桂月が麦茶を持ってきて、口移しで辻元に飲ませたとき辻元は、数日前智子が自分にそうしたことなど思い出さなかった。

　再びベッドに入って来た桂月を、辻元はじっくりと愛撫した、本当に「愛しく」「撫でる」という言葉の通り、かわいがるように。
　桂月は目を閉じて辻元の愛撫に身を任せ、次第に発情していく自分を感じた。
「こうちゃん・・・・・・愛してる。」
　最愛の辻元にさえ、「好き」とは何度も言えるのに、「愛してる」とはなぜか恥ずかしくて、今まで言えなかったのだが、今夜初めて桂月は、この言葉が自然に出てきた。初めて身につけた紫の下着がもたらした魔法にも思えた。
「俺もだ。」
　辻元はそう言うと、桂月にキスをした。
　乳房を揉み、再び固く隆起した乳首を転がしながら、パンティに手をやると桂月は自分から腰をあげて、するりと脱がされた。

　今度は辻元の方から桂月の性器を責め始めた。
　舌の先でクリトリスを何度も強弱をつけて刺激すると、桂月はのけぞって応えた。
「あああああっ・・ああ・・いい・・そこ・・いいの・・」
　そして唇で軽く咥え、舌で乳首をのように転がした。
「ああああっ・・いいっ・・ああああああ・・だ・・めぇ・・・あっ・・」
　桂月は狂ったように悲鳴をあげ、その豊満な体を弾ませたが、辻元は桂月の太もものあたりを大きく開かせ、がっちり押さえつけた。

　辻元は桂月の性器を見た。
　大きく脚を開かれ、剥き出しにされたその部分は、すでにぐっしょり濡れてピンクの襞がつやつやと、なまめかしく、ときおり脈打つように動いていた。
「いやっ・・・こうちゃん・・見ないでぇ・・」
　と桂月は両手で隠そうとしたが、その手をどけて辻元がその猛り狂ったようなものを桂月の中に沈み込ませると、ぐちゅっと音をたてて桂月の膣粘膜がそれを受け止めた。
「はああああああああああああああああっ！」
　と桂月は悲鳴をあげると辻元を抱きしめた。桂月の膣粘膜はすでに熱く
　ぬめりけを帯びており、波が打ち寄せるように辻元のものをきつく締めつけた。
「ああ・・あああっ・・・あああ・・すてき・・・」
　辻元が腰を動かし始めると、桂月はその上品なイメージからは想像がつかないくらいに激しい喘ぎ声を出して応え、自分の乳房がつぶれそうなくらいに辻元を固く抱きしめた。
　辻元のものが突き刺さるたびに桂月の性器からはぐちゅっぐちゅっと音がして桂月は顔を覆って叫んだ。
「いやっ・・音がしてるぅ・・ああ・・いやらしい・・あああ・」

　やがて桂月は辻元の上に乗り、自分から腰を動かし始めた。
　辻元を見下ろす体勢になり、腰を上下に動かしながら
「・・こうちゃん・・・どう？」と辻元に訊いた。
「俺よりも・・・お前の感じる動き方をしていいよ。」
　と辻元が下から乳房をまさぐりながら言うと、桂月は恥ずかしそうな顔をして今度は腰を沈めたまま、ゆっくりと回転させ始めた。
「あっ・・ああ・あああああ・ああ・・ああ・ああ・・」
　と桂月は喘ぎ声をあげ、腰の回転を激しくしていった。
「あああっ・・あん・・いや・・止め・・ら・・れない・・」
　桂月の腰の回転に合わせて辻元も下から突き上げると
「あっ・・・ああああああっ！・・いっ・・・くう！」
　桂月は辻元の両肩に手をついて、体を弓のように反り返らせ硬直した。
　辻元のものを締めつける桂月の膣粘膜が一層ぎゅっと締めつけた。
　桂月がぐったりと辻元の上に倒れかかると、辻元は桂月とつながったまま起きあがり、再び正常位で責め始めた。
「あああああっ！ああああっ！だめええっ・・こうちゃん・・いやああああっ！」
　と桂月は激しい悲鳴をあげて、シーツをかきむしった。
　ベッドがギシギシときしみ音をたてるような激しい辻元の動きを、涙をこぼしながら桂月は大きく脚を開いて受け止めつづけた。

　やってきた二度目の絶頂を懸命にこらえながら、桂月は辻元の耳元にささやいた。
「おねがい・・・こうちゃん・・こんどは・・いっしょに・・イッてぇ」
「・・・俺ももうイクよ・・。」
「早・・く・・・私・・もう・・我慢・・で・・きな・・い・・」
「・・・・・・・桂月・・・俺と結婚してくれ・・」
「あああ・・ああ・・あ・あ・・・ず・・るい！・・こんな・・とき・に・・」

　桂月が遂にこらえきれずイッた瞬間、辻元も自分のものを桂月の子宮にめりこませ激しく射精した。
「うぐっ・・」
「はああああああああああああああああああああっ・・こうちゃ・・ん・・」
　かろうじて失神はしなかったものの、朦朧とした意識の中で、桂月は自分の子宮の中に暖かい精液が流し込まれるのを感じ、夢中で辻元を抱きしめた。
　どくん・・・どくん・・・射精はいつもよりも少し長く続き、その脈動に呼応するように
「あ・・・・あ・・・」と桂月は小さく声をあげた。

「俺と結婚してくれ。」
　桂月とつながったまま、しばらく荒い息をつきながら辻元が言った。
「・・・・はい・・・。」
　桂月は涙ぐみながら答えると、辻元の肩にキスをした。

