道子の代わりにアルバイトに出勤したその日のラスト業務は、辻元と一緒だった。
　初めて結ばれた日から今日まで、一緒に帰った事はあったが、抱かれた事はなかった。　それはラスト業務が終わってからだと、どうしても深夜になるからだった。

　桂月はあれから漠然と自分の中で「男を意識した女」の目覚めを感じていたが、自分から「抱いて欲しい」という思いは制した。
　それは初めてのあの経験から、間があいているため、自分の中で何度もあの光景、あの感覚がグルグル回りつづけて増幅しており、少し極端な性欲を感じている錯覚に過ぎないと、自制していたのだ。

　ただし、辻元への思いは自制する事はしなかった。

　桂月は以前、閉店後のフロアで、あの初めて唇を奪われた場所で辻元と二人だけになったとき、一度だけ自分からキスをねだった事がある。
　真っ暗なフロアで辻元に抱きしめられながら、自分も辻元の背中を抱きしめ舌も絡ませながら、長い長いキスをした。
　体を密着させると制服のズボンと制服のスカート越しに、辻元のものが大きく堅くなって来ている事がわかった。そして自分もまた、静かに肉弁を濡らしている事にも桂月は気づいていた。
（私はこの人を好きになっている）

　辻元は基本的に自分が初めての男だった女と「恋愛」はしない。
　世間に流布されている、「自分に染まる」だの「すがって来る」だのいういわゆる「処女信仰」のウソをいやと言うほど知っているからだ。
　あんなものは処女が否かなんて関係ない。処女だったからこそ、無邪気に、そして薄情に別れを切り出す事が多いし、むしろ「情」では、経験豊富な女のそれの方がはるかに深い事を辻元は知っていた。

　桂月の秋波にも気づいていたが、それにフィードバックされる事なく辻元は淡々と仕事をしていた。だからと言って、桂月本人と多少の温度差があるだけで、辻元は辻元で、桂月を気に入ってはいた。

「店長・・こっち終わりました。」と桂月が声をかけた。
「おお、お疲れさん。着替えていいよ。」

　売上金を金庫にしまい、日報をつけながら辻元は答えた。

　しばらくして、着替えた桂月が店長室に戻ってシフト表を確認に来た。
「桂月、今日送ってってあげようか。」
「え・・はい。いいんですか？」
　桂月の本当に嬉しそうな笑顔に辻元は（まずい！）と思った。
　桂月の、いや全ての女の最強の武器は涙なんかではない。
　実は「笑顔」なのだ。

　「傾城」という言葉があるように、女は城をも傾ける魔性を持っている。
　別に意識していたわけではないが、最初の関係から時間が過ぎていることと桂月自身の「抑制されつつも増幅する性欲」から出るそれは、辻元にとってまさに「傾城の笑顔」だった。

　真っ暗な駐車場にぽつんと停められたの車の中で、辻元は桂月を抱き寄せキスをした。「・・・・もう一回・・・」と桂月が笑顔でせがむ。
　辻元は吸い寄せられるようにもう一度キスをした。舌を入れると桂月の舌がゆっくりと絡み付いて来て、同時に桂月の両腕が辻元の背中にまわってきた。
（やばいな・・この子は・・なんと言うか・・・才能がある）
　あの日、初めて唇を奪ってしまったのは、ただの衝動ではなく、どこか目に見えない桂月の眠っていた何かに引き寄せられたのだと辻元は思った。
「あのね・・・私・・キスされるの好き・・」と桂月が微笑んだ。
　辻元は助手席のシートを倒して、そのまま桂月に覆いかぶさった。

（えっ？・・・・今日は・・車の中で・・・するの？）
　桂月は少し驚いたが、抵抗する事はなかった。ブラウスの上から乳房を揉まれて
「・・ああ・・」と小さく喘ぎ声をあげ、今まで抑制していた「性欲」を少しずつ解放し始めた。

　ボタンをはずして前をはだけられても、桂月はあの初めての夜のように羞恥の小さな悲鳴をあげることなく、白いブラジャーに包まれた乳房を辻元に、どこか誇らしげに晒すと、ホックをはずすためにもぐり込む辻元の手を、軽く背中を浮かして促していた。今夜の自分が、格段に大胆になっているのが、少し恥ずかしかったが、それでも桂月は自分の本能に任せた。

　辻元が桂月の乳首を舌で転がすと、桂月は控えめではあるが、甘い声をあげた。
「ああ・・・ん・・・あ・・あん・・・」
　固くなったピンクの乳首を辻元は、何度も優しく吸い、そして舌で転がした。
　長く続いたその行為で興奮した二人の吐息が、車の窓ガラスを曇らせていた。

