１．

「ねえ、あんたたち公務員でしょ？」
　歓談の輪から少し離れて静かに飲んでいる女たちに男が声をかける。問いかけられた二人は顔を見合わせ戸惑った表情を見せた。
　ちょっと気の強そうなストレートヘアーが松田小雪、天然っぽいウエーブのショートヘアーが南彩香、二人とも濃いグレーの目立たないスーツ姿だ。
　場所は割とオシャレな飲み屋。お開き寸前の合コン会場だった。
「どうして、そう思うんですか？」
　小雪が逆に聞いてきた。
「まあ、ぱっと見の印象かな。何してるか当てたら俺と二次会付き合ってくれる？　このビルの上にあるカラオケだけどね」
　そう言う男は、ノーネクタイに芥子色のジャケットという遊び人風で年齢が分からない感じだ。
「面白いじゃない。いいわよ。当たったらね」
　軽い酔いも手伝って小雪が答える。
「ねえ、だめよ・・・」
　彩香がたしなめるように言う。
「大丈夫。分かりっこないんだから」
　どうやら小雪は酒に弱いようだ。ろれつも怪しいし、ヘラヘラと笑っているようにも見える。
「なんか、二人とも身のこなしがタダもんじゃないしなぁ・・・化粧も薄いっていうより、はっきり言って下手だし、いまどき髪も染めずにそんなスタイルしてるのは・・・ひとつっきゃないでしょ」
「だから、何よ」
　遠慮のない男の言葉を聞いて小雪の表情が曇る。
「婦人警官」
　男が言うと二人とも蒼ざめた。
「ど・・・どうして・・・」
　彩香は信じられないといったふうにつぶやく。
「日本の平和を守るご婦人警官、いや最近は女性警察官って余分でしたっけ。そのお二人とカラオケを楽しめるのは光栄至極。善良なる市民としては日ごろの感謝を込めてご馳走したいところですが、もうずいぶん食べちゃったしね。こんどは歌って楽しみましょう。さ、お嬢さま方、参りましょうか」
　芝居がかったセリフとともに男が立ち上がった。

　二人は進んで合コンに参加したわけではない。小雪の高校時代の先輩に「どうしても」と頼まれたのだ。恩のある先輩だったので断り切れなかった。ひとりで参加するのは気が進まず、同僚である彩香に来てもらった。ちょうど非番だったせいもある。案の定、あまりに違いすぎる世界に馴染めず、二人でそろそろ退散しようと相談していたところだった。
　引き留められ、小雪は自分でも分からない苛立ちのようなものを感じていた。この男のせいだ。なぜか職業を言い当てられたことが悔しいのだ。
「ねえ、どうして私たちの仕事が分かったの？　どこかで会った？」
　店を出て小雪が聞いた。
「知りたい？」
　男が答える。
　小雪がうなずく。
「じゃあ、部屋に入ってから・・・」
　男は小雪の背中を軽く押す。手のひらが触れた瞬間「ビクッ」と硬直が走る。
「そういうところも婦人警官らしいね」
　男が笑う。
　小雪の父親は警察官。父親の背中を見て育ち、公立の進学校から何の疑問もなく警察学校に入学し、男性経験も無しに26才の現在に至っている。だから男に対する免疫は全くない。合コンだって初めての体験だった。見も知らなかった男とカラオケをやるなんて魔が差したとしか言いようがないほどなのだ。
　彩香の方も似たようなもの。年は小雪より一才下。女子校の陸上部出身。体育系の大学に進学しようとも考えたが、それほど豊かな家庭ではなく二人いる妹のことを考えて警察官への道を選んだ。ただ小雪と違うのは高校のときから付き合っているフィアンセがいること。つい最近婚約したばかりだ。
　三人はエレベーターに乗ってフロントへ。男は最上階の部屋を選んだ。市街の夜景が楽しめる最高級の部屋だ。
「こんな高いところ・・・」
「ね、いい場所でしょ。けっこうお気に入りなんだ」
「そうじゃなくって、値段のこと・・・」
　冷静な彩香が言う。
「そんなこと気にすんなよ。ここは俺の奢りだから」
「私たち、饗応を受けてはいけないことになってるんです」
「そんな堅いこと言いっこなし。別に交通違反のもみ消しを頼んでるわけじゃないし。それに、もう飲み物の注文もしちゃったから」
