第４幕


　翌朝早くに目が覚めて、カーテンを裸のまま開け放つ。
　日が昇りかけた紫色の空と金色の光が、生まれて始めてみるほどに美しくて、振り返って鏡を見ると、妻の体は太陽を背に神々しい程に美しすぎる。
　妻は微笑んでいて、僕は喜びの雄叫びを上げたくなった。

　僕は自分の体から漂う性の薫りに興奮しているけれど、この体が不感症であることはもう知っていたので、熱いシャワーを浴びて、それから寄り道をしながら病院へ向かった。

　病院に着いた時には時計が午前１０時を回った頃だった。
　奇遇と言うべきか綾瀬さんが居て、彼女は僕を見るとギクリと驚いて目を丸くする。
　そんな驚くこともなかろうにと微笑むと、やっと彼女も微笑み返してくれる。

「おはようございます。あのぉ、今日はどうなさったんですか？」
「いや、ちょっとね。君は？」
　ちょっと言えない。不感症でした。なんて・・・。
　それは要するに、彼女が帰ったあとですぐに試したって言う意味で、こんな可愛い娘にそんなこと言えない。

「あ、あのぉ、怒らないで下さいね。」
「うん。」
「一応、お体のこととか報告しないといけなくて・・・。」
「あぁ、そんなことか。君のお仕事じゃないか。怒らないよ。」
「ありがとうございます。それで、そのあなたは・・。」
「あ、先生来たよ。君から行きなよ。僕は後でいいから。」

　医者は僕と綾瀬さんが二人一緒のところを見て、渋い顔になった。
　綾瀬さんも僕に追い払われるみたいに医者の所へと向かうけれど、若い医者は僕のことも呼んだ。

　ちぇっ。参ったな。これじゃ、あのことなんて何も言えないじゃないか。
　診察室で彼女は先生に書類を提出して、特に大丈夫ですけどと言葉を濁す。
　医師は目をざっと通して少しだけ渋い顔をした。
「そうだね。この点については良い機会だから、今、質問するよ。」

「えっと、木場辰巳さん。２ヶ月ほどの彼女との同棲生活はいかがでしたか？」
「えぇ、快適でした。楽しかったし。彼女も良くやってくれていました。」
「そうですか。それで体の方は？」
「痛いところもないし、運動すると少し攣りそうになるんですけど、だんだん大丈夫になってきましたし、まぁ、順調だと思います。」
「えっと、性的な衝動は？」
「は？」
「例えば綾瀬さんと一緒にすごして、お風呂を覗きたいとか、Ｈしたいとか・・・。」
「えっと・・・。彼女の前ですし、言いずらいのですが、人並みに性欲はちゃんとあります。
　男性器がないので意外と大丈夫なのかと思いましたが、駄目でした。」
「そうですか、じゃぁ、ホルモンのチェックだけさせてもらって良いですか？ちょっと血を採るだけなんで。」
「えぇ、それは構いません。」

　医師との話しがまとまって、僕は思い出したように堀切さんに振り返って釘を刺しておく。
「あっ、一応言っておくけど、覗いたりしてないからね。」
「あ、はい。それは私もわかってました。」

　これじゃぁ、まるで僕が綾瀬さんに欲情したと告白してるようなもんじゃないか。
　だいたい、女の子と同棲なんてしたらそれくらいしょうがない。
　僕は結構・・と言うか、相当我慢した方だと思うのだけど・・・。

　しばらく検査と質疑応答で時間を要して、良いタイミングで綾瀬さんが外に出て行ってくれた。
「あのぉ、先生。」
「はい？」
「実は性感がないんです。」
「え？それって気持ち良くないってことですか？」
「はい。」

「女性の体に慣れてない・・・あぁ、奥さんの体でしたね。えっと、スキャンで神経の繋がりを一度チェックしましょう。
　繋がっていない部分があれば繋ぐのは簡単ですし・・・。
　いや、ただ、たぶんなんですが、脳に障害がある可能性もあります。
　一度、マンションから落っこちてますし・・・。
　その場合ですと、法律の問題と、あと技術的な問題で治せないかもしれません。
　あ、大丈夫ですよ。その場合は人工的に官能中枢を埋め込むこともできますから。
　ただ、昔のそれとは若干違うそうです。
　被験者の言葉で言うなら、鈍くイッテから突き上がるとか・・。
　快楽がワンテンポ遅れるのかなぁと僕は思っています。
　いっそ、新しく男性器をつけてしまえば話は早いのかもしれませんね。」