　辻元の右手が、桂月の両膝の間から、スカートをめくりながら太股を駆け上がった。
　シルクのパンティの刺繍をなぞりながら、その中指が桂月のクリトリスを探り当て、軽く回すように絹の手触りとその下にある突起部をうかがった。
「あ・・あ・・ん・・・濡れ・・てるでしょう？」
「ああ・・」
「だって・・・女だもん・・・」
　桂月は甘えるように囁くと、少し恥ずかしそうに辻元を抱きしめた。

　辻元の手で、桂月の両膝をするりと白いパンティが通り抜けた。
　長めのスカートがめくり上げられたまま、あらわになった桂月の下腹部を辻元の右手が覆うように、うごめいていた。
　手のひらで桂月の茂みの感触を味わいながら、二本の指は桂月のクリトリスをゆっくりと責めていた。
「は、あん・・あああん・・そこ・・いいの・・あ・・あっ・・」

　やがて桂月の両脚を開き、辻元がその間に体を割り込ませると、
（あ・・来る・・）と桂月は無意識に膝をあげ、折り曲げた。
　桂月がとったその体勢。脚をＭの字に開いて男を迎え入れるその体勢は、ある程度セックスの経験を積んだ女か、もしくは教えられないと、普通は取らない。
　それを無意識にやった桂月に辻元は（・・ほう・・・・）と思い、その破裂しそうに大きく反り返った自分のものを、ゆっくりと桂月の亀裂に誘われるように、桂月の膣粘膜を押し広げながら子宮まで挿入した。
「はぁっ！・・・・あああ・・・はぁぁぁ・・・んん・・」
　桂月は目を閉じて大きく息をつき、自分の中に入って来たものの体温を味わうように顔を反り返らせた。

「あのね・・・奥まで・・入ってるのが・・わかるの・・店長のが・・」
　辻元は、左手で桂月の髪を撫でながら右手で、桂月の乳房を掴み、人差し指で、その固さを確認するように乳首を軽く押した。
「は・・やく・・・突いて・・」
　桂月にしては、いささか大胆過ぎる言葉だったが、桂月の素直な言葉だった。
　興奮した桂月にしがみつかれ、その興奮が伝染したように辻元は、激しく腰を動かし始めた。

「あん！・・あ・・あああっ・・あ・・はぁっ・・あっ・・あっ」
　辻元のものに、桂月の粘液にまみれた粘膜が襲い掛かって来る。
　最初の晩、ごく普通に処女を抱いたはずなのに、今夜はどうしたんだ。
　辻元は完全に冷静さを失っていた。

　何度もペニスの先を桂月の子宮に突き上げ責めているようだが、実際にはこのセックスを無意識に支配しているのは桂月だった。

「あ・・あああ・あ・ああん・・す・・てき・・すてき・・」
　だが桂月自身には、そんな自覚などまったくなかった。
　第一「感じる」も「気持ちいい」も、まだ恥ずかしくて口に出せなかった桂月はただ「素敵」という言葉しか出せない位なのだから、そんなのわかるわけもない。

　ただ辻元だけが、地底で眠る大鉱脈のような、桂月のセックスにおける「女の才能」その片鱗が突然発現した事を知り、余裕もなく腰を激しく動かしていた。

「ううっ・・」
　辻元が反り返り、桂月の子宮めがけて温かい液体が流し込まれて来た。
　桂月の胸の上にがっくりと倒れ込み、辻元は数回咳きこむと息も絶え絶えに言った。
「桂月・・・どこかで・・誰かとセックスしたか・・？」
　同じく息も絶え絶えの桂月が応えた。
「・・どうして・・？・・今日が二回目ですよ・・店長失礼です・・」
　辻元は体を起こして、桂月の目を見て言った。
「お前・・今日はすごく積極的だったから・・驚いたんだよ。」
「私は・・・ただ・・抱いて欲しかっただけです・・・。」

「抱いて欲しかっただけ・・・かぁ・・。」辻元はまた桂月に覆い被さった。
　桂月の両腕が辻元の背中に回された。

　わずか二回目のセックスで無意識に取った、あの体勢。
　そして膣粘膜の濡れ具合といい、反応（演技でなければだが）といい、桂月には「女の才能」がある。しかもこれはいわゆる「淫乱」とは違う。
　純然たる「床上手」だ・・・・。そしてあの笑顔・・・。
　まずいな・・俺こいつと「恋愛」しちまいそうだ。

　辻元は、なかなか元に戻らない荒い息の中で考えていた。
　桂月は目を閉じて、辻元を抱き締めながらうっとりとした顔をしていた。