十三

　書斎は静まりかえっていた。
　大助の目はつり上がっている。　
　キーボードの上で踊っていた大助の指がふと止まった。座卓の上の目覚まし時計をみると、深夜の二時を廻っていた。キーボード脇に置いてある灰皿は吸殻の山を作っていてそこら中を灰だらけにしていた。傍らのウイスキーグラスはとっくに空になっていた。
　酔いは完全に醒めていたが、体中が燃えたぎっていた。深夜だというのに、時々屋外を走る車のクラクションの音が聞こえてくる。しかし、音といえば大助の吐く息の音と微かに唸るコンピュータの機械音だけである。
　息子の賢一は昨日から社命で東南アジアとかへ出張している。この家には、今妻と二人だけだ。妻の清子は階下の八畳の寝室で一人で寝ているはずだ。大助はそっと書斎を出、キッチンで生ぬるい水を飲んだ。が、執筆の余勢で火照った神経や肉体のいきりは一向に衰えない。寝室の襖を静かに二十センチばかり開いた。妻の心地よさそうな軽い鼾が聞こえる。寝室に入り、妻の寝顔を暫く眺めていた。無防備そのものの安らかな眠りを妻はしていた。布団の裾に周り、そっと掛け布団をめくる。妻はうーんと軽い伸びをし布団の中の両肢を伸ばした。ネグリジェは窮屈だと嫌がって大抵の場合妻は浴衣の寝間着で寝ている。今夜も浴衣姿であった。女盛りはやや過ぎてはいるが、むっとするような両肢が大胆に大助の前に伸びていた。大助は浴衣の裾をおそるおそる広げていった。
「いや」
　と妻はうつつに呟いた。呟いてまたうーんと軽い伸びをした。かまわず大助は浴衣を広げていった。
「やめて！」
　今度はうつつではなかった。はっきりと妻は覚醒していた。
「何をするの、今頃。ばか」
　頭を起こし、大助の胸を両腕で反対方向に押した。
「いいじゃないか」
「いやよ」
「清子」
　妻の名を呼びそのまま抱きつこうとした。 　
「だめ！」
　ぴしゃりといって白い目で夫を睨み、
「何時だと思ってらっしゃるの。私、明日、仕事よ。大事な会議があるの」
「賢一はいないんだ。ね、いいじゃないか」
「だめったら、だめ」
「清子」
「寝なきゃいけないの私。起こさないで」
　枕に頭を乗せた。
「明日の会議でひょっとしたら昇進できるかもしれないのよ。そんな会議に寝ボケまなこの顔見せられると思う？　ね、分かって頂戴。いい子だから聞き分けて。あなたは仕事でしょ。仕事仕事。二階でいい仕事してらっしゃい」
　そういって頭から布団を被ってしまった。足首が僅かに布団からはみ出ている。しかし一向に気にする風はない。軽い寝息さえ聞こえ始めた。こうなると最早手の施しようはなかった。力づくでということもあるが、所詮、大助は髪結いの亭主である。大事な会議があるといわれるとすごすごと引き下がるしかなかった。
　ウイスキーグラスにウイスキーを満たしチーズを持って未練たらたら階段を上がっていった。
「くそ、くそ、くそ」
　小さく呟きながら座卓の前に座ってコンピュータのディスプレイを眺めた。
「知らんぞ。知らん、もう知らん。くそったれ。見てろ！」
　ぶつぶついいながら鬱憤をキーボードの上にぶつけるように激しく指を走らせていった。
　　　　　――――――
――――――
『――――小男は冴子のすぐ眼前でグロテスクな生き物をゆすった。
「奥さんどや、まだ、これ、試食する気になりまへんか？」　
　すぐ鼻の先に巨大な生身の男性器そのものの気配がする。しっかりと閉ざした冴子の目の底に、そのいきりたった小男の生身が焼きついていた。脳裏の底でストロボが乱射されるようにチカチカとその小男の巨大な生身が消えたり現われてたりするのを意識しながら、冴子は大ちゃんに蹂躪されている尻を小刻みに揺すっていた。
　体中に不気味な虫が這いまわっているようなおぞましさと、しかし神経をズタズタに引き裂かずにはおかないような絶望的な快感のうねりを感じていた。必死に閉じた唇の間から、糸を引くような切なげなうめきが切れ切れに洩れている。
