「ふーん…バレリーナ…　」
　辻元は桂月の顔を見つめてつぶやいた。
「バレリーナですよ…　」
　桂月はそう言って微笑み、こう付け加えた。
「でも…今は…女ですよ…　」
　と、辻元にキスをした。
「店長に…女にされちゃったんだもん　」

　そして意を決したように桂月は起き上がり、辻元の体に覆いかぶさった。
　辻元はそう大柄な方ではなく、たとえば桂月がハイヒールを履いたら桂月の方がやや背が高くなるくらいだったから、ヴォリュームのある桂月の体に覆いかぶさられて、辻元は心地よい圧迫感をおぼえた。

「んー…重い？…うふふ…」
　桂月はもう一度辻元にキスをすると、そのまま毛布の中に潜り込んだ。
　毛布の中で桂月の目の前に、さっき射精をすませたばかりの辻元のものが、力尽きたようにだらしなく垂れ下がっており、（いくぞ！）と桂月は一瞬気合を入れると、それを手に取り、道子の実演を思い出しながら、「スプーンの裏側」にあたる部分に舌を這わせてみた。

　舌の先に力を入れたり、抜いたりして、ペニスの周りを舐めた。
　そしてときおりしゃぶったりもするのだが、いかんせん初めてのためなかなか辻元のものに、新たな回復を呼び起こすことができなかった。
「店長……ダメですか…？　」
「いや…　」と辻元は苦笑しながら上半身を起こした。

「桂月…こうやってくれないか？　」
　と、辻元は桂月の左手を取ると、おもむろに桂月の親指を口に含み、口の中で舌を動かしてみせた。
「…こんな感じだよ　」
「はい　」
　桂月は素直に、その通りにした。すると辻元が体を硬直させた。
　女が初めてフェラチオをする場合、必ず歯が当たってしまい、歯が当たらないようにしゃぶるには、ある程度の経験が必要なのだが、桂月はたった一回辻元に教わっただけで、歯を当てることなくプロ級のフェラチオをしてみせたのだ。

　その甘美なる舌の動きはもはや才能と言ってもよかった。
「桂月…おまえ本当に俺としか…　」
「怒りますよ！！！　」
　桂月は、キッと辻元を睨みつけると、また辻元のものをしゃぶり始めた。
　やがて、桂月の口の中で辻元のものが次第に固さを取り戻してきて、
（もうすぐ出てくるから飲んじゃえばいいのね…）と桂月が思っていると、辻元が桂月の左足首をぐいっと、自分のほうに引き寄せた。
（？？え？え？）と桂月が思っていると、辻元はあっという間に自分の顔の上で桂月を跨がせ、69の体勢になった。

「いやっ…　」
　桂月は逃れようとしたが、辻元は桂月の大きな尻を両手で鷲づかみにすると目の前にある、桂月のめくれ上がった肉弁を引き寄せると唇全体をキスのように重ねた。
「はああああっ…いやぁ！」
　桂月は体を反り返らせて悲鳴をあげると体を震わせた。
　辻元の舌技が、桂月のクリトリスに集中し、桂月は反り返ったまま激しく喘いだ。
「ああああん！…ああ…あ…　」
　桂月のクリトリスの内側を、辻元の舌の裏側が執拗に責め、桂月もまた必死で辻元のものを掴むと、夢中で口の中で転がした。
「んっ…はあ…んっんっ　」
　桂月の膣粘膜が再び火照り始めてきた。辻元は桂月の股の間をくぐるように四つん這いのままの桂月の後ろで起き上がった。

（え…これって…）と桂月が思う暇もなく、辻元は桂月の白い尻を両手で抱え、そのまま後ろから一気に挿入した。
「あっ…ああああああああああああああああああああ！」
　悲鳴をあげて桂月は尻を突き出した形で倒れこんだ。
　子宮に届いた辻元のものが、さらに奥まで突き上げる感覚で桂月は何も考えられなくなり、ただ悲鳴をあげるしかなかった。

