１３　暗闇の監視小屋

　昼からの講義は、午前中と同じ講義が続く。

　昼食時の、おかしな感覚はまったく気にせず席に着くとチャイムが鳴る。
「あれ、前の・・なんだっけ男の人・・・あっ横山さんだっけ。いないですねっどうしたんだろ。」
　佳乃はぽかりと開いた空間が気になる。

「では、講義を始めます。・・・・・Ｅグループの・・横山さんはどうしました。」
「・・・さあー。」と空いた席の隣の女性が答える。
「・・・・・・こまりましたねっ。グループの方探してきてください。」と教官が言う。

　グループの皆が席を立ちドアを開けると、そこに横山が戻ってくる。
「・・・あ、すいません。道に迷ったもんで・・・すいません。」と横山が弱々しく伏目がちに言う。
「社会人として失格ですよっ。あなたっ。早く席につきなさいっ。」と叱責されると、
「・・っく・・・ズッズッ・・」と肩を震わせ少し涙ぐむ横山。

　その後ろ姿を見て佳乃は心の中でつぶやく。
（えっ、この人泣いてる。大丈夫かなっあれぐらいで泣いちゃうなんて。）
「あそこまでいわなくてもっ。」と大河内がぽつりと口走る。その横顔を見た佳乃は、
（大河内さんて、やさしい人だわ。ほんとパパと知り合う前だったら・・わたし、この人と・・）
　佳乃はこの大河内という男にしだいに陶酔していく。

　それは簡易催眠の影響であることは本人は気づいていないのだが。

　時計のない会議室の中のため時間の経過がわかりにくい。
　講義内容の理解力テストが終わったためもうセミナーも終わりなんだろう。
「では今日の講義はここで終了です。では明日の予定と、隣接する宿舎のキーを皆様にお渡しします。」
「えー。明日は今日と同じく８時半に隣の会議室１へ集まってください。」
「そこで人格形成セミナー１を受けていただきます。」
「グループは、本日と同様のグループで行動していただきます。あと会議室へは何も持たないできてください。携帯等、筆記用具もいりません。」

（えっ。なにもいらないって・・どんな研修っ？）不安がよぎるが、
（でも、今日と同じグループだから安心だっ。大河内さんもいるしっ。）
　と、すぐに気分を切りかえる。
「では、部屋のキーをお渡しします。もらった方より解散してください。」
　事務方の男性がキーを配り始める。

　半分以上部屋のキーを配り終わり、
「大河内さん・・えー６０１号室です。・・・えー加山さん・・６０６号室ですね。」
「横山さん・・・・・６０２号室です。」と配られる。
（大河内さんと同じフロアーなんだっ。・・・・・あっわたし、なに考えてんだろっ。）

　そのままセミナーのビルのはす向かいにある、ビジネスホテルへ暗くなった道路を横断する。
　ロビーのエレベーター付近は、セミナー受講者で混雑している。
「ちょっと少なくなるまで待ってよぅ。」
「加山さん、何号室？」と大河内がロビーの椅子に座る佳乃の横へ座り、声をかける。
「あっ。・・６０６です。大河内さんは６０１でしょっ。」となぜか男の部屋番号を言い当てる。
「そうだよっ。・・よくしってるねっ。」
「・・っあ、いやっ鍵もらう時に聞こえたもんでっ。・・・・へへっ。」

「・・あっエレベーター空きました。」
「じゃっ、あがろっか。一緒に。」と大河内は立ち上がり、佳乃と二人きりでエレベーターへ乗り込む。

　６のボタンを押し、扉がすっと音もなく閉じる。
「・・あのっ。大河内さんお昼おごっていただいたんで、夜はわたしが・・」と佳乃がきりだす。
「いっいいよ、気にしなくても。・・・」
「いえっ。奢らせてください・・・・・いいでしょっ。」といつもと違い積極的な佳乃がここにいる。
「いいのかい。それじゃっ・・もう遅いから、コンビニで弁当でも買って部屋でどうだい？安く済むし、ゆっくり話せるし。」

「ええ。それでいいんですか。じゃっ、そうしましょう。じゃ荷物置いたらロビーで。」
「いいよっ。そうしよっ。」というとエレベーターは６階に、そのまま各々部屋へ向かう。



　８階にある暗闇の監視部屋に３人の男が、たくさんのモニターを目で追いかけている。
「おいっ、金山。今日の嗜好研修は何人やっ。」とラフなジャージ姿の大島が咥えタバコで聞く。
「えーっと。今日は少ないですよっ。・・２人です。ＮＯ１７とＮＯ２２ですね。もう研修中ですよ。」
「何時に、終わりそうやっ？」
「ＮＯ１７は、浣腸嗜好で朝までで。ＮＯ２２は・・細胞研究嗜好で夜中の０時までです。」
「どないしました大島部長？」

「１７は朝までかっ。・・よし細胞研究ならＮＯ２２を配送せずそのまま置いとけ、わしが味わう。」
「・・はい。それでは配送班と監視員に連絡入れときます。・・そやけどどうして？」
　と金山が大島の顔をのぞく。資料をチェックしている田口が、大島の本音を代弁する。

「金山ちゃん、愚問だよっ。」
「観察小屋に加山佳乃が入れば、さくらの簡易催眠で・・・どうなるか予想つくだろ。」
　自慢げに田口が続ける。

「そうすれば、それを見た大島部長は・・・・だろっ。」
　と手振りだけであらかたの説明がつく。
「おい田口、恥ずかしいやないかっ。当たりやけどなっ、ガァッハッハッ。」馬鹿笑いがこだまする。
「そっか、ほんじゃぁＮＯ２２は災難やな。」
「こんなときに大島部長の相手朝までやなんて。ギヒヒッヒ。」

「田口も入るか。３ＰできるやろＮＯ２２は。」
「遠慮しときますよ、私はそろそろ帰りますから明日セミナーの講義ありますし。それじゃそろそろ。」
　と田口は、手を挙げ部屋を出て家路へと急ぐ。

「田口さん淡白やな。」
　と言いながら一番大きなモニターをＮＯ２２が拘束されている画面へと切り替える。

「ひひひっ。やられとるのぅ、この会員はあの医薬品メーカーの御曹司やったか？」
「細胞バカかっ、わしにはようわからん。」

「ＮＯ２２は、一人もんやな？金山よっ。」
「えー。明日は日曜やから朝まででも昼まででもいいですよっ。・・・ギヒッ。」
「朝まででええわ。それよりこの後の動画、総帥用のサイトへ・・忘れんなよ。金山っ。」
「任せてくださいよっ。ばっちり高画質で・・・毛穴からパンツの染みまで・・・。」
　と自慢げに金山が言う。
　モニターには研究用にと、うら若き女の陰部に耳掻きのようなもの差し入れ細胞を採取しつづける男をカメラが捕らえている。

　そして６０６号室のカメラにはコンビニの袋をもった二人の男女を映し出している。