　その日は結局昼過ぎまで検査に時間をとられた。
　せっかくだったので綾瀬さんとお昼御飯を食べに行く。
　綾瀬さんが一瞬、居酒屋風の店に目をやったのに僕は気付いて、
「ねぇ、あぁ言うお店とか入ったことある？」と聞く。
　あぁ言う店って言うのは、汚れた床と綺麗に拭かれた木製の机に安物の椅子、それから温かい御飯と意外と旨い魚やら漬物やら添え物やら、それで６００円とか80%円とか。

「ないです。」微笑みながらチラと僕を見て少し恥ずかしそうに口元で笑った。
　それじゃぁと彼女の手を引いて、極自然だった、僕は彼女の手を握っていたけれど、自然に馴染みの薄汚い男の昼飯どころへと彼女を案内した。

　一瞬、店内が驚く。中年やら若者やらほとんど男。
　たまに中太りの女性やビジネスライクな三十路所がいる。
　僕の体ももう３０だけど、ここに来るには早すぎる年代だし、綾瀬さんなんかぱっとみの若さから考えると、不釣合いにすぎる。
　男達は視線を外すけれど、明らかに僕と綾瀬の存在にドギマギしていた。

　僕が何事もないかのように、白髪の老人の相席に座ると、綾瀬さんは一瞬躊躇していた。
　老人はにこりとして目配せした程度で、何事もなく鯖味噌定食をつつく。

　綾瀬さんもやっと居心地悪そうに老人の斜め向かいに肩を縮めてちょこんと席について、壁一面の汚れた張り紙を見回す。
「なんで張り紙変えないんでしょうねぇ。」
「え？あぁ、そんなの全然気付かなかった。良いじゃん、味があって。」
「味・・・ですか。ま、いいや。えっと、私、辰巳さんと一緒で良いです。」
「まだ、僕がなに頼むのかも聞いてないのに、ハハハ。参ったな。じゃぁ、一番美味しいのは鯖味噌なんだけど、せっかくだからもっとこういうお店っぽいもので、アジ尽くし定食９００円。奮発」
「うわ。なんですか、それ。それに奮発って・・・。」
「ここで６００円以上って少ないからね。それに尽くしってとこが凄そうでしょ？でも、まぁ、くればわかるよ。」

　アジの開きとアジのから揚げとアジの天婦羅がどっさりキャベツの上に堂々と、脇にアジの刺身がチョコンと・・・。
「ねね、この刺身の肩身狭そうな感じが良いっしょ？」
「う〜ん、不思議な盛り合わせですね。アハハ。でも、美味しそう。」
「うん。美味しいよ。この店に美味しくないものなんて、１個しかない。」

　ガブとから揚げに噛みついて、御飯をはしで口に運ぶ。

「え？１個ですか？」彼女も真似してかぶりつく。
「ハグハグ。うん、納豆。」
「もぐもぐ。んぐ。納豆嫌いですか？」
「大好き。」
「じゃぁ、なんで？」

「粒が小さいのが許せない。」
「フフフ。それって辰巳さんのこだわりですか？あ、この天婦羅も美味しいですね。」
「うん。でしょ。ここ、はまるよね。」
「うん。でも一人じゃちょっと入れないですね。」

　何人か年をとった顔見知りも居たけれど、誰も僕だって気付いていなかった。
　当たり前だけど、ちょっと寂しくて、でもそのままのものがここに残っていて嬉しい。
　上機嫌で食べ過ぎて、苦しいとか言いながら店を出ると、綾瀬さんがまだ病み上がりみたいなものなんだから、食べすぎはもうだめですよなんて、看護婦らしいことを言う。

