五

　妻の清子からの遅くなるという電話をもウワの空で聞き流し、夕食もとらずに大助は書斎にこもっていた。もう、何がなんだか分からなかった。コンピュータの装置の奥に潜む邪悪な怨霊に大助の精神は完全に魅入られていた。指が、これから先、どう滑っていくのか大助自身には見当もつかないでいた。
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『――――三人の男たちに抱えられるようにして車から引きずり降ろされた時と、陰気に湿った十畳ほどの古畳の部屋へ連れ込まれた時、それに小男が男たちの前で、冴子の白いブラウスの間にひどく不遠慮にその毛むくじゃらの短い手を持ってきた時、冴子はありったけの力でこの理不尽な暴力から逃れようと空しい抵抗を繰り返した。
　しかし、男たちはまるで無頓着に、映画のセットの準備でもするように事務的に冴子を室内に運びこんだ。立ちすくむ冴子を、車を運転していた若い男が背後から羽交い締めにして細い首をとらえ、強引に抱きかかえた。みどりと名乗った女が手にしている小型のビデオカメラが、面白そうに冴子の表情を追っていく。
「はなして！」
　細首に手をまわしたまま、男の右手が背後から胸に伸び、力づくで冴子のブラウスを剥いだ。バラバラと小さな金属の釦が千切れて飛び、布の裂ける音がした。同じ手荒な動作で破れたブラウスの下のブラジャーを探り、いきなりその中央部の紐を手前に手繰った。　だめ！と冴子は絶望的な声をあげた。背をのけ反るように逸らし、両手で宙を掃いた。胸が大きくはだけて白い肌が露わになり、その瞬間、豊かで形のいい両の乳房がちらりとこぼれた。
「かまわん、そのまま、下も剥がしちゃえ」
　誰かがいった。冴子は力の限り身をよじった。
「縛る、縛る、縛っちまうんだ」
　三人の男達に力づくで左右から両手を手繰られ、瞬間、ひどくあっけなく冴子は気を失った。たちまち冴子は、後ろ手に縛りあげられた。

　気がつくと、ほとんど全裸であった。荒縄がびっしりと冴子の全身を締め付けていた。動きのとれない体が、湿っぽい古蒲団の上に無動作に転がされている。
「さてと。いよいよ、拝見させて戴くとするか」　
　男たちは冴子の両肢をしっかりと押さえ、力づくで大きく左右に引き伸ばしていった。
「やめて、お願い――！」
　屈辱感のあまり、冴子は心臓が凍りつくのではないかと思った。
　くしゃくしゃになったパンテイストッキングだけが、片方の足首にぼろ切れのようにまとわりついている。二人の男に絡み取られて、左右にたぐられていく両足を、必死になって閉じようとするのだが、もう全身は汚辱感にしびれきって力さえ入らない。
　ズルズルと、底知れぬ沼に引き込まれていくような絶望感に再び気を失いそうであった。頭の芯がボウっとと霞みはじめている。
　伸びのある冴子の両肢を、男たちは、力づくで両方から手繰り合って、蒼白い股間をあられもないほど大きくこじ開いた。そして、きゃしゃな両の足首に躊躇なく、縄をかけた。
　細長いしなやかな青竹が布団の裾に通されている。布団から左右にはみ出したその竹の先端には予め縄を固定する鎖のような金具がとりつけられていた。男たちは冴子の左右の足首の縄尻をとると、しっかりとその金具に結びつけた。
「よっしゃ、開いた。このくらい開けたら十分やろ」
　冴子の両肢は、無残にも大の字に大きく左右に割かれて、薄絹のパンティーの下の、その付け根の膨らみが、裸の蛍光燈の光の下に無残に晒された。
「まあ、エッチ！　ちょっとはみでてるじゃない、ヘアー」
　みどりがくすくすと笑った。
「いい景色やないか」
「布が透き通っていて、パンツの中身がまる見え」
　聞くに耐えないような卑猥な会話が、冴子の頭上でボソボソと交わされている。
「鋏だ、ハサミ！」
　誰かがいった。みどりがボストンバッグをま探って冷たい金属の刃物をとりだした。