　結局二人は男の憎めぬ強引さに押し切られる形で部屋に入る。
　男は景気づけにとサザンを歌った。上手かった。話題も豊富で楽しかった。いつの間にか二人は勧められるままにウエルカムドリンクだという甘いカクテルを飲み干していた。
　小雪も彩香も歌った。仕事の緊張でわだかまっていたストレスが笑うたびに溶けていく。もう、男がどうして自分たちの仕事を言い当てたのかなんて気にならなくなっていた。
　歌いながら飲むことが、これほど楽しいとは思わなかった。酒がやけに美味しく感じられる。
　何曲目かを歌い終わった小雪の上体が揺れた。
「先輩、松田先輩ったら・・・」
　そう言う彩香も意識がとぎれとぎれだ。
　飲み過ぎにしてはおかしい、そんな考えが意識の片隅を走ったのも一瞬のこと、彩香も眠気というには激しすぎる感覚に襲われソファーの上に昏倒した。

　二人の飲んだカクテルにはメラトニン系の睡眠薬が大量に含まれていた。
　男は折り重なるように倒れている二人を見てニヤリと笑った。
　上になっている彩香を抱き起こすと、そのはずみで小雪の身体がソファーに倒れ込む。足は床に着いたままなので仰向けにのけぞるような姿になった。タイトスカートの上側に腰骨が突き出し、その真ん中の少し下には恥丘の膨らみが生地を持ち上げている。張りのある太ももから真っ直ぐに長い脚が伸びていた。
「ふふふ、旨そうだ・・・」
　男は独り言を言いながら彩香を運び始めた。

　小雪は猛烈な尿意を覚えて目を覚ました。
　起きあがろうとして身体が動かないことに気付く。
（な、なんで？　ここはどこ？）
　自分がどこにいるのか、何をしていたのかまったく思い出せない。
　目を見開き、辺りを見回し、必死で思い出そうとする。
　すぐに自分がなぜ動けないかが分かった。大きなベッドに拘束されているのだ。手首と足首には革製の幅の広いベルトがはめられ、ロープでベッドの脚に固定されているみたいだった。
　殺風景な部屋には窓もない。どこか地下室のような印象だ。左側を見ると彩香が自分と同じように繋がれていた。部屋にはベッドが二つあるだけで、他には何の家具も置かれていない。暗い色の壁紙とリノリウムの床、よく見かける穴の空いた石膏ボードの天井。足下の壁面に黒い鉄扉がある。
　もうひとつのベッドに繋がれている彩香の方を向く。
「南さんっ！　南巡査長っ！」
　小雪は大声で彩香のことを呼んだ。
　しかし彩香は微動だにしない。
「誰かっ！　誰かいませんかっ？！」
　小雪が叫ぶ。
　するとドアが開いた。
「さすがに訓練を受けているだけはある。パニックにならないのは立派だな。でも声がうわずってるぜ」
「あ‥‥あなたは‥‥」
「思い出したか？」
「はやく外しなさい！」
　小雪は思い切りもがいた。ギシギシとベッドが不気味な音を立てる。
「わたしたちが何をしたっていうの？　はやく外して！」
「まずは教えておいてやろう。いくら大声を出しても無駄だ。絶対に外には漏れないようになってる。それから、お前らの携帯も遠いところで水に沈めた。ここは誰にも分からない。お前らは俺の手中にある。抵抗することは許さない。分かったな」
「ど‥‥どうして‥‥」
「理由が知りたいか？」
　男の声は冷たい。
「な、なによこれ？」
　そのとき、話し声で目を覚ました彩香がもがきだした。
「あっ、松田先輩‥‥助けてください‥‥」
「目が覚めたか。ちょうどいい。お前も話を聞くんだ。お前ら、三ヶ月ほど前、職務質問だといって俺の親父を引き留めただろう」
「え？」
「親父は言ったはずだ。銀行に行かしてくれと‥‥一分でも遅れると不渡りを出してしまうからと言ってな‥‥」
「あ‥‥」
「思い出したか？」
　小雪がうなずく。
「それなのにお前らは親父を３０分も強制的に引き留めた。そして親父は銀行に間に合わず手形は不渡りになった。それが原因で親父の会社は倒産したよ」
「あ‥‥あのときは‥‥」
