３９　警察の備品


　佳乃が納品される半年前、神川愛は名前を無くしＮＯ２４として納品された。

　正月が明けテレビ番組が通常の編成に戻る頃、神川愛巡査長（２７）はある通常ではない特別捜査の真っ最中であった。
『社団法人　人材創出セミナー』この組織の違法性を解明し摘発するための証拠集めとして神川愛が、選任された潜入捜査であった。

　ただこの時の潜入捜査はセミナー側のマインドコントロールを使った強引な勧誘方法を問題とし、どちらかというと詐欺的な色の強い捜査であったため、捜査２課が担当する事になっていた。
　そのため上層部の安易な考えで女性捜査員を潜入させてしまうミスを犯してしまった。

　女を備品として変態共の生贄に提供するセミナーだとはしらずに・・・。

　とある大手人材派遣会社から派遣事務員として仕事をし早２ヶ月が過ぎ仕事始めを向かえた愛。
　大きな成果はないが、確実に証拠となる資料を集め始めていた矢先の事。
　派遣社員としては勤務範囲外の教官室に入ろうとした所を指導教官の田口に呼び止められる。

　セミナー内にいる教官の中でも、指導的な立場で幹部クラスの男である田口に呼び止められ緊張が愛の背中に走る。
（・・やばい・なにか・・見つかったのかな。）
「神田さん・・神田さん。ちょっと頼まれてくれないか。」と偽名で呼ばれ、
「・・はいっ・・なんでしょう・・」と感づかれないように答える。
「この資料なんだけど、大島部長のとこに持っていってくれないか。俺、セミナー始まっちゃうから。」
　と１５枚程の資料が入った厚みの袋を渡される。

「大島部長はどこに居られるのですか？」
「それがわかったら自分で持っていくよ。・・だろっ・・だから探して・・ね。頼んだよ。」
　といい終わると、会議室へと向かっていった。

　田口が見えなくなると愛は、
「よしっ。これで館内くまなく動けるわ。最近連絡員にデータが少ないっていわれてたし。」
「ラッキー・・。」
　と資料を小脇に抱えエレベーターで６階へと向かう。
「この建物１０階建てなのになんで６階から上へいけないんだろう。大きな金庫でもあるのかなぁ。」
　と行き止まりの階段室の壁をコンコンと叩きながら進む。ポコポコと少しだけ音の違う場所に当たり。
「あれ・・ここだけ音がおかしい。・・もしかして・・におうよっ。」
　と安っぽい探偵気取りの愛が調子付く。

「でも・・穴あけちゃったらすぐばれちゃうよね。・・後で報告書に入れとこっ。」
　と立ち止まり今度は渡された資料を袋から取り出す。
「私に渡すくらいだから、大した資料じゃないはずよね。・・・どれどれ。」

　愛が袋から取り出したのはなにやら履歴書のようなものであった。しかしどれも女性の履歴書で、丸印や二重丸やらが印され、なかには『コブ付』とまで記入されるものまであった。
「何だろうこれ。・・女の人ばかり・・しかもきれいな人が多いじゃん。」
　といい、携帯電話を取り出し写真を撮り始める。

「カシャッ・・カシャッ」
　静かな廊下にシャッター音だけがこだまする。
「・・・セミナーに出る人かなぁ・・でもおばちゃんもいるけどなぁ、セミナーには。」
　年配の女性や、男性の履歴書がないことを気にしながら首をかしげた時、一瞬背後に気配を感じた。

　その時、
「バチンッ」

　愛は音とともに受身も取れずドサッと廊下へ崩れ落ちた。首筋にあてられたスタンガンが愛を暗闇に沈めた。
「・・やはり・・犬かっ・・いや子猫だなっ。」
　スタンガンを持った田口が呟く。携帯を取り出し大島に連絡する。
「大島部長・・やはりそうでした。・・ええそのまま９階に上げます。・・はい、それでは。」

　田口は愛をＥＶまで引きずりこみ、ＩＣカードを取り出しレコーダーに挿し込む。
　すると今まで消えていたはずの７，８，９，１０の階数が表示された。

　９の数字を押しＥＶの扉が開くとカードを抜き取り愛を引きずり処置室と書かれた扉へ向かう。


３９−１


　処置室では男が二人待っていた。

「やっぱり・・犬やったんかっ。・・・人材派遣は怪しいとおもてたとこやったが。」
「どこまで・・かぎつけとんや・・このおなごは。」
　と大島が田口に問いかける。

　神山愛を簡単に下着姿にすると、横山と田口で開脚椅子へと乗せ、首、両手、両足と皮製の血に染まったベルトで拘束する。
「・・どうでしょう・・でもいつもの尋問でゲロしてしまうんじゃないですか。ねぇ先生。」
　と横山を向き、緊張感なく話しかける。
「ええ。簡単ですよっ。・・・これくらいの女。でも一人じゃないでしょう、この女が。」
「そうやろなっ。・・どうやって誤魔化すか・・それは総帥が一番ご存知やからな。後で聞いたろっ。」
「そや、田口。おまえセミナーへ戻れ、後の事は横山先生とわしにまかせてなっ。」
「はい。それでは・・・お願いします。」
　田口は、それだけを言い扉を開けた。

