実は生活には少し余裕ができていた。しかし公子はその余裕に甘える事なく息子の進学費用を、体が元気な今のうちに貯金しておこうと決めたのだ。
　だから辻元に過酷なシフトをあえて頼んでみたのだった。

　公子には、元々趣味があまりなかったので、娯楽というものがなかった。
　そんな公子が、最近見つけた本当にささやかな娯楽は、息子が 「え・・？」
「さっきから久辺さん、俺の問いに答えてるだけだったでしょ？」
　そのとき、今日初めて、いや辻元がグリフォンに来て初めてかも知れない。
　公子がほんの一瞬恥ずかしそうに笑顔を見せた。

　莫大な費用をかけて作られた施設はどれも閑散としていて、貸切状態のジェットコースターに辻元は、いやがる公子を一度に二回乗せた。
　公子もそのたび悲鳴をあげつつも、少しずつはしゃいでいる様子だった。
　いくつかのアトラクションに乗った頃には、公子にもこのデートを楽しむ余裕ができたようだった。

　昼を回ったころ、やはり閑散としたレストランで二人は食事をしていた。
　天気のいい窓際の席に座ると、さっきの絶叫マシーンで悲鳴をあげた公子の頬はわずかに紅潮しており、言葉数も心なしか増えていた。
「すいてるから、もうほとんど乗っちゃったのにまだお昼なんですね・・。」
「またさっきのジェットコースター乗る？」
「いえいえ！・・・あれに・・乗りませんか？」

　窓の外、公子が指差す先には、高台にそびえ立つ巨大な観覧車があった。

　巨大な観覧車の乗り場には、退屈そうな係員がいて、彼は冷淡に辻元と公子をゴンドラに案内すると、二人を乗せカギを締めた。
　ゆっくりと上昇するゴンドラに辻元を向かい合って座った公子は、
「楽しかったです・・・ありがとうございます。」
　と辻元の方を向いて、今朝の硬直した表情とはほんの少し違う表情で礼を言った。
「いいよいいよ！久辺さんにはこういう時間って必要だよ。」
「でも・・退屈だったでしょ？私みたいな面白くないおばさんとデートなんて。」
「いや、充分楽しかったよ。久辺さんの悲鳴なんてめったに聞けないだろう？」
　公子は恥ずかしそうに笑い、辻元も笑った。

「まだ、帰るには少し時間は早いよね。」
（来た・・）と公子は思いながらも、今朝とは違いかなり冷静に答えた。
「そうですね・・・まだ早いですよね・・。」
「俺もそっちに座ったら、ゴンドラ傾いちゃうかなあ？」
「大丈夫ですよ・・。」と公子は隅に腰を寄せた。
　それからの辻元の行動は、さりげなく、そして俊敏だった。
　公子の隣に座り、狭いシートで密着しているのにさらに公子を抱き寄せた。
　抱き寄せられた公子が自分の膝に手をつく体勢になると、辻元は公子にキスした。

　公子はほんの一瞬体を硬直させたが、それは本当に一瞬ですぐに力を抜いて辻元に身を任せながら、目を閉じたまま辻元の膝に置いた手をぎゅっと握った。
　辻元が舌を入れても公子は拒むことなく、ゆっくりと自分の舌を絡ませた。

　ゆっくりと動くゴンドラが、まもなく頂上に届こうというあたりまで、二人の長いキスは続いた。わずかに髪を乱した公子が無言でもう一度キスをせがむ。
　辻元はそれに応えながら、公子の乳房を軽く揉み始めた。
　小柄な体の割に公子の乳房は、少しだけ大きめで、シャツとブラジャー越しだというのに、すでに乳首が堅くなっているのが伝わって来た。
「は・・はぁ・・んん・・・はっ・・・」
　と公子は軽く震えながら、息を荒くしながらも辻元に身をゆだねたままだった。
　激しく何度も繰り返されるキスと、乳房へのゆっくりとした愛撫で、公子は久しく忘れていた、「夢見心地」の境地に耽った。
　やがて、辻元の手が公子の膝の間からスカートの中に入り込み、太ももを這い上がりパンティ越しに、敏感になった部分に届いた瞬間、公子はあわてて両手で辻元を突き放した。
「だめ！・・・さっき国道沿いに・・ホテルがありましたから・・あとは・・ちゃんと・そこで。」
　もちろん辻元はすんなりそこでやめた。
　頂上を過ぎ、降下を始めたゴンドラの中で公子は、乱れた自分の髪を直しながら自分の口紅のついた辻元の顔をハンカチで拭いた。
　ゴンドラの係員は、乗るときと同じく冷淡で、ゴンドラの中の二人の痴態に気づいたかどうかも、まったく関心がないのかもわからないくらい、事務的に二人を送った。