寝苦しい夜は通り過ぎ、人肌恋しい風が吹き始めた頃。備品女の行く末を誰かが勝手に決め始めていた。

「佐々木・・・着いて来い。」

「はい・・・。」
　どこへ行くかを聞かぬ佐々木は、前任者の金山よりも信頼が厚く、大島の行く先々の情報を脳裏に焼きつけていた。

　車の鍵を渡されると後部座席のドアを開け、大島が乗り込むと運転席に回りエンジンをかける。身のこなしの早さも金山にはない動作で、大島のイライラを最小限に留めていた。

「いつもの所で・・・？」

「いや、・・・カーナビの目的地・・・そう・・一番下だ・・・。」

「・・・ここですか？」

「そうや・・・ナビ通りにいったらええ。」

「・・・・はい。」
　佐々木のファイルにはない新たな領域は、その街に住む者すら足を遠ざける暗黒の街並み。今まで行かなかったほうが不思議にさえ感じるその領域に、ナビの指示は的確に針路を告げている。

　走り始めて３０分が過ぎ、都市高速を下ると一般道を抜け、路上駐車の車が目立つ片側２車線の道を進む。夕暮れ過ぎなら幾度も信号待ちをさせられるその道も、９時を過ぎた頃にはスムーズに進む。

「大島部長・・・今日は・・・？」

「気になるか。」

「えぇ・・・初めての場所なので・・・。」

「いつも、無口なお前さんが聞くねんから・・・何か・・ピンッときたんやろ。」

「・・・。」

「まぁ・・教えたろ。・・・今日はなぁ、臨時の納品日なんや。」

「臨時？」

「あぁ・・・いつもは、毎年クリスマスの日に落札された備品を納品するのが決まりやけど・・・今日の３人は特別なんや。」

「・・・。」

「まぁ・・着いたら、お前も一緒にくるんや。」

「はい、で、私は何を・・・。」

「行ってからのお楽しみや。」
　その先からは、ナビの音声だけが車内に木霊し、無機質な音質が緊張感を煽る。

「そこの・・・倉庫・・・そこに入れ。」

「・・ここですか？」
　数人の若い男が大島の車を見るなり、無言で手招きをし、誘導をする。辺りにうろつく浮浪者や、安酒をかっくらった労働者達を追い払い、車を横付けした。

「頭がお待ちです。」

「車・・・頼むわ・・・運転手も連れて行くから・・・。」

「へぃ・・・・。」
　眼光鋭い男は、佐々木に視線をやり軽く頭を下げた。大島のお供でなければ、数人の若い男に囲まれ無傷では帰れないのが、この街の掟。よそ者を排除しようとする免疫構造は、警察をも近づけることのないその街に佐々木は、足を踏み入れた。

　大島の後ろ１ｍを、視線だけを動かしその構造を叩き込んでいる。監視カメラ、扉、通路幅など、役に立つ情報を克明に焼き付ける。が、その扉を開けた瞬間、飛び込んでくる光と光景に全てが吹き飛ぶほどの衝撃を喰らった。

「うぅぅぅ・・・・あぁぁぁ・・・」

「あぁぁぁ・・・いぃぃぃくぅぅぅぅ・・・突かないでぇぇ。」
　幾度かの嗜好研修を目の当たりにしていた佐々木も、今回ばかりは持ち前の冷静さを失いかけていた。見知らぬ女なら心を通わせることを遠ざけられるものの、身内と思しき感情は体に染つき離れない。

「・・ぶ、部長。」

「気になるか・・・本物や。・・おまえも、裏稼業にいた身なら痛快やろ。」
　目隠しをされているが、階級章から見出せる歳の若さが佐々木の心に痛烈な一撃を喰らわせた。

「・・・。」

「なんや・・・佐々木・・・固まって。」

「・・あっ・・すんません。・・・面食らって・・・。どこの・・・警察で・・。」

「・・この二人は・・・川向こうの県警や。」

「捜索・・・してるんじゃ・・・」

「どうかな・・・闇から闇・・・そんな具合やろ。うちの用心棒さんが手配すればなぁ。」
　大島の言葉の用心棒に理解できず、佐々木は両並びに犯される二人の若い女性巡査達に目をやった。食い入るように制服の胸に付けられたバッチのナンバーを記憶しようとするが、覆いかぶさる入墨姿の男に邪魔され読み取れない。

「自らの手錠で拘束され、出所したての・・はちきれんばかりの警棒で犯される婦人警官。」
　そう呟くと、大島のスラックスは大きくテントを張り、大島の性的嗜好の一端が垣間見れる。その大島は、自らと同じ感覚を、同席させた佐々木の股間に手を当てる。

「佐々木・・・お前も・・興奮しておるんか・・・。」

「・・。」

「そや・・お前は男色やったなぁ・・・務所上がりの男のほうが・・・好みやな。」

「え、えぇ・・・。」

「今度なぁ・・ええ機会がある・・・お前好みの優男・・・それ、あてごうたるからな。」

「・・・。」
　大島の言葉に軽く頷いただけの佐々木は、再び犯される二人を凝視する。顔の判別は、視線を覆われている目隠しで出来ないが、後日の捜索に役立てるがために数字だけを追い求めた。この場の数人だけであれば、この二人を救出するのは分けないが、その先に巣食う巨悪という岸本の言葉が脳裏を揺さぶる。

