辻元が車を滑り込ませたラブホテルは、「空室」の看板がついていたことで、かろうじて営業中である事がわかるくらいにさびれきっていた。
　幾多ものカップルの密会を見たであろうフロントの老婆が、愛想よくカギを渡した。

　部屋は和室だったが、部屋の奥にあったのは、年季が入ってはいたがそれでも清潔そうなベッドだった。
　テーブルに向かい合って座ると、ずっと無言だった公子が辻元にお茶を入れながら、
「おつかれさまでした、店長。」とお辞儀をしながらお茶を差し出した。
「久辺さんも、今日はどうもありがとう。」
　黙って首を振り沈黙する公子に、辻元はさらに声をかけた。
「シャワー先に浴びてくる？」
「いえ・・シャワーは・・・後でいいです。」

　そう言い、公子は立ち上がると辻元に背中を向けて、シャツのボタンをはずし始めた。　そしてベッドの前まで歩み寄ると、すとんとスカートが床に落ちた。
　シャツを脱いで下着だけの姿になった公子の後姿を見て辻元は軽く驚いた。
　いつもとさほど変わらない服装で現れながらも、公子の下着は下品でない範囲で大胆だったのだ。
　つまり「男に脱がされる事を前提にされた下着」であり、今朝公子が決意したものだった。
　明るいピンク色の真新しいレースのブラジャーとパンティだけになった公子の肢体は
その小柄な体と童顔ゆえに、控えめな照明の下、あたかもあどけない少女の娼婦のようだった。
　公子はそのままベッドに入ると、辻元に背中を向けたまま横たわった。
「店長・・来て・・電気消して下さいね・・・。」

　公子の望み通り、部屋の電気を消して、非常口を示す小さな蛍光灯だけになった部屋で辻元もまた服を脱いで、ベッドの中に入ると、それまで背中を向けていた公子が、ふいに辻元に抱きついてきた。
「店長・・・今日だけです・・私・・母親でいたいんです・・・」
「わかってるよ・・久辺さんはすごいお母さんだよ。」
「今日は・・楽しかったです・・・嬉しかったです・・・だから・・お礼です。」
　そういうと、公子は辻元にキスをすると、ゴンドラのときとは逆に自分から舌を入れてきた。

　辻元がブラジャーをはずすと、露わになった公子の乳房は形もよく、すでに乳首はつんっと小梅のように堅くなっており、辻元は軽く舌で転がした。
「ひっ・・ああああ！・・あ・・あああ・あ・ああ・・・」
　公子は辻元の髪を軽くかきむしり、控えめな喘ぎ声をあげた。
　それは、公子の中で永らく封印されていた「大人の女の反応」だった。

　辻元は両手で公子の乳房を揉みながら、片方の乳首を舌で転がし、そして吸った。
　公子は体を満たしていくその悦びを辻元に伝えるように、辻元の背中を愛撫した。
「はぁっ・・んん・・ああ・ああ・あ・ああああ・ああ・ああ・・あん」
　興奮した公子は思わず枕をぎゅっと握り締めた。

　辻元がパンティの上からクリトリスを責めようと手を伸ばすと、公子が軽く腰をあげてうながしたため、パンティの上からの愛撫を中止して、辻元はするっと公子の両脚を滑らせるようにそれを脱がすと、公子を完全に裸にした。

　辻元の指が軽く、公子のすでにぐっしょり濡れたクリトリスを撫でると、
「あああああああん・・・いいっ・・・そこ・・だ・・めぇ・・」
　公子は辻元の首筋から肩から胸にかけて、届く範囲すべてに音を立てて何度もキスをした。
　そしてもう堪えきれないくらいに熱く濡れた亀裂から、辻元の指が入って来た。
「んんんんんんっ・・・あああんっ！・・ああ・あ・ああっ！」

　辻元は、いきなり激しく指を動かすようなことはしない。
　それは、まだまだ公子の「女」が目覚めていないのをわかっていたからだった。
　ゆっくりと指を出し入れするたびに、どろっとした愛液があふれて来ていた。
「んっ・・ああん！・・ああ・・」
　そして辻元が公子の脚をゆっくりと大きく開かせると、公子は反射的に弱々しくではあるが両手で性器を隠そうとしたが、辻元は優しくその手をどけた。
「い・・や・・見ない・・でぇ・・・」
　答える代わりに辻元の舌が、亀裂の下からクリトリスまでを這い上がると、
「ああああああああああああああああっ・・いいっ・・・」
　と公子が悲鳴のように大きな声をあげながら、思わず両脚を閉じようとしたが、辻元はそれを抑えて、元通り大きく開かせると、さらに舌で責めあげた。
　その責めで、おそらく数年ぶりにぱっくりと開いたのであろう公子の肉弁からは、やはり数年ぶりにあふれ出してきた愛液の、発情した大人の女の匂いがした。

