９　誘い水

　四月第一日曜日。
　ダメ社員の指導係を任され、そのダメ社員に不意とはいえ唇までを奪われた日から５日が経過、佳乃に起こった忌まわしき事実も忘れかけていた。

「あいつ、また遅刻してっ。」ダメ社員小山は、ほぼ毎日のように遅刻している。
　この時点で解雇してもいいのだが、大地主の田野倉を気にしてか社長の山本も大目に見てなにも言おうとしない。
　いない方が佳乃も仕事がはかどり、嫌なことも思い出さなくて良い。

　１１時も過ぎ、客がちらほらと来店し奈々や他の男性社員達が接客をする。
　佳乃の開いたブースに一人の若い男が口元を緩ませ立つ。

「いらっしゃいませっ。どうぞお座りください。」佳乃が精一杯の笑顔で男をもてなす。
　男は、黙ったまま佳乃の顔を舐め回すように見ながら、少し足が届かないくらいの椅子に腰掛ける。
　胸にぶらさげた『加山佳乃』と記入された顔写真入りの証明書のような物を男は確認すると、
（こいつだっ！小山が言ってた、ドＭセフレの佳乃！・・俺的にすっげーストライクじゃんっ！・・
）
　と心が小躍りするのがわかる。

「お客様、本日はどのようなご用件で？・・・・・・お客様っ？」事務的に佳乃は対応している。
　すけべな妄想が先にたち、会話になってないが我に返った男はありったけの演技をする。

「あっ・・あー、そのーこの辺りに引っ越そうと思って、賃貸探してんだけどっワンルームで・・。」
　小山に言われたとおり物件を紹介させてそのアパートで佳乃に小山から聞かされた事を実現しようと必死だ。

「それでしたら、こちらの物件案内をご覧ください。ちょっとお茶を入れてきますので・・。」
「その間に希望のものがあればチェックしてください。」
「あっ・・はいっ。」
　と物件なんてそっちのけで、給湯室に向かうタイトスカートに隠された尻のみを目で追いかける。
（あの尻に・・小山の奴いつも顔うずめてんだ。）
（・・・今日は俺の番かっ。すっげーいい匂いしそぅだなっ。）

　佳乃は自分を犯そうと意気込んでいる男に丁寧にお茶を運び、物件の説明を始める。
「これなんかいい感じなんだけどっ。俺的にっ。」と窓が小さくベランダのない物件を指差す。
「ベランダはありませんし、日光も当たりにくいですけどっよろしいんですか？」
　少々疑りながら真意を確かめる。

「いいっいいんだって、やすいしさっ。あっあんまり外から見えないほうがっ・・さっ。」
「これっこれ見に行きたいねっ。」
　と、言い立ち上がろうとする。

「あっはいっ。ではお車用意しますので、外でお待ちください。」

　外の駐車場に車を回すと、佳乃は助手席のスライドドアを開け後部座席に男を座るよう促す。
「えっ、後ろっ？」と疑問を佳乃になげかける。
「そっそうですけどっ。」
「あっそうなんだっ。」何を期待したのか男は前に座ろうとしていた。

　物件近くまで車は走り、佳乃は客の名前を聞いていないことを思い出す。
「あっ失礼ですが。お客様お名前は？」
「んっ・・・あっよっ吉田です。」と本名を言ってしまう。
（しまった。本名いっちまった。）
（・・まっいっか・・小山のセフレだから、後で小山の名前を出せばおとなしくなるだろっ。）
　この若者は、あの日のバーでの話は嘘であるのにもかかわらず、安易な発想で行動をしてしまう。

「吉田様こちらの物件です。」
　とドアに鍵を差込、ノブを引き吉田を中へ入れる。心なしか吉田の下腹部が膨らんでいる。

　換気をしていないためかカビ臭く、ましてや電気のメーターも回ってないため薄暗いワンルームに獣と生贄が二人きりになる。まだ、吉田は狩りを始めず獲物を遠くから狙い、チャンスをうかがう。

