１０　嘘から出たひょうたんから駒

　この事件の顛末はこうだ。

　一連のワンルームでの少し現実とは違った吉田の供述を社長が聞き、すぐに遅刻してきた小山を呼びつけ佳乃の前で二人に詰問した。最初は、しらを切ろうとした小山であったが警察沙汰になってもいいのかと言う、社長の問いに簡単に自白してしまう。

　警察沙汰になってしまえば、吉田は強姦未遂、小山は立証されるかされないかは別として教唆の罪に問われると言う言葉にびびってしまったのだ。
　案外、最近の若者も法律用語がでると大きかった態度はなりを潜める。

　当然のことながら小山は懲戒解雇となり、田野倉のもとへと返される。
　ただ返されるだけでなく、あらいざらい田野倉の前で今回のことを山本が説明し、田野倉の面目を丸つぶれにする。

　怒りを押さえつけられない田野倉は小山に持っていた杖を投げつけた。

　小山は田野倉にこの町の高校から専門学校まで進学させてもらっていたのに、恩を仇で返してしまうことになった。そのまま小山は、この町から遠く離れた実家へ帰され田野倉とは絶縁される。

　次の日になり、
「山さん、ほんに申し訳ないことした。すまんこのとおりっ。」と田野倉老人は山本に手をつき詫びる。
「いっいえ。いいですよもう終わったことですからっ。頭上げてください。」

　山本は田野倉の肩を持ち上げ詫びた頭を戻そうとする。
「いやっ今度のことは、社長の機転で警察沙汰にならんですんだ。この礼はたっぷりあの物件でさせてもらうよ、再開発の・・なっ。」

「そんな気持ちでやった訳じゃありませんので、うちも女子社員が警察沙汰になってもかわいそうですし。」

「それよりあの子の機転で、こういう結果におちついたわけで。」
　と佳乃のほうを見やり田野倉に説明する。

「被害を受けたのは会社じゃなくてあの加山君ですし私どもでなくできれば彼女に何かしてあげられませんか。」

「んーそうじゃな。」
「再開発の件は社長とわしの話にしておいて、彼女にはわしからじゃなく山さんからこれを渡してやってくれんか。」
　とおもむろにカバンを取り出し、小切手を切り始める。額面は新しい軽自動車が買える程度の額であった。

「これを頼むわ。社長。」と小切手を裏返しにし山本に差し出す。
「こんな額・・多すぎますよ。」
「いいじゃないか。山さんにやるんじゃなしにな。」
　と二人は顔を見合わせ笑みがこぼれる。阿吽の呼吸で因果を含められた。

　田野倉は佳乃に一礼だけをし、やまもと不動産を足早にたち去る。

「どうしたんですか？あのおじいさん。あれって田野倉さんですよねー。なんで佳乃さんに頭下げたんだろう？」と奈々が疑問に思う。
「なんでかねぇ。」と佳乃は顔をパソコンのディスプレイにやりながら答える。

「んー。それよりあの小山がなんで解雇になったかがわかんないんですよねっ。」
「奈々ちゃんあいつ嫌いじゃなかったっけ？」と佳乃は上の空の奈々に聞き返す。

「嫌いだけどっ。なんていうか・・いじめっ子に引かれる女の子っているじゃないですかっ。」
「そんな感じかな。」

　呆れた顔で奈々に諭す。
「あれはね。いじめっ子じゃなくて、嘘つきなのよっ。虚勢を張ったねっ。そんなんじゃ奈々ちゃん悪い男にすぐだまされちゃうよう。」
「さすがお姉さまですね。佳乃さんは。」と奈々はぺこりと頭を下げる。

「早く良い男みつけなさいっ。いつまでもフラフラしてないでっ。」
「あー近藤さん最近来ないけどっ。どうしてるのかなっ。」
　奈々から久しぶりに近藤と言う名を聞き、少し前のセミナーの話を思い出す。

「来週、私と沢口さんセミナーに行くんですよっ。２泊３日でっ。近藤さんも来るのかなー。」
　と奈々は遠足でも行くかのように期待する。
「奈々ちゃん。合コンに行くんじゃないんだから。ねえ・・私の行く日付聞いてる？」
　と情報通の奈々に聞く。

「佳乃さんは、さみしいですけど一人なんですよ。」
「私と行き違いで、奈々が帰ってくる日に初日です。だから・・土・日・月です。」

　そんな話の中、佳乃は社長に呼ばれ応接室へと向かう。
「加山君、いろいろすまんかったねー。今回は反省しとるよっ。あんな子をひきうけてしまって。」
　社長が軽く謝罪する。

「いいんですよっ。終わったことですから、もうその話はこれ以上なしにして下さい。」
「うん。わかったよっ。・・・・・実は、田野倉さんからこれを預かってね。」
「・・君への謝罪金らしいんだが。」と小切手を差し出す。

　額面の部分を見て、少し驚く。
「こんな額、もらえませんっ。」
「いいから、貰っときなさいよっ。口止め料とかそういうことを言う人じゃないの知ってるだろ。」
「あっはい。でも社長は何か・・いただいたんですか？」
「ああっ。今度の駅前再開発の件で・・ちょっとね。だから遠慮せずに、ボーナスだと思ってさ。」
「旦那さんには大きな物件がまとまったっていう風に、説明しとくからさっ。」

「・・・・・・・はい。それでは遠慮なく。」
　佳乃は、クリトリスまで陵辱されて金を得るのがつらかったので本当は受け取りたくなかった。
　が断る理由が思い浮かばなかった。

「ところで加山君。」
「セミナー来週なんだけど、こんなことあったばっかりだから延期してもいいんだけど。」
「どうする？」

　佳乃は、嫌な体験を忘れ去る気分転換だと言い聞かせ、
「いえっ。大丈夫です。予定通りでおねがいします。」ときっぱりと宣言する。
「よし。わかったじゃ来週の土・日・月とで決定しとくから。」

　この日程さえ変えておけば、更なる悲劇を避けることが出来た。
　
　総帥のいる日付と同じ日を選ばされたのも備品女への必然的な運命なのか。