１．

「お義姉さんって素敵なひと‥‥」
　ガラス越しに手を振り去っていった美樹を見ながら、ため息を漏らすように奈緒がつぶやいた。
「ちぇっ」
「えっ？」
「俺は奈緒ちゃんの方が、ずっと素敵だって思うけどなぁ‥‥」
「ええっ？　そ、それって‥‥」
　奈緒の顔が真っ赤になった。

　場所は駅前のパティスリィに併設されたカフェ。良雄と奈緒がデートしているところへ、美樹がやってきたのだ。
「あら、良雄さん」
　後ろから声をかけられ、良雄はびっくりしたように振り向く。
　突然、出現した美人に奈緒の表情がちょっと曇る。
「ね、義姉さん‥‥」
　良雄が言うと、
「えっ、おねえさん、って‥‥？」
　奈緒は不思議そうな顔をする。
「あっ、ごめん。紹介するよ。兄貴の嫁さんの美樹さん。で‥‥、こっちはバイト先で一緒の望月奈緒さん」
　あわてたように、良雄は二人を紹介する。
「ごめんなさいね。ケーキを買いにきたら良雄さんが見えたもんだから‥‥なんか、邪魔しちゃったみたい。おわびにおごっちゃうわ。じゃね」
　美樹は伝票をつかむとレジへ行き、店員に何か言うと、自分の買い物と一緒に勘定を済ませ行ってしまった。一連の動作が、あまりにも自然だったし、その颯爽とした雰囲気に、二人は、ただ眺めているだけしかできないでいた。
　帰り際、にっこり笑って二人に手を振る美樹。初夏の日差しに逆光で浮かぶ姿は人妻とは思えないほど華やかで、同性の奈緒でさえ「素敵‥‥」とつぶやいてしまうのも無理はなかった。
　１９才になったばかりの奈緒にとって、美樹は「手の届かない大人の女」という印象だった。

「おれ‥‥けっこうマジなんだけど‥‥」
　ますます、奈緒の顔が赤くなりうつむいてしまう。
「だめかなぁ‥‥？　それとも彼氏とかいるの？」
　良雄の拗ねたような顔をチラッと見る奈緒。
「ううん」
　奈緒が首を振る。
「だ、だって、私たち、まだ知り合ったばかりだし‥‥それに‥‥」
「それに？」
「まだ、良雄さんのこと、そんなに知らないし‥‥」
「だめなの？」
　奈緒は、また、うつむいたまま黙っている。
「ごめん。いきなり、こんなこと言われても困っちゃうよな。でもさ、おれ、奈緒ちゃんといると、すっごく楽しくってさ。つきあえないかなぁって‥‥困らすつもりはなかったんだよ。ごめん。じゃ、おれ、帰るわ‥‥」
　良雄は、それだけ言うと立ち上がり出口へ向かう。
　追いかけてくる足音。
（やりい！）
　良雄は心の中でピースサインを出した。

　実は、デートの最中に美樹がやってきたのは偶然ではなかったのだ。
　目的は奈緒の品定め。美樹のお眼鏡にかなえば店の外から手を振ると言う約束だった。
　良雄のインモラルで刺激的な初体験から一ヶ月あまり。あれから二度ほどカメラマンを務めた。そして、その都度兄の忠雄は、良雄が生け贄になる女を連れてくるよう、強く迫った。もちろん、良雄にも４Pに対する好奇心はあった。ところが、美樹は、自分の気に入った娘じゃないと嫌だと言い出したのだ。その理由を、兄弟で美樹を責めながら聞くと、どうやら美樹にはレズビアンの欲望があるらしいことが分かった。自分がされていることを、他の女性にもしてみたいと言うのだ。
　良雄と忠雄は、俄然、張り切った。そして、良雄が目をつけたのは、バイト先でかいがいしく働く奈緒だったのだ。
　ファミリーレストランのキッチンで二人は出会った。バイト先では奈緒の方が少し先輩。聞けば、学部は違うけど同じ大学に通う同学年だった。小顔を強調するようなショートヘアー、ぱっちりとした瞳、色白でほんの少しほほに浮いたソバカス、細くてしなやかそうな肢体は手塚治虫の漫画に出てくるキャラクターを連想させる。それも、ボーイッシュな女の子の方だ。
　派手な美人ではないが、額に汗をうかべながらひたむきに働くスッピンの横顔は美しかった。