　思えばもっと早くこうするべきだったのだと辻元は思った。
　桂月の後、およそ十数人の女の体を辻元は通りすぎてきた。
　いや、通りすぎていったのはむしろ女たちの方だろう。
　野坂智子、荒井真紀、片桐晶子、井原操にしたってそうだ。
　主婦の晶子は当然として、智子や真紀、操にしたって、いつか自分の一生を賭けるに値する男を見つけるだろう、そして辻元のことはただの思い出に過ぎなくなるのだ。

　桂月はずっと自分を待っていたのだ。
　ならば自分は桂月の一生を担う男として、そろそろここで落ち着こう。
　隣に横たわる桂月を見ると、すでに桂月は満足げな表情で辻元の方を向いて、静かに寝息をたてていた。
　激しいセックスをこなしたその裸体に毛布をかけた辻元は、毛布にくっきりと浮かび上がる桂月のくびれた腰を見た。
　きっと何人も子供を産むだろうその腰を、辻元は優しく撫で、やがて辻元自身も眠った。

　翌朝、辻元が目を覚ますと桂月は台所にいた。
　濃紺のノースリーブのワンピースを着た桂月が、少しはにかむように笑った。
「・・・・こうちゃん、おはよう。」
「・・・・おはよう。」
　朝食のトーストを出す桂月のわきの下からのぞいたのは、いつも通りの白いブラジャーだった。

　もそもそと食事をする辻元の向かいに桂月は座った。
　さすがの辻元も、プロポーズの翌朝はどうも照れ臭くて黙っていたが、桂月も頬杖をついて辻元をじっと見つめていた。
　食事が済むと、桂月はふいに言葉を発した。
「・・・・・こうちゃん。」
「・・・うん？」
「私と、結婚する気なら、少なくともそれまでに身の回りを整理してね。」
「・・・・わかった。」辻元は頭をぼりぼりと掻いた。
　具体的に誰と誰という風でなく、少なくとも複数の女が自分の周囲をうろついていることを、やはり桂月はすべてお見通しだった、と辻元は思った。
「約束よ・・・」
　桂月はそう言って、ばつが悪そうにしている辻元を見て微笑むと、ふいにテーブルの下にもぐり込んだ。
　テーブルの下から、桂月の白い両手が出てきて、辻元のトランクスを下ろした。
　起きたばかりで、まだしばらく固くなったままの辻元のものを、桂月は引っ張り出し口に含んだ。
「お・・おい・・桂月・・」
　辻元は少し慌てたが、桂月は意に介さずテーブルの下からねっとりとしたフェラチオを始めた。
「これから仕事だぞ、俺。」と辻元が言うと、桂月はこともなげに
「だから、出かける前に他の女への興味を削いでおくのよ。」と言った。
　明るいところで見ると、桂月の舌はなまめかしく赤い生き物のようだった。
　辻元に「女」を作られただけあって、桂月も辻元の弱点を知っていた。
　唾液に濡れた舌で丹念に舐める、桂月のフェラチオが辻元をイカせるのにそう時間はいらなかった。
　やがて射精した辻元の精液を、文字通りしゃぶり尽くすように飲み干すと桂月は立ちあがり、少し乱れた髪を直しながら、ぐったりしている辻元に言った。

「さあ、こうちゃん、これでいいわ。シャワー浴びてお仕事行ってらっしゃい。」

　桂月に車で駐車場まで送られた辻元が、店に出勤すると、奥寺がすでに出勤していた。「おはようございます店長、今日は送別会ですから出て下さいね。」
「ああ、そうかありがとう。」と辻元は冷淡に礼を言った。
　辻元は、明日に公休を取っているので、宮田店にいるのは事実上今日が最後になる。
　午後には辻元の後任の店長が挨拶にも来るはずだ。

　思えばこの店でも何人もの女に世話になった。
　彼女たちはみな、荒んだ暮らしをしていた辻元にとってはファミレスの天使達だったが今、これと言った感慨が浮かばないのは、やはり桂月と結婚を決めたからだろう。
　過去に向かって流動する女達よりも、未来を共にするたった一人の女を遂に自分も見つけたのだから、操には今日、ちゃんと別れを告げよう。
　辻元は最後の仕事で宮田店における、優秀の美を飾るべく気合を入れて制服の袖に手を通した。

　そのころ桂月は、辻元のパソコンを使い、インターネットで辻元の新居となり、いずれ自分も住むこととなるマンションの物件をあれこれ検索していた。
　この部屋はロフトがあるけど、ベランダが小さい。
　この部屋は角部屋だけど、収納スペースが極端に小さい。など桂月は辻元との生活を思い浮かべながら、半ば楽しむように次々と検索される物件を吟味していた。

　部屋の中の掃除と、辻元の衣類やその他の荷物をわかる範囲で引越し用にまとめる作業をした桂月は、昼過ぎに、今夜の夕食の買い物に出た。
　桂月はその豊富なバリエーションの中から今日の夕食を決め、スーパーで買い物をした。
　レジに並ぶ主婦の中で桂月は、自分も来年には本当にこの仲間になるのだと思い、変ににやけてしまう自分を懸命にこらえた。

　辻元のマンションに帰った桂月は、干していた布団をしまい、昨日と同じく新しいシーツをしわ一つなく丁寧に敷いた。
　昨夜の激しい情事がうそのように、白いシーツが西日に眩しかった。
　すると玄関のベルが鳴った。玄関に出た桂月の目の前に立っていたのはセーラー服の、今風に短くしたプリーツスカートから白い脚がすらりと伸びた長身の少女だった。