「ああ、やめて！――ね、ね、お願い！」
　しかし、小男は無言のまま、みどりから鋏をひったくるように奪いとると、構わず、冴子の肌とパンティの間にそろそろと鋏の先端をこじ入れた。
　いっぱいに鋏を開いて、みどりを見た。
「よろしいな、ほな、このズロース、剥ぎとりまっせ」
　男たちは唾を呑んだ。
　無雑作に鋏を開き、ザクリと、ゴム紐ごとナイロンの布地を引き裂いた。ゴムの弾力でパンテイの布地がひどくあっさりと弾いて割れ、大きく左右に翻った。
「わっ、こりゃあたまらん！」
　小男の藤島が、鋏を片手にしたまま短い両手を叩いてはしゃいだ。
「エッチな股ぐら」
　さらに、仕立て職人のように器用に鋏をさばいて、冴子のパンティをズタズタに引き裂いていった。冴子をまとっていた最後の布ぎれは、あっというまに剥ぎとられた。
「わっ、見えた、オ×コ！」
　冴子は、それでもまだ哀願していた。豊かな髪が乱れ、美しい顔が歪んだ。恐怖と汗と涙で、化粧は完全に崩れてしまっている。それがかえって冴子を妖しく艶やかに見せた。のたうつ冴子の全身から、彼女の意思に反して健康な自然のままの女の野性がムンムンと発散されている。
「おお、ま、まるみえ！」
　大ちゃんがうなった。
「おれ、ど、どうにかなっちゃいそう！」
「み、見事な道具立てだ」
「ほんと。きれいなオ×ンコ！　さすが元女優の性器だけあるわ」
　みどりは女だてらに平気で卑猥な言葉を口にした。
「ついている場所も最高だ」
「――それに肌だってご覧、すべすべしてぞっとするくらいきれい。女の私だって、惚れぼれしちゃう。憎らしいくらい――」
　いいながらみどりは、指を立てて、冴子の頚筋から肩口、脇腹から下腹部をゆっくりとなぞっていった。
「いい線してる。――それにこのおいしそうな肉。しっかりと締まっていて、それでいてご覧、こんなに弾力がある。おや、こんなところに黒子！　色が白いから、ほれ、こんなに目立つわ」
　冴子の左肢の内側の付け根付近に、小さな黒子を見つけて男たちに示した。
「でも、場所が悪いわ。割れ目ちゃんのすぐそばじゃない。エッチな黒子。こんなきわどいところにあったんじゃ、やるたびにこの黒子、濡れてるわ、きっと」
　男たちは、下卑た笑いを洩らした。
　冴子はぶるるっと全身を震わせた。しかし、もとより身動きはとれない。女盛りの太腿が、扇を開いたように大きく左右に割られたまま寝具に固定されて、むせかえるような官能味を匂わせている。ゆで卵の白味のような艶っぽい内股には、赤や青の細い血管が、見えるか見えないかのようにうっすらと滲みでて、ひどく悩ましく浮かびあがっている。両股の付根を、こんもりと覆い包んでいる柔らかそうな繁みは、やや膨れ上がって浮き立って見え、微かに震えていた、ひどく挑発的でエロチックな震えかたであった。
「さてと。見事に剥きだしてくれましたな。それじゃ、みどりちゃん、いよいよ解剖といきますか」
　男たちは、ウイスキーをちびりちびりやりながら、みどりを見て促した。
「まかして頂戴。女の泣き所は、女のあたしが一番良く知ってる」
　男たちに、ちょっと笑って見せ、みどりは冴子の腹部を軽くとんとんと叩いた。
「じゃあ奥さん、いいこと？　肉体テストにかからせていただきますわね」
　冴子は、大きく開帳縛りに繋がれた白い裸身を、切なげに悶えさせるばかりであった。　最後の覆いもむしりとられて、あられもなく引き裂かれた両肢が、時々痙攣するように激しく震えた。しっかりと目を閉じ、歯を噛みしめていた。唇が、うっすらと血で赤く染まっている。
「まあまあ、そんなに堅くならないで。解剖と言っても、殺すわけではないわ。毛の生え具合や、入り口の長さを計ったりするだけ。モチ、中の構造を調べたり、感度のテストもさせて戴く。――あなただって、いい思いができるのよ」
　冴子は　悲鳴をあげた。
「やだ、そんなに嬉しがることないじゃないの！」