　美樹とは、まったくタイプの異なる魅力を持った女の子だ。その魅力を良雄は自分で発見したという意識が強い。美樹を大輪のバラに例えるなら、奈緒はひっそりと咲く百合のようだと良雄は思っている。
　その奈緒を、美樹が認めてくれた。これで、兄夫婦が全力で良雄をバックアップしてくれはずだ。

「待って。良雄さん」
　奈緒の声に、ちょっと泣き声が混ざっている。
「ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。男の人から、あんなふうに言われたの初めてだったから‥‥」
「じゃあ、つきあってくれるの？」
　良雄は努めて明るく言う。
「あのね。わたし女子校だったから、いままで男の人と会ったりお話ししたりすることってなかったの。だから‥‥どうしていいか分からなくて‥‥」
　色白の奈緒の頬が真っ赤に染まっている。
「ちょっとさ、こんなところじゃマズいから、歩きながら話しようよ」
　パティスリィの客や店員がふたりを見ている。その視線に気がついた奈緒はますます赤くなる。
「ほら」
　良雄は奈緒の手を握って、引っ張るように店を出た。その指は細くしなやかで、しっとりと吸い付くような感触だった。
　良雄はズンズン歩いて近くにあった公園のベンチに腰掛ける。
　つられて奈緒も座ってしまう。
「ふふふ」
　突然、奈緒が笑い出した。
「どしたの？」
「なんだか、可笑しくなっちゃった。だって、お菓子屋さんにいた人たちのこと考えたら‥‥」
「だよね」
　良雄も笑った。
　そのとき携帯の着信音が鳴る。これ以上ないグッドタイミングだ。良雄は心の中でほくそ笑みながら折りたたみの携帯を開いた。
「義姉さんからメールでさ。奈緒ちゃんと一緒に晩ご飯食べに来ないかだって。たぶん、さっきのこと気にしてんだよ。きっと」
「ええっ？」
「ほら、邪魔しちゃったんじゃないかとかさ。それに、俺が超ビンボーなの知ってるから、気を利かしてくれたんじゃないかな。奈緒ちゃん、このあと時間あるんだったら行かない？」
「いいのかしら？」
「大丈夫だって。俺、金なくなると、けっこうご馳走になりに行ってんだよ。気にすることないよ」
「う〜ん、どうしようかなあ‥‥」
「行こうよ。俺、奈緒ちゃんと一緒にいたいしさ。こっから近いし、それに、兄貴のところだったら安心だし」
　良雄は、奈緒と一緒にいたいというところを強調する。
「でも、悪いわ‥‥」
「だったら、奈緒ちゃんはメシ作るの手伝って、俺は後片付けの手伝いすればいいじゃん。実を言うと、俺も二人っきりでデートすんの慣れてないから不安だしさ」
　奈緒が遠慮しているだけと踏んだ良雄は押しまくる。
「そうね‥‥お手伝いするならいいわ」
「オッケー、じゃ、義姉さんにメール送るよ。今から行くって」
　すでに、初夏の日差しが傾きかけている。
「じゃ、行こっ」
　メールを打ち終わった良雄は、立ち上がって手を差しのべる。奈緒はおずおずと、その手を握った。

「奈緒ちゃ〜ん、けっこう飲めるじゃ〜ん。俺より強いかも」
「うん、高校のときからお父さんの相手してたから」
　忠雄と美樹、良雄と奈緒の話は意外なところで盛り上がった。奈緒も高校時代、長距離の選手をしていたというのだ。夢はトライアスロンに挑戦することだと言う。陸上部のOBとして顔の広い忠雄は、知り合いの有名選手やコーチの話をして、奈緒の歓心を買った。
　食事が終わっても話は終わらず酒の席となった。用意してあったワインが三本とも空いてしまい、忠雄がフォアローゼスのブラックラベルの栓を抜く。
「あっ、それ、お父さんが大好きなお酒だ」
「へぇ〜、奈緒ちゃんのお父さんもこいつが好きなんだ」
　忠男も「奈緒ちゃん」と呼ぶくらい皆は打ち解けてしまった。
「ひゃ〜、俺‥‥もう‥‥飲めないよ〜」
「なんだ。なさけないな。まっ、これは良雄にはもったいないからいいか」
　忠雄は上機嫌だ。
「あら、あなた。もう、こんな時間よ」
　気が付くと１２時を回っている。