　不意に小男は、ひどく無雑作に短い手でヒョイと冴子の形のいい鼻をつまんだ。息が詰まって、反射的に唇を開いた。と、ヌッと、そこへ小男の巨根が割って入った。不快な異臭が鼻をついた。冴子はイヤイヤをした。舌先に小男の亀頭がぬるりと触れた。
「サ×を――、大ちゃんそのまま×ネをぬぶるんや！　ねぶるだけやで、ねぶるだけ！　――吸うたらあかん、吸うたら。――吸うたら、この奥さん、このまま、また気をヤリよる」
　冴子は、ぶるっと全身を振るわせた。
　ああ、ほんと、気をやりそう、私！
　冴子は夢中で尻をせり出していた。
「どや、奥さん、ええか？　エエ気持ちか？」
　冴子は薄く目を開いた。あっと思った。すぐ前の自分の唇の間に小男のいきりたった巨大な亀頭があった。
　同じ瞬間、陰核部の先端に大ちゃんの生暖かい唇がずるりと触れるのを感じた。痛烈な刺激であった。
「あ、あ――」
　冴子は二度ばかり激しく細い首を振った。髪の毛がささっと宙を掃いた。
「どや、エエか？」　　　　　　　
　冴子は屈服した。
「ああ――」
　悲しげに呻き、
「――」
　うつろな目を上げ、せわしなげに細いうなじを上下させ同意する仕草をした。
「ホナ、舐めるか、これ？」
　小男が自分の男根を両手で抱えて、再び冴子の眼前で揺すった。
　冴子は目を開いた。目の下の自分の唇の間に、小男の巨根があった。
「舐めるな？」
　冴子は、また、首をせわしく二度上下させた。はっきりとした同意の意思表示であった。
「よっしゃ大ちゃん、今や、今！　あんたのチ×ポコ、後ろからオ×コに突っ込む！」
　ずずずと大ちゃんが入ってきた。冴子は、おおお、と激しく声を出した。
　うううう――。
　呻きながら、すざまじいばかりの快感美を冴子は全身に感じた。冴子はいったん唇をすぼめ、息を呑み、それから飢えた獣が餌にありついたように敏捷にしなやかな細首を踊らせ、巧みに巨大な小男の生身をくわえた。同じ瞬間、大ちゃんが背後で激しく、腰を揺すった。ぶるっと冴子は震え、我知らず、前後に尻を応呼させていた。
　――しかし、ゆっくりと、思った。――もっとゆっくり。――ゆっくり愛して！
　冴子は訴えるように小男を見た。祈るような目であった。大きく首をしゃくり、唇をすぼめた。
「ちゃう、ちゃう！　くわえるんやない。最初は舐めるのや、舐める！」
　再び呻き、冴子は唇の間の巨根を離した。背後を、激しく大ちゃんに蹂躪されるにまかせて、冴子は舌の先端をチラリと覗かせ、自分の上唇をノロノロと舐めた。甘美な餌にありついて歓喜に戦く獣のような浅ましい舌の動きであった。娼婦ように妖艶に細い項がくねった。
　大ちゃんがまた、背後で腰をゆすった。狂ったような激しい全身運動であった。
　ああ、だめ！　冴子は全身を揉んだ。
　ゆっくり――と思った。もっとゆっくり！
　何かを祈るように下から小男を見上げた。美しい額に、苦しげな小皺が出来ている。必死に何かに耐え忍ぼうとしているような目が、頼りなげに宙の一点で空しく行き来した。呪文を唱えるような意味不明な言葉が、食いしばった冴子の歯と歯の間から洩れている。
「さ、奥さん、舐めてみ」
　小男がまた巨根を突きだした。宙で小男と目が合った。と、まるで催眠術にかかったように、冴子はちょっと顎を突き出し、舌の先端をちらりと覗かせると、もう一度上唇を軽く舐めた。それからゆっくりと舌を尖らせ、目の下の小男の生身にそっと舌を這わせた。小男の先端がピクピクと震えた。神秘な儀式を行なうような唇の動きであった。
　背後で大ちゃんが狂ったように激しく腰を揺すっている。ブルルと冴子の豊かな臀部が都度悩ましく震えた。腰の揺れるにまかせたまま、冴子は、唇と唇の間に、小男の先端をそっと挟んだ。相変わらず、背後では大ちゃんが激しい抽送を続けている。ひどくせっかちな動きであった。
　ゆっくり、よ、ゆっくり。――ねえ、ね、もっとゆっくり！
