１８　罠

　３日目のセミナーにまたしても横山の姿はない。

「どうしたんだろう横山さん。探しにいくかっ。」と大河内が言う。
　すると、田口が皆に話し始める。
「えー、Ｅグループの横山さんは体調を崩されましたので帰られました。」
「皆さんの中にも体調を崩されている方いましたら、遠慮なく帰っていただいても結構です。」

　皆が一同に、
「我々は、セミナーを完遂いたします。」
　と一斉に声を出し、服従したかのように頭を下げる。
「よろしいっ。それでは本日のセミナーを開始する。」
「はいっ。・・喜んで受講させていただきます。」

　この姿を監視小屋で見届ける三人が笑いを隠せずにいる。
「横山先生、本当に体調が悪いんですか？帰られてもいいんですよっ。」
　金山がパソコンで動画を編集しながら、半笑いで言う。
「そうやで先生、体に障るやろあんなフェラチオされたら・・ええで帰っても。」
　大島が同じく半笑いで言い放つ。
「今晩、大事な仕事が残ってるんでね。まだ帰れないんですよっ・・キキッ。」
　ずれたメガネを人差し指であげながらこれまた半笑いで言葉を返す。

　動画を編集し終えた金山が大島に対しパソコンをむけ再生させる。
「こんなんでどうですかっ部長。」
「んー・・・・・・ええんとちゃうかっ。」
「今晩これみせたらどんな顔するやろなっ。加山佳乃はっ。」
　とパソコンの画面には、佳乃が肉棒を咥えしゃぶる姿が映し出されている。

「しかし、催眠中とはいえこれだけエロいしゃぶり方するんかな、今のおなごは。」
「三人しか経験ない割りに、なかなかですね。」

「加山佳乃は出来れば、家族を守る人妻って感じで売り出したいんだがなっ。」
「えー、そのほうがいいと思うんですがねえ。」
「大島さん、金山さん。大丈夫ですよっ。」と自信満々に横山が答える。

「あの奥さんは催眠中だからあんだけ淫乱になれるんです。」
「深層心理にある淫乱な感性と、普段みせる人妻としての貞操感が加山佳乃にはありますよっ。」
「だから興奮して、５分しか持たなかったんです。恥ずかしながら。」
　と頭をかき、二人に佳乃と接した感覚を説明する。

「そうやな、先生が５分ほどしかもたへんかったからどんなけ上手いフェラチオかと思ったが。」
「いいえ違いますよ。あまりにも稚拙なフェラチオすぎて逆に興奮しちゃって・・」
「はっはっは。さすがぎょうさんのおなごを嵌めてきただけのことある先生や。おみそれした。」
　と横山に向かって大島が頭を下げる。

「じゃっちょっと仮眠してきます。私は死んだことになるんでしょ。これからは。」
「ええ、先生は自殺したことになってるんで・・いつもの部屋にお気に入り用意しときました。」
「ありがとう。金山さん・・じゃぁ。」
　と横山は手をあげ、監視小屋を立ち去りＧルームへと向かった。


　時間は午後６時を回り、セミナーも終焉を迎える頃。

「加山さん、ちょっと事務局まで来ていただけますか？」
　セミナー中に事務局の男性に呼ばれる。
「・・ぁあっはい。」
　佳乃は立ち上がり男の後をついていく。

（始まったなっ。・・・ご愁傷さま・・佳乃ちゃん）
　大河内は佳乃の後姿を、とさつ場に連れられる牝牛に重ねる。
（いつかまた、備品としてかわいがってやるよっ。）
（それまで生きていろよっ。・・ククッ）
　にやりとし、教官の田口をにらんだ。

「すいませんもうすぐセミナー終わりじゃないんですか。」
「そのあとじゃ、・・」
　事務局の男は、
「私はただ加山さんを呼ぶように言われただけなので。」
　と事務局の奥に通される。

　事務局の奥の応接室に通された佳乃は、奥に座る大島に会釈をする。
「あ・・先日はどうも・・やまもと不動産の加山です。」
「んっ・・あー加山さんね。大島ですどうもっ。」
　大島はこの三日間で佳乃のあられもない姿を覗いたにもかかわらず、平然としている。

「まーそこにかけなさいなっ。さっさっ。」
「あっはい。失礼いたします。」と佳乃はスカートが皺にならぬよう尻に手をあて座る。
　ソファーが低いためタイトスカートから下着が見えやしないかと気にし手を当てる。

「なにか私に・・」と佳乃は不安を隠しきれずに聞く。
「んー、まあ、あんまり隠してもしょうがないから単刀直入に言うで。」
「セミナーに来てた横山さん知ってるよな。」
「・・はい。体調を崩されたとかで・・・」
　と田口に聞かされた通りに答えた。

「・・・ちゃうんやっ。彼、自殺したんや。今日の朝。」
「・・・・えっ・・・・ホントですか！」
「朝からおらんようになって・・・・・近くの公園で首吊り。」
　唖然とした佳乃は、ポカリと口を開け呆然とする。

「でも・・なんで私を・・呼んだんですか？」
　横山の自殺でなぜ自分が呼ばれるのか疑問に思う。
「遺書やっ。遺書があってな・・この動画をみてくれと。」
　と大島はノートパソコンを開き佳乃のほうへ画面をむけアイコンをクリックした。

　そこに映し出される動画は、佳乃が横山の肉棒を舐めさすりフェラチオをしている姿であった。
「・・な・・なんですか・・これは・・」
「止めてください。こんなのみたくありません・・どうしてこんな。」

　静かな口調で、いきさつを大島が話し始める。動画は再生されたままで。
「加山さん。・・彼はねぇ自殺をセミナー前から考えてたらしいんや・・。」
「それで日曜の夜に遺書代わりのビデオに残してるところに・・・・・・・。」
「君ら二人がきたんや。」

「そんで大河内さんやらの説得でもう一度やり直そうと考えたんらしいが。」
「その後あんさんに、こういうレイプまがいの行為をされて・・・」
「悔しさと信じてたあんたらに馬鹿にされてると思い・・。」
　と大島は最後まで言わなかった。最後の言葉はジェスチャーで首吊りを表現する。

「・・うそです。・・こんなこと私してません。」
　と佳乃はきっぱりと答える。当の本人は催眠中で記憶があるはずはないのだから。
「合成じゃないんですか・・絶対してませんこんな嫌らしいこと。」
　と声を震わせ断言する。

「まぁまぁ。わしもこんなこと嘘やと信じたいんやが。」
「いかんせん警察が動き出してしまってな。・・・・・・・これをみて。」
　と大島は再生されている佳乃のフェラチオ姿を指差し行為を見せ付ける。
　目をそらす佳乃に、
「横山の両親が君を、強姦罪で刑事告訴するといきまいとんや。」
「そうなったら君だけでのうて、うちのセミナーもやられてしまうんや。警察に。」
　と手錠をかけられたような手振りをみせる。

「でも。わたし・・なにもしてません・・こんなこと。」
　佳乃は最初の勢いを失い疑心暗鬼に陥る。

「そこでや。加山さん。うちも弁護士をたてて争うことにするんやっ。」
「名誉毀損やらなんやらで逆告訴をなっ。」
「その手続きをしに大倉という顧問弁護士が９時頃に来るんや。」
「それまでちょっと遅なるけど居って貰えんか。」

　少し考え、
「・・・・はいっ・・主人に遅くなると連絡させてください。」
「・・ええで。じゃワシらは３階におるから弁護士着たら呼び出すから。」
「・・はい。よろしくお願いします。」

　佳乃に背をむけた大島は、満面の笑みで応接室を後にする。