「良雄さんは、こんなに酔ってるし、この辺も夜は物騒だから、奈緒ちゃん今夜はここに泊まっていきなさい」
　そう言う美樹も、かなり酔っぱらっているようだ。それでも、へべれけになっている兄弟を仕切るお姉さん役を演じている。
「で、でも‥‥」
　奈緒は迷っている。いや、遠慮している。ひとり暮らしの部屋へ帰るより、ここにいたほうが数倍楽しい。家族の団欒に飢えていた奈緒。それに、なぜか美樹のことが気になる、というより、まだ一緒にいたいのだ。
「明日、朝早いの？」
「いえ、土曜日ですから‥‥バイトは午後からだし‥‥」
「だったら、なおさら泊まっていきなさい。こんな夜中に女の子ひとりで帰すわけにいかないわ」
　美樹は、そう言うと奈緒の耳元に口を寄せてささやく。
「着るものだったら心配しなくてもいいのよ。私の新しいのを使っていいから」
　美樹は、奈緒の耳へ息を吹きかけるように言う。
　奈緒は、一瞬、ビクッとして顔を赤らめた。美樹が、わざと軽く唇で耳に触れたのだ。
「おいおい、何、女同士で仲良くやってんだよ。奈緒ちゃん、泊まってきな。合宿みたいで楽しいぞ〜」
　忠雄が上体を揺らしながら言う。
「だめだめ、あなたは、もう寝たほうがいいわよ」
　微笑みながら言う美樹に、奈緒は特別な感情を覚えはじめた。憧れの「おねえさん」とでもいうのだろうか。耳元で囁かれたら心臓がドキドキしてしまったのだ。
（やっぱり、思った通りだわ）
　美樹は、ほくそ笑んだ。
（この娘は、きっと女同士の経験があるに違いないわ）
　実は、美樹には高校の時に同級生と同性愛の経験があった。セックスの快感は、そのときに覚えたのだ。忠雄にも話していない秘密だが、その経験から来る勘で、奈緒にその傾向があると睨んだのだ。
「男どもはダウンしちゃったみたいだから、ざっと片づけてシャワー浴びましょう。うちのお風呂、ちょっと使い方が面倒だから、一緒に入っちゃおうか。時間も時間だし」
　もう、時間が遅いことを強調して、ちょっと目には分かりにくいドイツ製の水周りを口実に、美樹は奈緒と一緒に風呂に入ることを承諾させてしまった。
　なんだか、成り行きで泊まることになり、おまけに美樹と風呂に入ることになってしまったが、遠慮する暇もないほどテキパキと仕切っていく美樹に抵抗を感じることもなかったし、むしろ、心地よいものを感じてしまう奈緒だった。
「ショーツは新品だから安心してね。ブラは寝るときにはいらないでしょ。それとＴシャツ、下はジャージでいいわよね。さ、こっちよ」
　美樹は、奈緒を脱衣場に案内した。
「あら、奈緒ちゃんのオッパイって意外と大きいのね。私のブラジャーで大丈夫かしら？　あっ、そうだ。スポーツブラがあったから、それで我慢してくれる？」
「そ、そんなに気を使ってもらわなくても‥‥私なら大丈夫ですから‥‥」
「だめよ。良雄さんの大切なガールフレンドなんだから。でも、ちょっぴり見直しちゃった。良雄君の目。奈緒ちゃんってきれい‥‥」
「ええっ‥‥そんな、恥ずかしい‥‥」
「ううん。とっても肌がきれいだし、それにスタイルだって‥‥」
　美樹の視線を感じる。身体のことを褒められて、奈緒の全身に朱が走った。

　奈緒はドキドキしていた。
　そう、あれは高校２年生のとき。先輩に部室へ呼ばれて可愛がられてしまったことを思い出したからだ。
　新しいユニフォームの試着を口実に全裸にさせられ、先輩にうしろから抱きしめられた。
「わたし、ずっと奈緒ちゃんのこと見ていたのよ。分かるでしょ？」
「せ‥‥先輩‥‥や‥‥」
　首筋に熱い息を感じた途端、唇が押し付けられる。そして、先輩の柔らかい手が全身を這いまわる。
「奈緒ちゃん。かわいいわ。彼氏とかいるの？」
　耳たぶに息を吹きかけられるように囁かれ、奈緒は首を振って答えることしかできない。
「じゃあ、はじめて？」
「せ、先輩‥‥やめて‥‥やめてください‥‥」
「大丈夫よ。気持ちよくしてあげるから」
