その25


（うわぁ…居心地わりいなあ…）
　加藤はできるだけパントリーに立つことなく、フロアの中を歩き回っていた。

　店は忙しく、その中にあって、さと子は普通に振舞い、麦倉も普通であった。
　しかし二人は決して口をきかなかった。
　ときおり麦倉がさと子に何かを話しかけていたようだが、さと子がそれに答えることはなかった。

「あのさ…加藤…お前今日ラストだっけ？」
「夏休みは毎日俺はラストっすよ！」
「そうか…今日俺がラストやるからセキュリティのカードキーくれよ」
「いいっすよ！」

（助かった！）と加藤は思った。
　カウンターの内側で、ケーキ皿を片付けながらさと子が一瞥をくれたが、加藤は目をそらした。
（それにしても麦倉さんをヘルプに呼んで店長は何考えてんだよぉ）
　両手に何枚もの料理の皿を持ったまま、フロアを歩く加藤の足元にプール帰りらしい子供が横切り、加藤はひょいと身をかわした。
（あー俺も桂月さんのビキニ姿見たかった！）

　夏の日差しの照りつける岩礁の上で、道子が長谷川のものを咥えて、丹念に舌を使いながら責めていた。
　始めは気後れしていた長谷川だが、ペニスは大きく反り返り始めた。
　道子はビキニのパンティを脱ぐと、長谷川の肩のあたりに置き、騎上位の形で長谷川にまたがり、ゆっくりと腰を沈めた。
「ん…うんっ…」
　文字通り白昼の行為に長谷川は少なからず興奮し、それは道子の目論見の通りでもあった。
「んっ…徹さん…あたしの水着波にさらわれないようにしてね」
「あっ…ああ」
「さらわれちゃったら…徹さんに取りに行かせちゃうよ…」
　そう言うと道子は長谷川にキスをすると、腰を回し始めた。
　道子の膣粘膜は長谷川のペニスを翻弄するようにうごめき、長谷川は思わず腰を何度も突き上げた。
「あ…ああっ…あああ！」
　白日の下で見る、道子の切ない表情に長谷川は起き上がり、座位になると道子を抱きしめた。
「あ…ん…へへっ…徹さん…上になりたいんでしょ？」
　道子が眉間に皺を寄せたまま笑うと、そのまま長谷川は道子とつながったまま正上位になると、道子を抱きしめ、ありったけの力で思いっきり突き上げた。
「ああああっ…すっごい…ああああああああああああ！！」
　長谷川が反り返って呻くと、自分の中で破裂したものから精液が流し込まれる
「うっ…」
「んんっ…」
　軽く身を反り返らせて大きく息をつく道子を、長谷川は見つめた。
　細く小柄なのはわかっていたが、こうして陽の光の下で見ると、滑らかとはいえ岩の上で、道子の言うとおりセイウチみたいな自分の体を乗せて、これ以上ないくらいに脚を開いたままぐったりしている華奢な白い体が痛々しくすら感じた。

　茂みはやや濃い目で、ほどほどの大きさの乳房に、まだ隆起したままのピンクの乳首は、いつも自分が吸っているのが信じられないほどなまめかしく、そしてまだつながったままの結合部に目をやると自分のものを根元まで飲み込んだままのそこは、赤黒い襞が幾重にもねっとり絡みついていた。

「…んー？　どうしたのぉ？　徹さん」
「いや…明るいところで見ると…やっぱ道子ちゃん素敵だよ」
　その瞬間、道子は目を潤ませて真っ赤になった。
　道子が長谷川への想いを新たにするのは、いつもこれなのだ。
　長谷川は道子を、道子にとって新鮮な語彙で賛美する。
　それは駆け引きを知らない長谷川にとっては、素直に言っているだけなのだが、正直知性とは無縁の男たちしか知らない道子には、真顔で「綺麗だ」とか「素敵だ」とか言う長谷川の気持ちの吐露はある意味非常に「濃厚」なのであった。
　道子が長谷川を抱きしめながら耳元で囁いた。

「実はさあ、あたしも外でやるの初めてなんだよね…へへへ！」
「み…道子ちゃんがビキニ姿だから…俺昼間っからサカリついちゃって…」
「んふふふふ…本当？桂月さんの方じゃなくてぇ？」
「なっ何言ってるんだよ！　俺には道子ちゃんだけだよ！」
　少しムキになって長谷川が否定すると、道子は嬉しそうに笑った。
「徹さん…大好きだよ！」

（あららら…）
　やがて砂浜に泳ぎ帰ってきた道子と長谷川だが、桂月は二人の背中のそれぞれ同じ場所に、局所的なすりむき傷ができているのを見逃さなかった。
　その意味にすぐ気づいた桂月は思わず赤面してしまった。

