「お前律儀というか、なんともあっさりしてると言うか・・・。」
「んー？」
「普通女の子は、俺にそんな事言われたら、セクハラだ！って怒るぜ？」
「だって約束じゃん。」

　店長室で椅子に座る辻元の膝の上に道子が向かい合うようにまたがって座っていた。
　今から一週間前、昼のピークが終わった頃、辻元は食後の昼寝のため駐車場の愛車へ向かっていた。
　すると店に面した国道から道子の乗ったスクーターが入って来た。
　しかし次の瞬間辻元は愕然とした。その直後をパトカーが追って来たのだ。
　名目上はノーヘルの現行犯。しかしそれ以前に今日は学校の休みの日ではない。
（やれやれ）と辻元が、警官たちに平謝りしたが、警官も譲らない。
　何度か補導歴のある道子を、どうあっても連行する気だった。
　不安そうに自分の後ろに隠れる道子を、辻元は哀れに思い、警官に言った。

「私はこの子のアルバイト先である当店の店長です。バイクのノーヘルに関しては、
　どうぞ切符を切って下さい。しかしそれ以外の事は私が監督しますのでご勘弁下さい。」

　若い警官と中年の警官だったが、おそらくは道子と何度か面識があるらしい
　経験豊富そうな、中年の方の警官が道子に向かって言った。
「おう松月！・・お前この店長さんに免じて今日だけ見逃してやるからな！」
「・・・・はぁい・・・・」

　パトカーが去って安心したのか、道子が照れくさそうに笑った。
　辻元は道子を軽く小突くと、少し芝居がかった声で言った。
「お前・・・この貸しはデカいぞぉ・・・」
「すみませぇん・・・必ず恩返ししますぅ。」
「じゃあ今度ヤらせろ。」
「えへへ・・・・いいよ！」

　それだけの事だった。辻元にとって、バイトの起こすこの手のトラブルの尻拭いは初めてじゃない。
　あの加藤でさえ、入ったばかりの頃、地元の暴走族と駐車場で乱闘騒ぎを起こし、辻元が、加藤の親よりも先に警察に身元を引き受けに行った事があった。
　本来、辻元にその義務はないのだが、辻元の信条である「誠実な計算」であった。
　非常にやっかいなトラブルであるが、それに誠実かつ全力で対処すれば、それを恩義に感じる者は絶対に役に立つし、感じない者はどうせ離れて行く。言わば他人のトラブルは辻元にとってその人物が、のちに自分について来るかかどうかの試金石であった。
　もっとも道子のこの一件は、本当にただの成り行きであり、加藤のときのそれと違い、辻元自身も特に何かをあてにしていたわけではなかった。

「ねえ・・店長・・とりあえず電気消してよ・・」

　加藤は高校生ながら、190cm近い筋肉質の巨漢だった。そんな加藤にとっては裕美の住むワンルームマンションの玄関は窮屈な感じがした。
　女の子の部屋・・ここまで正直気乗りのしなかった加藤だったが、自分の部屋とまったく違う雰囲気に、少し気分が高揚してきた。

　裕美にまつわる「あの噂」。つまり栗原裕美はそのおとなしそうな物腰とは正反対で気が向くと、こうして自分の部屋に男を誘いセックスしているらしいという話を加藤は複数のバイトから聞いていた。裕美は確かに美人であったが、加藤はそれでもあの薄ら笑いと上目遣いの目が気になって苦手だったが、据え膳を食わない男でもなかった。

「先にシャワー浴びるね。」
　裕美が浴室に消え、やがてシャワーの水音が聞こえ始めた。
　そのドア越しに加藤が話し掛けた。
「あの・・・タバコ吸っていいっすかね。」
「いいわよ。テレビの上に灰皿があるでしょ？」

　裕美の言った通りテレビの上にあった灰皿を手にとって見ると、吸殻が数本。
　その銘柄、そしてフィルターを噛み痕、加藤はその人物に憶えがあった。
　最近は就職活動で店に来なくなった、バイトの先輩野村であった。
　確証はないが、まず間違いないだろう。自分の前は野村であったのだ。
（んで、今日は俺か・・・）加藤は自分のタバコに火をつけた。

　やがてタオルを一枚体に巻いただけの裕美が出てきた。
「加藤くんも入っておいでよ。」と微笑んだ。
　言われるまま加藤もユニットバスに入って服を脱ぎ始めた。
　たった今、女が自分の体を洗っていた浴室は湯気が残っており、男が使わないシャンプーの香りがむっと加藤の鼻孔を刺激して、次第に加藤も興奮してきた。