　辻元は女の性器を舌で責めるとき、音がする事を嫌う。
　それは女が辻元のものをフェラチオで責めるときもそうなのだが、お互いの体液を飛び散らせながら性器と性器がぶつかり合うあの音に比べると、どこか興ざめな感じがするのだ。そんな辻元だから舌の動きはゆっくりと繊細だった。
　そしてそれは当然のことながら、離婚以来生活に夢中でセックスを楽しむ事などなかった公子を目覚めさせ、そして早くも狂わせ始めていた。

「店長・・ほ・・欲しい・・あっ・・でも・舐めてあげたい・・・」
「俺は・・あとでいいよ・・」
「・・・どうしてぇ？・・・ああっ・・ああああ・・・」
「もう充分俺も興奮してるからね・・」

　そう言うと、辻元は公子への舌技を終えると、完全に「受け入れ準備完了」になった公子から体を離し、枕元のティッシュケースに挟んであったコンドームを取り出した。
　すると公子は、恥ずかしそうに辻元から顔をそむけて小さな声で言った。
「店長・・・・ナマでも・・・いいですよ。」

　辻元が大きく開いた公子の両脚の間に体を割って入らせると
「はあっ・・」と久しぶりに迎えるその瞬間への期待に、思わず公子は小さな歓声をあげた。
　そして、小柄な公子の小さな性器に負担をかけ過ぎないように、辻元のものがそゆっくり挿入された。
「ああああああああああああああああああああんっっ！」
　意外にも公子の膣粘膜はそれを、根元まで無事に、そして一気に飲み込んだ。
　離婚してから４年、いやその前からセックスレスだったから正味５年ぶりに、男のものに体を貫かれた公子の、歓喜の悲鳴だった。

　しばらく辻元は挿入したまま、じっと公子を抱きしめたまま動かなかった。
　公子の膣粘膜は熱くかすかに脈打ちながら、辻元のものを締め付け続けた。
　やがて、辻元が腰を動かし始めると公子の喘ぎ声は切なさを増してきた。
「あっあっああっ・・・ああああああん！あんっ」
　その表情や激しさは、もはや店の中で口を真一文字に結んだ無口な公子ではなく、生で挿入された本物の男のもので狂う女そのものであった。

　辻元は突き上げながら公子の乳房にキスをしようとしたが、公子の体が小さすぎて体が曲げきれず、それをあきらめて乳房を揉み始めた。
「ああああん・・・て・・店長・・ああっ・・すごい・・もっとぉ・・・」
　辻元は乳房を揉みながら、公子の肩から首筋へとキスをして耳たぶを舐めた。
「いやあああっ・・だめぇ・・おっぱいも・・くびも・・みみも感じるのお！」

　腰の動きに回転を加えると、公子の両脚が辻元の腰にヘビのように絡みついた。
「ああああああああ！・・だ・・めぇ・・・いぐぅ・・・」
「・・・・いいよ」
　そして、息子を守るためにずっと自分で封印していた境地へ、公子は達した。
「んんんんんああああああああああああああああああああああああっっ！！」
　その瞬間、公子のは白目をむきながらボロボロと涙をこぼした。
　絶頂にぐったりした公子を抱きしめて辻元もスパートに入り、激しく公子の体を揺さぶり、やがて公子の子宮へ向けて精液を射出した。
「ああ・・・あ・・・あ・・・あ・・・あ・・・ああ・・・」
　自分の粘膜に数年ぶりに注ぎ込まれる男の体液の温度を確かめるように公子は小さく声をあげた。

「えへっ・・久しぶりだったけど・・・体は・・憶えてた。」
「・・・なにが？」
「ん？・・・男の人からの悦ばされ方・・・」
　しばらくの間ぐったりしていた公子が、囁いた。
「も〜・・店長・・こうして女に手出してばかりなんでしょう？」
　その公子の表情は、激しいセックスでとっくに化粧など落ちているのに部屋の隅の小さな蛍光灯に照らされて妖艶そのものだった。

　あお向けの辻元の顔の上に公子の顔があり、何度かキスをすると公子が辻元に覆い被さった。
「今度は・・・私が・・責めていい？」

　公子の薄い唇が、辻元の胸元に何度も音を立てて吸い付いた。
　そして辻元の乳首をちろちろっと舌で舐めると、辻元がうめき声をあげた。
「男の人も・・・ここ弱いよね・・」
「いや・・そこは・・やめてくれ・・・・」
「ダメ・・さっき私がおかしくされたんだから・・仕返しよ・・。」
　公子はぎゅっと辻元の二の腕をおさえつけると、また乳首を舐めた。
　辻元の体に四つん這いにまたがった公子の乳首は、早くもまた小梅のように隆起していた。
「久辺さん・・・すごいテクニシャンだったんだな・・・」
「何言ってるの・・私だって３０なんだから、これくらいの事は知ってるわよ。」