　先輩の手が股間に伸び、敏感な部分を触れるか触れないかの微妙さで愛撫されると、奈緒は夢の中にいるような気持ちになってしまった。
「ああ‥‥先輩‥‥いや‥‥あっ‥‥あんっ‥‥」
「ふふ‥‥奈緒ちゃん、おいしいわ‥‥」
「あっ！　そ、そんなとこ‥‥汚いから‥‥」
　いつの間にか開かれてしまった脚。先輩の舌が秘肉をとらえていた。
　こうして奈緒は先輩が卒業するまでの間、女同士の関係を続けていたのだ。
　美樹に自分の身体のことを褒められ、あのときの甘い記憶がよみがえった奈緒は、じわりと秘肉が潤ってくるのを感じていた。

「どしたの？　奈緒ちゃん」
「ごめんなさい。ちょっとぼんやりしちゃって‥‥」
「さ、早く入っちゃいましょ。ほら、この蛇口変わってるでしょ」
　美樹はバスルームへ入ると、変わった形をしたコックの使い方を説明しながら、ボディーソープを奈緒に渡す。
「でも、ほんと、奈緒ちゃんの肌って白くってきれいねぇ。うらやましいわ。外人みたい」
「あっ、おじいちゃんがロシア人だから、四分の一だけ向こうの血が入ってるんです」
「へぇ〜、そうなんだ。白くて肌理が細かくて、ほんとにきれい」
　少し灰色がかった淡く生えた綿毛のようなアンダーヘアーの下からスリットが透けて見えるほどだ。奈緒の日本人離れした体形の理由に納得しながら、美樹は、じっくりと奈緒の身体を観察した。
　その視線に、奈緒はますます赤くなる。
「ねえ、ちょっと触ってみてもいい？」
「えっ‥‥いいですけど‥‥」
「あっ、そうだ。ついでに洗ってあげるわ」
　美樹はスポンジにボディーソープをたっぷりとかけ、奈緒の背中を洗いはじめた。
「あっ、おねえさん‥‥」
「すっご〜い。奈緒ちゃんの肌、スベスベで柔らかくって気持ちいい〜」
　美樹は、わざと脇腹のあたりを撫で回すように洗う。
　奈緒の身体がピクッと反応する。
　すっかり美樹のペースにはめられてしまい、抵抗するどころか、すっかりなすがままになってしまう奈緒。そう、あのときも後ろから‥‥高校時代の先輩と美樹がダブって感じられ、秘肉がジンジンと熱くなってくる。
「お、おねえさん。もう‥‥自分でしますから‥‥」
「いいのよ。遠慮しなくっても」
　これなら抵抗しないだろうと踏んだ美樹は、スポンジを持った手を前にまわし、お腹をゆっくりと洗いはじめる。自然に空いた手が腰をホールドするような形で太ももの付け根に添えられる。
　奈緒は、その手が気になってしようがなかった。もう少しで秘肉という位置もそうだが、ボディーソープで滑るせいか微妙に指先に力が入れられているので、とても感じてしまうのだ。
「きゃあ〜、奈緒ちゃんのオッパイって素敵ねぇ」
　腰にある手に気を取られているうちに、スポンジは乳首を中心にバストのまわりを、円を描くように這っていた。そう、それは洗うというよりかは愛撫そのものだ。たちまち、奈緒の乳首は勃起してしまう。
「あっ‥‥やんっ‥‥」
　スポンジが乳首を通過したとき、奈緒は甘い声をあげてしまった。
　ビクンと身体が反応してしまう。
　このまま愛撫を続けようか美樹は迷った。もう少し段階を踏んで、奈緒を自分たちの仲間に入れたほうがいいのではないかと思ったからだ。でも、忠雄や良雄の知らないところで楽しむのも悪くない。それに、奈緒は思った以上に感じやすい体質のようだ。息を荒くして立ったまま次の愛撫を待っているみたいにも見える。試しに、指先で軽く乳首を撫でてみる。
「あんっ‥‥」
　喘ぎ声とともに、奈緒はお尻を突き出すようにして悶えた。その、奈緒の丸く張ったヒップが、美樹のヘアーに押し付けられた。その瞬間、美樹も感じてしまい、反射的に奈緒の身体を後ろから抱きしめていた。
「奈緒ちゃん、こうやって女同士でするの初めてじゃないでしょ？」
　美樹が耳元で囁く。
「わたしも、そうなの。だから、奈緒ちゃんを見てたら、かわいくなって‥‥」
「‥‥ああ‥‥お、おねえさん‥‥」