「あああ、ふ、藤島さん、あかんわ、あかん、イキそう、も、もう出る！」
　全身を揉みながら、背後で大ちゃんがうめいた。
「慌てない、慌てない。ねえ、奥さん」
　小男が、不気味な顔を歪めて苦笑いした。
「ど、ど、どうなってるんやここ！　太いけど細い。中、広くて細い。わっ、底、深い、ものすご深い。けど、浅い、つかえる、さ、先がつかえる」
　大ちゃんが狂ったように叫んだ。目が吊上がっている。
「とっととと、だけど、入る、入る、そ、底なしや、ど、どうなってるんや、このオマ×コ」
　冴子は顔を火照らし、大ちゃんの動きに合わせるように白い両尻をくねらしていた。内部の触れて欲しい肉襞のすべての部分を、大ちゃんの逞しい生身が程よく出たり入ったりして圧迫する。
　いい。――お尻からって、こんなにいいの！？
　エビのように身をよじらせた。背中に堅く結えられた白い陶磁色の両手を、ピーンと宙にのけ反らせた。
　その拍子に丸い尻が沈み、大ちゃんのそれが底に達した。めくるめく刺激であった。堪りかねて、目前の小男の先端を、両唇でしっかりと支えた。手を添えるにも、両手は背後でぎっしりと縛られている。そうするしかなかった。唇にずっしりとした重力が伝わってきた。獲物をくわえた獣のように首をゆすって、もう一度浅くそれをくわえ直した。そうでもしなければ身が持たないような気がした。それほどの快感が全身を走った。
「とっとっとっと、と。――どうやら、その気になってきたようですな」
　小男はいかにも満足そうであった。
「大ちゃん、後ろで狂ってますわな。――もうちょっと、奥さんそのケツ浮かしてやってくれませんか。そうそう、ぐるっと回して揺するんですわ。そう、上手い、そう、上、上、下、下、丸書いてチョンと。そう、そう、なかなかやおませんか、奥さん」
　小男の巨根を口腔にしっかりと挟んだまま、催眠術にかかったように、冴子はゆっくりと、そして執拗にその豊満な尻をくねらしていた。腰と尻とがそれぞれ微妙に違った動きを見せて、ひどく淫らであった。
「た、堪らんわ、で、出る出る、も、もう出そうや！」
　駄目！　まだよ、まだ。
　短く喘ぎ、背後に尻を突きだしたまま冴子は、つと、唇の間の小男の先端を放した。ブルンと生身は震え、つーと、一筋、糸を垂らした。冴子はまたうめき、ちょっと自分の上唇を舐め、舌先を可愛いく尖らせて、今度は鎌首の下側の付け根付近に唇を這わせ上部になぞらせていった。
　と、まるでそれは怪奇な生き物のように、ぶるるっと大きく跳ね、冴子の鼻の頭を軽く擦って二度程醜く震え、さらに高く、冴子の目よりも高く、その不気味な巨体を宙に屹立させた。歓喜に戦いている。
「わっ、驚いたなこれは。びっくりしてるぜこいつ！　そんな可愛い舌でくすぐられたの始めてや。見てみ奥さん、コイツ、涙を出して喜んでいる」
　小男は、巨大な生身を短い両手で抱え、尻を引いた。そうしないと巨根が冴子の唇に届かないからであった。
「そ、そ、そう、トンがらせるんや、舌、舌！　そこ、そこ。！　う、うまい、うまいもんや。下から上へ、下から上へ。うううっと、ち、違う違う、そ、そやそや。今度は反対から、そやそや。下から上に、下から上に。上手やないか、う、う、うまいうまい、さ、さ、今度はくわえる！」
　言いながら巨大なそれを、今度は冴子の小さな唇の間に割り込ませようとした。
　だめ――と思った。巨き過ぎる。ダメ！　ああ、だめよ。
　実際、怒りたぎった肉柱を、その付け根まで、その小さな口腔に含ませるには、小男のそれはあまりにも巨大過ぎた。冴子はううっとうめき、目を閉じた。顎を突っ張り、背の両手を空しく宙に泳がせた。
　亀頭の周囲が見るからにグロテスクに膨れあがり、ちいさなブツブツが一面に浮きたってテカテカ光っている。小男は、両腕の中のたぎった巨根を、誇らしげに上下に軽く揺すった。先端からえヌルリと一筋、また不気味な透明の糸が垂れしたたった。