　やがて公子の唇は次第に下へ降りていき、辻元のものにたどり着いた。
　わずかに堅さを取り戻しつつあるそれを、軽く指で上に向けると、その肉棒の裏側、その根元に公子は舌を押し付けた。
　そして舌の力を抜いて、男のものの最も敏感な部分である先端まで、ゆっくり・・２秒くらいの時間をかけて舐めあげた。
　その舌の感触と温もりで、辻元はのけぞりそうになった。抜群にうますぎるフェラチオだった。
　辻元によって思い出さされた「責められる悦び」と同時に公子の中で「責める悦び」もまた覚醒されていた。公子自身にとって数年ぶりでも、男の弱い部分を舌が憶えていた。

　やがて辻元のものが回復した。一度射精を済ませたあと特有の、一層そそり立つ堅さで公子は満足そうに微笑むと、軽く指で口を拭うと辻元の上に乗った。
　そしてそそり立った堅い肉棒にまたがると、自分の小さな性器に押し当て、ゆっくりと座り込むように飲み込むと、軽くのけぞった。
「ふうう・・んん・・・・・・・ああっ・・」

　辻元が腰を動かそうとすると、また公子がそれを制止した。
「ダメ・・店長・・・私が責めるって言ったでしょ？・・じっとしてて・・。」
　もはや、あの無口でいつもスッピンで汗びっしょりで働く公子ではなかった。
　自信たっぷりに辻元を見下ろして微笑むその女は、腰を回転させ始めた。

「はぁ・・・あん・・ああ・・ああ・・あああ・・・あん・・ああっ・・」
　女が男の上で腰を振るとき、それは自分が興奮し過ぎるのか、それとも男を悦ばせようとするあまりか、激しい動きに男のものが抜けてしまうときがある。
　しかし公子は、自分の快感を貪りながらも、男のものを締め付けて腰を振る動きを心得ていた。

　小さな腰が緩急おりまぜて回転を続け、公子の愛液が辻元のへそのあたりまで濡らした。
「店長・・・どう・・・？」
「う・・・うぅ・・・」

「ああ・・・あああ・・私・・い・・くぅ・・・・」
　公子が険しい顔になって、腰の回転が早まっていった。
　しかし激しい動きに辻元のものを、うっかり離してしまうことなく根元まで咥えこんだままで公子は次第に体を反り返らせた。
「っっっっああああああああああああああ！」
　反り返ったまましばらく硬直すると、やがてがっくりと辻元の上に公子は倒れ込んだ。
「・・・先に・・・イッちゃったぁ・・やっぱり久々だからかな・・」
「・・そんな事ないよ・・俺ももうイキそうだ。」

　辻元は起き上がると、正上位で突き上げ始めた。
「はあああああああああああっ・・・あああ・・ああ・あんっ！」
　辻元の背中に細い手でしがみつきながら、公子は激しい声で応えた。
「あああああああっあああああああああんっす・・て・・きぃぃ！」
　辻元もすでに公子のこの性技にまいってしまい、ありったけの力で狂ったように突き上げ、公子もまたそれを真正面から受け止めるように両脚を辻元の腰に絡みつけた。

　そして辻元が再び公子の子宮に精液を吐き出したとき
「はああああああああああ・・・・・・」
　と公子は満足げな切ない声で応えた。

　家路に急ぐ車の中で、辻元と公子の会話は少なかった。
　しかしそれは、行きのそれとは違い、お互いが放心状態だったのだ。
　結局４回に渡って激しく相手を貪るようなセックスをした３０代の男女は、お互いの肉体の感触の余韻にひたって会話をする気力もなかった。
　特に公子は、久しぶりに思い切り満足してしまい、ときおり睡魔すら襲って来ていた。
　しかし沈黙が続いても間が持たないと思った辻元がラジオをつけた。
　すると間もなく来日するというロックバンドの曲が鳴っていた。
「あ・・・レッド・ツベルクリン・・・」
「久辺さん知ってるの？」
「・・・昔ですよ・・・私・・大学のときバンドやってましたから。」
「へえ！こりゃびっくりだ！店のみんなには内緒ですか？」
「いえ・・別に・・言ってもいいですよ・・・。」
　と公子が辻元の方を見て笑った。

　今朝待ち合わせた高速の側道で、辻元は車を停めた。
　助手席のドアを開けながら、公子は辻元に最後のキスをした。

「今日はすごい楽しかったです。たぶん今日だけだからだと思います。」
「・・そうだな、明日からまたよろしく。」
「お疲れ様でした！」
　公子は車を降りて、そのまま振り返らず辻元とは逆の方向に歩き出した。
　辻元も、数秒ミラーの中で見送っただけで、すぐに車を出した。

　自宅のアパートの目の前で公子は立ち止まった。
　今日は出かけると言っておいたので、夕食の準備をしておいた部屋に電気がついていた。息子が留守番をしている。
（今日は最高だった。でも今日で最後！）
　深呼吸をすると公子は胸を張って、アパートの門をくぐって行った。