３９−４

　県警本部の捜査２課にある電話が鳴ったのはその日の夕方だった。

「はい。捜査２課長の青山ですが、・・小池参事官殿！・・・ご無沙汰をしております。」
「・・・・・・はい、ええ現在その案件には取り掛かっておりますが・・・・なにか？」
　と青山警視は警察庁上層部からの直接の電話に困惑しながら、

「・・・はい。・・なんですって・・そんなことが。・・・はい・・・神川巡査長は潜入しているはずですが・・・・薬物なんて・・まさか。」
「はい。・・・・そのように・・対処いたします。・・ええご面倒をお掛けいたします。」
「・・・ええ。申し訳ありませんでした・・・・失礼いたします。・・・・ガチャン。」
　と青山は呆然としながら、受話器をおいた。

「笹山係長、ちょっといいかな。」と目の前に座る男に声をかける。
「何でしょう？青山課長・・・・先程の電話は・・・。」
　笹山と呼ばれる男はこの２課の係長で、肩書きは警部である。３０代前半のやり手でいくつかの潜入捜査に起用され、たたき上げで若くして警部まで上り詰めた警察官である。

「参事官からでね。・・君がやってるセミナーの詐欺事件に関することなんだが・・。」
「なにか問題でも？・・・まだあまり資料は整っていませんが・・必ずしっぽをつかみます。」
「・・いいや。そうじゃないんだっ。・・・降りてくれないか。・・・その捜査。」
　２課長の言葉に唖然とする笹山。

「えっ、どういうことですか・・なにがあったんですか。」
「・・・１つまずいことがあってね。・・・所轄の捜査員いただろ潜入させた・・神川巡査長な。」
「はい、神川巡査長ですが。彼女がなにか。」
　咳払いをし、耳打ちをする。

「神川巡査長に家宅捜索令状が出てるんだよ。麻薬取締法違反で・・・・。」
「・・なんですって・・・そんなことって間違いじゃないんですか？・・・・青山警視。」
「・・・いや・・もうすでに、押収されたそうなんだよ。・・・自宅から。薬と葉っぱとポンプが。」
　笹山は事の真相がわからぬまま、神川愛の携帯をコールする。

　しかし愛の携帯は留守電になったまままったくつながらない。
「・・・おい・・でろよっ・・・神川っ。」通話を遮断すると次に、
「・・・・人材創出セミナーさんですか。・・私、コピーの修理を依頼されました佐々木といいますが・・・総務の神田さんおられますでしょうか・・・・・・えっ？」
「・・・はい・・帰られた？・・朝来るとすぐに・・・病院ですか・・・わかりました。・・・」
　愕然とした笹山は、捜査への一抹の不安と神川愛の身を案じ天を仰いだ。

「そういうことなんだ・・・神川巡査長のことは小池参事官が対応するらしいから・・ね。」
「いままでの捜査は、なにもなかったことに・・・・わかるだろ、君も。」
「・・・・・・・・。」

　笹山警部は何もいえず唇を噛み締め机を拳で殴った。机の上の捜査資料だけがガサガサと下に落ちる。


３９−５

　下半身を剥き出しのまま開脚させられ、横山の手により子宮口に海綿棒を差し込まれてから１０時間が経過する。

　照明を落とされ闇の中おとなしく目を閉じたままの神川愛に、マグライト片手に横山が近づいた。
「・・・誰っ・・・もうすぐ・・捜査員が踏み込むわよっ。・・連絡しないままにしてるからっ。」
　とそんな確証もないが、精一杯の強がりを言ってみせる。

　マグライトを点灯させその光を暗闇の中の神川愛の顔を照らす。急なまぶしさに瞬きを多くし、その後レザーマスクの横山に目をやる。
　すると、室内のスピーカーから大きな声が聞こえる。それは絶望の響きであった。