　奈緒の声は返事にならない。無理もない。美樹はスポンジを手放した右手を股間に差し込んできているし、左手はやさしくバストを愛撫しているのだから。おまけに、背中にぴったりと押し付けられた美樹のバストから体温が伝わってきて、もう立っているのがやっとの状態なのだ。
　美樹は、ここで一気にことを進める決心をして中指を蜜壺に差し入れる。
「あら、これは石鹸じゃないわよねぇ」
　美樹の指先が蜜壺の入り口をかき回し、あふれる愛液をからめとるように動かされる。
「ああんっ‥‥」
　ついに、奈緒は牝の声をあげてしまう。
「かわいいわ、奈緒ちゃん‥‥感じてるのね‥‥」
　そう言いながら、美樹は奈緒の耳たぶを軽く噛み、こんどは指先を細かく震わせるようにしてクリトリスを責める。
「ああっ‥‥やっ‥‥やんっ‥‥」
　女同士だからこそ可能な的確な愛撫に奈緒は喘ぐことしかできない。
「こんどはこっち‥‥」
　美樹は、くるりと奈緒の身体の向きを変え、官能でトロンと溶けたようになっている瞳を見つめながら言う。そして、小さな顔を両手で挟むようにして引き寄せて唇を合わせた。
　舌を差し入れると、奈緒は息を荒げながら応えてくる。
　固くなった乳首が、お互いに相手の乳房にこすれて刺激しあう。ボディーソープのぬめりが潤滑剤になって、二人の乳房が弾力を競い合うかのように揺れている。それが刺激になって美樹まで感じはじめた。
「奈緒ちゃんのオッパイ気持ちいいわ‥‥」
　美樹は自分の乳首を、わざと奈緒の乳首にこすりつけると、プルン、プルンと弾けるような感触がして、バスト全体が熱くなってくる。それは奈緒も同じらしい。
「あっ‥‥あんっ‥‥」
　美樹が身体を動かすたびに喘ぎながらヒクッ、ヒクッと身体を痙攣させている。
　秘肉を触ってみると、もう、そこは熱く洪水のようになっている。
　それを確認すると、美樹は我慢ができなくなった。しかし、狭いバスルームではやれることが限られている。
「奈緒ちゃん、ちょっと待っててね」
　美樹は自分の身体についた泡を急いで流し、バスローブを羽織って、リビングルームを覗く。案の定、忠雄はソファーの上で、良雄はシャギーカーペットの上でイビキをかいている。
「こっちにいらっしゃい。ふたりとも寝てるから大丈夫」
　美樹は、全裸の奈緒の手を取ってベッドルームへつれていった。そして、バスローブを脱いで、奈緒の濡れた身体を拭く。もう、奈緒は美樹のなすがままだ。
　ベッドルームの間接照明のせいで奈緒の身体がいっそう美しく見える。
　美樹は、ベッドに奈緒を腰掛けさせると、自分も隣に座り、ふたたび唇を合わせた。そして、人差し指と中指の付け根に奈緒の乳首を挟むようにしながら、その弾力を楽しむように乳房を揉みはじめる。
「うっ‥‥うっ‥‥」
　唇を塞がれているので声にはならない喘ぎをあげる奈緒。
　美樹は上体をかぶせるようにして、ゆっくりと奈緒をベッドに押し倒す。そして、唇を開いている乳首へと移動させた。
　軽く吸い、舌で転がし、ときにはやさしく噛む絶妙の愛撫に、奈緒はたまらず身体をよじりながら喘ぐ。
「お‥‥おねえさん‥‥あっ！　ああっ！」
　声のトーンが次第に上がっていき、両手で何かを求めるように美樹の背中をまさぐっている。
　美樹は、少し身体をずらして、バストを揉んでいた手を奈緒の股間へ移動させる。そして、中指と薬指を蜜壺の奥深くまで挿入させ、親指でクリトリスをとらえる。
「ああっ！」
　ついに、快楽の中心に攻め入られて、奈緒は腰を持ち上げながら、ひときわ高い声をあげて反応する。
「あっ‥‥お‥‥おねえ‥‥さん‥‥そ、そんなにしたら‥‥」
　美樹の容赦ない責めに、奈緒はガクガクと身体を痙攣させながら喘ぐ。
「も‥‥もう‥‥もう、だめ‥‥」
　奈緒の絶頂が近いことを知った美樹は指の動きを速く細かくする。
「だめっ‥‥いくっ‥‥いっちゃう！」
　奈緒は、腰をバウンドさせながら叫んだ。
