気がつくとねちねちとした男の唇が目の前で喘いでいた。思わず息を止めた。
　いやいやいや！
　とっさに、顔をねじった。
　身体を起こそうとしたが自由にならなかった。
「すんまへん。……獲りたての魚みたいによく暴れるんで縛らせてもらいました」
　両腕はベッドの上端部に結わえつけられていた。浴衣がはだけて、足元が変にすかすかした。辛うじて動く頭部を起こしてベッドの下のほうに目を落すと、透明な自分の下腹部が見え、そこから先に大の字に大きく開いている下半身が見えた。とても自分のものとは思えぬ大胆な開き方ですくっと、乱れた浴衣の上に大きく両肢が伸びきっている。
　とっさにありったけの力をこめて両足を閉じようとした。しかし、ぶるっると全身が震えるだけで身体は自由にならなかった。
「あきまへん……って。申し訳ないが奥さんの身体は私の好きなようにくくらせてもらってます。動いたら痛いだけでっせ」
「ど、どうしようというの……」
「まあ、そんなに興奮せんと。……こうでもしなければ、あんたは暴れてやらせてくれないんだから……」
「いやよ！　いや。こ、こんな惨めな……」
「まあまあまあ……。まだなにもしてないんだから」
「やめて！」
「いいじゃないすか。どうせやるんだ。黙ってすきなようにやらせてください」
「…………」
「おお怖ワ。そんな怖い顔して睨まないでください、きれいな顔が台なしだ」
　いいながら男は、恭子の下腹部を卑猥な手つきで無遠慮に撫で回した。同時に、逆の手を浴衣越しに腰の下に入れて、横抱きに、ベッドに縛りつけたままの恭子を抱くと、上から重なるようにして唇を押し付けてきた。
　煙草とニンニクの混ざった不快な匂いが恭子の鼻をついた。ぞっとする異臭であった。嫌悪感で全身が硬直した。しかし、構わず男は恭子の口を吸った。このまま窒息してしまうのではないかと思った。それほど激しく無遠慮で乱暴な唇の吸いかたであった。男と唇を重ねてこれほど激しく唇を奪われたのははじめてであった。魂まで吸い取られそうな気がした。ふっと、気が遠くなりそうであった。男と女が唇を重ねるというのはこんなものかと、ふと、思った。
　やがて男は唇を離した。唇を奪った時と同じくらい唐突な離し方であった。
「なんや奥さん、あんた、キッスのしかたも知らないの？」
　男は、不気味に笑った。
「ご主人、あんたのこと、不感症やいうてぼやいてましたけど無理もないわ。……可愛そうにあんた、亭主としてイッタことないんだって？」。
　怒りと屈辱で眩暈がしそうであった。恭子は目を閉じて奥歯を噛んだ。
「不感症には二種類あってね。生まれつきダメなヤツと性的に無知なヤツと。生まれつきなのはどうしようもないとして、無知なヤツは治療が可能や。教育しだいでは一人前以上になる。あんたがどっちの不感症か、これからじっくり診察したげまっさ」
　男はゆっくりとベッドの裾に回った。そしてわざとらしくどっこいしょといい、そこにあぐらをかいた。男の目の高さの、すぐ眼前に、大きく観音開きに縛られて無残に開股された素裸の恭子の下腹部が、こちらに向かって喘いでいた。薄く柔らかそうな艶っぽい縮れ毛が、春靄がぼーっと霞んでいるような頼りなげな覆いかたで、恭子の豊かなビーナスの丘を覆っている。そのふくよかな丘に微妙に連続しながら、ぐっと迫るような沈みかたで、不意に恭子のクレバスが、妖しく神秘な深い谷を作って奈落に落ち込んでいた。そのなだらかな亀裂にはやや短かめの、ひどくエロチックで、しかし健康そうな繊毛が、恥じらうように恭子の部分をつつまく覆っている。うっすらとした可憐な陰毛は、富士に向かってすっくと咲く月見草のように、けなげにも男の無遠慮な視線から、恭子の秘部を遮っている。
「うっ。凄い貫禄！」
　男の奇声に、羞恥心で全身が竦んだ。
「は、生え具合は、ま、満点……」
　男は呻いた。
「エエ毛並みや。これくらいがちょうどいいねン。少なからず多からずちゅうやっちゃ」
　涎の出そうな声でいった。　
「どれ。……そいじゃ、じっくり見せてせてもらいまっせ」
　いとおしげに、男は恭子の恥毛をなぞっていった。
「だめ！　やめて！」
　恭子は叫んだ。しかし男は容赦しなかった。
「うーん、……この丘のあたり、意外によく発達してますな。それにこの両のベラベラ、相当使いこなしたみたいな色してまっせ。ほんと、堂々たる色や。あんたの亭主、梅干しばばあのあそこみたいに、しなびてカサカサで使いものにならないといってましたがね。見ると聞くとじゃ大違いですわ」
　無骨な手で恭子の下腹部に両手を添えると、医師のような手つきで恭子の秘部を無雑作に開いていった。
「おお、割れますわ。割れますがな……」
　大袈裟に男は叫んだ。
「こ、これが、あ、憧れの人の、お、お、オ×コ！」
　息を呑むような言い方であった。　
「も、もったいないこっちゃ……。て、天使の、天使のオ×ソが……」
　獣のように唸った。
「割れる、ぬるぬると割れる。立派なもんや、堂々と割れる」　
　唸るような声を発した。
「お、大きさといい、わ、割れ方といい、ど、堂々たるもんや……。この××コが不感症？　違う、嘘や、嘘にきまってる」
　男は顔を近付けた。
「……この形、この大きさ、この色ぐあい。なにもかも満点。いうことなしや。付いてる場所も見事な上付き。……奥さん、あんた、ええ道具つけはりますがな」
　優しげな手つきで、さらに恭子の繊毛を掻き分けていった。