「職務だったと言いたいんだろう。でもな、それで親父は死んだ。自殺だよ。お前らのせいでな‥‥」
「そ、そんな‥‥」
「親父はお前らが付いて来てもいいから銀行に行かせてくれと泣いて頼んだはずだ。違うか？」
「でも‥‥」
「お前ら役人には分からないだろう。中小企業の社長がどれだけの綱渡りをしてるか。それが、お前らの血も涙もない職務とやらで死んじまった。おい、それとも親父が何か悪いことでもしたっていうのか？　え？　言ってみろよ」
　小雪は答えることができなかった。
　男の顔は怒りで蒼ざめている。
「だって、あのときは手配中の車と同じ‥‥特徴も同じだったし‥‥顔通ししなきゃならなかったから‥‥」
　彩香が口を開いた。
「親父は何でも協力するから銀行に行かせてくれって言ったよな？　お前らが少しでも事情を斟酌できれば親父は死ななかったし３０人の従業員も失業することはなかったんだよ。会社が倒産した日、親父は涙を浮かべてお前らが恨めしいって言ってたよ。で、翌日自殺したんだ」
　二人とも口がきけなかった。
「ちょっとスケベが玉に瑕だったけど、いい親父だった。お前らが、ちょっといい女なんで、ついつい引き留められちゃったって苦笑いしながら言ってたよ。お前らに、そんな親父の気持ちなんて分からないだろう。法的には、お前らの落ち度はないんだろう。訴えても無駄だっていうわけだ。だから、俺一人で親父の敵をとってやろうと思ったのさ」
「そんな‥‥私たちのせいじゃ‥‥」
「お前らのせいなんだよ。少なくても俺と親父はそう思ってる。それだけで十分だ」
　まだ状況がはっきり掴めていない彩香を制するように男は強く言った。
「親父はな、せめて死ぬ前に苦笑いしながら一度だけでもあんなネーチャンたちと思い切り楽しんでみたかったって言ってたよ。だから、親父の代わりに俺が楽しませてもらう。それがせめてもの供養だと思ってな」
　暴行、監禁、さまざまな罪の言葉が小雪の頭の中を駆けめぐる。しかし、それは単に言葉としてだけで、今の自分が置かれた状況とはなぜか結びつかない。それに、これからどんなことが行われるのかイメージができない。
　もうひとつ、小雪には切羽詰まった肉体的な事情があった。そう、目覚めたきっかけである尿意だ。全身が震え出すほど堪えきれなくなってきた。額に脂汗が滲んでいる。
「お‥‥お願いします。トイレに行かせてください‥‥」
「どっちがしたいんだ？」
　男はぞっとするような笑みを浮かべる。
「別に、ここで垂れ流してもいいんだ。ちゃんと答えればそれなりのことはしてやるよ」
「しょ、小の方です。お願いです。もう、我慢できない‥‥」
　漏らしてしまうのを見られたくない一心で小雪子は答える。
「よーし、いい子だ。ちょっとだけ待ってろよ」
　男がドアの外に出る。
「先輩‥‥私たち、どうなっちゃうんでしょう？」
　彩香が問いかけるが小雪には答える余裕など無い。もう、限界は近い。
　男が左手に女性用の尿瓶を持って現れた。部屋を出て行ってから一分も経っていないだろう。右手にはキッチン鋏が握られている。そして、ベッドの上に二つの道具を置くと、ものも言わずに小雪のスカートを捲り上げる。
　想像もしてなかった事態に小雪の頭の中は真っ白になった。
　男は下腹あたりのストッキングを摘むとキッチン鋏で横一文字に切り裂いた。
「やめてください！」
　小雪が悲鳴を上げる。
「だって、ションベンがしたいんだろう？」
　男はこともなげに言うと、コットンのパンティに鋏を入れる。
　あっという間に小雪の秘所が露わになった。
　渦巻くように生えたアンダーヘアーから汗とは違う牝の匂いが立ちのぼる。
　その奥の部分に尿瓶の口があてられる。
「ほら、もう大丈夫だ。思い切りしなよ」
「い‥‥いや‥‥トイレに‥‥行かせて‥‥」
「だめだね。ここでするんだ」
　男は、そう言って小雪の下腹部を勢いよく押した。
「い、いやぁ〜っ！」
　叫んだ瞬間、ジョボジョボと音を立てて尿瓶の中に小雪のものが放出された。