　外に出て温かい日差しを受けると、また自然と彼女の手を握る。
　柔らかくて細い指先が絡み合って何かいけないことをしたような気になったけれど、そのまま少し歩く。

　近くの公園で缶コーヒーを買ってベンチに座り、周囲を見回していると、ビジネスマン達がビルへと吸い込まれていって人がまばらになる。
　あとは・・・、営業だろうか。忙しそうに腕時計を眺めて小走りしている若い女性や、額に険しい溝を作りながら、部下らしい青年と歩く中年の男が大股で行き去るくらい。

　ふっと横の彼女に瞳を移すと柔らかい唇がコーヒーの缶にふにふにと潰れて、僕は昨夜から燃え続けている欲情を意識してしまった。
　彼女の喉に黒い液体が流れていくのをなんとなしに意識して、ふっと僕の視線に気付いて微笑みながら俯く彼女に、僕は、明らかに、彼女の、唇が、欲しくなっていた。

　ねぇと彼女の肩に手を置いて唇を近づける。
　嫌ならやめるからと言ってキスをした。
　綾瀬は僕の唇を受け入れてくれた。

　数秒間、真っ白な世界に唇の柔らかさだけを感じて、唇を離す。
　彼女はじっと閉じていた瞳を開いて僕を見詰める。
　しまった。僕はなんてことをと後悔して、罪悪感に焼け爛れた。
　でも、唇の柔い痺れは消えることもなく、僕はその感覚を否定できたかった。

「ごめん。」

　一言だけ言葉にして、僕は怯えているのに、綾瀬さんは微笑んだ。
「いいよ。私も辰巳さんの優しさがすごく心地よくて、それに・・・。
　あの、男性なんですよね？」
「うん。僕は男だけど・・・、あ、そうか。今は女なんだね・・・。」
「でも、男性なんでしょ？」
「あぁ。」
「よかった。私も実は２ヶ月間ずっと辰巳さんのこと気になってて。
　でも、見た目は女の人だし、美人だし・・・。私なんか、レズなのかなとか悩んで・・・。」

　しばらく僕達は見詰め合っていて彼女の唇の柔らかさをもう一度だけ、そう願いながら舌を差し込むと柔らかすぎた。
　彼女の唇と滑らかな舌を、晴海の舌と唇の柔らかさが混ざって夢のような口付けだった。


「ごめんね。あの、また会えるよね。」
「はい。また、御飯お腹いっぱい食べに行きましょ。」
「お腹いっぱいは駄目なんじゃなかったけ？フフフ。」
「あ、そうですよ。腹八部しにいきましょう。ね。」

　彼女の唇が小さく上下に動こうとして、僕はとっさに彼女に交際を申し込んだ。
「綾瀬さん。僕は君のことが好きです。ずっと一緒にいたい。」
　そう言って、恐る恐る抱きしめようとすると彼女は僕に体を預けてくれた。


　別れて部屋に戻ると僕はもう子供のようにはしゃぎたい気分だった。
　意味もなく飛び跳ねて古い歌を歌ったり流行の歌を歌ったり、そしてお酒を飲んでアハハと大笑いした。

　嬉しい。あんな可愛い娘と付き合えるなんて。
　彼女の黒い髪がストレートに背中に流れて、ちょっとだけおどおどとした瞳が僕の趣虐心を逆撫でる。
　でも・・・、鏡を見詰めながら、僕は同じ過ちはしないようにしないと。
　晴海を不幸にした僕は、もう、間違えちゃいけないんだ。

　そう宣言して見詰める鏡の中の晴海は、晴海と同じ顔は鏡の中で愕然と項垂れていて、まるで死刑宣告の直後のようだった。
　本当の晴海に綾瀬さんと付き合うと言ってしまった後のように、彼女は・・・晴海は絶望したような表情だった。

　いや、考えすぎだ。
　彼女のことを思っても、彼女はもう既に死んでしまった。
　僕は、幸せになる権利なんてないような駄目な人間だけど、綾瀬さんと幸せになりたい。

　そう言ってから、ぬるめの湯に浸かりながら酒精のグラスを傾けて、ふと見下ろす妻の体、今では自分の体に欲情してしまうと、妻と綾瀬さんに申し訳ないほど、僕はＨでただの男なんだって気付かされてしまう。
　また我慢できなくなって、指先を伸ばして妻の肉体を弄ぶ。

