第一章　別れの手紙

　かおり２３才。同じ会社の事務員で当時は僕と社内不倫の関係であった。
　魅力的で綺麗な顔立ちの純粋な女性である。仕事は庶務課で主に接客受付をしている。
　一見もの静かなその顔の美しさは言うまでもなく、また制服のタイトスカートからのびる脚は、男の視線を釘付けにする程綺麗であり、しかもどこかエロチズムを感じさせるものがあった。

　しかし、彼女には性格的な欠点もあった。
　幼い頃、両親は離婚し母親一人に育てられた事もあって父親に対する願望からファザーコンプレックスがあったようだ。
　同年の男には目もくれず、もっぱら妻子ある年上の男性に憧れを感じていた。
　以前、同会社の妻子ある男性と不倫をしていた事があったが、今度もまた好きになる人は僕の様な妻子ある男性だった。

　ある日、会社の飲み会で同席したのがきっかけとなり不倫の関係が始まった。
　それとなく、彼女のほうから誘ってきたように記憶している。
　そんな関係を続けて半年がたったある日、彼女から突然「別れよう」と、メールがきた。

　会社では、お互いの連絡方法は社内メールを利用していた。
　僕は彼女からの突然のメールで、何故なのか、お互いうまくいっていたはずなのに、暫くは仕事も手につかなかった。不倫関係、許されない関係であることは判るが、ほんとうの訳が知りたかった。もうすぐ僕の誕生日。プレゼントにはネクタイ。
　クリスマスイヴには逢おう・また旅行にも行こうね、とお互いに約束していたそんな矢先の事で、何故なのか理解できなかった。

　納得のいかない僕は、彼女へその理由を聞きたく返信メールを入れた。
「何かあったの、話してほしい」と末尾に付け加えた。
　暫くして返信メールが届いた。
「手紙を書きます。明日秀樹のパソコンの下に隠して置いておくから」と送信してきた。
　その夜僕はいろいろな事を考えいた。自分に否があったのか、それとも好きな人ができたのか、誰かに２人の関係がばれたのかなど・・・・。
　翌日、手紙がパソコン下に置いてあった。それは次のような内容だった。

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　先週末、いつものホテルで秀樹と逢って別れたあとの事だった。
　わたしは車を駐車場に止めて家へ帰ろうとしていた時、ある男から声をかけられた。
「ちょとあなたに話があるんですけど」
　夜も遅いし怖かったので断って帰ろうとすると
「彼（秀樹）とはどういう関係ですか。私は彼の奥さんに頼まれてきたんですけど」
　その言葉を聞いて、愕然としました。どうも私達つけられていたみたい。　　
「夫に彼女がいるみたいなので調べてほしい。もしいるのなら会って話しがしたい。夫に騙されてつき合っているのかそれとも本気なのか。もし本気でつき合っているのであれば訴えますと言っています。もしあなたが訴えられれば当然親にもばれますし損害賠償でお金を支払わなければならなくなりますよ。あなたどうしますか？」
　わたしは、恐怖と脱力感のなか暫く考えたすえ、別れるしかないと思った。
「彼とは別れます。だからそういう女性はいなかった事にしてもらえませんか？」
　とお願いした。するとその男は
「私も自分の立場がありますし、嘘の報告をしてそれがばれたとき私の信用がなくなるんですよね・・・。」
　しばらくの間、沈黙があったが
「それでは、次の条件を呑んでくれるなら、この事はなかったことにしてもいいですよ」
　と言ってきた。
　かおりは仕方なく「条件をいってください」とその男に聞いた。
　男はその条件を話し始めた。
　1 彼とは絶対に別れること
　2 この事は絶対に彼に話さない事
　　もし彼が奥さんに話すようなことがあれば僕の信用にかかわる事なので
　3 口止め料を支払う事
　4 僕と一度ホテルにつき合ってもらう事　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
「この条件を呑んでくれるなら、この事はなかった事にしてもいいですよ。どうしますか？」
　と条件を出してきました。

　1と2の条件は受けました。（但し、この手紙を書いた事で2は破っています）
　3の条件は、お互い駆け引きがあったが結局４万円支払いました。

　そして最後の4の条件は、どうしてもいやで、このまま連れて行かれたらどうしようと思い、涙目で
「どうしてもいかないと駄目ですか」
　するとその男は暫く考えて
「・・・・今回は許しましょう。いいです」
　と言ってきた。しかし、わたしがお金を取りに家に帰り、駐車場へ再び戻ってくるあいだに考えが変わったらしく
「さっきホテル行かなくていいと言いましたが、やっぱり行ってもらいます」
　と言ってきた。
　わたしは、腹が立ったので
「さっき、行かなくていいと言ったじゃない。行ってほしかったら最初からそういえばいい事を、いまさら」
　と声はふるえていたが、開き直って反発した。するとその男は引いたかのように諦めて
「わかりました、あなとの事ほんとうに信用していいんですね。彼とは別れてくれるんですね」
　と念を押してきた。
　わたしは　「別れます」と一言いってその場は終わりました。

　とても怖い思いをしました。
　出来るなら秀樹に「助けに来て！」って言いたかった。

　以上が、「別れよう」と言った理由です。
　先週の土日、涙が止めどなくあふれました。
　こんな事になるなんて、思ってもなかった。
　秀樹と別れるって決心したけど、会社ではこれからも会うし、はっきりいって自信がありません。
　でも、もうあきらめるしかないんだよね・…。

　この手紙を書いていると、今までのいろいろな思い出が頭に浮かんできました。
　遊びに行った事とか、誕生日プレゼントに指輪をもらった事とか。
　あ、指輪は秀樹との思い出に大切にとっておきます。
　あと、一緒に旅行にも行ったよね。
　つき合ってちょうど半年、短かったけど、すごく楽しかった。
　この思い出は私の心に大切にしまっておきます。

　それと、大切なこと忘れてたれど、もう秀樹の誕生日、祝ってあげれないんだ。ネクタイもプレゼント出来ない。
　楽しみにしてたよね？ごめんね。
　クリスマスも逢えないし、もう旅行にも行けない。すごく残念です。

　今、思えば頻繁に逢いすぎた（１週間に１回とか）のかも。
　それで奥さんに気がつかれたかな。１カ月に１回にしておけばよかったね。
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