「どうれ、中身の検査をさせてもらおうっと……」
　それから男は自分の人差し指を下品な仕草で自分の唇に含ませて、たっぷりと自分の唾液をすくいとると、そろそろと恭子の内部に挿入していった。
「うっ……っ」
　と、思わず恭子は声にならない声を発した。
　唇で侵食されていた時とはまた違った、やるせないようなおぞましさが、ずずっと背骨を圧迫して、その息苦しさに恭子は思わず身震いした。男はかまわず恭子の内部の無骨な指を、内壁の、ぐっと迫るような肉層の入り口から、その深い奈落に向かってゆるゆるとなぞるように落としていった。恭子は耐えかねて全身を海老のように内側にくねらせた。すると、ベッドに縛り付けられた下半身が自然と宙にせりあがっていった。男を求めるような淫らでいやらしい腰の突きあげかたになっていた。恭子のせっぱつまった動きに男は嬉々として、人差指と中指を重ねると、いまいちど狭い羨道を圧迫するように、激しく、しかしゆっくりと二本の指を沈めていった。
「うわー。　入る入る！　ずぶずぶや！」　
　無意識に恭子は腰を捻り、ううっと声にならない声を発していた。男はそれから二本の指を内部で上下左右に広げた。
「う、ううっ……」
　恭子は奥歯を噛んだ。ひとりでに下半身がうねった。
「や。締まるがな、締まる！　ユ、ユビ、指が、こうっ、キュツーと締めつけられて、自由にならん！　す、凄い締め方！」
　男は淫靡な笑いかたをした。　
「すごい！　よう締まるわ。最高やで、奥さん。……しかし、たかが、指、入れたぐらいで、こんなに一生懸命にならんかてエエのに。指でも一生懸命。たかが指でも、こんなに一生懸命、必死や。……なんとまあ、あんた、素直で貪欲なオ×コつけてるンやろ！」
　いいながら、男はゆっくりと指を引き抜いた。指が柔らかにずずずと肉襞に擦れていって、ううっと再び恭子は呻いた。透明の粘液が男の二本の指の間でぬるりと光ると、粘ばっぽい透明な雫を作ってたらりと恭子の左の大腿部に落ちた。
「……ん？」
　不意に男は頓狂な声を発した。
「これは！」
　息を呑むような言い方をした。
「ちょこっと先っちょ、見えてまっせ。見える、見える」
　おおげさにうなった。
「ク、クリトリス！」
　絶句したようにいい一点を凝視した。　
「これが、憧れの人の、クリトリス！」
　男は恭子の粘液で濡れそぼった自分の指の甲を舐めた。
「なんとまあいやらしい見せ方！」
　奇声を発した。
「そ、そんなエッチな見せ方で、くりチャン、チラチラ見せられたら……ああ、たまらんわ、見てるだけで、ワシャ、イク！」
　ネバネバの指を、いきなり恭子のその部分にもっていった。
「見て見て。ピクピク息づいて！　こ、こ　これが、お、奥さんの……か、花芯ちゅうヤツでっか！」
　唸るような声で言った。
「なんとまあ、いやらしい色！　なんとまあ、いやらしい形！　見て、見て、こうすると、ホレ、ヌルヌルと、む、剥きだしになって盛り上がってく……」
　男は恭子の部分を、両手の人差指の腹で挟むように少し押し上げ、さらに両の親指を添えると、莢豆の莢を剥くような無造作な裂きかたでゆっくり左右に割っていった。と、ヌルリと、その付け根の上端部から、薄い撫子色の艶々としたしなやかな突起が、不気味なうねりを作りながら男の指と指の間にえぐり出された。突起はまるで小さな生き物のように、喘ぐように、戦くように、生き生きと可憐に、しかし恥じらいもなく、蛍光燈の光の下で息づいていた。
「む、剥きだしになっちゃった。剥きだし！　お、お奥さんが、剥きだし！」
　男はさらに指に力をこめた。
「エエ色に光って！……こ、こしゃくなやっちゃな、むっくりと立ってる。堂々と立ってる。舐めてくれといわんばかりに、奇麗に光って！　い、いじらしい。す、すけべえーたらしい」
　右手の人差し指の腹でその先端を、下から上へ、つつつっーとなぞっていった。恭子は堪らずに腰を捻った。
「プリプリと弾むわ！　こうすると、まあ、見て見て。シコシコと反り返ってからに……。おう、もう、食べてしまいたいくらい可愛いいわ」
　いとおしむようにして、親指と人差指の間の恭子の柔らかい部分をまさぐっていった。　恭子は切なげにさらに腰を捻らせた。
「ああ……」
　無意識に、腰に小さな山をうたせ、か細い糸のような吐息を洩らした。
　男は指を返すと、さらに丹念に恭子の先端の指をくねらせた。そして突然、小さく呻くと、堪りかねたように恭子のその部分に唇をもっていった。