「タオル借りましたよぉ」
　と加藤が出てくると、部屋はすでに暗く、天井に向けられたダークライトだけがぼんやりと隠微にあたりを照らして、タオル一枚の姿のまま裕美がベッドに腰掛けていた。
　よっこいしょっと加藤がその隣に座ると、裕美は巨漢の加藤を見上げて言った。
「加藤くんってさ・・・すごい体大きいよね、何センチくらいあるの？」
「うーん・・新学期の身体検査で計ったときは188cmでしたね。」

　裕美が軽く伸び上がるような体勢で加藤の肩口を甘く噛んだ。
　加藤はそのまま裕美をベッドの上に押し倒して、裕美にキスをした。
　舌を入れてきたのは裕美の方からだった。両手で加藤の頭をかきむしるように愛撫し、自分の舌を加藤の舌と絡め合わせた。

　加藤が裕美の体を包むタオルをほどくと、裕美の乳房が現れた。
　その大きな手のわりに、繊細な力の加減で加藤は乳房を軽く掴みゆっくりと揉むと
「ん・・んん・・・」
　と裕美は応え始め、乳首に加藤が舌を這わせると、荒い息と甘い喘ぎ声が裕美の感度のよさを雄弁に語った。
「あん・・・あっ・・・んん・・」
　加藤はひとしきり乳房への愛撫と乳首への舌技を施すと、裕美のわき腹から太ももの横を右手をすーっと滑らせ、膝のあたりで折り返し、太ももの内側をゆっくりと裕美の女の部分を目指した。
　隆起したクリトリスのあたりを、軽く指でつまみ人差し指を震わせた。
「はぁっ・・・あんっ・・んん・・ああん・・・」

　裕美は加藤を抱きながら、首筋にキスを何度もすると耳に息を軽く吹きかけた。
　耳に息を吹きかけるという行為は、女がしばしば男の興奮を高めるためにするが、高まる男と別に変わらない男がいる。加藤はまさに後者であった。
　しかし執拗に裕美がそれをするので、加藤は一応キスで応えた。
　裕美の入り口の亀裂は、それほど濡れていなかったが、軽く人差し指でなぞってみると堰を切ったようにどっと愛液が溢れ出して来た。
　加藤がその中に指を入れると裕美が体を反り返らせて震えた。
「あああああああんっ・・すごい加藤くん・・指だけで・・・」
　加藤の肩を掴んだ裕美の指がぎゅっと食い込んで来た。

　子宮口のまわりをゆっくりと動く加藤の指に、裕美は完全に興奮していた。
　加藤はそう経験豊富なわけでもなく、女体の責め方もそうバリエーションがあるわけではないが、その代わりひとつひとつの愛撫に時間をかけた。そして高校生ながら二つ年上の裕美にやがてこの言葉を言わせることに成功した。
「加藤くん・・・入れていいよ・・」
　それに応じ加藤が体を起こすと、裕美が付け加えた。
「大丈夫？・・舐めてあげなくていい？」
　加藤がそれに答えず裕美の上に乗ろうとすると、裕美は立てた膝を自分から開いた。
　その巨漢に恥じず大きく反り返った加藤のものが、裕美の亀裂にゆっくりと押し込まれる。
「んんんんんんっ・・・ああああああああん！・・・はああああっ！」

　加藤は自分のものを根元まで押し込むと大きく息をついた。
　あまりの快感に我を忘れた裕美が、思わず加藤の肩に噛み付くと、加藤はぐいっと裕美を抱きしめ、押し込んだものをさらに押し上げた。
「はあああああっ・・・いやぁぁ・・すごい突き上げてるぅ！」
　やがて加藤が腰を動かし始めると、裕美はシーツを掴んで激しく応えた。
「あんっ！あんっ！あんっ！壊れちゃうっ！ああんっ！あんっ！」

　加藤はまだゆっくりと腰を動かしていたが、裕美の反応は凄かった。
　そして腰に回転を加えようと試みたが、いかんせん155cm程度の身長しかない裕美が大きく脚を開いていても、加藤の巨体が存分に動く余裕はなかった。
　そこで加藤は、裕美とつながったまま裕美の体をひょいと軽く抱き上げると、自分の上に乗せて今度は自分が横になった。裕美も心得ており、自分で腰を回転させ始めた。
「んっ・・あっ・・あん・・・ああ・・ああんっ！」
　加藤はあえて規則的な動きでゆっくりと突き上げ続けた。このため裕美は自分のペースで腰を回し理想の快感に浸る事ができたので、やがて絶頂を迎え、ビクンっと反り返ると、がっくりと加藤に覆い被さって荒い息をついていた。

