別に授業に出ても充分間に合う時間だったのだが、長谷川は授業をさぼって朝から部屋の中を徹底的に掃除した。そういえば今日は外国語だったが、そんなものどうでもよかった。

　改札口から大きな黒いバッグを肩にぶらさげた道子が出て来たとき、長谷川の心臓は高鳴った。
「おまたせぇ！ちょっと遅れちゃった！」
「いえ！僕も今来たばかりだから！」

　衣替えしたばかりの夏服の白いセーラー服に、黒いブラジャーが透けていた。
それを気にも止める様子のない道子の、大きなバッグの、荷物持ちを長谷川はかって出た。
「長谷川さんって優しいねえ。」
「・・じょ・・女性の荷物を持つのは・・当然です。」
　長谷川は自分の横顔を見上げる道子の視線を感じ、顔が熱くなっていた。
　真っ赤になってる長谷川を見て道子は、へへへっと笑った。

　アパートの前で、バッグと自分の部屋のカギを渡すと長谷川は言った。
「ここの二階の奥の部屋が僕の部屋です。ではどうぞ。」
　トントンと階段をあがる道子の足音を背中で聞きながら、長谷川は幸せだった。
　女と付き合ったことのない長谷川にとって道子は、直球ど真ん中の好みのタイプだった。
　確かに大学には嘉納桂月という仲のいい女友達もいるし、桂月の豊満な乳房を思い浮かべ布団で一人オナニーに励んだ事もあるが、女としてはやや大柄でグラマラスな桂月は、容姿の面においては好みではなかった。
　一方道子の小柄でスレンダーな体型は長谷川の理想を完璧に満たしていた。
　しかし長谷川は同時に、己を知る男であった。このうだつの上がらない太った体型に、今日は朝から風呂に入ったとは言えボサボサの髪。
　それにこの手の高校生の女の子を惹きつけるような話題もなく、ただまじめなだけのつまらない自分を自覚していた。
　だから長谷川は今日のコンサートで自分と道子の仲が進展する事は期待しなかった。

　せめて楽しんでもらいたい、楽しそうな道子の姿を目に焼き付けてそれを思い出にしようと、理想の女の子とデートした最高の思い出にしようと長谷川は思っていた。そのために実家の兄に頼み込んで、コンサート直前にチケットを郵送してもらったのだ。

「おまたせぇ！」
　さっきとは違い、カンカンという足音で道子がアパートの階段を降りて来た。
　赤のタンクトップから白い肩が剥き出しになって、黒いマイクロミニから同じく白く細い脚が伸びて、派手なパンプスのかかとが鉄の階段を打った。
　ほんの30分前にセーラー服姿だったのが嘘のような道子のいでたちに、長谷川は一瞬言葉を失った。

「な・・なんか松月さん、すごい綺麗な格好で、俺一緒に歩いていいのかな・・？」
「なんで？派手過ぎた？へへへっ」
「いえ！すごく・・可愛いから・・・」
「本当？ありがとね！」

　コンサートは超満員で、長谷川の用意したチケットはその最前列だった。
　道子は大喜びで、そんな道子を見て長谷川は本当に嬉しかったが、コンサートそのものは、その轟音で死にそうになった。
　楽しみながらも道子は、そんな長谷川の様子に気づいていた。

　終演後の雑踏で、道子が放心状態の長谷川に訊いた。
「もしかして・・・長谷川さん、ツベルクリン好きじゃなかったの？」
「好きじゃないって言うより・・・知らないんです。」
「え・・？じゃあなんで？」

　長谷川は少し躊躇したが、自分はロックなんてあまり良く知らないのだと、しかし道子のために、いや自分が道子と一緒に行きたくて、兄に頼んでチケットを手に入れたのだと、正直に答えた。

　道子の沈黙に、長谷川は自分の正直さが裏目に出てしまったと思った。
「あ、あの・・なんか夕飯食べましょう！俺バイト代入ったから！」
「・・・いいよ。コンビニで弁当買ってさ・・」
　道子は続けた。
「長谷川さんの部屋で一緒に食べようよ。」

　アパートに帰って来た二人は向かい合って座り、コンビニの弁当を食べた。
　道子は本棚に整然と並ぶ理系の本を眺めて言った。
「これ全部読んだの？というか読んでるの？」
「これはそんなに難しい本じゃありません。」
「えー！あたしタイトルだって、あの漢字なんて書いてあるかわかんないよ。」
　と道子は笑ったが、長谷川は真面目そのもので
「ねんりょうこうがくがいろん、です。」と答えた。

