２３　悪魔からの誘い

　悪魔の罠に嵌められてから９日後、加山佳乃という人妻が備品という変態のおもちゃに変わる１日が始まった。

　二日ほど前、弁護士の大倉が水曜日の午前１０時に打ち合わせをすると電話があった。水曜日は会社も休みであり承諾してしまったようだ。

「ご足労かけました。加山さん・・ええっと、どこから話しましょうか。」
　１０日前に白紙示談書にサインしてしまった時と同じソファーに同じ三人で示談について、説明を受けている。
「・・・それで、示談のほうは・・・どっどうなったんでしょうか。」
　少し緊張した面持ちで佳乃が大倉弁護士に聞き始めた。
「・・万事上手くいきましたよ。相手方も示談に応じていただきましたし、刑事的な訴追の方は免れそうですよ。」
「ほんとですか。・・良かった。」
　ほっと息をついた佳乃に対し、地獄生きの言葉を大倉弁護士は浴びせた。

「ええ、１８００万で片がついたら安いもんですよ。」
　と平然とした声で庶民との金銭感覚の相違をあらわにする。
「・・・・・・１・・１８００・・万ってどういうことですか、そんなお金なんてありませんっ。」
　やさしげであった大倉弁護士は本来の姿、神崎組の顧問弁護士である裏の顔をみせはじめた。

「・・・おい、奥さんよっ・・俺は被害者側と交渉して３８００万を２０００万も値引きしたんだ。感謝されることがあっても非難される言われはネエぜ。」
　佳乃の座るソファーの横に座りふんぞり返る。
「・・で、で、でも、そんなお金はありませんし、・・・どうしてそんな・・金額に。」
「奥さん、あんたはこの前よ、白紙の委任状にサインしただろ。ということはよ、すべておまかせいたしますってことなんだよな。わかるだろっ・・不動産屋にお勤めならさぁ。」
　大倉は佳乃の頭に手をやりグラグラと揺らし、脳みそのつまり具合を試すように小ばかにした。

「大島さん、悪いがこの件は他にあたってもらえんですか。ここまでやってこんないわれかたは・・」
　と、やるせないような素振りで怒りを表す。
「まあまあ、先生。金の件はわしのほうで何とかしましょ、１８００万くらいやったらどうとでもなりまっさかい。・・なあ、奥さん。」
「すいません。取り乱してしまいまして、大倉弁護士手続きのほうよろしくお願いします。」
　佳乃は、大倉の方をむき頭を下げた。

「わかればいいんですよ、奥さん。・・ではさっそく私のほうは手続き進めますので。」
　と席を立ち上がろうとする大倉に対し、
「先生これ、すぐにいりますやろ。・・もっていきなはれな。」
　ポンとテーブルの上に帯封つきの札束を２０投げ渡した。
「・・部長そりゃ早いほうがいいですからさっそくに・・・・失礼します。」
　大倉は投げ出された札束をカバンにいれ部屋をあとにする。

「・・・すいません。大島さん、でも私にそんなお金ありません・・どうした・・ら。」
　うつむきながらつぶやく佳乃に、
「奥さん・・ここでは何やさかい。わしの車ん中で話しましょか。ドライブでもしながら。」
「・・・はい。」
　佳乃は拒否することもできず、悪魔の誘いにまんまとはまる。

　地下駐車場から高級車が走り出し、その車にはきたない奴隷商人と若妻奴隷が同席している。
「なあ、奥さん。・・示談金と弁護士費用どないして返済しますのん。」
　ハンドルをにぎる大島は、答えは１つしかないことを知りながら佳乃に問いかける。
「・・・・１８００万もの大金ですから・・」
「旦那さんに相談したらどないやのん・・貯金崩すとかせなあかんわなぁ。」
「貯金は、ほとんどありませんし・・旦那に相談なんて・・・。」
　にやけた笑いで大島が、
「せやなぁ。奥さんがレイプされたんじゃのうて、レイプしたんやから無理やなぁ。」
「・・・・・２００万ならなんとか。すぐにでも、下ろせますがそれでなんとか。」

「奥さんそれは大倉への弁護士費用にしかなりませんなぁ。残りの１８００万はどないしますねん。」
　佳乃は法外な金額に口ごもると、
「・・・仕事のほかに、アルバイトでも何でもしますから、旦那や家族には・・。」
　呆れた顔をして佳乃に言い放った。
「奥さん。スーパーのレジ打ちではたかがしれてまっせ、月にそうやなぁ５．６万かそこらやろ。給料から何ぼか足しても１２万くらいか、年間にして１４４万や金利なしで１２．３年や。」
「年利５パーセントのせたら返済年数は、そやな２２年といったとこかな。やっぱり旦那に相談しようかねぇ、奥さん。」
　何もいえない佳乃に、ついに大島が助け舟をだす。

「・・大島さんの言うことは何でもさせてもらいます。・・・ですので友之さんには。」
「そやなぁ、今の奥さんの言葉わすれんといてや。１つ方法があるんや、せやけどキツイバイトやで・まぁ死ぬ気でやったら一年で１８００万なんて完済や、しかもつづけてやったら簡単に家がたつでぇ。」
　藁をもつかむ思いで、佳乃は助け舟に乗り込む。

「なんでもやります。させてください、１年間で払い終えれるんなら・・・」
　大島はくもの巣に掛かったモンシロ蝶をよだれを垂らして待ちわびた蜘蛛のような笑みを浮かべる。
「よっしゃ。奥さんそれならそこの銀行で２００万下ろしてきなはれ。すこしでも減らしたほうがええさかいに、その間にバイト先に電話入れとくからなっ。」
　大島は大手都市銀行の駐車場に車を入れ、佳乃を下ろすと携帯をどこかへ発信させた。

「いまから、加山佳乃を連れてくさかいな、準備しといてよっええな。３０分後やな。」

　罠の第一段階が終わり、第二段階の納品業務へと移行された。