　浴室に小さな鏡と酒を持ち込んで瞳を覗きこみ、だらだらとアルコールの酔いと指先の滑らかな感触を楽しむ。
　湯船のお湯を滑らかにする薬品を入れて、動く度に全身に纏わりつく滑らかさが心地良い。

　晴海の顔を見詰めながら指先は絶えず彼女の好きなところばかりを撫でる。
　鏡の中の晴海は悲しそうに快感をこらえていて、僕は一瞬罪悪感に蔑まされる。
　頬が薔薇色に染まって震える体。指先に襞が絡まりザラザラと緊張する。

　あぁ、絶頂してるんだ。でも、僕は感じない。検査の結果は週末になるって言っていた。
　いつになったらこの欲情から解放されるんだろう。
（やだぁ〜。も、もう、イッタ。イッタのぉ〜。）
　妻の声が幻聴で跳ね返る。指先を蠢かせる度に、あんあんと可愛い声が泣き咽ぶ。
　鏡の中の晴海は喉を反らせて・・・あれ？目が合わない。

（と、止めて。辰巳、気付いて。お願い。私の声。気付いてぇ〜。あぁっ。いやぁ〜。）
　指先に痙攣が伝わる。

　なんでだろう。そんな、だって鏡は僕と同じはずなのに・・・。
　まだ感覚がおかしいのかな。お酒、そう言えば晴海はお酒にそんなに強くなかったかも。
　それでもこんなの変だ。鏡の中の僕の体、妻の肢体はこんなに乱れているのに、視線を落とせば確かに淫靡な様だ。
　女の自慰なんて始めて見た。あぁ、この間、鏡越しに見たのが初めてだけど、鏡の中程乱れていない。

（ゆ、指、とって。もう、ねぇ、辰巳。）
「晴海？」そんな馬鹿なと思いながら口に出して、僕はドキリとした。
　鏡の中の晴海の瞳の妖絶さと、唇の幼い淫靡さに。

（やっと気付いてくれた。ねぇ、昨夜、私と話して気付いてくれたと思っていたのに・・・。）
　晴海。もしかして、僕の脳の中に残っているの？
（うん。そうよ。もう、鈍感なんだから。昨日、二人で一緒にって約束したでしょ。）
　あぁ、あれは夢だと思ってた。こんなことってあるはずないから。
（でも、私の声って届いたり届かなかったり・・・。）
　そんな。こんなことって・・・。
（本当にいるのよ。私はここにいるの。あうん・・・。ゆ、指はずして。）

　晴海の頬はやっと絶頂から開放されたと言わんばかりに上気して、可愛くて美しくて、吸い込まれそうな瞳の深さだった。

　ごめん。気付かないで酷いことしてたのかも・・・。
（うん、数えられない位イカされたわ。馬鹿。）
　ごめん。
（うふ。でも、本当に辰巳って優しい。大好き。昔と全然変わらない。）

　見詰め合いながら、腕全部で自分の体を抱きしめる。
　それだけで彼女を強く抱きしめたあの日が戻るようだった。

　彼女と素直に語りながら、彼女はまだ満足していなかった。
　僕も、いや、僕はもう快楽を味わえない体なのだから仕方がない。
　でもと、再び体をやさしくあの日を思い出しながら愛撫する。
　さっきまで嵐のような絶頂に咽び泣いた体は、官能に敏感に反応して、大好きな晴海の一番好きなあの声を漏れさせた。


「ねぇ、辰巳。誕生日なにが欲しい？ねぇってば。」
　ごろごろと寝転がりながら僕の太股に頭を乗せて、あの日、晴海は唇を尖らせていた。
　その晴海が可愛くて仕方なくて、キスをしようとするとゴロゴロと転がって逃げる。
「だぁ〜め。誕生日になにが欲しいか言ってくれないとお預け。」
「ははは。なんだい、そりゃ。」

　じゃぁと僕は冗談交じりに君が欲しいよと抱きついて囁く。
　でも、本心だった。ただ一日、僕の側にいてこうしていてくれれば良い。
　それが本心。

「い、良いよ。良いけど。」
　真っ赤になった君が可愛くて、キスをする。

　冬の冷たい風の吹く音を聞きながら、暖かい部屋でベッドに寝転んで彼女を抱きしめる。
　ふと思いついて、カーリーの歌声、少し悲しいソプラノのＣＤを流して、明かりを消す。
　彼女の暖かい感触がじわっと増して、この抱擁を天上の至福のように感じさせてくれた。

