| ６１ 少し前の記憶 忌まわしい記憶しか残っていない人材創出セミナーのロビーを抜け、前回と違う関係者用控え室へと足を向けた佳乃。 「ガチャッ・・・・失礼いたします。」 「あなたは？」 椅子に座り書類を整理するスーツ姿の女性が佳乃に視線だけを飛ばし質問する。 「か、加山・・佳乃と・・申します。・・大島・・とっ・・ぶ、部長に呼ばれ伺いました。」 「あぁ・・・やまもと不動産の・・・よろしく・・・私は、大島の秘書をしております・・桧山です。」 「あっ・・よろしくお願いします。」 「加山さん・・生憎だけど・・大島は二日ほど出社いたしません。・・なにか、葬儀が入ったとか、不幸があったようで・・・。」 「えっ・・・・不幸・・ですか。」 「そうなの・・・私にも連絡せずに行かれたので・・私用の方とは思うんだけど・・・。」 葬儀という言葉に、昨日の夜の事を思い出し、気になっていた横山のことではないかと気を病む。 「あなたが暗い顔することないわ・・・それとも知り合いかしら？」 「い、いえ・・・。では、今日からのことは、どなたに・・お聞きすれば？」 「そうそう・・金山さん・・・金山さん。」 「はいっ・・・・あぁ・・・あなたが加山さんですか？・・・大島から聞いております。」 「はじめまして・・・か、加山佳乃です。」 「さっさっ・・・時間もないことです・・・・打ち合わせを・・・そうだなぁ、桧山さん・・・部長の部屋借りてもいいかなぁ。」 「ええ・・・構いません、というよりも・・・大島からそうするよう、連絡をもらいましたので・・鍵は開いています。」 「そりゃぁ・・どうも・・さっ行きましょ。」 「それでは・・失礼します・・桧山さん。」 「・・・では、がんばってください・・・・・・・備品女さん。」 金山の後に続いて歩く佳乃の耳には、桧山の最後の言葉は扉を閉める音にかき消され届いていなかった。 「加山さん・・大島部長とは、どういうお知り合いで？」 「え、ええ。・・一度、ここの研修に参加したときにお世話になりまして・・・それから。」 「へぇ・・・あの人が選ぶ人は美人が多いんですよ、お世辞じゃぁなくて。どこから、こんな美人を連れて来るのかって、社内でも・・・七不思議の一つなんです。」 「そ、そんなことありません。・・・・。ところで大島部長は、・・・どちらの葬儀に？」 「私も、はっきりとは聞いていないのですが、確か古くから世話になった、医者の方だと・・聞きました。」 「・・・い、医者・・の・・・お名前は？」 「・・そこまでは・・・どうしたのですか？そんなに気になります？」 「いえ、医者の方でも・・亡くなるって・・・やっぱり、みんな人間ですものね。」 「そうですよ・・・みんな人間です。・・・どんな人間も・・煩悩やら欲望の塊ですよ。さ、着きました・・お入りください。」 「・・し、失礼します。」 佳乃は、嗜好研修所に落とされたあの時と同じ大島の部屋に入るなり、当時と変わらぬたたずまいに体が鉛のように重くなる。 応接セットに腰掛けた金山は佳乃の対面に浅く座り、佳乃は自社の制服に身を包み膝頭をつけ深く腰掛けた。金山の視線を遮るように手を隙間に置き、嫌々ながら穿いている横山式下着を覗かれないように気をつけた。 「それでは・・・加山さんの・・今日からのお仕事を説明します。」 「よ、よろしくお願いします。」 「とりあえず・・アルバイトということですので、・・・・」 時給やら、勤務形態のことを説明されている間も、金山の視線は佳乃のスカートの隙間から離れず資料を落とし拾い上げる瞬間に覗き込もうとする姿がわかった。 数分のオリエンテーションを終えると本題に入り、金山が小声で話し出す。 「ここからが本題です。・・・・加山さんは、当研修所の・・さくら、です。」 「えっ？」 「驚かれると思いました・・・そうなんです。研修のなかには、こういったサクラのかたも必要悪として入っていただいてるんです。」 「ほ、本当ですか？」 「ええ・・・少し前に、ある事件がありまして・・・」 「ど、どんな事件ですか？」 「・・言いにくいのですが・・・ある、研修生の男性が自殺を図られまして・・・・当研修所の管理体制が、問題になりました。」 佳乃の事件を遠まわしに金山はいうが、佳乃の脳裏には忘れかけていた事実が鮮明に蘇る。金山の口ぶりから佳乃自身が関わったことは伏せられていると確信し、話を合わせ聞いていた。 「・・・それから・・・槍玉に挙げる人物を・・こちらからサクラとして受講させるようになったんです。・・・そうしないと、弱い心の持ち主では・・責めに耐えられないであろうとの判断で、大島らが苦肉の案で考え出したそうです。」 「・・・・。」 「ここまでは宜しいですか？」 「は、はい。・・では、わたしは・・？。」 「言いにくいのですが・・・槍玉に挙げられ・・講師たちに罵倒される役柄です。それを、加山さんのグループに援助の手を差し伸べさせる・・・・と、いった感じの・・連帯感を共有する研修システムに移行したんですよ。」 「・・・・。わたしたちの・・受講したときも・・サクラは？」 「いえいえ・・・あの事件以降ですから・・・加山さんは・・・その以前ではなかったですか？」 「・・は、はい。・・そうだと思います。」 確実な日付を金山から聞かずして納得した佳乃の返事に金山は吹き出しそうになった。 「それと・・もう一つ・・・重要なことが・・・・。」 「・・・・なんですか。」 「ここから先は・・私どもの知りえる範囲ではないのですが・・・必ず、隣に座る研修生と密な関係になることと、その日の研修終了時に大島から、直接サクラの方に連絡が入ると・・・聞いておりますので・・・携帯からの指示に従うようにとお伝えしておきます。」 「・・・わ、わかりました。」 「では・・研修がはじまります。・・・・くれぐれも内密にお願いします。」 佳乃は、ソファに腰掛けたままの金山に一礼をし立ち上がる。金山の視線は佳乃のスカートの隙間から、スカートに包まれた臀部に写る下着の跡を視姦していた。 立ち上がり食い込んだ下着を直すことはなかったが、プラグが気になるのか臀部の辺りをしきりに触って研修会場へと向かった。 おもむろに携帯を取り出した金山は、大島にウキウキ気分で連絡をした。 「部長・・・・金山です。・・・ええ、来ました。・・・恐らく装着して来てます・・・いえ、見ませんけど・・私の嗜好・・ご存知でしょ・・・・透視も可能ですよ・・・へっへっへ。」 「・・・まったく・・・気付いてないようです。・・・ええ、まだ人材創出セミナーと嗜好研修所が、同じビルで・・・同じ人間が組織してるなんて夢にも・・・思ってないようです。」 「・・・今日の備品ＮＯ２６の相手は・・・誰ですか？・・・・えっ・・・児島代議士の・・・ご子息・・・・・ほう・・・４０過ぎて童貞ですか・・・楽しめそうだ。」 「部屋の・・・カメラの調整・・急いでしておきます・・・では。」 |
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| 2009.11.21掲載 |
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