「ああ〜っ」
　泣き声とも呻きともとれる声とともに黄金水がほとばしる。いったん堰を切った流れは勢いを増し、止めることなどできなかった。
「い、いやぁ‥‥見ないで‥‥お願い‥‥」
　男の薄笑いが悪魔の顔に見える。それに、彩香までもが目を見開いてこちらを見ているのだ。なのに、なおも続く奔流を止められない。
　悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて死んでしまいたいと思った。
　小雪は陵辱の真の意味を知った気がした。
　秘所を露わにされたことより、排尿を見られるという恥ずかしさの方が辛かった。後輩の彩香にだって、そんな姿を見られたくはなかった。
「あ‥‥あう‥‥」
　小雪は涙を流しながら嗚咽をしていた。
　心のどこかで、トイレに行けばここがどこなのか少しは分かるかもしれないし、逃げ出すチャンスも訪れるのではないかという希望があった。しかし、それは甘い考えだった。
　出し終わったとき、想像もしてなかった恥辱に小雪の心は砕けた。
「たっぷり出たな」
　笑いながら男は虚脱した小雪の秘部をティッシュで拭きはじめる。
「気の強い女の陰毛は濃いって話だが、嘘だな」
　誰にも触れさせたことのない恥ずかしい部分を触られているのに、もう抵抗する気も起きず、小雪は男のなすがまま身を委ねる。開いた目はどこにも焦点が合っていなかった。
「こちらのお嬢さんは、まだしたくないのかな？」
　男は彩香の方を向く。
　脅えた顔の彩香は首を思いきり振った。
「相棒が恥ずかしい思いをしたんだ。こんどはお前の番だからな」
　男は、先ほどのキッチン鋏を手にしている。
「や‥‥やめて‥‥」
　恐怖で喉がカラカラになり声がうまく出ない。
　鋏の刃がスカートの裾にあてがわれ、ビビビッと生地が裂けていく。あっという間にスカートは一枚の布と化した。肌色のパンティストッキングの下に野暮ったい綿のショーツが透けて見える。
「しないで！　お願い‥‥」
　彩香の反応は、小雪に比べるとフェミニンだ。
　男は彩香の言葉を無視するようにブラウスを切り裂き、ブラジャーの真ん中に鋏を入れる。
「だめぇ！」
　彩香の悲鳴とともにお椀型の乳房がまろび出る。茶色く膨らんだ乳首はすでに堅くなっているように見える。
「だめっ！　やめてぇ‥‥」
　彩香は激しく身をよじる。しかし、冷徹な刃先はブラジャーのストラップを切断した後、袖先まで走る。
　そして、布きれと化したジャケット、ブラウス、ブラジャーが取り去られた。
　ついに彩香の上半身が露わになった。
　恐怖のためかうっすらと汗をかいた白い肌が艶めかしい。
「助けて‥‥」
　彩香の声は震えていた。
「なかなか旨そうな身体じゃないか‥‥こんどは下の方だ」
「いやぁ！」
　鋏がストッキングに入れられたのを感じ必死で逃れようとするが、手足が固定されているので身体が思うように動かない。
　男は手際よくストッキングとショーツを切り裂き、上半身と同じ要領で彩香を丸裸にしてしまう。
　濃く、縮れ気味の陰毛が小雪とは対照的だ。
「なかなか触り心地もいいな」
　男の指先が乳首の周りを軽やかに這い、脇腹から内腿、そして秘所へと進む。
「いやっ！　いやぁ〜っ！」
　彩香の身体が跳ねる。
「やめて‥‥私たちが悪かったわ‥‥だから‥‥お願いだからやめて。南さんには婚約者がいるのよ」
　横で見ていた小雪が哀願した。
「じゃあ、お前が最初の生け贄になるっていうのか？　後輩思いの婦警さんだな」
「そ‥‥そんな‥‥」
「ふん。やっぱり自分が大切ってわけだ」
　男はそう言うと彩香の下腹部にあった手を蠢かした。
「あうっ！　だめぇ‥‥」
　彩香が悲鳴を上げる。
「やめて、お願いだからやめて。やめてくれたら、私を自由にしていいから‥‥」
　小雪が彩香の状態を見かねて言う。
「ほんとだな？」
　男の眼が光る。
