１　まだ穏やかな春

　桜のつぼみもようやく膨らみはじめた春まだ早い３月。二人のいや三人の順風な歩みは狂いはじめた。
「ピピピピッ」
　暖かい布団の中の世界は、まだ夢の中である。
「んー、ふぁーあ。」とあくびをし、布団の中で若い人妻が背伸びをする。
「パパ。おはよ、もうすぐ６時だよ。遅刻したらまた所長さんに嫌味いわれるよー。」
　と甘い妻の声にすばやく起き上がる男。

　以外に目覚めの良いこの男は、加山友之（３１）準大手ゼネコンに勤める。
　現在は某市役所新築工事現場で主任を任される中間管理職。
　昨今の不況から受注は激減し、尚且つリストラによる人員不足、安値受注などいろいろなマイナス要素が加わり、深夜近くまでの残務処理、職員たちとの懇親等々で最愛の妻や２歳になる娘である、友佳とも時間の取れない日々が続いている。

「いきたくないなー現場。」と情けない声で言う夫に対し、妻が、
「誰だっていきたくないよぅ、お仕事なんて。」
　と暖かい布団に潜り込み夫の腹の上に顔を乗せた、まだ化粧っけのない妻が口を尖らす。

　すると、この若い妻がなにかをみつけたように、
「おっ、パパどうしたの・・？朝立ち？」
　とストレートに夫の物をトランクスの上から指先でこそこそと摩る。

「おい、友佳が起きるぞ。おっおいー朝からサービス良すぎるよー。」
　目をつむりながらまんざらでもない様子の友之。

　若妻は友之の言葉に触発され、トランクスを少しだけずりさげ仮性包茎気味の友之の亀頭を少し剥き舌先だけで刺激する。

「パパ！お汁がでてきたよぅ、そんなに気持ちいいのぅ。」と言うと、睾丸をこりこりと左手で刺激し、ぱくりと亀頭のみをくわえこみちゅうちゅうと吸い上げる。

「ジュポ・・ジュルジュル・・ジュッポ・・」
　若妻の愛らしい容姿とは、につかわぬスケベな音を布団の中に響かせる。

「ぬっふー・・・ぬっっふー・・・・」
　口いっぱいに友之をほお張り、息くるしそうに鼻で息をする佳乃。
「んはっ、・・・・ふぅー・・」
　息継ぎをするように友之の大きくなった物から口を離し、上唇を紅い性器とかした舌で舐めた。

「おい佳乃、お前の『朝チュパ』気持ちよすぎだわ・・おっおっストップ。」
　と朝の情報番組になぞらえて若妻の行為を笑う。

「ふふっ、なんか昔パパが行ってた風俗みたいな名前だね。」
「まだ行ってるの？」するどい突っ込みに動揺する、友之。
「いっ、行く分けないでしょう、行くわけが」
「ふーん、ふーん、ふーん、さぁ朝ごはん朝ごはん」
　と行為を中断し、キッチンへ向かう若妻をパンツを上げながら目で追う夫に。

「冗談、冗談。パパを信用してますよぅ。私はね。」と舌をぺっと出す。

　この若妻は、加山佳乃（２４）夫が勤めるゼネコンの現場採用事務員として働き、友之と出会い３年前にそのままゴールイン。
　小柄で人付き合いの良い佳乃は、愛くるしい顔もあいまって、職員や職人等にも評判が高く、友之に対する嫉妬が激しかったと言われた。
　一度、佳乃の軽自動車のワイパーに、はさむようにして若い職人からいやらしい文面のラブレターをもらったとき、気持ち悪がる佳乃を家まで送り届けたのがきっかけで二人は互いに意識しあうようになり、今に至ったわけだ。
　あまり、出会いの少ない現場職員はこういうきっかけでもないかぎり、婚期を逃す社員が多い。
　
　朝の軽い食事の片付けを佳乃がてきぱきとしている。
　横で友之は白いワイシャツにネクタイをし淡い水色の作業着を纏う。
　身支度を終え妻の背後に忍び寄る友之。

　若妻の少しむっちりとした、お尻の割れ目あたりに右手を差し入れ愛撫のようにこすりつける。

「いやー！もういつもそれするー。」
　と半笑いで夫の方を振り向き、友之にキスをする。友之は佳乃のやわらかい舌を吸い上げる。

「パパ、いってらっしゃい。」
「いってきます。今日は、俺が早く帰って友佳を実家まで迎えに行くよ。」

「うん。ありがとう。」
　と佳乃はバイバイと玄関から、出て行く友之を見送る。友之は黒のワゴン車に乗り込むと、先ほど佳乃の尻の割れ目にこすりつけた右手を鼻へと近づけ、妻の匂いを確かめる。

　一方の佳乃は、娘の友佳を起こし家事を済まし、あまり濃くない化粧をほどこし会社への出勤準備を整える。
　いつも着ている部屋着を上下とも脱ぎ捨て、甘い香りが匂わんばかりの上下ともお気に入りなアイボリー色の下着姿になる。

　右手を頭の上に持ち上げ市販の腋汗防止のクリームを、丹念に塗りこみ、その塗りこんだ左手を自らの鼻に近づけた。

「ちょっと臭うかな？」と反対側も同じようにした。
　こちらはまるで自分の牝の匂いを確かめるようであった。

　下着のうえにキャミソールを着、白いシャツを羽織る。
　下は黒く少しローライズ気味のパンツスタイル。うえにジャケットを羽織って、ぽーっとテレビアニメを見つめる友佳を抱き上げる。

「さ、バアーバアーの所にいこ」すると娘は愛らしく手を挙げる。

　近所の実母の所に娘を預け、三ヶ月前に旦那の知り合いに紹介され、就職した地元不動産販売会社「やまもと不動産」へと軽自動車を進めた。
　社員７人のこじんまりとした感じで、男４人、女３人と仲良く働ける職場であった。

「１０時に社長が、面談するってなにかなぁ？」
　昨日言われた言葉を思い出し、一抹の不安がよぎる佳乃だった。

　会社の駐車場に着くと、見知らぬ高級外車が整然ととめられている。

　不動産会社なので特に珍しくもないが、今後の佳乃の未来を占う人物が、いつもの何も変わらぬ会社のなかにいるとは、この時ひとかけらも思わなかった。

「おっはよーございまーす。」