６.エッチュード

　夕方６時近くまで楽しんでレッスンを行ない、今日だけは特別に夜もレッスンだった。これは、レッスンと言うより、適性検査のようなものだった。
　茉莉には詳細を告げていなかった・・・と言うより、あえて教えなかったのだ。

「ふぅ〜〜ぅ・・・わたし、何やってんだろう・・・？朝から夕方まで相手を変えて・・・ 今日は、自分じゃないみたい・・・でも、本当の自分なのかも知れない・・・」
　茉莉は、独り言をブツブツ言いながら、夜のレッスン室に向かった。
「クラブ、休んじゃって・・・また、お金が足りなくなっちゃうわ〜」
　指定された場所までやってきて、茉莉は足を止めた。
「ここって・・・舞台じゃない〜」
　ひとりの年配の男性が茉莉に歩み寄ってきた。
「君が・・・茉莉さんだね？」
　茉莉は、その人間が誰であるか、すぐに分かった。
「あの〜主宰ですよね？早乙女 茉莉です」
「うむ・・・今日は済まないねぇ〜バイトを休ませてしまって・・・この時間のギャラは、 わたしが払ってあげるから、安心してレッスンに集中してください」
「いえ、そんな、結構です〜」
「今日の結果如何では、毎日、夜のレッスンに来てもらうかも知れないよ・・・そうしたら、ちゃんと、面倒はみるから安心してくださいね」
「あ、はぃ・・・それで、わたしは何をすればいいのでしょう？」

　主宰は舞台の緞帳を上げるスイッチをＯＮにした。
　重い音を立てて、ゆっくりと緞帳が上がっていく。
「桜の木・・・？本物だわ〜」
「そう、この脚本を読んでみたまえ」
「桜の化身・・・ですか・・・」
「そのマーキングしてある箇所を読んでください」

『その女が何故、桜の化身と称されるのか・・・？それは、その女の肌の色が、透き通るような淡い桜色をしていたからだ・・・。
　婚礼の夜、生娘だったその女は、愛する男に抱かれることを夢に見ていた。
　そして、今宵、宴が終われば、夢にまで見た男との交わりが得られるのだった。
　自分の指で男を想像して慰める夜は、毎夜のように続き、一日も早く、愛しい男にその身を貫かれる快感を想像していた。
　ところが、宴席を立って寝所に向かう途中、何者かに襲われ連れ去られたのだ。
　丘の上の大きな桜の木に縛り付けられ、陵辱され殺されたのだった。
　桜色の肌は真っ赤に染まり、その血は桜の木の根元に注がれた。

　次の年の春・・・その桜の木は、例年より多くの美しい花を咲かせた。
　哀しいぐらいに美しい桜の花が散った時、根元に積もった花びらの中から、ひとりの少女が現れたのだった。
　肌は透き通るように美しい桜色をして、妖しげな色香を漂わせていた。
　その女は毎夜のように、そこを通る男と交わり、精を全て吸い取ってしまう。
　しかし、不思議なことに、そこで息絶えた男たちの死に顔は、皆、一様に、幸せな笑みを浮かべていたと言う。

　いつからか、誰が言ったのか、その女を・・・桜の化身と言うようになったのだ』

「ありがとう・・・それが、今度、劇団の記念講演として予定している作品です。今、君に読んでもらった内容が、その主人公である女の概要です。どう思いますか？この女性を・・・？」
「交わる男が何故、幸せそうに笑っていたのか・・・？ それは、この女性が、彼らに地獄と天国を一度に味あわせたからでしょう・・・きっと、交わって絶頂を迎えた時、彼女の肌の色は、淡い桜色から次第に、血のように真っ赤に染まっていったのじゃないでしょうか・・・？」
　主宰は、眼を凝らして茉莉の顔を見た。
「そうか・・・それじゃあ、早速、舞台の上で、演じて見せてくれるかな〜先ずは、婚礼を迎えるまでの彼女を・・・毎夜、愛しい男に抱かれ甘美な交わりを夢にまでみながら、 己の指で慰めて指折り婚礼の夜を心待ちにする彼女。
　次は、婚礼の宴の後、無法者たちに拉致され桜の木に縛られ、弄ばれ、殺され、・・・しかし、やがて桜の花びらと共に化身となって姿を現す彼女。
　最後に、次から次へと男たちと交わり、殺していく彼女。
　これらの女性を、アドリブで構わないから、君が感じた桜の化身を演じてくれ」
「はい・・・」
　茉莉は、何かに魅せられたような瞳をして、静かに舞台に向かった。

　上手から茉莉が夢遊病者のように頼り気無い足取りで舞台に現れる。
　ピンスポだけが茉莉を浮かび上がらせていた。
『あぁ〜、あと幾夜、ひとり淋しくあなたを求めこの火照る身体を持て余し、自分で慰め鎮めるひとり寝の夜を過ごせばよいのか・・・』
　茉莉は自らの手で火照る身体を弄り、淫らな肉の疼きを抑えようと身をかがめ、どうにも堪えきれなく天を仰いだ。
　突き上げた腕を静かに下ろしながら、衣服を引き裂くようにして脱ぎ捨てた。
『あなたの愛をこの身体で受け止め、その印の肉棒を溢れる蜜のこの泉に沈めよう』
　茉莉は両手で乳房を持ち上げ、その手に恰も肉棒があるように慈しみ、自分の股間を開き淫らな蜜で濡れた泉の淵にあてがわんと手と指を押し付けた。
『あぁ〜ぁぁあああああ〜〜〜愛しいひと・・・あなたの熱い塊が、わたしを貫くの〜』
　茉莉は片手で乳房を掴んで揉みながら、中指を淫壷に深く挿入して襞を掻き続けた。
『あぅ、あぅ、あぁっ・・・あぁ〜〜ぁあああぁぁ〜〜〜っ、いいわ〜あなた〜〜』
　観客席に向けて開いた淫らなワレメから蜜が飛沫となって飛び散った。