　加藤は裕美に覆い被さられたまま起き上がり、（そうだ・・こうすればいいんだ）と
裕美を横たえると今度は裕美の脚をMの字に開くと太もものあたりを抑えつけた。
　こうすればさっきと違いフラットになった裕美の両脚の上で自由に動ける。
　今度は加藤が腰を回転させ始めた。
「ああああああっ・・・いやあああああっいやっ・・加藤くぅん・・やめてぇ！」
　加藤の体重の半分近くが、肉棒の先端を支点とする形で腰が回転している。
　ということは、その荷重、その刺激は全部裕美の子宮口で受け止めている形になっていた。
「ああああああっ・・あうっ・・・ひっ・・いやあ・・・いいいいい！！」
　たまらず裕美は二度目の絶頂を迎えた。そして加藤が腰の回転をやめてスパートに入った。
「あああああっ・・ああああんっ！加・・藤くん・・・」
　裕美は加藤にしがみついて、息も絶え絶えではあったが、加藤の耳元ではっきりと言った。
「・・一緒にいって！！」

　加藤の突き上げは激しく、裕美の太ももを押さえていた屈強な両手は裕美の肩をがっちり抑えつけて突き上げているから、衝撃の逃げ場はなく、その激しさを、はちぎれそうに上下する裕美の乳房の動きが物語っていた。
「だ・・めぇ・・もう我慢できないっ・・早く・・っっああああああああああ！！」
　加藤の体を跳ね上げんばかりの勢いで、裕美は体を反り返らせて硬直した。

　もう一回いかせてみようと思っていた加藤だったが、裕美が軽く失神した事を意味するぎゅぅっと締め付けてきた膣粘膜の感触にやがて、自分もそのときを迎えぐったりした裕美の子宮めがけて射精した。

　その激しい行為が終わってしばらく経った。加藤はベッドに腰掛けてタバコを吸っていた。
　裕美は放心状態で、しばらく言葉を出せる状態ではなかったが、やがてポツリと言った。
「加藤くんって・・・体大きいからかな・・やっぱりすごいね・・。」
「そうっすか・・・いや・・裕美さんもすごくよかったです。」

（さて、据え膳を食ってしまったものの・・・）加藤は正直困惑していた。
　さっきのファミレスで話は途中だったが、裕美は桂月をこころよく思っていない。

　こうして関係を持った事で、裕美側につくように強要されるんじゃないかと思っていた。
　しかし裕美に、今のところそんな様子はなかった。
「加藤くん・・・どうする？泊まって行く？」
「いえ・・明日日曜だし、新しいワイシャツ持ってこなきゃいけないんで帰ります。」
「そう・・・じゃあね・・私・・もう起き上がれないよ・・ごめんねこのまま寝るね。」　と裕美は上目遣いで笑った。ああは言っているものの、もう普通の状態には戻っているらしかった。
「いいっすよ、じゃおやすみなさい。」

　裕美のマンションを出て車に乗ると、加藤はほっとため息をついた。
「あーあ・・俺も食われちゃったか・・魔性の女だなあの人は。」
　エンジンをかけると車を出して加藤は走り去って行った。

　加藤が帰り、部屋に一人残った裕美はベッドの上で、少しばかり不機嫌だった。
　うーんっと伸びをすると、加藤の残していった精液がたらりと漏れてきた。
　裕美はティッシュでそれをふき取ると、再び浴室へと向かった。
　加藤のセックスは激しいながら抑揚があり、そしてあの巨体に似合わず繊細な愛撫も巧みだった。
　絶頂も三度にわたって迎える事もできた。しかし裕美はやや不機嫌だった。

　中学生のときに初体験を済ませた裕美は、処女を失った瞬間から追い求めていたものがあった。
　高校に入って、マネージャーとして入部したラグビー部の部員のほぼ全員と顧問の教師とまで関係を持ちながらも裕美が、いまだに経験した事がない未知の領域は絶頂ではなかった。

　それはセックスによる「本当の一体感」でありそれはすなわち「絶頂の瞬間の共有」であった。
　床上手な男によって、何度も絶頂に行きたいわけではない。
　ましてや、自分だけイッてしまう男など問題外である。
　一回の絶頂でいい。裕美は自分を抱く男と、同時にあの忘我の瞬間を迎えてみたかったのだ。

　それは本当にタイミングだけなのかも知れない。
　お互いのいろんなコンディションの偶然による合致なのかもしれない。
　だが裕美は、数え切れないくらいの男に抱かれながら、その瞬間を求めていた。

　グリフォンのアルバイトで、裕美と関係を持った男子アルバイトは加藤で5人目である。
　入れただけですぐにイッてしまい、結果的に裕美が筆下ろしをしただけの形の者もいたし今夜の加藤のように、数回に渡って裕美をイかせた者もいた。しかし裕美が求めているものが、
「絶頂の瞬間の共有」である以上、合格した者は一人もいなかった。

　膨大な数の男と関係した裕美が今のところ得ているものは、肉体的な絶頂であり精神的な満足とは両極にあるものだった。

　シャワーを浴びた裕美は、パジャマを着るとやがて眠りについた。