| ６２ サクラデビュー 「・・本日のカリキュラムはこれで終了だ。」 「ありがとうございましたっ。」 軍隊的な礼を叩き込まれた研修生たちは、講師である田口に皆がそろって頭を下げている。その下げた頭は、田口が立ち去るまでつむじを向けたままぴくりともしない。 「ガラガラ・・・ピシャッ」 「ふぅぅぅ・・・。」 ２０人余りの研修生は、一様にため息をつき、その深さが朝から続いたカリキュラムの過酷さを物語っている。 「・・・きついなぁ。」 「・・・俺、帰りてぇよ。」 「・・・ばっくれっか・・皆でさ。」 佳乃の回りにいる同年代の男たちは、逃げ出す相談をはじめている。以前の研修とはうって違い、人格否定を散々にされ、若い反発心のある若者たちは全てといっていいほど打ちのめされていた。 「でも、・・・女性に言う言葉じゃぁないよな。・・・あんな言葉をさ。」 「・・・・・。」 「加山さん・・・大丈夫？」 「・・・えっ・・ええ。・・だ、大丈夫です。」 「俺、なにも反論できなかったけど・・・児島さんが、・・・俺らの代弁してくれたっていうかさ。」 「・・い、いやぁ・・私は、そんな意味で言ったわけじゃないよ。」 「・・いえ・・児島さんのおかげで、乗り切れました。・・・ありがとうございました。」 佳乃は、グループの中でも一番うだつのあがらなそうな中年男に、椅子から立ち上がり頭を下げた。 「・・・お礼なんて・・・いいですよ。僕もちょっと、あの教官に・・賛同できないとこがあったら。」 「ほ、本当に・・・ありがとうございました。」 何度も頭を下げる佳乃の胸元をチラ見しながら、まんざらでもない顔をしている児島。その児島を誘い入れる事を至上命題にさせられた佳乃。二人の長い夜はこれから始まっていく。 鍵を渡され皆がバラバラに行動をし、研修所の一室には、顔を塞いだ佳乃が一人残る。 「ガラガラ・・・・。」 「・・加山さん・・・どうしました？」 児島は、忘れ物を取りに戻ってきた。その、忘れ物も佳乃が配り損ねた宿題用の資料だった。 「・・あっ・・児島さんに・・渡し忘れてました・・・ご、ごめんなさい。」 「いやぁ、僕が確認してなかったから。」 「・・・それよりどうしたの・・・元気がないようだけど。」 「・・・ふぅ。・・・さすがにあれだけ言われると凹んじゃいます。どう反論していいのかわからなくて・・・そこをまた指摘されて・・その繰り返しなんです。」 「・・・気にしないほうがいい。・・・あの人たちも仕事なんだし。」 「じゃぁ・・明日もあるから私は、これで。」 佳乃に興味を示してはいるもののこの歳まで女に触れられたことのない児島は、誘いをかけることなく、この場から立ち去りホテルの一室のビデオ鑑賞でもしようかと意気込んでいるように見える。 「・・こ、児島さん。・・・お部屋は何号室ですか？」 「えっ・・・６０６・・だけど・・・なんで、そんなことを。」 「・・お礼がしたいんです・・・・・・。」 「いや・・・いいよ・・気にしなくても・・・ね・・じゃあ。」 「あっ・・・・。」 照れ笑いをするでもない児島は、顔を赤らめながら研修室を立ち去った。佳乃から受け取るはずの資料を忘れたままで。 「・・・どうしたらいいの・・あの、男と親密になれっていわれても・・向こうに拒否されたら・・・・どうしようもない。」 あたふたとしているうちに時間は過ぎ、研修終了から一時間が過ぎていた。 「大河内さん・・たちなら・・・打ち解けれるのに・・児島さんは・・・女性経験が少なそう。」 サクラであった大河内らの企みを知る由もなく佳乃は、児島を落とすことに四苦八苦していた。その時、携帯のメール着信音がなり画面を見ると、佐々木からである事がわかる。 『大島特級嗜好会員さまからの伝言。・・・児島の部屋に行き、一晩中掛かってでも彼との交尾を成し遂げる事。交尾をしたかどうかは翌日の児島への聞き取りで明らかにする。彼から交尾をしていない事を告げられた時は・・・みなまで言うまい。』 残酷なメールは、いつもどおりだが予想を超えた児島への聞き取り部分は児島次第ということで不安がよぎる。だが、佳乃には児島との交尾を成し遂げない事には再び、家族への不安が心に刺さり、次の自らの行動を促されていた。 「・・・わたしが・・しないと・・パパたちが・・・。」 |
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| 2009.11.25掲載 |
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