「よ〜し！続けて、桜の木のシーン・・・始めて〜！」
　舞台は暗転となり茉莉の姿は一旦消える。

　舞台中央の桜の木に茉莉が縛られている姿が照明に照らし出される。
　白無垢一枚、前の袷は乱され、乳房と下腹部から太股までが露わになっている。
『ヤメテ！誰なの？あなたち！どうして・・・こんな真似を〜』
　木の裏から覆面をした全裸姿の男が現れ、身動きの出来ない茉莉の乳房を揉み、天を指すように硬直した肉棒を両脚を広げて立っている茉莉に下から挿入した。
『うぅぅっ、っぐぅわっ・・・あっひぃ〜ぃ・・・あぅ、あぅ、あぅぅぅ・・・』
　大きな瞳から涙が溢れた茉莉は、口唇を噛みしめて淫辱に耐えた。
　あっという間に、一人目の男が果て、続けて別の男が同様に突きはじめた。
　両手で茉莉の尻を抱え込むようにして、繰り返し下から突き上げた。
『うっ、あっ・・・ぁぁああああ〜〜っ、あぁ〜ぁ、はぁ〜ぁ・・・っぁふぅ〜〜』
　意思とは裏腹に自分の肉が感じるのを、茉莉は止めることが出来なかった。
　三人目の男は茉莉を木から解き、逆に、木の幹に両手で抱きつかせて押さえつけ、白無垢を頭の上まで捲り上げ、桜色の美しい尻に肉棒を押し込み犯した。
『ぅううっっぁあああああああ〜〜〜っ、ぅっ、はぁ〜〜ぁ・・・ぁぁああああ〜』
　さらに淫らな乱れ自ら尻を振る茉莉の姿は、女の性の哀れさが滲み出ていた。
　桜の花びらの上に男が仰向けになり、その上から茉莉が跨って肉棒をワレメに沈め、前かがみになった茉莉の妖しい口には、別の男の肉棒が押し込められ、さらに、後ろからは尻の肉を掴んで両側に開かれ、その淫蕾に肉棒が差し込まれた。
『うっうっうぅぅうううううう〜〜〜〜〜っ』
　茉莉の美しい肢体は獣のように乱れ、その肌はより桜色の鮮やかさを映していた。
　やがて三人の男たちはほとんど同時に茉莉の中に勢いよく果てた。
　男たちが去った後には、口唇の端から粘りのある白濁の液が流れ出て、締まった太股の内側には、淫壷と淫蕾から出てきた液が滴っていた。
　男たちに無理矢理犯された茉莉は、快感の余韻に浸るように虚ろな瞳をしていた。
　やがて、我にかえった茉莉は、愚かな自分の性を呪い、舌を噛み切って死んだ。

「さぁ〜次は、ラストですよ〜頑張って、いきましょう〜」
　桜の花びらがスポットの光りにキラキラと鮮やかに舞って、舞台に降り注がれている。
　舞台の中央には、人の形を成して花びらが積もっていた。
　桜色の隙間からは女性の柔肌が見え隠れして、幻想的な雰囲気が漂っていた。

　積もった花びらの中央から全裸の茉莉が現れた。
『愛しいひと・・・わたしの、愛しいひとは・・・どこに・・・』
　美しかった顔は般若のような形相となり、桜の木の幹にしがみつき、下腹部を押し付けて上下しながら悶えていた。
『あぁ〜ぁ、もっとぉ〜・・・愛しいひとの肉の塊が、欲しい〜〜』
　やがて旅人らしき男が現れ、茉莉に手繰り寄せられるようにして桜の木まで来る。
　操り人形のようにヨロヨロと桜の木に縛り付けられた。
　茉莉は男の帯を解くと、股間にダラリと下がった肉棒を握り扱き始めた。
『わたしの・・・わたしの、愛しいひとの肉だ！フッハハハハ〜〜〜美味しそうだ』
　茉莉は玉袋から肉棒まで舐め回し、大きくなった肉棒に頬をあてウットリした。
『さぁ〜あなたの熱い肉の塊を、わたしのここに入れてちょうだい〜』
　茉莉は太股を開いて桜色に光るワレメを男に開いて見せ迫っていった。
『ねぇ、すぐに気持ちよくしてあげるわ〜わたしの想いをいっぱい感じてぇ〜』
　そう言いながら、茉莉は片脚を高く上げて男の肉棒を導き入れた。
　身体を激しく上下させて狂ったように髪を振り乱し、大声をあげて絶頂に達した。
『あなたは、まだなのね〜いいわ、わたしが舌で舐めて吸い取ってあげる〜』
　男は萎えては勃起させられ、繰り返し茉莉の口で精を抜き取られていった。
『あらぁ〜もう、終わりなの〜つまらないわ〜あなたは偽者ね！』
　男は骸骨のように骨と皮だけになり、木の根元に屍を晒した。
『あぁ〜ぁ、早く、わたしの愛しいひと、来ないかしら〜ホホホホホ・・・』
　茉莉は桜の花びらのように舞い、美しい肢体は桜色に染まり、
　いつまでも笑い声が響いていた・・・。

　パチパチパチ・・・・・・
「いやぁ〜ごくろうさま、短いシチュエーションしか読んでいないのに・・・まるで、君自身が桜の化身のような気がしたよ〜」
「もしかしたら・・・そうなのかも知れませんよ、主宰・・・」
　ぞぉ〜とするような妖しい微笑を浮かべて、茉莉の身体は桜色に火照っていた・・・。

−完−