桂月の両親は、厳格に桂月を育てた。
　桂月が、ちょっとした反抗期に入った思春期も毅然とした態度で接し、おかげで道をはずすことなく桂月は大学四年のこの歳になった。
　桂月は貞淑さを女の美徳と教育されてきた。そしてそれは純潔をも意味していたが、さすがにそこまでは実際に従うことはできなかった。
　いつか自分に恋人ができたとき、彼が自分の体を求めてきたらそれを拒むつもりはなかった。
　大学に入って間もなく辻元と出会い、それを運命の出会いと思い、桂月は処女を捧げた。
　しかし辻元は桂月の前から去っていった。
　桂月は悲しみに暮れたが、次の男を捜すという発想にはなかなかなれなかった。
　そうやって、次から次へと男の間を泳ぐのは、桂月の美徳である「貞淑」とは対立するものであった。辻元に体を開発された桂月が、無意識にその性欲を「封印」したのはこのためだった。

　やがて歳月が過ぎて、辻元と再会したとき、桂月は辻元を取り返したいと思った。
　辻元が女癖の悪い浮気者なのはわかっていたが、育ちのいい桂月は性善説的に自分がしっかり待っていたら、きっとわかってくれると信じていた。
　再び辻元に抱かれたとき桂月は、自分が辻元のために「女」を作られたのに気づいた。　辻元は、どんな男にも可愛がられるように仕込んだつもりだったが、わかっていなかったことは、桂月が妖艶に変身できるのは最愛の男に対してだけで、また、スイッチが変わるように愛情の対象を変えることは、桂月の生い立ちからすると至難の技であるということだった。

　桂月は長いメールを何度も書いて、また削除を繰り返した。
　辻元へのメールを書くとき桂月はいつもそうなのだ。
　今回は、短いメールを書いて送信した。
「お母さんのこと、お悔やみを申し上げます。
　そして早く帰って来てくれることを待っています。：桂月」

　二日後の夜遅く、葬儀を終えた辻元が自分のマンションに帰って来た。
　窓を開け、部屋の空気を入れ替えていると、真紀から電話があった。
「こうちゃん、おかえり！大変だったね、今夜あたり帰ってくる気がして電話したんだ。」
「ああ、ついさっき帰ってきたばかりだよ。」

　辻元は、なんだかむしょうに話し相手が欲しかった。
「ちょっとビール買って俺の家に来いよ。」と真紀を呼んだ。
　スーツを脱いで着替えながら、辻元はまだ落ち込んでいた。
　ちょっとした財産を相続したとはいえ、母を失った悲しみの中にいる辻元に親戚連中がたかって来て、もううんざりしてしまった辻元は、早々に引き揚げて来たのだ。

　真紀が現れた。
　辻元は明るく迎え、ビールを飲みながら、退屈な葬儀だったと、陽気に話した。
　そして真紀から、辻元不在の店の様子を報告された。
　新しい社員の奥寺から聞いてもよかったのだが、店を理解している分真紀の方が確実だ。
　辻元はそれを聞きながら、うんうんと頷いていた。
　しかし明るいようでも、どこか言葉が途切れがちの辻元の様子を真紀は見逃さなかった。
　ふと真紀は、真顔になって「こうちゃん・・・・しっかりしてよ。」と言った。
　グリフォンにおいて、辻元の右腕的存在の真紀は、勘が鋭かった。
　辻元の帰宅の日と時間をも予測し、なおかつ、明るく振舞う辻元の落ち込みも真紀は見破っていた。

　真紀はソファから立ちあがると辻元の寝室へ行き、辻元を手招きした。
　電気の消えている寝室から首だけ出して、おいでおいでする真紀に辻元も立ちあがった。

「こうちゃん・・・・しようよ。」真紀は着ていたポロシャツのボタンをはずし始めた。
「お前は本当に情け深い女だよなあ。」辻元は苦笑いした。
「だってさ、・・・あたしバカだからさ、これしかこうちゃんを元気づける方法わかんない　んだよ。」

「グリフォンの社員は、何はともあれ女好きっと。」辻元は自嘲的に笑った。
「そうそう！」と真紀も笑いながら、スカートも脱いで、ブラジャーとパンティだけの姿になって、ベッドに入り、辻元に言った。

「こうちゃん、おいで！」

　真紀の辻元に対する感情は、恋愛感情とは少し違っていた。
　グリフォンは居心地のいいバイト先だったが、それよりも重要だったのは、店長の辻元とウマが合っていたことだった。
　だから、落ち込んでいる辻元を見るのは辛く、落ち込んでいるグリフォン社員は例外なく女を欲するのを知っていたから、自分が買って出たというわけだ。
　そのときだけ快感を交換する関係で、口も堅い。
　真紀はすべてを心得ていた。

