| ８１−１ 「ご苦労様です・・・横山先生。」 「あぁ、備品１２いやいや、桧山秘書。・・・これはこれは、今日は当院に何用で？」 「えぇ・・備品２６加山佳乃を受け取りに。」 「ほぅ・・・あなたが、備品２６の管理者で？」 「そうです。・・・今回出品の他の備品は、妊娠が確認されたり・・・逃亡の恐れがないくらい、従順になっているので・・・監視員達で管理を。」 「そうですか。・・・だいぶ、あなたの調教が良いのか、完全に棘を抜かれておりますね。」 「そうね、女の世界・・・バラの世界も・・・以外にいいものなんでしょうね。」 「なにやら伺いましたところ・・・水野総帥の秘書から・・・大島部長の秘書に移動されたとか？」 「・・・え、えぇ・・今度、レズの嗜好会員様向けの・・・部門を任されまして・・・その練習に・・・備品２６を・・・。」 「なるほど・・・それはいい。」 「それより・・・備品２６に異常は？」 「えぇ・・・健康そのものです。・・・しかし、一点気になることが。」 「なんですか？」 「膣道と尿道に炎症が・・・どうも、ご使用のディルドォが滅菌されていないのか・・・毎日の調教がお激しいのか・・キキキッ。」 「そ、そうですか・・・で？」 「えぇ・・・お薬を処方しております。・・・３日に一度・・・この錠剤を飲ませてください。・・・そうすれば、落札者のお楽しみの頃には・・・炎症もなくなるでしょう。」 「毎日じゃないの？」 「この薬は、効きが強く・・・牝の性感度に影響があります。・・・だから、三日おきなんです。」 「あ、そう。・・・３日おきね・・・食後？食前？」 「えぇ・・・いつでも構いません・・・あなたの手の空いた・・・その時にでも、忘れずに。」 「・・・。」 「では、霊安室につないでおりますのでお持ち帰りを・・・電子錠の番号は・・・１８１８１９１９です。」 「お手数かけました。」 あずさは、横山の通り過ぎる際に睨みつけると、それに気付いたか振り返りあずさに声かける。 「あぁ・・・あなたの経口避妊薬も・・・処方しましょうか？・・・レズビアンにはいらないか。キキッ。」 横山の嫌味な笑い声は、あの時と変わらず下品で、あずさの首筋に温度以上の寒さを覚えさせた。備品であったときのあの頃の記憶は、遠くに置いて来たつもりだがこの部屋に来ると、その冷たさからか再びより戻す。 首輪を施された佳乃は、樽本に身支度され、霊安室の長いすに腰掛けている。あずさの顔をみると、安堵がおとずれたのか少しだけ緊張が解ける。 「じゃぁ・・・帰りましょ。」 「は、はい。・・・あ、あずささま・・・こ、ここに・・・友之さんは・・・。」 「さぁ・・・どうかしら・・・わたしは、そこまで知らないわ。」 「と、友之さんさえ・・・ぶ、無事なら・・・わ、わたしは・・どうなっても・・・。」 「・・・あなたを、おもちゃにさせて喜ぶような・・・旦那でも？」 「・・・と、友之さんは・・・友之さんなんです。」 「忘れてよ・・・今は・・・。」 あずさの言葉は、いつになくやさしく佳乃への慈しみさえ感じさせていた。首輪からの鎖は外され、あずさのバックに納まると、促されるように佳乃は立ち上がり、開いたままのドアへと進む。 「・・・ぅぅぅぅ。」 遠くで聞こえる呻き声を佳乃は誰のものともわからず、後ろ髪を引くこともなくただ霊安室の薄気味の悪さだけを感じさせていた。 「出して。」 「はいっ・・・マンションで？」 「えぇ・・・いや、セミナーへ連れて行ってくれるかしら？」 「わかりました。・・・あのぉ・・・一つ聞いてもいいですか？」 「何・・・聞かれてはまずい事？」 あずさに声をかけた上山は、佳乃の顔を見て口ごもる。車に備え付けられたカゴから、備品用の耳栓を佳乃に預けると、素直に聴覚を遮断した。 「すんません。・・・佐々木の奴・・・何かしでかしたんですか？・・・ここ最近、幹部の送迎にも現れないし、監視員としても見ねぇみたいなんだけど。」 「・・・そうね、・・・元気にしているとだけでも、いっておきましょうか。」 「そっすか。・・・あいつ、この世界にいるには・・・鼻が利きすぎるから、・・・深入りして、始末でもされていねぇか・・・心配で。」 「へぇ・・・あなたも、男色なの？」 「いや・・・えっ・・あいつ・・・そっち・・・だったんで？」 「そう聞いてるけど・・・。」 「だから、備品に手を出さなかったのか。・・・この備品２６にも・・・。」 「あら、監視員の中には、・・・まだ、手を出す輩も？」 「えぇ・・・今付いてる・・・三治さん・・・木下さんところの・・・彫師・・・癖が悪くて。」 「・・・トカゲのような奴？」 「へぇ。・・・最近預かりだした、仮備品の・・・旅館の若女将なんですけど。・・・あの若女将に・・・メロメロでねぇ。・・・いつ、ばれるか心配で。」 「あなたにも、とばっちりがこないとも限らないし・・・まぁ、わたしから・・・それとなく、大島部長に声をかけておくわ。」 「えぇ・・・お願いいたします。・・・わたしが、言ったことは内緒で。」 「・・・。」 無言で頷くあずさをミラー越しにみると、ペコリと頭を軽く下げ、運転に集中する。あずさの手のひらは、無言で下を向く佳乃の髪の毛を撫で、一呼吸すると携帯を取り出し通話を開始する。 「・・・あずさです。・・・えぇ・・・声は聞こえました・・・確認までは・・・はいっ・・・これからお会いしようとそちらまで・・・１時間あまりで・・・えぇ、一緒です。・・・では。」 「誰かと・・・待ち合わせで？」 「・・・。」 「すみません・・・深入りしちゃって。」 「いいのよっ。」 「最後に・・・備品２６・・・この奥さん・・・どうなっちまうんですかねぇ？」 「・・・。」 「いや、・・・何度も・・・送迎してると・・情がわいちまって・・・佐々木も同じだと思うんですよ・・・他の備品より丁寧だったというか・・・扱いが。」 「・・・入札は、かなり入っているらしいから・・・どこかの爺に供されると思うわ、２週間後には・・・。」 「はぁ・・・しかたねぇんですね・・・そうかぁ・・・そうかぁ。」 「上山さん・・・あなたも入札すれば・・・そんなにお好きならば・・・。」 「・・・その金があれば・・・ここにはいませんよ。」 「フフフッ・・・そうよね。」 無音の中、窓の外を眺める落ち着いた佳乃の姿は、上山のやり場のない気持ちを少しやわらげている。あずさに預けられているその時だけでも、元の加山佳乃の心を取り戻していることを、運転席から願っていた。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2011.2.16掲載 |
はちみつ太郎さんの作品群→ |