「この二人を・・・どこかに？」

「そうや・・・今日・・新潟に発送する。」

「新潟？」

「かの国の・・貢物でな・・・まぁ、いわばサンプルといったとこやな。」

「かの国？・・・ま、まさか。」

「その、まさかやな。」
　大島の得意満面の顔と皆まで言わぬ口ぶりからある海を挟んだ隣国の独裁国家が思い浮かんだ。喘ぎ苦しむ若い巡査たちはこれから続く苦しみを知らず今そこにある苦痛から逃れるだけの叫びを腰振る前科持ちに発している。

「ぬ、ぬいてぇぇ・・・あぅ・・あぅぅぅ。」

「中は・・・中はだめぇぇぇぇ。」

　二人の拒絶の絶叫は変わることなく続き、今あるこの危機は園児のお遊戯に過ぎぬことを後に知ることになる。

　腰を振り続ける二人の男の尻が引き締まり、絶頂に達したその時、大島はその場を離れた。その場で待つように言われた佐々木は、タバコを差し出し入墨の男に声をかける。

「兄さん方・・一服つけたらどうだい？」

「お、すまねぇ。おいっ・・・掃除だっ。」
　制服のスカートを腹巻のようにさせられ、両の手を手錠で絡められた女性巡査から抜き去った陰茎を、ぽかりと開いた口腔に差し入れる。その様は掃除とは言い切れず、ただ拭い取るだけの雑巾と仮した舌先に擦り付けていた。

「あうぐぅぅぅぅ・・おうぇ。」

「２０回もやれば・・・わかんだろっ・・・そうだ・・そうそう。」
　二人とも咽喉元に跨り、陰茎の汚れを舌先で拭い取らせると、その場に跨りながらタバコをふかす。

「ふぅぅ・・うめぇ・・・女ぁ転がした後にやるタバコは・・・なんともいえねぇなぁ。しかもその女が・・警官ときたら・・・務所の三年なんて・・・もう一度入ってもお釣りが来るわ。」

「へぇ・・三年もかいっ・そりゃぁご苦労さんでした。傷害か恐喝・・・そんなとこかい？」

「いいや・・・俺は何もしちゃいねぇ・・・兄貴のためさ・・・木下の。」

「木下？・・・」

「神崎の・・・若頭だよ。しらねぇの。」

「あぁ・・・し、知ってるよ。」
　入墨男の気を引きながら佐々木は、胸元を肌蹴た警官に近寄り、ナンバーを読み取る。

『・・３・６８９』

　胸元を覗き込んだ佐々木に入墨男はニヤケ面で、眉を緩める。
「・・・お前も・・気になるかい。・・・この巡査・・・可愛そうに・・・学校出たてのサラピンさ。なぁ、１９のお○んこに俺の垢まみれが最初たぁ・・・南無三。」

「うぅっ・・・うぅぅ。」

「お前のはどうだったっけ？」

「俺のは・・・そいつの教育係ですぜ・・・男をしってましたよぉ。・・・後輩思いの・・巡査長。・・・涼子さんだよねぇ。犯され始めの時なんて・・・そいつを庇って・・・俺ら二人を相手にするなんて、息巻いたけど・・・尻の穴犯されそうになって・・・なぁ。」

　男は最後まで言わず、巡査長の髪を鷲づかみにし、嫌悪の反応をみせる涙顔をもたげさせた。

『３・・４２・・６』
　上半身を持ち上げると容易にナンバーを確認することが出来る。涼子と言われる巡査長の胸元も後輩巡査と同じくはだけ、色身の薄い乳首が男達の唾液にまみれ屹立していた。

「お兄さん方・・・確か・・ここには・・３人居ると聞いたが・・もう一人は見あたらねぇけど？」

「あぁ・・・ボテ腹の巡査長ね。・・・あれは・・・若頭と一緒に・・・。」

「・・・おい、おめぇら・・・ガチャガチャいってねぇで・・・自ら腰振るまでに仕上げねぇか。」
　怒声が響くと、二人の男は萎えかけた陰茎を再び巡査らの唇をこじ開け咽喉元をを犯し始める。冷静に振り返った佐々木は、声の主木下に一礼をし、大島の後ろに下がる。

「お久しぶりです・・・・。」

「んっ・・面識があるのか？」

「大島さん・・・こいつは？」

「わしの直属でな・・・佐々木いうんや。佐々木、久しぶり言うことは、若ぁ・・・知ってるんか。」

「えぇ・・覚えていらっしゃらないかと思いますが、桜田の・・・親分の葬式の折に・・・一度。」

「ほぅ・・・悪いが覚えてないなぁ・・・いやいや、すまん。これからはよろしゅうにな。」

　大島は二人の挨拶を見終えると佐々木の肩を叩き、これからの手順を明かす。

「今日はな、新潟までこいつに運ばそうとおもってんねん。・・・３備品を。」

「うちの若いもんに運ばせますけど・・・。」

「いやいや、こいつ色々鼻が利きよるし、神崎の若い衆やったら・・・あの車・・・目立つやろ。」

「そうですねぇ・・・赤いのが上についてますから・・確かに、違和感あります。」

「・・・？」
　佐々木の中の疑問は、数秒で解けた。恐らく警察車両を使い巡査達を新潟まで運ぶ算段であることに、３人の行く末と、巨悪への抵抗を天秤にかける時が間近なことを実感させられた。

「こ、これからですか。」

「なんや、佐々木・・用事でもあるんか？」

「い、いえ・・・。」

「用心棒の先生のお楽しみも・・あと１時間位か・・・日付が変わる前には出発するからなぁ。気合入れて犯し続けろ・・・いいな。」

「へいっ。」

「いやぁぁぁ・・・」

「あぁぁぁぁぁ・・・・・。」

　木下の号令の後に続く二人の拒絶と快楽の声は大きく重なり、もう一人の巡査長にまで届いていた。