「騎兵隊はやって来ないよ巡査長殿。・・いや元巡査長かなぁ、残念だったねぇ。」
「なな・・・なに言ってるのよ。」
　と、愛は動揺を隠せないでいると、間髪いれずに見知らぬ声が、
「・・これから君には、３つの選択肢をあたえよう。一度しかいわないから番号で答えたまえ。」
「・・まっまって・・。」と声を制止するが聞き入れない。

「１番・・このまま解放され麻薬取締法違反の所持及び同行使で逮捕され懲戒免職し刑に服す。」
「・・・ななっなにどういうこと・・・」
「２番・・・警察官としての職務を放棄し我々の仕事に完全に協力すること。」

「３番・・・・・そのまま全てを拒否し残りの左手に点滴液を血管に流し込み、絶命したその後、医学生の解剖実習用の検死体として提供され全ての臓物をホルマリン漬けにされる。」
　愛の心音が極度に高まりライトに照らされる顔が小刻みに震える。

「・・・さあ、選びたまえ・・五秒間だけあげよう。・・・１・・２・・。」
　とカウントダウンが始まるとすぐに、
「・・２よ・・・２しかないじゃない。・・・悔しいけど協力するわ・・なんでも。」

「よろしい。・・なかなか現実的な判断だっ。・・・では君にはプレゼントをあげるよっ我々の備品になってくれた祝いだ。・・受け取れ。」
　と言うとすぐに、レザーマスクの横山が左側の点滴液のストッパーを外し愛の血管に流し込んだ。
「・・いいいいいっやー・・・・はなしが・・・・ううう・・ち・・・が・・・ううっ。」

　神川愛は、点滴液の流れを見ながら自分の死を覚悟し涙をこぼしながら両方の目を閉じた。



「先生。上手くいきましたなぁ・・備品はどのくらい眠ってまんのん。」
　横山はマスクを取り去り、
「ええ、恐らく６時間は目を覚まさないでしょう。」
「よっしゃ。神崎組長・・組の地下拷問部屋につれてきましょか。・・そこで目ぇ覚ましたら地獄におちたとおもうかもしれまへんでぇ。・・・ハッハハ。」
「・・よろしいで。うちの若頭の木下がこのおなごに因縁ありましてな。あいつやっと復讐できるゆうて、よろこんどりましたからな。・・・恐ろしいやろなあいつの責めは。」
「・・・ほう、あのデカ魔羅の木下さん。・・たいへんだこのおなご・・。」
　画面のなかでは、拘束がはずされ目隠し、猿轡、後ろ手錠をされた神川愛が大きな麻袋に無造作に入れられている。

　部屋に戻った横山が、
「神崎さん、お久しぶり。」
「おおう。横山先生、あんたの名演技振りには感服しますわっ。」と横山に対し指を挿し笑みを浮かべる。
「ところで・・・あの女捜査員にある仕掛けをしてるんです。」と意味深げに言う。
「ほう・・・どんな仕掛けですか。」

　横山は、神崎にデジカメを見せ説明する。
「・・・なんですかこれ・・先生。」
「これは、あの女の子宮口の画像です。・・何か刺さってるのは、海藻で出来たラミナリアというもので出産前に妊婦が子宮口を開きやすくする為のものを処置しときました。」

「・・・ほほうっ。それでっ。」
「今のところ挿入して１０時間ほど経ちましたので・・若頭がお楽しみになる頃には・・だいぶ子宮口が開いていると思います。」
「・・・・・・。」
「ですから、挿入前にクスコで拡張し抜き取りますと、・・・若頭の大きな物で・・ウテルスＳＥＸが、可能になるはずです。・・・キキキッ。」
「ウ・・テルス？なんですかそれ。」
　キョトンとした顔をした神崎に、
「・・・子宮口での交尾ですよ。日本語で言えばね・・・。」
「・・そんなことが出来るんや。・・ええな。」
　と神崎は自分の粗末な物を握り締め、木下への嫉妬を見えないよう隠す。

　そんな言葉の後、麻袋に詰め込まれた女捜査官は、トランクに放り込まれ神崎組の地下へと護送された。