　ふと見ると、手を後ろについて座る道子のくずした膝の間から黒いパンティが丸見えで、長谷川は思わずそっぽを向いた。
　それに気づいた道子はからかうように
「見えた？へへへ」と膝を閉じないまま笑った。

「長谷川さん、今夜泊めてよ。お礼させてよ。」
　その言葉の意味はさすがに長谷川にも理解できたが、言葉が出なかった。
「だってさ、別に行きたくもないチケットをあたしのために手に入れてくれたんでしょ？」

　この展開は願望としてはあったが、まさか道子の方からなんて、長谷川は予測しておらず、心臓が飛び出そうになっていた。
　道子はふざけるように、人差し指でちょいっと長谷川を招き
「カモーン♪」と言って笑った。

　長谷川は思わず正座して、声をはりあげて言った。
「あ！あの！実は俺・・・童貞なんだ！その・・松月さんが
　その・・年上なのに恥ずかしいけど・・満足させてあげられないけど！
・ ・だけど・・その・・お願いできませんか！！！」

　道子の顔から笑顔が消えた。
「長谷川さん・・・童貞なの？」
　汗びっしょりで長谷川は黙って頷いた。ああこれでおしまいだと思った。
　こういうときに虚勢を張り通す度胸のない自分を呪った。
「・・・ごめんね」と言って道子が、それまで開けっぴろげだった膝を閉じて、スカートの裾の前を引っ張って隠しながら立ち上がったとき、
　正座したまま畳の縁を見ながら長谷川は、道子がそのまま部屋を出て行くものと思った。

　次の瞬間部屋の電気が消えた。
　長谷川が見上げると、暗闇の中で道子は、スカートを脱ぎ、タンクトップを脱ぎ捨て下着だけの姿になって、そのまま長谷川のベッドに歩み寄ると、布団の中に潜り込んだ。

「ごめんね・・あたしバカにする気はなかったんだよ。」
　ここからでは道子の表情は見えないが、道子は真剣な口調だった。
「じゃあ、あたしが最初の女？・・・おいで・・ううん・・来て。」
　長谷川は立ち上がってベッドに近づいた。
「大丈夫だから・・大丈夫だよ・・」
　道子に促され、長谷川は服を脱ぎ始めた。しかし全身汗びっしょりなのと、緊張のあまり、うまく服が脱げず、シャツは破るように脱いだ。

「・・・キスして・・」道子がねだった。
　生まれて初めてのキス。年下の少女の唇の、なまめかしい感触と温もり。
　道子が自分から舌をからませて来ると、長谷川は射精寸前だった。
「む・・胸に触っていいですか？」
　道子はふふっと笑った。あの乾いたへへへっと言う笑いではなく、明るく人懐こい道子ではない、「ベッドの中の女モード」だった。

「あのね・・こういう事したら嫌われるとか・・そういう事考えなくていいからね。」
　そう言うと道子は長谷川の肩のあたりを甘く噛んだ。
　ブラジャーの上から長谷川が、不器用に、しかし優しく道子の胸を触った。
　感じ始めている事を告げるように、道子が耳元で小さく荒い息をついた。

　ブラジャーのホックをはずそうとする長谷川に、道子は黙って背中を軽くあげた。初めてなものだから、なかなかはずす事ができないが、道子はそれでも自分でそれをはずそうとは絶対にせず、いささか不恰好な体勢だが背中をあげたまま、長谷川にホックをはずされるのを黙って待った。
　道子自身は、いわゆる男で言うところの「処女の抱き方」のように「童貞の抱かれ方」を知っているわけではなかったが、恥をかかせず長谷川にリーダーシップを取らせることを心がけていたのだ。

　ようやくブラジャーをはずし、道子の乳首を長谷川はおそるおそる吸った。
「はっ・・・ん・・・ん・・・あ・・」
　道子は長谷川を抱き締めたまま、耳元で甘い喘ぎ声をあげた。
　初めて聞く、AVでなく本物の生身の女があげる喘ぎ声は長谷川を興奮させ、道子のパンティに手をかけると、道子は腰をわずかにあげ、「脱がす」のを手伝い、無事にそれは道子の両脚を通り抜け、ベッドの下に落ちた。

　ついに道子を裸にする事に成功した長谷川が、道子の上に乗ろうとすると、道子は自分から脚を開いて、長谷川の体をはさむように自分の上に乗せた。
　長谷川はそこで我に帰り、道子の性器への愛撫をすっかり忘れていたことに気づくと、道子の下腹に震える手を下ろすと、わずかに濡れ始めたその部分をできる限り優しく、指で撫でた。
「はっ・・ああん・・・あ・あああ・ん・・んっ」
　道子は、長谷川が興奮しながらも、挿入を自制しているのに気づいていた。
「・・・徹さん・・・入れて・・・いいよ」
「・・いいの？」
「いいよ・・はやく・・欲しい・・」
　わずかに射精してしまい、道子の性器よりも濡れていた長谷川のものが道子の亀裂をなんとか見つけ、ぬるっとその中に潜り込んだ。
「はぁっ・・・あああああんん・・・あああ・・ああ・あ・・」