「辰巳、これ悲しい音楽だね。」
「うん。」
「でも、幸せ。大好き。」
「うん。」

　いつの間にか歌声は終わって、僕達は抱きしめあったまま眠りに付いていた。

　週末の誕生日が来て、晴海は本当に一日僕の側にいてくれた。
　なんでもしてあげる。なんて可愛いこと良いながら真っ赤な頬で俯いてた。
　それにシンプルな黒い手袋を丁寧に包装して、僕に手渡してくれて、僕は嬉しくって部屋の中でしばらくはめてたっけ。

「なんでも言うこと聞くよ。」
　ベッドの上で正座して僕をじっとみつめながら言って、焦ったように、恥ずかしさを隠すように言い直す。
「でも、あの、辰巳が隠してるビデオみたいのは怖いから・・・。」
「え！知ってたの。」
「うん。だってバレバレだよ。」
「見たんだ。僕が居ない時に・・・、あ、晴海ってＨだね。」
「うわ。ずるい。あほ。馬鹿。」
「ねぇ、じゃぁ、ビデオみながらしよっか。ね。」
「えぇー。嫌よ。もう、変態なんだから。」
「だって、今日はなんでも言うこと聞いてくれるんでしょ。
　それに普段はそんなのできないじゃん。ね。晴海。」

　ちゅっと柔らかいほっぺたにくちづけして、彼女を押し倒すと、真っ赤になりながらうんと頷いて、頷いてから彼女は少し後悔してた。
　で、僕はベッドの裏の網からビデオとＨ本と官能小説を抜き出して、どさっと広げる。


（あの頃って辰巳、変態だったよね。今もだけど。）
「今は普通だろ？」
（オナニーばっかりしてるわ。）
「それは君の体だから触れたいんだよ。ねぇ、あの日のＨってどうだった？ね、正直に。」
（馬鹿。・・・ヨカッタ。）
「じゃぁ、またしよっか。ね。」
（うん。本当に辰巳ってＨ。）


　ビデオを再生させれば、美女が無理やり玩具で何度もイカされる様子が流れる。
　ベッドの上で壁に背を任せながら彼女を抱いて観賞して、僕のものが背中にぶつかって凄く居心地の悪そうにしている晴海はもぞもぞと身をよじった。

　映像の中の女が潮を吹いて泣き叫ぶなか、なんどもなんども醜悪な玩具が出入りして、晴海の横顔は真っ赤に染まりながらもビデオが気になって仕方ないみたいだった。
「ねぇ、このビデオも見た？」
「見てない。」
「そっか。どう？」
「どうって・・・。あんなの苦しそうでかわいそうよ。」
「うん、そうだね。でも気になるんだ。」
「もう、意地悪。あん。」

　指を股座に忍ばせて触れれば、僕が以前プレゼントした綿の幼くて可愛すぎる水色のパンティーに染みが付いている。
「あぁ、これ穿いてきてくれたんだね。かわいいよ。」
「う・・、うん。あ、駄目ってば。」
「Ｈな染みついちゃったね。ちゅっ。」耳元にキスをして、そのまま耳の内側に舌を伸ばす。

　指先はパンティの上から優しく撫でる。
　染みは広がって、僕は綿の内側の湿り気と僅かな襞の感触を指に楽しみ、ビデオの女性がもがき苦しむのとは１８０度違う優しい愛撫だけで、彼女は可愛く声を漏らし始めれば、晴海の唇が震える様子が官能的で瞳に焼け付くようだった。

　じくじくと焦らすように彼女の全身に指を這わせて、ビデオの中の美女が失神して初めて彼女の濡れた部分を直に触れた。
　臍の側からパンティの内側に手の平を滑り込ませていくと、柔らかい痴毛が少し湿っていた。