　日は西に沈みかけており、一行は帰り支度を始めた。

「じゃ…俺…あがります…」
　巨体をすぼませるように加藤が麦倉に挨拶をすると、バックヤードに戻って来ると、さと子がトレイを拭いていた。
「裏切り者」
　さと子の目に加藤はすくみあがった。
「いやー…そ、そのぉ…」
「…まこちゃん…あたし怖い？」
「怖いっす！」

「さと子、俺が加藤にあがっていいって言ったんだよ」
　閉店近くになり、客のいなくなったフロアから麦倉もバックヤードに入ってきたのを機に、加藤は逃げた。
（ひゃー…脱出成功…）

　やがて厨房のアルバイトもラスト業務を終えて帰って行った。
　さと子もまたタイムカードを押して帰ろうとしたが麦倉が呼び止めた。
「おいさと子、もうすぐ終わるから待ってくれよ」
「帰ります…明日早いから」
　さと子は数年前に言われた忘れもしない言葉でもって皮肉を言った。
　しかし麦倉はひるまず言った。
「いいから待っててくれ」

　それから麦倉は、特に急ぐでもなく、緩慢にするでもなく、通常の閉店業務を終わらせた。
　店長室に戻ると、着替えたさと子が不機嫌そうにタバコを吸いながらそっぽを向きながら脚を組んで座っていた。

　麦倉はその隣に座ったが、何か言葉を整理しようとする様子で長い沈黙があった。その沈黙に耐えられなかったのはさと子の方だった。
「用事ないならあたし帰るから」
「送ってくよ」
「結構です」
「いいから」
「やだ！」
「話を聞けよ！」
「あたしは話なんかない！」
　そう言って立ち上がり、出て行こうとしたさと子を、麦倉は後ろから捕まえ、そのまま肩にかついだ。
「離せってば！　このバカ！！」
　さと子は麦倉の肩の上で抵抗したが、小柄なさと子が麦倉の胸に膝蹴りをくれても、麦倉は平然とそのまま通用口のカギを閉めると、店の外へ出て、自分の車の助手席にさと子を放り込んだ。

「聞け！　さと子」
　二人を乗せた白いスープラが国道を右に曲がり、走り出した。
「何よ」
「どうしてお前は俺を、そんなに毛嫌いするんだよ」
「どうしてって…自分の胸に聞いてみなさいよ」
「従兄妹ってのは法的にはまったく問題ないんだぞ？」

　このときさと子は、再会したあのとき勇気を出して声をかけた自分にそっけなくしたのを、麦倉が忘れているらしい事に気づいたが、自分たちが従兄妹であったことを麦倉が黙っていたのにも傷ついていたから、あえてそっけなくされた事には触れなかった。

「でも普通の関係じゃない！　血がつながってるんだから」
「じゃあ訊くが、お前は俺が従兄妹だってわかったとたんに嫌いになったのか？」
「じゃあ、哲はどうだったのよぉ！」

　さと子はここで初めて麦倉を「哲」と呼んだ。それは高校生のさと子が何も知らず麦倉と幸せな恋愛をしていたとき、呼んでいた愛称だった。

「俺は…新入部員の名簿にお前の名前見つけたときにわかってた」
「私は自分に従兄妹がいるなんて知らなかった」
「ああ…たえ子おばさんは、ちょっとそういうのだらしない人だったからな」
「従兄妹だってわかっててなんで口説いたのよ！　変態！」
「変態って…それは好きになったからじゃないか」
「なによ…どうせ哲はいろんな女を抱いてたから、ちょっとゲテモノを食ってみようみたいな感覚だったんでしょ？」
「お前はゲテモノなんかじゃなかったぞ」
「競走馬じゃないのよ！　初体験が近親相姦だったあたしの身にもなってよ！」

　さと子の両目から、白い綿のシャツの胸元に揃った涙が落ちた。

「近親相姦近親相姦ってうるせえなあ！お前、昔のマンガで『日出処の天子』ってマンガあったろ？　あれで毛人を誘った刀自古郎女は毛人の妹じゃないか！」

「…あれは『とじころうめ』じゃなくて『とじこのいらつめ』って読むのよ」

　精一杯の虚勢で話の腰を折ったさと子に、一瞬麦倉は鼻白んだが、続けた。

「ましてや…従兄妹であったことくらいで好きって気持ちが簡単に裏返るわけないだろう！」

　少し間を置いてさと子が言った。
「じゃあさ…なんであのとき、素っ気なくしたのよ」
「あのときって…俺が副店長で配属されたときのことか？」
　さと子の顔がこわばった。
「そうよ…」
　麦倉は少し声を荒げて言った。
「お前、あそこは俺が副店長として初めて行った店だってわかってんのか？」
「わかってるわよ」
　麦倉が突然怒り出したのに、少し狼狽しながらも持ち前の気の強さでさと子は言い返した。
「お前なあ！　俺は必死だったんだよ！　お前に久しぶりに会えて嬉しくても、それを抑制しないと慣れない職場で仕事に差し支えるだろう！」