　狂気に満ちた表情に圧倒され、小雪は思わずうなずいてしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えるかな」
　もう男の手には鋏が握られている。
　隣で彩香が犯されるところを黙って見ていられない気持ちもあったが、なんとか時間を稼ぎたかった。高圧的に出れば男はもっと酷いことをするだろう。それに、強制的に排尿され、それを見られたことでプライドを保てなかったせいもある。
「お願いします。南さんは自由にしてあげて」
「ふふふ、後輩のために犠牲になる気か。美談だな」
　男は小雪のスカートを切りはじめた。
　彩香と同じように下半身が露わにされ、ブラウスのボタンが外されたとき、小雪は覚悟を決めたかのように目を閉じた。
　彩香のときと違って男はゆっくり時間をかけて小雪を裸にしていった。
　ブラウスの前が開かれ、ブラジャーに鋏が入れられた。胸を締め付けていたものがなくなったとき、なぜか小雪は自分の身体が宙に浮くような気分になった。開放感とも違う不思議な感覚だった。
「おっ、いいおっぱいじゃないか」
　男の言葉が小雪を現実に引き戻す。
　次の瞬間、ゾワゾワと悪寒に似たものが全身を駆けめぐる。
「く‥‥」
　小雪は身体を硬直させた。そう、男が乳首を舐めたのだ。
「う‥‥うう‥‥」
　男の舌が容赦なく這いまわる感触に呻きが漏れる。
　厳格な家庭で育った小雪は処女だった。それどころかキスやペッティングの経験すらない。オナニーですら途中で怖くなってやめてしまったほどだから、今、男から与えられている感覚は体験したことのない未知の世界のものだった。
　やがて男の舌はうなじへと移動する。同時に乳房が揉まれている。
　痛みを伴った訳の分からない疼きに小雪は耐えるしかなかった。
　しかし、男の手が下腹部に移動したとき、ついに声が漏れてしまう。
「お‥‥お母さん‥‥」
　無意識に保護者を求めていた。涙がひとしずく頬を伝わる。
　男の指が開かれた脚の中心をまさぐる。その動きは的確で中指と人差し指に挟まれたクリトリスが優しく愛撫されていた。そして、乳首が口にふくまれ舌先で転がされる。
　耐えきれず、小雪の身体が痙攣する。下腹部に熱くてムズムズする感覚がある。しかし、それが何であるか小雪には分かる術もなかった。
「なんだ。濡れてるじゃないか」
　蜜壺の入り口に指を滑らせた男が言う。
「あんっ！」
　その衝撃に小雪の腰がバウンドする。
「そうか、気持ちいいか？　じゃあ、こうしてやるよ」
　男は身体をずらして小雪の秘所に顔をうずめる。
　蜜壺の入り口からクリトリスまでが舐め上げられる。
「あうっ！」
　もう小雪の意識は飛んでいた。敏感な部分を男の舌先が何度も往復し、得体の知れぬ感覚に何がなんだか分からなくなってしまう。
「う‥‥うう‥‥」
　漏れる喘ぎ。小雪は歯を食いしばって耐えようとするが、男の舌先が敏感な中心を往復すると、どうしても身体が痙攣してしまう。
「いや！　いやぁっ！」
　ついに叫んでしまった。
「せ‥‥先輩‥‥」
　彩香も悲痛な声で叫ぶ。
「み‥‥南さん‥‥み、見ないで‥‥」
　小雪は、それだけ言うと全身を硬直させた。
　男の舌が蜜壺に挿し込まれたのだ。
「う‥‥あう‥‥」
　小雪は反応してしまう身体が恨めしくてしょうがなかった。全身を電気のような刺激が駆けめぐり秘所を中心とした下半身が熱くなってくる。男の舌が動くたび荒い息とともに無意識に声が出てしまう。
　蜜壺から溢れた愛液が割れ目を伝いシーツを濡らしていた。
「そろそろか‥‥」
　男は立ち上がり服を脱ぎはじめた。
　一枚脱ぐたび、軽くたたんで床に置く。余裕たっぷりだ。
　男の身体は筋肉質で引き締まっている。
　これからどうなるか分かっていながら、まだ現実感が乏しいのはどうした訳だろう。あまり思考ができず、小雪はぼんやりと男の姿を眺めていた。
　しかし、最後の一枚が脱ぎ捨てられ、屹立したものが目に入ったとき初めて恐怖が走った。
（あんなに大きいものが‥‥）