　熱くて吸い込むような不思議な感覚の溝からは蜜がトロトロと溢れていて、晴海が官能に燃えているって僕にだってすぐわかった。

「ねぇ、凄いＨな気分なんだね。あそこがどろどろだよ。」
　耳の内側に直接囁けば、ぱくりと割れ目は開いてトプと溢れ出す。
「ば、馬鹿。こんなの・・ふぁぁ。」
「こんなの？気持ち良い？なに？」
「も、もう。変態。辰巳の馬鹿。あ・・、あぁん。ゆ、指、待って。」

　内側をぐにぐにと揉み解しながら、彼女がいつも喜ぶ天井の辺りを擦って、蜜を掻き出して、
「あ・・・。ねぇ、ねぇってば、服着たままは・・・。」
「駄目。このままで、イクところ見せて。」
「あ、も、もう・・、お願い。待ってよ。あ、ああ、む、無理だよ、もう。」
「だから、我慢しなくて良いんだよ。ほら、ここ震えてる。それともこっちも一緒が良い？」

　クリトリスに左手の指先を添えようとした途端、晴海がビクビクと弾んで、可愛い鳴き声を断続的にあげる。

　もう、指先も僕がプレゼントしたパンティーもどろどろで、晴海は恥ずかしがって両手で顔を覆ってしまっているので、僕が彼女の服を脱がしてあげる。

　なんかこうしていると赤ちゃんか幼稚園児みたいだね。なんて冗談を言いながら、僕の瞳は彼女の震えてテラ付いた薄い痴毛に釘付けで、ビデオの美女が再度、輪姦されていることなんて気にもならなかった。

　裸にしてあげて、僕も裸になって、一緒にベッドに横になりながら、彼女にビデオを見せる。
「ねぇ、こんなに何度もイケるの？」
「きつそう。きっと苦しいよ。」
「何回位なら大丈夫そう？」
「え？ねぇ、酷いことしようとしてる？」
「ううん。たぶんそんなこと思ってない。」
「たぶんって言った。・・・１回が限度です。」

　乳首に指を這わせながら話して、時折ピクリと彼女が感じるのが愛苦しい。
　ビデオも終盤になって、かわいそうな女が前と後ろの穴を同時に屈強な男に犯されてしまうと、僕も、晴海の上に乗って彼女の中に挿し込んだ。

　イッてから少し経っていたけど、凄く熱く湿っていて、泥の中に足を突っ込んだみたいな無抵抗に纏わりつく彼女の襞が凄く気持ち良い。
　そのまま往復して、突いて擦って、抉って掻き出して、彼女はまた可愛く絶頂する。
　短い髪を振り乱して、首を仰け反らせれば、突き出された乳首に僕は吸い付く。
　ぴくりと震えて肩を窄まそうと体は反応しているのに、僕が膣を往復する衝撃に声も堪えて我慢していた。

「も、もう、あぁ、辰巳、無理。お願い。あぁ・・。」
　びくと弾けた彼女を抱きしめて、抽出を止める。
　僕は荒い呼吸を静めながら彼女の胸や首や耳にキスをして、彼女の肢体からじわと滲みでる汗と彼女の薫りを舌先で拭えば、それだけで僕は至福だった。

「ご、ごめん。先にいっちゃって。あぁ、まだ・・・。うん、それ位なら我慢・・・できそう。ふぁ。やっぱり、やっぱり無理。また、・・はぁはぁ、ありがと。」

　ビデオは終了していて、勝手に巻き戻しが始まっていた。
　画面はじじじとゴビ砂漠を延々と映して薄暗い部屋にチカチカした明かりを灯す。



「ねぇ、あの日の続き、しよっか。」
（え？駄目よ。だって・・・、嫌だもの。）
「お願いだよ。晴海。」
（も、もう。ほら辰巳って変態じゃない。気付いた？）
「うん。気付いた。ね、官能小説読んで聞かせて。その間君のこと触れててあげるから。」
（・・・痛くしないでね。イったら止めてね。）
「うん。わかったよ。ありがと。」

　興奮している。心の底から僕は興奮して、今だったら１０回位射精できるんじゃないかって位欲情しているけれど、やっぱりうんともすんとも気持ちよくはなかった。

　彼女の体を弄りながら姿見をベッドの正面に置いて、彼女を下から割れ目も全部見えるような姿勢で、自慰という名の愛撫を繰り返す。
　晴海はベッドの脇に備え付けた官能小説を途切れ途切れに読み上げながら、漏らす溜息と喘ぎ声は小説の中の若妻が乗り移ったみたいに善がりまくってくれた。