　それでも美樹の責めは止まない。女同士の楽しみは残酷なくらい終わりがないのだ。いつの間にか、美樹の手には、あの乳白色のバイブレーターが握られていた。奈緒を愛撫しながら、ベッドサイドにある引き出しから取り出していたのだ。
　美樹が、そんなものを手にしていると知らない奈緒は、オルガスムスの余韻に浸って身体を痙攣させている。
「奈緒ちゃん。お楽しみは、これからよ」
　奈緒の耳元でそう囁くと、美樹はバイブレーターを蜜壺の入り口にあてがう。
「えっ‥‥な、なに‥‥やっ‥‥だめっ‥‥」
　冷たい異物感に、奈緒は何をされているのか分からず、怖さから抵抗の言葉を口にする。
　しかし、そんな言葉を意にも介さず、美樹はバイブレーターを根元まで挿入してしまう。
「ああっ‥‥いやっ‥‥こ、こわれちゃう‥‥」
　身体が裂けてしまうのではないかと思えるほどの異物感に、奈緒は悲鳴を上げる。これほど大きなものが蜜壺の中へ入ってきたのは初めての経験なのだ。痛みといえるほどの苦痛はないが、未体験の感覚に対する恐怖が強い。
「奈緒ちゃん。大丈夫よ。すぐに気持ちよくなるから‥‥」
　耳たぶに触れる唇の感触とともに、美樹がやさしく囁く。
　ピリピリと電気が走るような刺激が、耳から子宮へ響く。
　蜜壺の奥が熱くなり、奈緒は呻きながら背中を反らせる。
　その反応を見た美樹は、バイブレーターレーターのスイッチを入れた。
「う、うそっ！　なに‥‥やっ‥‥やんっ‥‥」
　まるで意思があるかのように動き出したバイブレーターレーターの刺激に、奈緒は抵抗の仕様がない快感に襲われ、何が何だか分からなくなってしまった。
「いやっ‥‥こ‥‥こんなのって‥‥き、きつい‥‥たすけて‥‥お、おねえさん‥‥おねがい‥‥」
　生まれて初めて蜜壺がいっぱいになった感覚。先輩との関係を続けていたとき互いに指を入れあったことはあり、内部でも十分感じるようになってはいたが、バイブレーターレーターの洗礼はあまりにも強烈だった。
「奈緒ちゃんって、男の人としたことないのね」
　妖しい微笑みを浮かべる美樹。初々しい身体を見て、もしかしたら処女ではないかと思っていたのだが、この激しい反応を見て、それが確信に変わった。
「かわいいわ、奈緒ちゃん。わたしが教えてあげる‥‥」
　美樹はバイブレーターに添えた手を微妙に動かしながら乳首を口にふくんだ。
「あっ！　くぅっ‥‥」
　乳首を中心に鳥肌が立つような快感がザワザワと胸いっぱいに拡がり、その感覚が蜜壺の奥まで響いていく。思わず腰を浮かせたらバイブレーターの位置が変わり、また奥の方が疼いてしまう。まるで快感のアリ地獄にはまってしまったようだ。
　奈緒の抜けるように白い肌がピンク色に染まっていくのが、ベッドルームの薄暗い照明でも分かる。
（そろそろ大丈夫かしら？）
　奈緒の反応を見ながら美樹はそう思った。自分の経験から、まだ激しい刺激を加えるのは早いと判断して、細かくバイブレーターを動かすだけだったのだが、バイブレーターを飲み込みながら無意識に腰をうごめかせている様子を見て、美樹は次のステップに取り掛かることにした。
　ブゥ〜ン
　美樹がスイッチを操作すると、枝分かれした子機が音を立てて振動する。その先端は小さく二股になっていてクリトリスに効率良く刺激を与えられるようになっている。
　美樹は上半身を起こすと、奈緒の膝を立たせて脚を広げ、その間に移動した。
　スリットが丸見えになるくらい淡く生えたヘアーの下に、乳白色のバイブレーターが突き刺さっている眺めは、女の美樹にとってもエロティックで刺激的だった。まるで自分のことのように感情移入できるせいもある。荒い息をするたびに大きく上下する下腹が、ときおりキュッとへこむのは官能の波のせいだろう。
　そんな奈緒の姿を見て、美樹が妖しく微笑む。美人だけに凄絶な感じがする。
　細かく振動する子機の先端が奈緒のクリトリスにあてられた。
「ああっ！　いやっ‥‥ああっ‥‥」
　奈緒が身をよじりながら悶える。
