３８　ピエロ

　何度も何度も苦難に挑みかかるスポーツマンは感動をあたえるが、女を満足にいかす事の出来ない牡猿は、裸のピエロにしか見えない。

「・・くそぉぉぉ・・・なんで・・言うこときかねぇんだよ。・・・勃起しなくなっちまったじゃねえかぁぁぁ・・・バシッ。」
　最初の射精から４時間がたち朝の情報番組が始まったころ、挿入を一度もさせられない鈴木は怒りを佳乃の頬に向け左頬を思い切りビンタした。乾いた音が響き、その後には力なく咽ぶ佳乃の声も殆ど聞こえない。

「おいっ・・・力、抜けって・・・・おま○この力抜けって。」
　鈴木の理不尽な命令に、佳乃はまったく反応せず嗚咽しているだけだった。その嗚咽をかき消すように、扉が開き、体を伸ばしながら裸で近寄る垢太郎に檻の中の二人が気づいた。

「・・・おいっ・・・こらっ・・・・兄ちゃん。顔に傷つけんなって言ったろ。・・・まったく、最近のガキは・・女の扱いをしらねぇなぁ。・・・チンポ萎えちまったのか？」
「・・すんません・・・どうも緊張しちまって・・・」
　佳乃の、切れて少し血のにじんだ唇を吸い鈴木は女慣れしているといった体裁を垢太郎の前でしてみせる。

「そうか・・だめか。・・・・じゃぁ・・これ吸えよ・・・こいつは、・・・後腐れのねぇもんだから、・・後々、依存しなくてすむんだよ。・・・・ほらっ・・怖いのかよ・・・兄ちゃん。」
　垢太郎は、檻の中の鈴木に銀紙に包まれた白い粉を手渡した。

「これって・・・おじさん・・・覚醒・・・。」
「それ以上いうなよっ・・・奥さんびびっちまうじゃねぇかよ。・・それともおまえがビビッたか？」
　焦る素振りが、恥ずかしいのか鈴木は、映画などでみて記憶にある方法で白い粉を鼻で吸い込んだ。

「いいか・・三十分したら・・・ギンギンになるぜ・・・そしたらもうお前は、セックスマシーンだよ。・・・ひぃひぃひぃ。」

「なんか・・元気出てきたよ。・・・おれ・・・これならなんとかなるかも。」
　そういうと佳乃の体に再び被さりながら勃起してきた肉棒を擦りつけながら挿入を開始した。

「そうだ・・兄ちゃん・・・さっきの粉の残り・・・奥さんの・・クリトリスに・・・少しだけまぶしてやれ・・そうすりゃ・・二人で天国行きだよ。」
　その言葉を聞くと、ほんの微量ながら残った粉末を皮に隠れた陰核に目掛けて向き上げるように粉をまぶれつかせた。
「・・・おっ・・・なんか気持ちよくなってそうだなぁ奥さん。・・・これなら・・・いける。」
　力を振り絞った鈴木の声をよそに、再び扉の外に消える垢太郎は、
「朝の・・６時には、お迎えが来る。・・・兄ちゃん・・あと１時間ほどだ・・・せいぜい楽しめよ。・・・・」
　耳に入った声に頷くと、一心不乱に勃起した肉棒を力強く差し入れ初めてのピストン運動を始めた。力強さが売りの若い男の交尾が始まったベッドのうえの佳乃は、塗りこまれた粉に戸惑いを見せているため、鈴木の動きを拒否するような素振りが見えない。

　得体の知れぬ粉末が体に及ぼす影響を気にしているためか、喘ぎ声すら上げられずに自分の陰核に掛かる白い粉を首だけもたげ見つめている。何度かの甘美な性感覚に喘ぎを上げるとともに、白い粉は鈴木の汗や佳乃の淫肉から湧き出る潤滑液と混ざり、溶けてしまった。視覚から消えた粉末とともに性感は敏感さを極め先程までの焦らしとも言える鈴木の稚拙な行為が相乗効果を与えている。

「・・あ・・あ・・あぅぅぅぅぅ・・・あはっ・・・ううくぅぅ。あうあうあっぅぅ。」
　声をあげ始めた佳乃の唇を塞ぎ、舌を差し入れながら自信にみなぎった腰の動かし方は、若いからできる振り下ろすようなピストン運動を息が切れることなく続けている。


「・・・先輩・・やればできんじゃない。・・・しかし、催眠的な効果って・・・裏を知ってると・・傑作だよなぁ。・・・・ただの龍角散で・・・元気出ちゃったら・・爺さん達みんな・・・年金使って風俗通いだよぉ。」
　画面の中の鈴木は、佳乃の両足を大きく広げ前後運動ではなく、上下運動の振り下ろし気味のピストン運動を、自分の子供の運動会の映像を見つめる父親のような表情を見せている。鈴木の挿入が上手くいったころから、再び佳乃の画面のアクセス数が増え始め２位との差を徐々に広げ始めていた。