「どうですか？吉田様っ？・・・・」吉田の一歩後ろで佳乃は問いかける。
「あっあー、いいんじゃないっこんなもんでっ。」
　といいながら玄関付近へ行き、ドアノブの上のサムターン錠を水平にする。

「カッチャンッ」冷たい音とともにそのカビ臭い空間が獣の狩場へと変化する。
　その音を佳乃は、まったく気にしていないためか吉田に背をむけ会話するのだが、

「吉田様っ。気に入られっ・・・・ぅうううっううっううっ・・・・いっ。」
　背後に回った獣に口を塞がれ、書類を床へ散乱させる。

　羽交い絞めにされ身動きが取れない佳乃に、吉田は耳元にむかって、
「おとなしくしろよっ。変態ドＭ女っ！」
「おま○こ犯して欲しくてウズウズしてんだろっ。」
「っむうううっ・・・・むうっっううううっ・・・ううっうー。」

　佳乃は耳で卑猥な言葉を聞くより、逃れようと必死で抵抗する。
「おっおいおい。あんまり暴れると、お前が好きな拘束プレイしなきゃなんなくなんぜっ。」
「だからおとなしくしなってっ。」

　吉田の右手は佳乃の口を塞ぎ、右足を背後からタイトスカートの間にねじ込ませ、すこし両足を開き気味にさせる。
　そして少し開いたスカートを左手で太ももとスカートの間に左手の指を差し入れ一気にめくり上げる。
　露になった若妻のパンスト越しのパンティーはまだ吉田の目には入らない。
　が、淫らな牝の匂いだけは微かに感じ取っているかのようだ。

「っふうっっうううう・・・・うっうううっうううー・・たっうっけってっ。」
　佳乃は口を塞がれているため、声にならないうめき声で外部に助けを求める。

　少しも大人しくならない佳乃に不安を覚えながらも、若い獣の本能に理性は今のところ追いつかない。
　吉田はいっこうに抵抗をやめない佳乃に対し、尚も狩りを続ける。

　タイトスカートをたくし上げたため、あらわになった若妻の淡いブルーのパンティーを一目焼付けようと頭を佳乃の肩口から乗り出し、にやけた目で佳乃の恐怖の目に語りかける。
「おい、変態Ｍ女っ！今日はっ、えらく大人しいパンツ穿いてんじゃねぇのっ。」
「黒のＴバックはどうしたよっ。俺にもＴバックみせてくれっ」
　と言いストッキングを尻と太ももの付け根ぐらいまでずりさげ、淡いブルーのパンティーを尻肉に食い込ませる。

「っうううううっ・・・いいっぅうううう。むぐっむぐっうむむっぐっ。」
　若妻の抵抗は尻を揺らし獣の動きに対してだけの限定的だ。

　しかし、その尻をゆらす行為は獣に対し興奮のみを与えた。
「あいつには、黒のＴバック、俺にはブルーの強制Ｔバック・・っくっくっ。たまんねーやっ。」

　尻に食い込むパンティーを脱がそうともせず、空気に強制的にさらされた両方のプルンとした尻肉を獣は指先で刺激する。

「うううっ、・・・っいっうっやっ・・・たっずっ・・げっでっっっ。」

　少し口元の右手が緩んだのか、幾分か佳乃の助けを求める声が聞き取りやすくなってきた。
　それに気がつかず、興奮する吉田は左手を佳乃の牝の匂いを発する部分へと王手をかける。
「っおっ。・・火照ってるねぇ。」

　手のひらをくの字にまげすべての指で、火照ったパンティーの股布の厚い部分をなでさする吉田。
「っいっいぃっやっっううっ。」首を激しくふり、声をあげたいがなかなか手が外れない。

　吉田の獣の左手が一瞬、佳乃の防衛線であるパンティーから離れる。
　それは獣が狩場を移動するように、
「するっ」
　と、淡いブルーのパンティーの小さなリボンのついた臍下の隙間から手をいれ、佳乃の繁茂した陰毛をまさぐり始める。