　真紀がこうして自分の肌で慰める男には、いくつか条件がある。
　それは漠然とした人間性に起因することなので、はっきりと真紀自身もわからないが、瀬戸内の場合は、なんとなくその気にはならなかったから、抱かせてはやらなかった。
　その条件、基準は精神的なものなので、自分はヤリマンではないと、真紀は思っていたし、今までのグリフォン社員もそう思っていたし辻元もまた例外でなかった。

　服を脱いだ辻元は、ベッドに入った。
「なんとも色気のない誘い方だなあ、（おいで！）ってのも。」
「あははははっ」
　笑う真紀の口にキスをすると、真紀は目を閉じて舌を絡ませた。
　ブラジャーをはずして、大きな乳房を揉みながら乳首を吸った。
「・・・ううん・・んん・ん・あ・・はあ・・・」
　真紀は、この間のセックスのときとは、別人のように応えた。
　噛みついてきそうな、気の強さはなりを潜め、辻元の愛撫に身を任せた
　パンティの中に手を入れて、クリトリスを指でつまむと、真紀は首を反り返らせた
「あっ・・・ああ・・・ああんっ・・いい・・・」
　辻元は真紀にキスしながら指を真紀の性器の奥深く滑りこませた。
「んんんんんんんっ・・・んんっ・・・ん・・・んんんっ・・・」
　唇をキスで塞がれたまま真紀は喘ぎ声をあげた。
　指の先で、愛液で濡れた子宮の入り口をぐいっぐいっと押すと真紀は体を震わせた。
「んんんんんんんんんんんんっ・・・んん！・・・んんん・・はぁ・・」
　辻元は真紀の唇を開放すると、パンティを脱がして真紀のクリトリスを舐めた。
「あああっ・・・こうちゃん・・・いいっ・・ああっ・・すごくいい・・」
　真紀は自分から腰を浮かせて、辻元の舌技を受け止めていた。
　そして起きあがると、辻元のものを口に含んで自分の舌技を発揮しはじめた。
　二人は69の体勢になった。

　まるで相手をイカせるのを競うかのように、二人は相手の性器に舌を絡ませた。
「ああっ・・あああんっ・・・だ・・めぇ。・・・・集中できなぁい・・」
　真紀が思わず口を離すと、辻元は起きあがり、四つん這いの状態の真紀に後から挿入した。
「あああああああああっ・・・あああ！」と真紀の体は弓のように反り返った。
　ぐちゅっぐちゅっと音をたてながら辻元は腰を動かした。
「あ・・あっ・・ああん・・・あん・・ん・ああああっ・・ああ・・」
　真紀はシーツを握り締めながら、激しい声を出した。
　辻元は真紀の尻をわしづかみにして、真紀の子宮を突き続けた。
「ああっ・・・気持ちいいっ・・ああ・・あっ・・あああん・・ああああああああ！」

　真紀が小さい絶頂を迎えてぐったりしたとき、辻元は真紀をあお向けに寝せて膝を抱えあげると、今度は正常位で挿入して突き上げた。
「あああああああああっ！あっあっあっあっ・・すご・・い・・奥まで・・届く・・」

　激しく上下する真紀の乳房と、絡みつく肉襞を交互に鑑賞しながら辻元は腰を動かした。
　真紀は苦しそうな表情で、何度か小さくイッているようで
　辻元のものを包み込むように、真紀の膣粘膜は熱く締めつけてきた。
　やがて激しくなってきた辻元の動きに、それを察した真紀は辻元を抱きしめて言った。「ああ・・・こうちゃん・・・いいよ・・今日も・・中に出して・・」
　真紀に抱かれながら辻元も真紀を抱きしめた。
　そして真紀の膣粘膜に絞り出されるように、辻元は射精した。
「ああああああああっ・・・ん・・うんっ・・・・はぁ・・・」
　真紀は悲鳴をあげると、ぐったりした。

「こうちゃん・・・元気になった？」
　辻元の体の下で、真紀が言った。
　真紀はある種のボランティアでセックスする習慣のせいか、終ると感想を訊く癖があった。
「ありがとうな、真紀」と辻元は本心から言った。
「だってあたしにはこれしかできないからさ」と真紀が言った。

（本当にそうだよこうちゃん、あたしにはこれしかできない。
　明日、店に行ったら修羅場が待ってるんだよ、智子と操の板挟みでね）

　自分の体の上でうとうとし始めた辻元を抱きながら真紀は思った。