　一方、佳乃の自宅での監視を終えた佐々木たちは再び勝の自宅に戻る朝の高速を飛ばしていた。

「ふあぁぁぁ・・・おい、佐々木・・・あの備品ＮＯ２６・・いい玉だよなぁ・・・・あの、猿野郎・・・・今も・・腰振ってんだろ・・くそっ・・・なんだか、旦那が可哀想になってくるなぁ。」
　モバイル型のパソコンを睨みながらの佐々木は、上山の言葉に冷静に反論する。

「そうですか？・・・旦那も意外と喜ぶかも知れませんよ・・・・ほらっ・・これ。」
　そういうと画面を上山に見せる。その画面には昨夜、友之が閲覧したインターネットの閲覧履歴が克明に表示されている。その中には、会員登録したばかりの『ハウスワイフ・スワップルーム』と表示されているサイトが目に付いた。

「なんだ・・それ？・・・・どういうこと？」
　機会に弱い年代の上山には理解不能な画面だが、書いてある内容は程なくして理解でき始めた。
「・・・旦那の趣味かぁ。・・・意外だなぁ。・・・嫁を抱かせて・・勃起させるんか・・・・恐れ入ったなぁ。」
「ええ・・意外と・・ばれても、旦那は喜ぶかも知れませんねぇ。・・・まさか、猿ガキに朝まで犯されてるなんて・・・知っちまったら・・・どっちかなぁ・・発狂して殴りかかるのか？こっそり隠れてズリセン決め込むのか？」
　佐々木は、加山家のパソコンにハッキングし友之の性衝動を一部始終掴んでいた。しかし、この内容を高山ら上層部に報告しようかどうか、悩んでいた。

「佐々木・・おまえすげぇな。・・・そんな力量があったら・・・すぐに上層部に気に入られるぞ・・・・・・なんか、そいった向きの幹部候補探してるって・・高山支配人がいってたぞ。」
「・・へぇ・・・そうなんすっか。・・でも、おれ幹部なんて興味ないし・・・・」
　佐々木の言葉の中に動揺はみられないし上山もそれを察しているほど敏感ではないが、この情報を利用し自らの立場を有利にさせようと思い始めているが、それは友之までもがこの嗜好研修に利用されてしまうのではという、佐々木の理性が行動を抑えようとしている。上山の次の言葉で佐々木のやじろべーは、ある方向に傾いた。

「・・幹部になったら・・あのエレベーターのランプの消えた７階から上にいけるんだろ・・・何があるのか見てみたいよなぁ。」
「えっ・・上山さんも上がったことないんですか？」
「有るわけないだろ・・・幹部、数人だけだぞ上がれるのは・・そらそうだろう、客には中国やらのマフィアやら、アラブの王族、関西や関東の組織の組長やら、はたまた警察幹部までいるんだからそうそう上げてもらえんだろ。」
　最後の一言に、ひき付けられた佐々木は、

「上山さん・・警察幹部を配送したことあるんですか？」
「一回だけあるよ。・・・・なんってったかなぁ・・・・よく最近の刑事ドラマなんかででてくるじゃねぇの・・・・えー・・・そうそう・・・管理官・・・とか・・ちがった、おれが乗せたのは、さ・さ・・・・・さ・何とかだよ。」
　あやふやな答えに業を煮やした佐々木は、先回りをして答えてしまう。

「・・・参事官ですか。」
「そう・・・参事官・・名前は聞かなかったけど・・・参事官って呼ばれてたなぁ。その男。・・・・・・・・おまえ良く知ってるなぁ・・・そんな言葉を。」
「・・ええ・・じつは俺、法学部出身なんですよ。・・三流だけど・・・察になろうかとも思ったんですけど・・・あきらめて・・そんで極道に。」
　いつもは、冷静沈着な佐々木がここまで話すことを意外だと思いながらも上山は、相棒である佐々木を信じきっていた。

「そうか・・おまえ、頭よさそうだもんな。」
「そんなことないっすよ。・・・・おれなんて・・・三流のダメ人間ですよ。」
　と言いながら、佐々木はモバイルパソコンから佳乃の旦那である友之の性癖やら、会員登録したサイトのアドレスなど必要な事項を圧縮し嗜好研修所の金山監視部長宛てにメールを送信した。その送信のアイコンに合わせたポインターをクリックする時、一瞬の戸惑いを上山は気がついていない。

　通勤の学生達が歩き始めた勝の自宅付近を黒いワンボックスは、再びシャッターの前に停止した。昨日とは違った、もう一台の２ｔのパネルバンに佐々木たちは気づきもしなかった。