　辻元がそのまま腰を回しながら、「パンッパンッ」と激しく音を立てながら桂月を責め始め、それを受け止める桂月は髪を振り乱して枕に顔を埋め叫んだ。
　やがて両腕で支えるように桂月が起き上がると、その背中に辻元は乗っかり桂月の尻を掴んでいた両手を離し、わきの下から桂月の両方の乳房を掴み、手のひらの中で固くなった乳首の温度を確かめるように、ゆっくりと揉んだ。
　しかし腰の動きはよどみなく正確に桂月の子宮を押し上げた。
「あああんっああ…こんな格好でぇ…あん！あん！　」

　ついに桂月が快感に耐え切れず、ベッドの上にうつ伏せに倒れこんだ。
　すかさず辻元が桂月の体を裏返し、脚を大きく開かせると改めて正上位で挿入した。
「す…ごいぃ…いいっ…すてきぃ！」
　桂月はすすり泣きながら辻元に夢中でしがみついてきた。
　激しく腰を動かしながら、桂月の白い胸元全体に何度もキスをした。
　桂月もまた辻元の髪をかきむしりながら応えた。
「あああああん！あん！あん！だめぇ！あああっ！　」

　辻元が桂月の両脚をよっこいしょっと担ぎ上げると腰の動きにスパートをかけ始めた。
「んんんんっ！あああん！ああ･･あっあああああああああああっ！！！！」
　そして辻元が桂月の子宮めがけて射精した。
　自分の中でびくんっびくんっと脈打つ辻元のものに、桂月は放心状態で小さく喘いでいた。
「すごい…よかった…　」

　ぼんやりと時計を見たら、昼を少し回っていた。
　桂月は辻元の首筋にキスをした。

　昼間から、自分は男の人のところでセックスをしている。
　普通だったら外へでかけてデートしたりするのに。
　少し前の自分だったら、眉をひそめそうなこの自堕落な時間の流れ。
　しかし今日の桂月は、この粘り気を帯びたような時間の流れが心地よかった。

　桂月はずっと辻元に春日さと子の事を訊きたかったのだが、なんだかどうでもよくなってしまった。

　その日、結局食事も取らず、日が暮れるまで、辻元と5回以上のセックスをして充分満足した桂月は、上機嫌で辻元のマンションを後にした。
　歩いていると、今日激しく酷使した性器のまわりがヒリヒリ痛んだが、桂月はそれでも、鼻歌を唄いながら帰宅の途についた。

　その頃グリフォンの店内は、加藤とさと子が仕切って回していた。
　昔取った杵柄とでも言おうか、さと子の仕事の勘の取り戻しは早く、それでいて、あくまででしゃばらないさと子の態度は、彼女を知らない若いバイト達にも受けがよかった。

　しかしそれよりも、さと子の持つ「大人の色香」にバイトの少年たちは自然と視線をさと子に奪われて行き、同じ女子高生のバイトのささやかな嫉妬を買った。
　実際にさと子が桁外れに妖艶だったわけではない。中高年のパート達の「枯れ」でもなく十代の少女の「自分だけがいいと思っている色気」でもなく、ごく普通に世間を知る大人の女の「歳相応に男の美意識を操ることを知っている」色香であった。
　しかし、そんなのは店内にはさと子しかいなかったのだ。
　だからこそさと子の「大人の色香」は少年たちには甘く新鮮で、唯一加藤だけが、さと子と体の関係を持っているというアドバンテージがある分冷静にさと子と接していた。

　やがて客足が引き、閉店まで二時間程度となりアルバイトの大半がタイムカードを押して退勤すると、フロアには加藤とさと子だけになった。
　煮沸洗浄されたコーヒーカップのコンテナを四つまとめて抱えて来た加藤にさと子が言った。
「まこちゃん、一服しておいでよ　」
「そっすか！じゃあ遠慮なく　」

　バックヤードを歩いて胸ポケットからタバコを取り出すと、加藤は店長室に入って火をつけて、辻元の椅子に「よっこいしょ！」と座った。
　すると辻元の机の電話が鳴り始めた。
「ありがとうございます！グリフォン高嶋店でございます　」
　電話の向こうで加藤にとって、懐かしい声がした。
「宮田店の麦倉です…よう…加藤か？」
「麦倉さんっすかあ！！！？？？　」
　加藤は大声を出しかけて、あわてて小声になった。

「今…さと子さん…いるっすよ…　」