　平然とみどりは笑った。
「美女をさらって、縛って吊し、下着はぎ取り裸にむいて――か」
　突然、カメラ担当の若い男がいった。車を運転していた大ちゃんである。
「何じゃ、それ」
　小男の藤島が聞いた。
「一句できたんです」
「えらい風流なこっちゃ」
「いいですか。――美女をさらって、縛って吊し、下着はぎ取り、ブラジャーちぎり、パンテイむしって、全裸にし、両足括って股こじあけて――」
「俳句じゃないぜ、それ」
「まあ、いいじゃないすか、せっかく人がいい気になってるのに」
「よっしゃ、ほな、黙って聞いていまっさ」
「ええっと、両足くくって股こじ開けて――まで、でしたな。――両足くくって、股こじあけて、陰毛かきわけ、サネ剥いて、指でつまんで、いじくって、オ×ンコなめて、舌押しこんで、汁をださせて、ずるずるにして、肛門開いて、ツバつけて、指を突っ込み、いたぶって、体よじらせ、汁溢れさせ、チ×ポコつっこみこねまわし、声をあげさせ、口吸わせ、ケツをかかえて、腰引き寄せて、うめかせ、わめかせ喜ばせ、もっともっととよがらせて、腰をゆすらせ、ケツはねあげさせて、イクイク、いくわ――とイカせたい」
　若い男は調子に乗って、冴子の周りをぐるぐるまわりながら、身振り手振りで卑猥な仕草を交えて、奇妙な踊りを踊った。時々、冴子の唇に自分の唇を重ねたり、乳房の先端や下腹部に触れてみたり、股間を指でまさぐったりした。
「やめて、ああ、やめて、やめて、やめて！」
　ベッドに仰臥位に縛られた冴子は、全身をよじらせ体をくねらせた。しかし、頑丈に縛られた体は、僅かにうねって震えるけである。すでに、涙も声もかれていた。低い絶望の悲鳴を洩らし、汗と涙でくしゃくしゃになった顔を、ただ狂ったように、頚と一緒に左右に動かしているだけであった。
「大ちゃん、変な踊りは止めて。――なにをやってんのよ、時間のムダでしょ。あんただって、早くみたいんでしよう、奥さんの中――。さあ、こちらへいらっしゃい。テストテスト、肉体テストの始まりよ」
　それから、男たちを見て、
「さあ、皆さん、これからこのお上品な奥さんの解剖を始めます。美人の中がどういう構造になっているか、しっかり拝見してやってください」　　　　　　
　男たちは、一瞬、静かになり互いに顔を合わせて息をのんだ。
「ブスでも美人でも、しょせん、オメ×はオ×コや。たいした違いはあらしまへん」
　小男の藤島がしかめ面をしていった。誰かが笑った。
「しかし、美人のつけてる道具となると、なかなかそうはいきませんな。やっぱり普通のとはちょっと違った構造になっている気がする。とことん調べてみんと気が済みません」
　笹山が言った。
「いやいや、天は二物を与えずです。美人に限ってロクなものをつけていない。ブスのほうがかえってエエ道具をつけているモンです」
「いいか悪いかは、調べたらすぐに分かるわ。――ごらんなさいな、この奥さん、皆さんに検査をしてもらいたくて、さっきからウズウズしてるのよ。――この大胆な足の開きっぷりはどう？　自信満々、堂々としてるじゃない。自分のモノにそうとう自信をもってる証拠よ」
　冴子は、大きく左右に開かれた両肢を閉じようとして、必死に筋肉を突っ張らせた。もとより空しいあがきであった。
　男たちの卑しい目が、冴子の両肢の付け根に集まってきた。どの目も、まっすぐに女の最も恥ずかしい部分に注がれている。
「ああ。おねがい！」
　冴子は、狼狽した。激しく全身をゆすった。
「あかんあかん、いくらもがいても、股ぐらは開きっぱなしや。こうなっては、もう、あんたは俎の上の鯉。我々で好きなように料理させてもらいまっさ。ジタバタせんと、観念してもらうことです。まあ、なにもかも、みどりちゃんにまかせておくしかありまへんな」
　男たちが悪鬼に見えた。冴子はブルッと全身を痙攣させると、肢体をくねらして、無念の歯軋りを噛んだ。再びボロボロと大粒の涙が溢れてきた。