２８　ドナドナ

　牝を運ぶ黒い車は、夜の都市高速を飛ばす。研修所をでて５０分ほどが経ち高速の出口に差し掛かるとそれまで無言であった佐々木が佳乃の視線を塞ぐ頭巾を外した。

「備品ＮＯ２６・・これから言うことは少し足りない頭にいれておけ・・いいな。」
　頭巾を外された佳乃は佐々木の物静かな物言いに、高山や三治のような非人道的でない人間のように直感する。
「ぺっ・・・なにを言っているのっ・・あなたたちは犯罪者よっ。・・いうことなんか聞けな・・」
「ドカッ・・・」
「おまえには、我々に対しての要求や抵抗、ましてや反逆はなんの意味もないんだ。名も無き備品にそんな権利など存在しないんだから。」
　佐々木に唾を吐きかけたが、鳩尾あたりを殴られ反論の声はかき消された。

「はっきり言っておく。おまえさんが自殺しようが、警察に駆け込もうが構わない。オリエンテーションでみたような現実を、娘か旦那もしくはおまえの実の母美恵子に味わってもらうだけなんだ。」
「ゲホッ・・・・・・家族には、手を出さないで。」
　動画の電車の音がいまでも耳にこびりつき佐々木の物言いに屈する。

「それではこれから家までの１０分で、研修所の外での備品心得を聞いてもらう。」
　一方的に目をつむりながら佐々木は話し始めた。
「まず、研修日時と内容とピックアップの場所等は一週間前におまえの個人携帯にセミナーより配信するメールによって確認してもらう、これは返信は不要だ。選択肢はなく、親の葬式であろうがなんであろうが出席だ。」
「次に研修のない日は、なにをしてもらっても構わない。君たちへの監視はその間も続けられるのだが、まぁ海外旅行なんてことは考えないだろうし、逃亡してもらっても一向に構わない。おまえへの連絡がつかなくなったときは・・・・・」
「・・・わかってます・・・もういわないでっ・。」
「よろしい。携帯端末は全てこちら側で通話の傍受、メールにいたっては全てこちらの端末でも確認できるように細工を施している。・・・・機種を変えたりしてこちらからアクセスできなくなり次第・・・・・・・・もう言わないがわかっているな。」
　佳乃は、うつむきながらもコクリと承諾の合図を佐々木におくる。

「最後にもう一つ・・・・これをお前さんに渡しておく。・・・これは性病検査キットだっ。・・研修全てがもう知ってのとおり、避妊等は行わない。・・その為、性病が蔓延するのを防止するため週に一度必ず、膣内部の粘液をキットにいれ、そのキットをこの封筒にいれポストに投函するように・・・」

「これも、何度も性病に感染して研修を逃れようとする備品が過去に何人かいたようだが・・・・上山さん・・そいつらは、どうなりました？」
　運転手の上山がまっすぐ前を見つめ、ゆっくりとした口調でぽつりと・・・

「俺が知ってる備品は・・・とある研究所に送られ、彼氏だったか旦那だったか忘れたが二人でなんだか難しい名前の性病用特効薬製造のために、ウイルスに感染させた備品と強制的に性行為をして発症させ、そのウイルスに対する薬の臨床試験に毎日毎日、投薬され続けたらしいな。」
「・・・・なんて・・恐ろしいことを・・・」
「ざっとこんなとこだっ・・・・さーてそろそろ旦那のもとに到着だっ。」
　後ろ手錠を外され、佳乃の首元に佐々木の手にある端末をかざす。
「ピッ・・・ピピッ」
　音が鳴り終わると、
「じゃあなっ・・・今日は中で出されたんなら、２,３日のうちに旦那と交尾するんだぜ。」
「ガラガラガラッ」
　スライドドアが閉められ、佳乃は恐る恐る周囲を見渡し自宅の灯りを目指し歩を進めた。時刻は１１時になる少し前だった。


「た・・ただいま。・・・」
　長く帰ってきていない部屋に入るような錯覚を感じながら、我が家のリビングにたどり着いた。
「おう。お疲れさん、友佳は寝ちゃったよ。・・仕事上手くいったのか？」
　やさしい友之の声に涙をあふれさせそうになるが堪える。
「・・うん。大きな取引任されちゃって・・これからもちょくちょく遅くなるかもね。」
「そうか、まあ友佳のことは心配すんなってお母さん言ってたから。おれも迎えに行くくらいは問題ないし・・・。」
「ごめんね、友之さん・・・・私・・お風呂、行くね。」
「ああっ・・俺・・・ねみいから、先に寝るわ。・・・ふわぁぁ。」
　とあくびをしながら立ち上がり寝室へ向かう友之の背中を眼で追い、自分の置かれた立場に気づいて欲しいやるせない思いを抱く。

　脱衣所に入った佳乃は、服を脱ぎ去った後の下着を洗濯籠には入れず、山本の唾液や自らが垂れ流した　淫液が染みたパンティーをゴミ箱に投げ捨てた。
　熱いシャワーによって今日一日の淫らな自分を洗い落とせるのではと思い、いつも以上に多くの石鹸を、泡立てこそぎ落とそうとしている。
「・・・・友之さん・・助けて。・・これからどうすれば・・・・くっく・・・」
　涙をシャワーと一緒に流し落としバスタブに座り込む。
「痛いっ。」
　右側の尻にひりひりとした痛みを覚え、その痛みが三治の刺青による物だと気づき再び立ち上がり尻にスポンジをあて、必死になってこすり落とそうとする。が、ひりひりとした痛みを増やすだけで落ちることはない。
「・・・・・。」
　こすり落とすのをあきらめ佳乃はＵＢを出る。その痛みはいずれ研修備品として牝の喜びに目覚めると共に刺青の存在すらも忘れ去られていく。

　寝床に入った佳乃は我が子を抱きしめ、明日の朝日を見つめるため目を閉じた。朝日の上がったその後は先程まで濃い牡液を放出されつづけた山本と社内で会うことは当たり前であるのだが・・・。