。」

　一時間ほど前に桂月が使ったシャワールームには、桂月の残り香がかすかにあったが操は特に気づかなかった。
　熱いシャワーを浴びていると、辻元のものがまだ入っているような感覚が鈍痛とともに残る操の性器から、どろっとしたものが流れてきた。
　わずかに操の血が混じった片栗粉のようなその液体を、操は手に取ってみた。
「これが男の人の精液・・・」
　操が感慨にふける間もなくその液体はシャワーから出てくるお湯の水流に流されていった。

「本当に送っていかなくていいのか？」と辻元が訊くと
「大丈夫よ、第一車ないでしょ？今。」
　と笑顔で答えると操は帰って行った。

「どうも俺は軽率というか、据え膳を食わずにおれないというか・・ダメだなあ・・・」
　辻元は、部屋を片付けながらつぶやいた。
　ベッドのシーツには、桂月の体液と辻元の精液の混じったシミと、ついさっき抱いた操の破瓜のシミが残っていた。
　それをはがして洗濯機にいれると新しいシーツを出した。

　パソコンの電源を入れて、店の売上予定表を表示させて、辻元はしばらく店長業務をやっていた。
　一時間ほどして電話が鳴った、少しいやな予感がしたのだがそれは的中した。
　今度は智子からだった。
「もしもし？今日バイト早いから終ったらそっち行くからね、泊まっていいでしょ？」

「おいおい・・・ウソだろう・・・・・」辻元は頭を抱えた。
　いくらなんでも一日に三人は無理だ、しかも最後の一人は泊まりで来るのだ。
　しかし断る理由を思いつかなかったので、辻元は仕方なく許した。

　智子は桂月を警戒していた。
　もしかしたら真紀はすでに辻元と関係を結んでいるかもしれないが、真紀はああいう性格だから、智子の前に立ちはだかることはないだろう。
　しかし、桂月は別だった、あきらかに智子にとって危険な存在だった。
　それは智子の女の勘というよりは、本能といったほうがよかった。
　実際それは現実のものとなっていたのだが、智子はそれには気づいてはいない。
　もう一人、井原操も少し気になっていたが自分の敵ではないとも思っていた。

　辻元のマンションについた智子は、さりげなく部屋の中をチェックした。
　しかし、そこは役者が違う。辻元は二人の女の痕跡を完全に消していた。
　智子は自分の取り越し苦労と思って少し安心した。

　とりあえず、智子はシャワーを浴びることにした。
　シャワーの音を聞きながら辻元は、メールチェックをしていた。
　桂月からのメールが入っていたが、今は読まずにフォルダへ隠した。
　シャワーから出た智子は、パンティだけはいてタオルを体に巻いていた。
　冷蔵庫から麦茶を出してやると、辻元は自分がシャワーを浴びることにした。
「ああ・・・明日・・俺起きられるかなぁ。」

　智子は麦茶のコップを持ってベッドに座った。
　辻元の住む2LDKのマンションは、同じ広さかそれよりも狭いアパートで家族四人で住む智子にとって、夢のような住環境だった。
　家賃はいくらくらいかな、と智子は考えた。そして卒業したら辻元と一緒にここで暮らしたいと本気で考えていた。

　辻元がシャワーから出てきた。
　智子は女房気取りで、辻元にキスして口移しで麦茶を飲ませた。
　ひんやりとした舌がからみあい、智子の体に巻かれていたタオルがはらりと落ちた。
　辻元は覚悟を決めて、智子をベッドに連れて行った。

「さて、もうひとがんばりするかな」