（あぁ、あぁ、も、もう、イきそう・・・。）
「そんなこと書いてないよ。ほら、読んで。駄目だよ。」
（あぁ、は、はい。・・・和美の乳首を捻るように・・あぁ、だ、駄目。辰巳・・・あ、ふわぁ。）
「ねぇ、感じたの？」
（ば、馬鹿。痛かったの。）
「そっか、ごめんね。声は気持ち良さそうだったから。」

　乳首をつねる指先を離して、痛みの跡を優しくさする。
　逆の手で興奮して剥き上がったクリトリスにねっとりと触れれば、可愛い鳴き声を漏らす。
「読んで。」
（あぁ、野獣のよ・・・あん、クリ駄目。
　野獣のような肉棒を捻じ込まれて、あぁ、奥掻き回さないでってば。）
「気持ち良い？興奮してるの？可愛いよ晴海。」

　彼女の言葉にあわせて体を嬲り、僕はじわじわと晴海の体を昂ぶらせる。
　若妻が夫とその友人達に輪姦されんがらイキ狂うシーンからどうしても声に出せなくなって、その間も延々と割れ目を撫で上げる指先に追い詰められて、晴海はこの場面でイッた。


　僕の体は官能に炙られているのに、燃えることもできず悶々として、妻の絶頂に咽ぶ愛らしい声と反応が羨ましくてたまらない。

「ねぇ、この場面が好きなの？」
「ち、違うの。恥ずかしくて・・・、だって・・・。」
「だって？なに・・・。」
「だって、この若妻が私みたいで・・・。」
「僕は君を他の男なんかに触らせないよ。」
「でも、それでも貴方が今他の女性としたら、同じでしょ。例えば、・・・綾瀬さんとか・・・。」

　ドキリとした。
　そうか。僕が綾瀬さんと肉体関係を持つことは、妻を綾瀬さんと二人で嬲る行為になるのか・・・。
　ジクジクと発散することのできない官能に一瞬火がついて、そんな非道徳的なことはできないと言い聞かせるけれど、なぜできないかは説明できなかった。
　したいと思う。でも、妻がかわいそうだし、綾瀬さんだってそんな関係を望んでいるはずない。

　あぁそうか、僕は妻を自由にできるから晴海は僕を恐れているのかもしれない。

　僕は彼女を許して、次のシーンから先を読ませる。
　次の凌辱の場面で、妻が一生懸命主人の責め苦に声を出さずに耐えるシーンで、もう一度彼女を絶頂に突き上げた。
　晴海も絶頂に震えながら声を堪えて、喉から空気の染み出るような掠れた音を立てて、眉間に皺を寄せて耐える様は、僕の趣虐心を否応なく昂ぶらせる。
　一瞬、このままイキ狂わせて見たいなんて醜い気持ちになったけれど、妻を愛する気持ちが勝って、僕は優しく妻の官能を静めてあげた。

　日がな妻の肉体を嬲る生活が続いて、５日後、やっと病院から呼び出しがかかった。
　妻はほっとしているのか、残念に思っているのかわからないけれど、僕はやっと吐き出せると思えば心の底から嬉しかった。


「えぇ、まだまだ道半ばな物語ではございますが、いかがでしょうかね。ヒヒヒ。
　そろそろお察しが着いた頃合じゃありませんかね。
　あっしのもう一つの悪戯もそろそろ出番がやってきまして、ふぅ、やっと物語りも佳境に入ると言った所でございます。」

　イライラとした足取りで天の美の化身達を前に歩き回りながら、６枚の羽を端正に折りたたんだ男の前で立ち止まる。
「なにか御意見は？」

　冷たい瞳で見下ろされれば、腹も立とうかと言うところだが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて見返してやる。
「そちらのご麗人はいかがかな？」
　４枚の羽をふさふさと揺らせて、美しい姫は震えていた。
　純白の衣に身を包ませながら、膝をぴたと閉じて、その姿は始めての官能に震える少女のようだ。

「はてはて、ご感想もないようですので、続きと参りましょうか。」