　熱を帯びて膨れ上がっているように感じていた一番敏感な部分に、思いも寄らなかった責めが加えられ、全身が溶けていくみたいな錯覚に陥ってしまったのだ。
「ああっ‥‥おねえさん‥‥もう‥‥どうにかなっちゃう‥‥こ、こわい‥‥」
　焦点の定まらない目を天井へ向け、全身をブルブルと震わせながら、奈緒は最後の瞬間を迎えようとしていた。
「あっ‥‥ああっ！」
　大きな波が襲って来る予感に、奈緒はシーツを握りしめる。
　その瞬間、美樹はバイブレーターを引き抜いた。
「あっ、ああんっ！」
　身体が裏返ってしまうのではないかと思うくらいの刺激に悲鳴が上がる。
　そして、次の瞬間には、またバイブレーターが根元まで挿入される。
「だめぇっ！　いやぁ〜っ！」
　奈緒が絶叫する。
　美樹は容赦ない抽送をはじめた。蜜壺の上側の壁をこするようにしながら、奥まで突く。どこを、どうしたら一番感じるのかを知り尽くした美樹の責めに、奈緒はひとたまりもなく悶えるだけの存在になってしまった。
「いやっ‥‥も、もう‥‥だめぇ‥‥こわれちゃうぅ‥‥ああっ！」
　ビクン、ビクンと身体を痙攣させながら、奈緒は絶頂を迎えた。
　美樹は、余韻に浸る奈緒の身体を抱きしめキスをする。
　下から奈緒の手が背中へまわり、抱き返してきて熱いキスに応える。
　豊かなバスト同士が密着して、美しいオブジェのように二人の身体が重なりあう。
　美樹が恥骨のふくらみを、奈緒の同じ部分にこすりつけた。
　奈緒の手が、美樹のヒップの割れ目を彷徨う。
　ヒクンと痙攣した美樹。その弾みで唇が離れ、思わず喘いでしまう。
「ああ‥‥奈緒ちゃん‥‥」
　すると、奈緒は思いも寄らぬ力で体勢を入れ替え、美樹の上になる。そして、美樹の乳首に唇をあてながら右手を秘肉へと伸ばしてきた。
「おねえさん。こんどは、わたしが‥‥」
　上目遣いに美樹の顔を見ながら奈緒が言った。
　そして、しなやかな指先がクリトリスのまわりを這う。
「うれしいわ‥‥奈緒ちゃん‥‥上手よ‥‥」
　久しぶりの女同士の楽しみ。奈緒のしなやかな指先に撫でられ美樹は陶然となる。奈緒は美樹を悦ばそうと必死だ。それが、たまらなくうれしい。
　やがて、奈緒の舌が美樹のクリトリスをとらえ、指が蜜壺へと挿入される。
「いい‥‥いいわ‥‥」
　美樹は大きく脚を広げ、奈緒を迎え入れる。
　たどたどしいけど、やさしく気持ちのこもった愛撫は、忠雄や良雄には期待できないものだ。それだけに、美樹は奈緒のことを愛おしく感じてしまう。
　クチュッ、クチュッ
　あふれてきた蜜を、すくい取るように舐める奈緒。隠微な音がベッドルームに響く。
　暖かく静かな快感とでもいうのだろうか。ひたひたと満ち潮のように押し寄せてくる官能に、美樹は身をゆだねた。
「き‥‥気持ちいい‥‥」
　気が付くと、美樹は自分の胸を揉みしだきながら悶えていた。
　美樹が悦んでいることを知り、奈緒の指の動きが速くなる。
「あっ‥‥ああっ‥‥いくっ‥‥いくわっ！」
　美樹は腰を浮かせて、身体を硬直させた。
　そして、四肢を投げ出すようにして余韻に浸った。
「奈緒ちゃん‥‥上手よ‥‥とっても素敵だった‥‥」
　まだ、荒い息をしながら、美樹は微笑み、奈緒に手を差し伸べる。
　奈緒は、はにかんだような表情を浮かべて、その手を握ると、甘えるように美樹に抱きついた。
「おねえさん‥‥好き‥‥」
　奈緒は美樹にすがりつきながら言う。
「奈緒ちゃん‥‥わたしも奈緒ちゃんのこと大好きよ‥‥これからも、こうして奈緒ちゃんのことを可愛がりたい‥‥でもね‥‥」
「でも‥‥？」
「ちょっと、良雄さんに悪いことしちゃったって思って‥‥あなた、良雄さんのこと嫌い？」
　奈緒は黙って首を振る。
「そう‥‥良雄さんって、とってもいい子よ。あなたのこと大好きみたいだし。だから、良雄さんとつきあってあげなさい。そうしたら、こうやって、ときどき二人で楽しめるでしょ。いいわね？」
「は‥‥はい‥‥お、おねえさま‥‥」