　麦倉とさと子を乗せた車は通りをそれて、土手の向こうにある雑木林に囲まれた、雑草の生い茂る段々畑沿いの農道に止まった。

「だったら…言えばよかったじゃない…」
　さと子の声のトーンが下がった。
「言いたくてもお前はもうその翌日から来なくなったじゃないか」
「だって…」
　麦倉の端正な顔が、ぐいっとさと子の顔の10センチくらいまで近づいてきた。
「俺は今でもさと子が好きだ！」
「あたしだって好きよ！」
　さと子は言ったあと自分ではっとした。
　つい引き込まれるように言ってしまったのだ。
　さと子は思わず顔をそむけたが、それに構わず麦倉は車を降り、助手席側に回るとドアを開け、手を取ってさと子を降ろした。

　目の前には、あの朽ち果てそうな納屋があった。
　さと子の手を引いて中に入ろうとする麦倉に、さと子は弱々しく言った。
「何するのよ…」
　もちろん何をするのか、さと子にもわかっていたが、藤川のときと違い、完全に主導権を麦倉に奪われた形になり、照れ隠しに近いとぼけ方と言ってよかった。

　段ボールを敷いた作業台の上に、麦倉はさと子を押し倒した。
　むっちりと肉感的な、あの荒井真紀と比べると細身のさと子は軽々と持ち上がった。

　左手で麦倉は、さと子の頭上に交差させた手首を押さえつけると空いた右手でさと子のシャツのボタンをはずし始めた。
　さと子は麦倉の目を睨みながら、ブラジャーをはずされてもそう抵抗することなく、乳房が露わにされても目をそらさなかった。
「相変わらず気が強いなあ、お前」
　そう言いながら麦倉は、スカートを軽くめくると、そのままパンティを引きずり降ろした。

　うっすらとすでに濡れ始めていたクリトリスを、麦倉が軽く指で転がすと、ぴくんっと反応しながら、さと子はそれでも麦倉を睨んだ。
「あたし達は…従兄妹なんだよ…」
「だから法的には問題ないんだって言ってるだろバカ」
「バカは…哲の方だ…」
「俺が…？」
「そうよバカ…あっんんんっ…」
　麦倉のものがさと子の中に、ゆっくりと奥まで入ると、さと子は初めて目を閉じ、切ない表情の顔を反り返らせ、麦倉とさと子は数年ぶりに一つになった。

　麦倉がさと子を犯している。
　さと子のシャツの前ははだけられ、ブラジャーは無造作にホックだけはずされまくりあげられたまま。スカートは今にも破れそうに腰のあたりまでめくりあげられている。

　そして麦倉は、さと子の両腕を押さえつけ、激しく腰をぶつけていた。
　どう見てもレイプとしか思えないこの光景だが、やや違っていた。
　さと子の両脚は麦倉の腰に絡みついていた。

「んっんっ…あんっ…あん！あん！」
　麦倉から顔をそむけながらも、さと子は顔を紅潮させ応えた。
　やがて、麦倉がそのまま体を反り返らせ、さと子の中で果てた瞬間、さと子は短い悲鳴をあげた。
「…あっ！！…　」
　びくんっびくんっと自分の子宮に押し当てたまま射精する麦倉のペニスをさと子は身をよじって逃れようとはしなかった。

　押さえていた両腕を離し、麦倉はぐったりとさと子の上に倒れ込んだ。
「ねえ……ちょっと早いんじゃないのぉ？　」
　目を閉じたまま、さと子が、不機嫌そうだが、どこか甘えるような口調で言った。
「久しぶりだからな…もう一回頑張るよ　」
「ふん…私が…フェラしてあげないと元気にならないくせに…　」
「わかってるじゃないか」
　麦倉がさと子を抱きしめると、さと子が嗚咽した。
「ばっかじゃないのぉ？？」
「さっきから何回バカって言われればいいんだ俺は」
「ばかぁ…」
　さと子の両腕も麦倉の背中に回った。
「畜生道だ…哲もあたしも…」
「だから従兄妹ってのは法的に…」
「うるさぁい！！」
　さと子の唇が麦倉の唇を塞いだ。