　節くれ立った凶器がグロテスクに天を向いている。
　男がゆっくり近づいてくる。
　小雪は屹立から目が離せなかった。
　男は小雪に覆い被さり、屹立に手を添え蜜壺にあてがう。そして、位置を確かめるように秘所を先端でなぞると一気に挿入した。
「いたぁぁいっ！」
　まるで下半身が切り裂かれるような痛みと熱さ。
　叫んだ後、口がパクパクと開き声も出せない。
　やがて男の抽送がはじまる。
「やっ‥‥やめて‥‥あうっ‥‥あうっ‥‥た、たすけて‥‥」
　動きとともに痛みが襲う。
　快感とは無縁の痛み、そして取り返しのつかない喪失感、涙が止めどなく流れる。
「先輩‥‥先輩！」
　彩香も叫び続けている。裸で繋がれ、すぐ脇で小雪が犯されている姿を目の当たりにして、彩香はパニックに陥っていた。そして、目をそらすことも出来ずにいた。
「締まりがいいな‥‥そろそろ一発目だ‥‥」
　男はそう言うと動きを早める。
「あうっ！　いたい‥‥もう‥‥やめてぇ！」
　悲痛な叫びと、肉と愛液が発する淫猥な音が部屋中に響く。
「う‥‥うう」
　男が身を硬くしながら呻く。
「いやぁ〜っ！」
　身体の中に熱いものが流れ込む感覚に、たまらず声が出てしまう。
　男は腕を突っ張り、腰を押しつけるように深く挿すと身体を震わせた。そして、「ふぅ〜っ」とため息をつく。
　そのときになって喪失感に襲われた小雪の眼から涙が流れる。
　ゆっくりと引き抜かれると溢れ出た精液に血が混じっていた。
「なんだ初めてだったのか。それなら、もっとじっくり味わうんだったな」
「け‥‥けだもの‥‥」
　涙が止まらず、声が震える。
「そっちのおねえちゃんも処女かな？」
　そう言われた彩香は慌てて首を振る。
「先輩はお前のために処女を捨てたんだ。もっとも時間の問題だけだがな。こんどは、お前を可愛がる番だ」
「そんな‥‥約束が違う‥‥」
　小雪が口を挟む。
「おい、俺がいつ約束をした？　それとも、もう一度して欲しいのか？」
「お願い‥‥もう、堪忍して。私は何のために‥‥」
「ふん。まだ序の口だってことが分からないらしいな。続けては無理だから、こういうものも用意してあるんだぜ」
　男はベッドの下から箱を出し、その中から卑猥な道具を取り出した。
　乳白色のバイブレーター、形は男のものにそっくりだが色のせいか大きく見える。スイッチが入れられるとモーターの音とともに先端部分がくねりだした。
　小雪は恐怖で息を飲む。
「入れて欲しいか？」
　小雪は首を振ることしかできなかった。
「いろいろ仕入れてあるんだ。お前らのためにな」
　男はちいさなスプレーみたいなものを手にして彩香の方を向く。そして、その器具を鼻の穴に押し込んだ。何かの薬剤が噴霧されたらしく、彩香は咳き込む。
「何をするの！」
　小雪は心配になって叫ぶ。
「ちょっとリラックスしてもらわないとな」
　男が不気味な笑みを浮かべる。
　そして、箱の中から、こんどはローターを取り出しスライド式のスイッチを入れる。
「ブゥ〜ン」と振動する本体をぶら下げ彩香の乳首にあてる。
「いや！　やめて！」
　彩香がもがく。
　男は、その反応を楽しむように、もがいている彩香の乳首を追いかけローターをあてている。
　５分ほど、そうやっていたぶられていると疲れてしまったかのように、彩香はぐったりとしてしまった。心なしか目が潤んでいる。
　男が使った薬はＰＴ１４１と呼ばれる最新の催淫薬だった。アメリカの闇ルートをたどって苦労して手に入れたものだ。
「そろそろかな」
　男は薬の効果を確かめるようにローターで彩香の身体をなぞる。
「くっ‥‥うんっ‥‥」
　反応でどこが敏感な部位だかが分かってしまうほど彩香は悶えた。
　催淫薬を使われなくても、彩香はオモチャを見てから疼きを感じていた。オモチャで弄ばれる経験があったからだ。一年ほど前から婚約者が楽しみで使い出したのだ。はじめは抵抗があったものの、慣れると自分でも恥ずかしくなるほど乱れてしまうようになった。その記憶が彩香に妖しい感覚をもたらしていたのだ。