「先生。わし、面がわれてまっさかい。監視小屋で見ときますわ。」
「そうですね。・・ではイヤホンしますから指示して下さい。・・・マスクもしましょうかね。」
「そうやねっ・・とりあえず。・・・・そんじゃ。」
　と大島も出て行き、横山と愛だけが処置室に残される。

　黒いレザーマスクをかぶり口と鼻だけが露出し、目の動きは殆ど相手からはわからない。
　色々な大きさの注射器、様々な色の錠剤、茶色い瓶に入った薬品などがテーブルに並べられている。
　キツイ刺激臭がする薬品の瓶のふたを開け、まだ気を失なったたままの神川愛の鼻先に近づけた。

「・・・・・・ん・・っん。・・」
　片目を開け、動かない首を気にし手を首にやろうとするが動かない。
「・・な・・・っなに。・・・あんた誰、・・なにしてんの・・離してっ。」
　無言のままレザーマスクに白衣姿の横山が、点滴液の入ったパックを吊るす。
「・・・いっいや・・・なんなの・・ここは・・セミナーじゃないの・・」
　愛から見える時計が記憶していた時間より１０時間進んでいる。気を失った時は朝の９時だが、壁の時計にはＰＭ７時とデジタルな表示がされている。ただ本当の時間はまだ朝の９時を少し回っただけである。
　時の錯覚に惑わされ、疑心暗鬼にさせ神川愛の動揺を誘っているのである。

（あれから１０時間も経っているわ・・・なにかされたの・・・わたし・・ばれたのかなっ）
　何も言わない横山が点滴から伸びる管を手にし、消毒もせずに左腕の肘の内側にブスリと荒く刺した。
　その後同じく、右側にも同様に点滴の管を刺した。
「痛たっ・・・・なに・・なんなの・・そんなのやめなさい。・・はずしなさいよっ。」
　愛の悲痛な叫びをまったく無視し作業を黙々と進める。

　静寂な処置室に無言でレザーマスクの男が薬品を並べ、二つの小さな注射器にラベルに何か書かれた別々の薬品を同量注入する。小さな字で読めない愛に対し入れ終えたアンプルを愛の目の前へ見せ付ける。

「どうすんのよっ・・そんなもの。・・」
　と最初は、ラベルが裏返しのため見えず横山のレザーマスクに隠された顔をみながら息巻く。

　横山はまだ無言でラベルを見えるように空のアンプルを回転させる。
「・・・ブドウ糖液・・・・・きん・・しかん・・・・・筋弛緩剤って・・あんた何考えてんのよ。」
「そんなもの・・打ったら・・死んじゃうじゃない・・殺人罪よっ。」
「警察官を殺したら、ただじゃすまないんだからっ。」と正体を明かしてしまう。


　監視小屋でモニターを眺める大島は、
「なんや・・以外にゲロするの早かったやないか。・・どこの警察やろか・・公安か。」
「公安やったらあんな簡単に吐かないでしょッ。・・どこかの所轄の女ポリですよ。」
　と金山が断言する。
「それに公安部にあんな可愛いのんいませんって。」
　と愛の顔をアップにして大島の顔をみる。
「セミナーの詐欺っぽいやり方の内定捜査かなんかで、潜りこましたんとちゃいますか。」
「どこかの県警か府警か道警か警視庁かしりませんけど。」
「そんな感じやな。・・それでも厄介やな。・・・・・・・・そやこの女ポリ、備品にしてまおかっ。」
　と大島は簡単に結論付けた。

　無言の横山は注射器を手の中でシャッフルしそのまま点滴液の入った袋に注射器を刺し一気に液を押し込んだ。
「やっやめてー・・・殺さないで・・お願いだから・・・し、死にたくないっ。」
　２つ別々に刺し、どちらがブドウ糖でどちらが筋弛緩剤か横山にも判別できなくなる。

　刺し終えた注射器をゴミ箱へ放り投げ、愛の開脚させられた足の間、隠された陰部の前へと椅子を置き座る。点滴液は後で入れられた薬品とまざりチューブの真ん中のペースを決めるストッパーで止まる。

「・・・ぅうううううっ・・いっいや・・しし死にたくないっ・・・・はずして。」
　泣きじゃくる愛を気にせず、何も言わない横山はステンレス製のメスを取り黒い下着の腰にかかる部分を切断する。
「・・・・いっいや・・な・・なにすんの・・み・・みないでよっ。」
　ハラリと下着がはずれ、神川愛の陰部があらわにされ横山は無造作に襞の薄めな小陰唇を開く。
「い・・いたっ・・」
　産婦人科で見慣れているはずの若い女の生殖器への興奮を抑えながら、洗浄もせず潤滑もさせずに大きめのクスコを回転させながら膣の奥深く挿入する。
「・・・・もう・・・やめて・・・はなして・・いいいいいいいったっ・・」

　深く沈めこめると金具をクルクルと回しコーヒー缶が入る程度まで赤くぬらつく膣口を押し広げた。
「いいいったいっ・・・っううもう・・いやっ。」
　横山は白衣の胸ポケットからペンライトを取り出し、神川愛の膣奥に隠れる子宮口をのぞく。
（キキキッ・・・医者の私は騙せんよ。ほれほれ、つぶつぶの膣襞から白いお汁が湧き出してるよ。）
（人間は死を覚悟した極度の緊張が、脳への一番の媚薬なんだよっ。・・よく味わえよ、お巡りさん。）
　レザーマスクの内に隠された医者の脳が騒ぐ。