「おっ、ま○毛の手入れっ、行き届いてねーようだな佳乃ちゃんっ。」
「お手入れしねーと小山にまた引き抜かれんぞっ。ブッチってよっ。」

　佳乃は、小山という言葉に背筋が凍る。なぜ小山の名前がこの獣から発せられたのか。
「っう・・っろっうゆっうっ・・・こっとよっ・・っこやっまっがっなっんなっのっううようっ。」
　少し明瞭になりつつある佳乃の言葉に吉田は待ってましたと言わんばかりに左指を陰毛で覆われた恥丘をこえクリトリスが隠れる包皮部分に二本のゆびを到達させ挟みこむ。

「っはっうっうううんっ。」
　佳乃は牝の敏感な突起を指で挟まれ思わず、あげてはならない官能的な声をあげてしまう。

「おいっっ。なにって、お前、・・小山の・・セフレなんだろっ・・ドＭのっ。」
「聞いたぜ京町のＳＭホテルのこともよっ。」
「だからさっ、たのしもうぜっ変態Ｍ女の佳乃ちゃんよっ・・・おっおいっ・・なっ。」

　少し自信がなくなってきたのか、吉田の右手が佳乃の口から離れる。
「っぺっ・・なっなにいってんっよっ。小山のセッセフレって何なのよっ。」
「ドＭってなんなのよっ・・・。」

「おめー。こっこの前の夜、駅前で小山をおろした女じゃねーのかよっ。キスしてたっ。」
「セフレだって小山が言ってたんだよっ。」
「はっー？なに言ってんのよっ。」
「そんなわけないでしょっ。ＡＶの見すぎよっ。」
　状況が飲み込めずあせりはじめた吉田は、佳乃のクリトリスの包皮をまさぐっていた指の動きをとめ、これと同時に体の動きが硬直する。

　動きがとまった吉田の左手首を自分の左手でつかみ上げ、自らのパンティーから獣の指を排出する。

「いいかげんに、さわんのやめなさいよっ！気色悪いっ！」佳乃は振り返り吉田の左頬をビンタする。
「パッシンッ」乾いた破裂音が薄暗くかび臭い部屋にこだまする。

　赤く染まった頬を手で覆い呆然と立ち尽くす吉田。
　摺り下げられたパンストと獣の左手の侵入を許したパンティーを元に戻し、タイトスカートを正しい穿き方に直すと、

「ちょっとあんたっ。さっきから小山の名前が出るけどその小山って、小山駿のこと？」
　極端に冷静になった佳乃が尋問する。

　普通はここで警察を呼ぶところだが機転をきかせ、小山を追い込むチャンスはここにあると冷静に考える。

「っはいっ。この前夜に二人で、のッ飲んでるときにそんな話になって。」
「あんたが小山のセフレだからこうやって・・犯してもかまわないっていうもんだからってっきりっ。」

　もう観念したように頭をさげ顔も見られない。
「さいってーね。あんたたちっ。」
　と言い放ち。自分の携帯を取り出し、警察でなく社長を呼び出す。

「もしもし、社長ですかっちょっとトラブルがありまして。」
「・・・はいっ。来てもらえませんか。１０８９の物件です。はいっ。ではっ。」
　吉田を正座させ佳乃が、
「あんた、警察には言わないでやるから、そのかわりうちの社長に洗いざらいいうのよっ！わかったっ。」

　正座した吉田はうなだれるようにコクリとだけ首を動かす。
「あっちょっと。あんたっ。」
「洗いざらいはいいけど私のアソコ触ったことは・・・言わなくていいんだからねっ。」
　と顔を赤らめる。

「っはい。でもどうやって言えば？」自信なさげに吉田が言う。
「お尻触ったとか胸触ったぐらいにしときなさいよっ。わかるでしょっ。ったく。」
　と少し照れながらきつく言う。

　本当にこの男がすべて白状するのか心配だがこの反省具合なら間違いないと確信し、社長の到着を待つ。