| ５１ もう一方の監視 「あまり・・・突っ込みすぎではないのか。このタイミング、君の潜入からの時間を考えても・・・上層部への探りは・・時期尚早。・・・・・危険ではないのか？」 「急いては事を仕損じる・・ってとこですか。」 「冷静な対応こそが・・・君の最大のハードルだからな。・・慎重にと思って・・・。」 「わかっております。・・・しかし・・早く手を打たないことには・・・彼女の・・安否にも。」 「そうか・・巡査長は、君の部下だったな。・・それとも・・？」 「・・そ・・そんなことは・・ありません・・・。」 「すまんすまん。・・・緊張感の中にもユーモアを・・・が、わしの考えでな。・・・許せよ。」 「いえ・・・いいんです。」 「どんなことがあっても・・彼女の・・元気な姿を・・・・・・だな。そのためには・・少しの犠牲は、考えておかなければならん。・・その・・奥さんの協力も・・・その一つ。」 「ええ・・・彼女には悪いんですが・・近道を探すと・・・どうしても。」 「利用して・・ポイってことには・・したくはないが、・・・万が一にも君や・・我々の動きを悟られることがあれば・・・わかってるだろう。」 「ええ・・潜入の維持には・・多少の犠牲は覚悟の上です。」 「いい心がけだ。まぁ・・なんにせよ、狙いは単なる売春防止法違反容疑や逮捕監禁罪ではないのだから・・・・・」 「・・・巨悪・・・ですか・・・狙うべき者は・・・。」 「そんなとこかな。・・・・・長話も・・・これくらいにしておこうか。次の報告も、・・君から入れたまえ・・・・それまではこちらからは行なわない。」 「はい・・。」 「・・・・プー・・プー・・プー・・・。」 受話器をおいた公衆電話のボックスの中は、朝方とはいえ蒸し暑く額の汗を拭いながら外に出た。上山のいないいつもと違った黒のセダンは、加山佳乃の自宅から少し離れた公園の入り口に止まっていた。 嗜好研修所から休みを言い渡された佐々木は、個別に大島の動きを探り、とある地下鉄の入り口から乗せた老人と大島を尾行していた。懲罰研修を行うことは指示をした佐々木も知ってはいたが、内容、嗜好会員の素性までは知らされていない。それは、まだ佐々木への信頼性の裏返しであろうと自身でも感じ取っていた。 「俺達を近づけないって事は、あの老人・・どうもＶＩＰか。・・住所を・・探っておけば・・・いい証拠集めになったんだろうが。・・・・・・・」 公園の入り口のバリケードに尻をつけ座った佐々木は、腕組みをして佳乃の自宅を睨みつける。すると、静けさの集まる早朝の公園に、緊張した音が鳴り響く。 「ウーーーーーー・・・・。」 短めのサイレンを鳴らした早朝のパトロール中であろうパトカーから自動車警ら隊員が降りてくる。佐々木はピクリともせずに警官の動きを待った。助手席から降りてきた若い方の警官は、職質の体勢を整える。佐々木と同年代であろう巡査長が背後から職質をする。 「警察です。・・こんな時間に・・どうしたの？・・・だれかと待ち合わせ？」 もう一人の巡査部長は、助手席のパソコンを覗きながら佐々木の止めている車のナンバーを打ち込んでいた。 「・・いえ・・べつに。・・・なんでもありません。・・少し、休憩で。」 佐々木は、佳乃の家の方を視線から反らすと巡査長の顔をみた。 「こんな時間に・・休憩？・・・お酒でも飲んでる？・・・ハァーってしてもらえるかな。」 「ハァァァー。・・・飲んでませんよ。俺・・酒飲めないし。」 「・・そう見たいだねぇ。・・・ちょっと身分証明書みせてくれるかなぁ。・・免許証とか？」 「・・・これでいいかい。」 巡査長は、免許証を受け取り名前をみていた。 「・・・・・はい・・で・・・職業は？」 「・・・・・・。」 ＰＣの助手席で巡査部長が調べている内容を遠くからでも判断がついている佐々木は、何も答えず無言で時を稼ぐ。 無言でしかめ面をしていると、巡査長は不信感がつのり始めパトカーの後部座席へと誘導しようとした。 その時、ＰＣの中からあわてて出てきた上司であろう巡査部長に耳打ちされた巡査長は、免許証を見直しながら、耳打ちされた名前と免許証の名前が一致したことに反射的な行動を取った。 「申し訳ありませんでした。・・・警部どのっ。」 民間人に挨拶程度の敬礼ではなく、本格的な警察的な敬礼を佐々木にしてしまう。 「・・おい・・おれの身分・・判ってるならその・・敬礼はやめてくれ。・・事案が・・ばれちまう。」 「す・・すいません。・・・それでは・・失礼致します。・・・」 ナンバープレートからある程度の情報を得た所轄の警察官は、組織としてはあるまじき行為をしてその場を立ち去った。佐々木は、自分の動きをこれ以上悟られなきようセダンに乗り込み、移動をはじめ、大島らの監視を中断した。 サイレンの音に気づいた大島がカーテンの隙間から見ていたが、全ての動きとそこに漂う空気感を感じ取っていたかまではわからない。 |
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| 2009.10.17掲載 |
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