−１−

　特別な事はなにもなく平穏な日々が続いている。
　一戸建ての住居に、子供が二人、平穏な結婚生活は１０年を迎えている。
　そんな平和な生活に嵐がやってくる切っ掛けは、ほんの些細なことだった。
　家のローンを後１０年も残しているというのに、景気の流れで会社の業績悪化は仁志の給料をも下げている。
　妻の利恵にしても、子供も手が掛からなくなってきているし…、とパートに出ることに意義をとなえる理由など、どこにもなかった。
　あれこれ探して、やっと見つけた妻のパート先は表通りの小さな酒屋。
　店の主人に着いて配達と集金を手伝っている。
　そんな話はよくある事で、別段、嵐など吹こうはずもないのだが…。
　パート先の酒屋は、表通りの商店街の集まりで企画する年に一度の慰安会に参加しているようで、利恵もパートながらそれに出席した。
　一泊二日の慰安旅行など、仁志の勤める会社でも恒例の社員旅行のようなもの。
　楽しげに出掛けた利恵も、いつもと変わらぬそぶりで帰ってきていたが、旅行後はどういう訳か残業が増えているようである。
　だからといって監視している分けでもないが、このところ妻の下着はカラフルになっていることが、気になってならない。
　夜のお努めも妻がいい反応をみせることに文句はなく気にもしていなかったが、このところ激しい反応を魅せるようになったのはどうしてなのだろう。
　そんな疑いを持っていた矢先、仁志の元に一本の電話があった。
　利恵の勤める商店街の「商工会の者」と名のる山本という男からの電話は、仁志の勤める仕事場に直接かかってきた。
　内容は、有志での飲み会の誘い、是非とも参加して欲しいというのである。
　特別、断る理由もない仁志が承諾すると、妻には連絡がついているという。
（パート先の店の主人から連絡がいってるってことか？）
　と仁志は、なんとなく納得してしまう。
　約束の時間に間に合うよう、仁志は就業時間を迎えると挨拶もそこそこに社を後にして、教えられた会場に向かった。
　プライベートな会合というわりには２０人を越す男女が集まっており、その旅館は貸し切られているようで他には客の姿はないようだ。
　それぞれの紹介を受けたが、仁志は一度に覚えきれるものでもなく、女性達の姓は知らされなかった。
　全ての男女は綺麗にペアになっている、はぐれ者は一人もいないが年格好からは、どうも夫婦同伴ではないようで、仁志にも若い女性がついていた。
　女性達の年齢は、どう見ても一回り若いのである。
　知り合いは一人もいないなか、仁志には寂しい酒会は進んでいたが、酒が進んで賑やかさが増してきたころ、会を仕切っている幹事役の山本が立ち上がる。
「みなさん…、そろそろ本日のメインイベントを始めましょう」
　仁志にも目線を合わせながら声を張り上げる。
「じゃ、女性陣は準備願います」
　山本が一礼すると、女性達が席を外していく。
「…なんなんだ」
　不安の募る気持ちを抑えきれずに横に着いていた弘子という女に問いかける。
「うふふ…、ちょっと待ってて」
　仁志を見下ろした女は意味ありげな笑顔を返すばかりで、女達に混ざって部屋を後にする。

「よぉ、待ってました」
　しばらく白けていた会場が、３名の女性達が舞台に登場すると急に盛上がる。
　３人は、いかにも借物という衣装のネグリジェ姿で登場すると、思わせぶりなムードの音楽とともに素人なダンスを始めている。
「おいおい、まだなのか」
　幹事の山本に向かって声をかけたのは、貴賓席にドカッと座った大柄の男。
　それが合図だったかのように照明が落とされると、舞台はピンクのライトに照らされて艶かしいく妖しい雰囲気が漂ってくると音楽もスローになった。
　舞台の女達は、あっさり衣装を脱ぎ捨てるとトップレスになって、あられもなく胸の膨らみを揺らしながら尻を下ろして座ると、それぞれに大股開きで小さなパンティの底を見せ付けて、細い手を這わせ始めるのである。
（オナニーショーか？）
　おののき慌てる仁志は、見知らぬ女たちであることに安堵しながらも大きな不安を感じずにはいられない。
　のっそりと近づいてきた幹事の山本に仁志はたまらず問いかける。
「どういうことです、これは」
「アハハハハ」
　酔った山本は、不安を募らせる仁志にまともに応えようともしない。
「あのっ、彼女達はどういう…」
「まあまあ、落着いてくださいよ。……」
　と酔いにまぎれた山本の話によると、商店街に勤めるパート主婦達を対象にした性奴隷調教の品評会だ、と凝りもなくいうのである。
「それじゃ、酒屋も…」
「どうですかねぇ〜、何らかの成果を発表してもらえるでしょうが、今日は当たってたかなぁ？」
「…」
「あまり期待なさらんと…、楽しんでくださいよ」
　山本は、仁志の妻がパートに出でいることなど知らぬげに気楽にいいすてる。
　舞台では、脱ぎ捨てられたネグリジェの薄布に混ざって小さなパンティが散らばっている。
　どこから用意されたのか大きな張形を股間に咥え込ませた３人の女が、先を争うようにして自ら抽送し花園を歪ませている。
「おおっ、いいぞ、一番のりには賞金だっ」
　３人の女が、それぞれに盛り上がりを魅せると、貴賓席の男は上機嫌である。
「あっ…」「あぁ〜」「うぅ〜」
　あられもなく大股開きで尻を浮かせ、奇妙なブリッジスタイルで喘いでいる女たちは、よく見ると、やはり主婦らしくたっぷり脂の乗せている。
（利恵……）
　仁志は、妻の名を頭の中に響かせづにはいられない。
「こんな会は、何度も？…」
「いやいや、年に２回ですよ、西と東に分けてるんでね…今回は東チームです」
「…」
「これより、次のは面白いですよっ」
　山本の意識は舞台から離れることはなく、上の空な返事。
「あっ、あっ、いい、あっ、イくぅぅぅ〜〜」
　一番に奇声を上げたのは中央の女、そんな声を聴いた両隣の二人もつられるように奇声を上げたが、賞金は左隣の女に決まったようだ。
　女のイきっぷりの好さに、貴賓席の男がガナリたてている。
　腰を突上げイきはてた左の女は、全身をビクビク痙攣させるとピュッピューと噴水のような潮を噴き上げたのである。