「感じてるのか？　硬くなってきたぜ」
　ローターが乳首の先端にあてられる。
「ち、ちがいます‥‥」
　否定する彩香の息は荒い。表情も官能的だ。
「いつまで我慢できるかな」
　男は違う種類のローターを取り出す。
「これは乳首用だってさ。付けてやるよ」
　平べったい本体がテープで先端に付けられる。両方ともだ。
「ほら」
「いやぁっ！」
　スイッチが入れられると彩香の身体がビクンと跳ね上がった。
「で、こんどはこっちだ」
　さっきのローターが秘所に押しあてられる。
「や‥‥やぁん‥‥」
　ついに甘い声が漏れてしまう。
　そして、男は彩香に添い寝して耳元でささやく。
「ずいぶん感じやすいみたいじゃないか。いいんだぜ、我慢しなくても」
　耳たぶを舐められるように言われるとゾクゾクと官能が全身に走る。
「ああ‥‥ああん‥‥」
　ローターを見たときから嫌な予感はあった。最初、婚約者に使われたときも、半ば自由を奪われたかたちだったのだ。条件反射のように彩香はそれを思い出してしまい、打ち消そうと必死になるほど自分の中の疼きを意識しないではいられなかった。繋がれて逃げられないという感覚、そして薬の効果と相まって彩香は隠微な欲望を押さえきれなくなった。全身に痺れにも似た快感が走る。
「これはどうかな？」
　男はローターを持った右手を微妙に動かす。
　クリトリスの周りがなぞられ、愛液が溢れる熱い感覚に彩香は陶然となる。
「あん‥‥あん‥‥」
　もう、陵辱されていることを忘れてしまったかのように彩香は悶える。更なる刺激を求めて無意識に腰が蠢いていた。
「み‥‥みなみさん‥‥」
　小雪は呆気にとられて彩香の痴態を眺めるしかなかった。
「どうだい？　こっちのねえちゃんは悦んでるみたいだぜ」
　それに気が付いた男は小雪の方を見てニヤリと笑う。
「う、うそよ‥‥」
　小雪には信じられなかった。そして、自分が彩香のためと思ってしたことを思うと悔しくて仕方なかった。
「ふふふ、勃ってきたぜ。よく見てろよ」
　男は彩香の上になると一気に挿し貫いた。
「ああっ！」
　彩香はいっそう悶える。
「ほら、あっちのねえちゃんに女の悦び方をよく見せてやるんだ」
　男はそう言いながら抽送をはじめる。
「ああっ‥‥ああんっ‥‥」
　男が動くたびに喘ぎが漏れ、発達したバストが揺れる。
「すげぇ濡れ方だ。感度がいいらしいな。こうしてやるよ」
　激しい抽送を繰り返しながら、男はローターをクリトリスにあてがう。
「い、いやぁっ！　そ、そんなにしたら‥‥あうっ！」
　彩香はエビ反るように硬直する。
「先輩に見られて感じるなんて、スケベな女だぜ」
「先輩‥‥ゆ、ゆるして‥‥また‥‥ああっ‥‥」
　彩香は小雪の方を見てオルガスムスを迎えながら許しを請うた。
　小雪と目が合う。
　そのとき大きな波が襲ってきて彩香はひときわ高い声で喘いだ。
　それは、誰の耳にも明らかな悦びの叫びだった。
　感じている姿を小雪に見られていることが大きな刺激だった。繋がれて抵抗できないシチュエーションも彩香にとって特別な感情を呼び起こすファクターだった。
「だめ‥‥ま、また‥‥く‥‥きちゃう‥‥ああっ！‥‥ああんっ‥‥」
　彩香は我を忘れて官能の渦に巻き込まれていった。
　禍々しく律動する男の下で彩香の身体は硬直と弛緩を繰り返す。
　男は乳首に付けたローターを外して感触を楽しむように乳房を揉む。そして乳首を強く吸った。
「ああんっ」
　達したときに行われた責めだけに彩香の悶えようは激しいものだった。
　目の前で繰り広げられる痴態を小雪は言葉も出せず見ているだけしかできなかった。彩香が嫌がっていないことが信じられなかった。なぜ、あんなことで彩香があれだけ悶えてしまうのか、さっきの自分と比べて嫉妬にも似た感情が湧き上がってくるのだ。
「うおぉっ！」
　男が咆哮する。
「ああ〜んっ！」
　それに応えるように彩香は高らかに喘いだ。