「あら、おねえさまになっちゃったの？　ちょっと変な気分」
「だ、だって‥‥」
「なに？」
「あんなにされたの初めてだったし‥‥」
「良かった？」
　奈緒はコクンと頷くと、顔を真っ赤にした。
「そう。それじゃあ、もっと気持ちのいいこと、いっぱい教えてあげる。わたしの言うこと聞ける？」
　ふたたび頷く奈緒。
「いい子ね。じゃあ、今夜はもう寝ましょ。男どもに見られるとまずいから、ちゃんと服を着てね」
　こうして、二人はベッドで抱きあいながら眠ったのだ。

　翌朝、早起きした美樹は朝食の準備をはじめていた。
　すると、目を真っ赤にした良雄が背後に忍び寄る。
「義姉さん‥‥ひどいよ‥‥」
　いきなり声をかけられ、美樹はびっくりした。
「あら、良雄さん。もう起きたの？」
「ちがうよ。ずっと義姉さんと奈緒ちゃんがしてるの聞いてたんだ‥‥おかげで、全然寝られなかった‥‥」
「あ、盗み聞きしてたんだ。興奮した？　来れば良かったのに」
　美樹はクスクス笑いながら、からかうように言う。
「そんなこと、できるわけないじゃないか。ずるいよ。奈緒ちゃんはおれの‥‥」
「奈緒ちゃんはみんなのものよ。わたしは、ちょっと味見をしただけ。そうでしょ？」
「あんな味見ありかよ〜」
「あ〜っ、良雄さん、妬いてんだ。かわいい」
　美樹は、拗ねている良雄を、ほんとうにかわいらしいと感じた。同時に、ちょっと、かわいそうかなとも思った。
「ちぇっ‥‥」
「ごめんね、良雄さん。おわびに、こんど二人っきりで楽しみましょうか。忠雄さんには秘密よ」
　実際、女同士の楽しみだけではインモラルな悦びを知ってしまった身体には、ちょっと物足りなさがあった。まだ、美樹の身体の奥底には燻りが残っているのだ。
「えっ、ほ、ほんと？」
　良雄と美樹は、何回か身体を交えている。しかし、それは忠雄の監視の下でのことだった。だから、良雄は美樹を自由にしたことがない。いつか、思う存分、美樹の身体を苛みたいと思っていた良雄にとって、この提案は機嫌を直すのに十分だった。
「ほんとよ。良雄さんの好きにしてあげる。そのかわり、絶対、忠雄さんには内緒だからね」
　艶然と微笑む美樹。
「やったぁ〜！　ねえ、いつ？」
「あわてないの。もうすぐ奈緒ちゃんも起きてくるし、あとでゆっくり相談しましょ。それに、奈緒ちゃんのことも考えないとね」
「どういうこと？」
「まだ、奈緒ちゃんは処女なのよ。良雄さんが初めての男性になれるよう考えてあげる。そしたら、みんなで楽しめるでしょ」
「ひぇ〜っ、そうなったら最高だね！　義姉さん、お願い！」
　良雄は、美樹に向かって手を合わせる真似をした。
「もうっ、調子だけはいいんだから」
　美樹が笑っているところへ、奈緒が入ってきた。
　淡いブルーのカットソーに、細かい花柄のシフォンスカートというフェミニンな服装だ。
「おはようございます」
「ひぇ〜、奈緒ちゃん、すっごくかわいい！　どしたの、それ？」
　機嫌が直った良雄から、いつもの軽口が飛び出す。普段、ジーンズ姿しかしない奈緒が、いきなり女っぽくなったので、正直、驚いてもいた。
「おねえさまが用意してくれたんだけど‥‥」
　思わず「おねえさま」と言ってしまったことに気付き、奈緒は顔を赤くしてうつむく。
「やっぱり思った通りね。とっても似合ってるわよ。素材がいいんだから、もっとおしゃれしなくっちゃ」
「そうだよ。奈緒ちゃん。マジきれい。おれ、なんだかドキドキしちゃう」
　奈緒が、いつもより女らしく見えるのは服装のせいだけじゃないだろうと分かっていても、それは口に出せない。
「ほら、朝からそんなこと言ってると、奈緒ちゃんが困ってるじゃない。良雄さんはテーブルで朝食ができるの待ってて。奈緒ちゃんは、こっちにきて手伝ってちょうだい」
　奈緒はホッとして、美樹の傍らへ駆け寄る。
　そして、これから身に起きること、美樹と良雄が何を考えているかも知らずに、楽しそうに手伝いをはじめた。