　舞台が終わると三人の女は、さもあたりまえのように散らかしたネグリジェを羽織ると宴席に戻って男達に寄り添っていく。
　もちろん、以前のよそよそしい雰囲気はなく、ベッタリしなだれては男の股間に手さえ運んでいるようだ。
　そんな事にも驚きを隠せない仁志に追い討ちを賭けるように舞台は先に進んでいる。
　現れたのは、大きなテーブルの角に手足を縛られた女。
　手首がテーブルの二隅につながれ、残りの二隅には１８０度近くに開かれた足の膝をつなぐと足首はテーブルの足先に固定されている。
　弘志の目には、薄い女の繊毛に見え隠れして蠢く恥部が飛び込んでくる。
「どうです？、これ」
　ポカンとして、凝り固まった仁志に山本の声。
「ないしょですが、これ…肉屋の毎年恒例のものですよ」
　仁志に耳打ちすると、打ち合わせ済みなのか山本は舞台に立っている。
　両手には、赤い大きな蝋燭。
「さあ、ショーを始めるには準備が足りません。…どなたかマッチかライターをお持ちの方はおられませんか」
　どこかの、バナナ売りのような口上を並べたてている。
　舞台に一番近い男が、隣の男の相手をしている賞金の女に、火の着いたジッポを手渡して‘行け’と促している。
　なよなよと立ち上がり、赤い蝋燭に火がともる。
「さあさあ、みなさん静かに願いますよ。…小さな喘ぎも聞き逃さないように」
　山本の口上は軽快である。
（あんたが？…）
　仁志はこのとき、肉屋＝山本なのか！…と感づいた。
　山本の手にした火のついたばかりで、まだ蝋を垂らすことのない蝋燭が、女の足元から順に這うようにして昇っていく。
「あぁ〜〜ん」
　ため息を漏らすような声は、すでに悶えを魅せている。
（どなん、もんだい、この感度のよさ…）
　山本は仁志に、チラッと視線を移すと薄笑いを浮かべてくるが、仁志には別の不安な思いが押し寄せている。
（利恵…）
　蝋燭の熱に反射するように身悶える女、仁志の目にしたのは、繊毛の奥からキラリとした一筋の雫が滴る瞬間である。
（おおっ）
　顔を寄せて凝視した仁志は、さすがにビクンと股間を震わせていた。
　肉屋のマゾスティックな調教は、女を愛撫でなく熱蝋でも官能を生むほどに完成されているだろう…。
　蝋が滴りだすと女の反応は、熱のこもった肉棒を抽送され、いまにもクライマックスかのような激しさを魅せている。
「あっ」
　蝋の滴りに合わせて妖しい喘ぎ声を絞り出しては、仁志の目にした雌芯が菊芯と共に引き攣るように窄まっては、熱い汁を吐き出している。
　場所と時間を忘れて凝視つづける仁志、驚きはこれだけでは終わらなかった。

　いつのまにか、女の身体は赤い蝋で染めつくされ、女の喘ぎは苦痛ではない何かに耐え切れない、とばかりに身悶えを激しくしている。
「あっ、だめ、あぁ、だめ…もぉ、あっ」
　テーブルの上に拘束されていながら激しく尻を撃ち付けては以前にも増して雌芯を窄ませている。
「よしよし、もう限界か…ほれほれ、もうイくか？」
　山本の見下したようなサディスティック言葉に、身体を硬くして身悶え首を振る女、仁志は顔の表情が見えないのが残念でならなくなっている。
「あぁ〜ん、いい、あっ…、はやくぅ〜あっ、あぁ〜〜」
　何かを要求するように甘え声で激しく訴えると、待ち構えているように腰を突上げてはヒクヒクと全身に痙攣をはしらせている。
　山本の手にした蝋燭が、今まで一度もたどることのなかった弘志の眼前の雌芯を狙っている。
「あっ、あっ」
　繊毛を襲う蝋の滴り、コントロールの危うい滴りに身悶えつづける女。
　ポタッ
　待望の一滴が女の柔肉を直撃したと思うと、つづけざまにバケツからかというように多量の蝋が垂らされる。
「あぅ〜〜〜っ、ィィィっ、イく〜〜〜〜〜」
　山本は蝋燭を真下に向けて、くぼみに溜まった蝋を一揆に滴らせると、天にも抜けるような悲鳴とともに女はイき果てた。
　仁志は、ただ芳心状態で事の成り行きを見守っている。
　テーブルから広がり滴る愛液、ヒクヒクと痙攣を止められないでいる雌芯、動きを止めた女は、失神したのか、バラ色の夢の世界を漂ってるのか声もない。
　肉屋は自慢げに会場を見渡すと、言葉も発せず一例すると舞台を後にした。

「どうです、気に入って頂けましたか」
　一声かけると、山本はグヒグビとビールを一飲みにする。
　舞台では、搬入の時と同じように妖しい衣装の女達が、テーブルを引き上げている。
「…」
　芳心状態で言葉のない仁志は、利恵への不安にも勝る強烈な官能に冷静な判断すら失いかけていた。

つづく