　初めて味わう女の膣粘膜のぬるっとした感触に、長谷川は感動した。
　自分は今「女の中」に入っている、女にとってもっとも敏感な部分に。

　初めて夢精した中学生のときに、当時何度となく妄想した自分が、二十歳になろうとするまで憧れたその部分に、自分が中学生だった頃には小学生だったはずのこの年下の高校生の少女が迎え入れたのだ。

　理性などなく、ただそのぬめりけと、温もりと、閉塞感に長谷川は溺れた。
　そして腰を動かすとそれは倍増し、道子の大きくなった喘ぎ声がさらに拍車をかけた。
「あっ・・あん・・あん！・・ああ・・いいっ・・あああっ・・。」

　しかし童貞の長谷川にそれは長く続く事はなかった。
「・・松月さんっ・・好きだ・・！」
　長谷川は道子の細い体を思いきり抱き締めると、たまらずそのまま射精してしまった。
「・・んっ・・あんっ・・・・・」
　道子も長谷川を抱き締め、その初めての精液を子宮に受け止めた。

　オナニーなんかとは比較にならない悦びが長谷川の体を駆け巡る。
　いつもは慌ててあてがったティッシュの中に吐き出される精液が、女の、暖かく濡れた粘膜に包まれながら、吸い込まれるように流れ込んで行く。
　幸福感と、初めての達成感に長谷川は気を失いそうになった。

　道子もまた、この年上の大学生が、自分の中で初めて男を宣言するのを感じ、満足そうに長谷川を見上げてささやいた。
「・・んっ・・ん・・いっぱい・・・入って来てるよ・・・・・」
　長谷川は文字通り精根尽き果て道子の上に倒れこみ、道子は小さな歓声をあげながら長谷川を祝福するように抱きしめ、長谷川の首筋、耳元、頬に小さく何度もキスをした。

　つながったまま荒い息で、突然長谷川が「ひーん」と声をあげて泣き出した。
「徹さん！どうしたの？！」と道子が驚いて声をかけた。
「嬉しいよぉ・・・俺・・・ずっと・・・童貞なんだと思ってた・・」
　道子は長谷川を笑わなかった。
「あたしで・・・よかったのかな？？」
「当たり前だぁ・・こんな可愛い子が・・俺に・・・」

　今まで数え切れない程の男と付き合い、それぞれに抱かれて来た道子だったし、いろんな男がいたが、「知性」この要素を持っていた男はいなかった。
　そして、この不器用過ぎて気恥ずかしいくらいの「正直さ」もなかった。
　道子が今までされた事のないくらいの、徹の「淑女としての扱い」もあったが、自分の上ですすり泣くこの男、道子もまた惹かれ始めていた。

「ご・・ごめんね・・俺・・早すぎたよね・・今。」
「そんなことないよ・・・すごく良かったよ。」
　挿入してから、ほんの30秒で迎えてしまった射精。
　いくらなんでも早すぎることは長谷川自身がよくわかっていた。
「俺・・嬉しくて・・気持ちよくなっちゃって・・自分だけ・・」
「そんなことない・・徹さん凄いんだもん・・あたし二回くらいイッちゃったよ。」

　もちろんそれは嘘である。しかし道子は長谷川を傷つけたくなかった。
　それに、「気持ちの面」での満足感は本当にあったからだった。
　それは男が処女を犯した瞬間に味わう制覇の悦びと酷似しており、道子自身も初めて味わう満足感だった。

　長谷川は信じられない気持ちで一杯だった。
　学部祭で初めて出会った高校生の少女が今、自分の体の下で潤んだ目で自分を見上げている。細い指先が自分の顔を撫でている。
「ま・・松月さん・・俺と付き合ってくれませんか？」
「抱いてから言うのは順番が違うよ・・徹さん」と道子が笑った。
　
　道子が笑うと腹筋をつたって膣粘膜が震え、まだその中に入ったままの長谷川のものを小刻みに締め付け、たった今の出来事が夢ではない事を長谷川に教えた。

「あ・・ありがとう・・松月さん・・」
「あたしさっきから・・徹さんって呼んでるよ・・」
「み・・・」
「・・み・・・？」
「道子ちゃん・・・」
　道子はへへへっと笑った。