　すざましい衝撃が全身を走った。恭子はあっと呻いて唇を噛む。同じ瞬間、魂を切り裂くような強烈なうねりが恭子の身内の奥底でうねった。かって感じたことのない激情の昂まりであった。むらむらと、得体の知れない焔が、つつつっと全身を駆け抜けていくのを恭子は激しく感じた。縛られている両足がピクピクと痙攣した。下腹部が大きく上下に揺らいだ。
「ううう……」
　全身がもどかしそうに宙にのけ反った。
　男の唇はさらに激しく恭子の部分を蹂躪していった。
「ああ、もう……」
　必死に噛み合わせていた歯の間から、押し殺したような恭子の呻きが漏れた。
「ど、どうにかして！」
　はっきりといった。すすり泣くような恨めしげな響きであった。
　すると男は不意に首をあげて、狂ったように全身を恭子にかぶせた。真上から、恭子の唇に唇を重ね、ぬるりとした熱い舌先を恭子の腔口にこじいれ、舌で恭子の舌の根を捕えた。同時に、腰の下に右手を入れ、逆の手で恭子の頭を抱えると、あっと恭子が息をつくひまもなく、痛烈な吸い方で恭子の口を吸った。うねりが恭子の内部で炸裂した。周辺がさーっと真っ赤に染まっていった。縛られた両手と両足に全身の力込めて、恭子は我知らず男の唇を吸いかえしていた。均整のとれた豊満な肉体がうっすらと朱をおびてわずかに汗ばんでいた。灼熱の閃光が、瞼の底を走っていく。恭子はさらに力を込めて男を吸った。ぞくりとする戦慄が全身を貫いた。
「ああ、もう……。だめ！」
　薄絹が擦れるような切なげな呻きであった。
「い、入れて！」
　はっきりと言った。
「入れて！」
　重ねて言った。
「お、奥さん！」
　意識の彼方で男の胴間声が聞こえた。
「入れて入れて！」
　瞬間、スベスベとした自分の両股の付け根に、ぬるりと熱い塊が這い、あっと身をすくませるより先に、全身をかーっと真紅にたぎらせて、とつもない巨大な生き物が恭子の内部を貫いた。
「うっ！」
　恭子は海老のように全身を反らせた。
「わっ、は、入った！」
　男は呻きながら、さらに恭子の口を吸った。
「ううううう！」
　さながら動物の呻きであった。呻きながら男は狂ったように激しく腰を上下させた。と、意思に係わりなく恭子の半身が切なげに上下にうねった。
「うっ……」
　息をつき、今度ははっきりと自分の意思で腰をうねらせ、呻き、男の唇を吸った。
「エエオ×コや！　よう締まる！　さ、最高！」
「ああ……」
　空恐ろしいほどの激情が恭子を突き抜けていった。ずずずっと、さらに全身を駆けていく嵐のような快美感の渦に翻弄されて、腰は、恭子の腰は、激しく男に迎合する動きになっていた。意志に関わりのない淫らで恥しらずな律動が恭子を喘がせた。喘ぎに耐えかねて、恭子は瞬間、大きく目を開いた。驚く程の真近な位置に男の目があった。至近距離で恭子と男の目と目とが合った。
「ああ……！」
　男の目の底を覗きこみながら、恭子は呻いた。
「いーい……わ」
　訴えるような声でいった。
「うう……」
　さらに全身をくねらせ、うつろな声で喘いだ。
「いーい……」
　言うと、瞳孔がすーっと、大きく開いていった。
「いーい……。……いーい気持ち！」
　男の唇を探っていた。
「ああ、もう……。もう……。ねえ、ねえ……」
　男が再び恭子の首を抱え、唇を吸った。同時に激しく下腹部を揺すった。
「うっ……」
　恭子は呻いた。
「あっ。……だめ！」
　突然、頼りなげに宙をさまよっていた虚ろな瞳の焦点が凝縮され、眼前の男の目をしっかりと捉えた。
「……だ、だめ！」
　激しく首を左右にふった。
「だめじゃない！」
　何かが炸裂した。ちかちかと赤や青や緑の閃光が眼の底を射、激しい雷鳴が耳の底に轟いた。
「……だ、だめ！　ああ、やめて！　イ×っ、……イ×じゃない！」
　不意に、思っても見なかった卑猥な単語がついて出た。いいながらひるまず激しく身を反らせた。
「やめて！　おお……イッ、イ×、イキそっ」
　破廉恥な言葉をさらに重ねた。
「ううっ！」
　動物のように呻きながら、不意にずずずずと男が内部に沈んだ。さらに男はうっと腰を捻ると、男の身体はすうーと宙に浮き、再び激しく恭子の内部に沈んだ。
「うっ……」
　恭子は身を絞るような声を発した。恐ろしく無神経に激しく男は動いた。同じ動作を三度まで、男が身体に重なって反復するのを恭子は覚えていた。
「おおお、もう……！」
　あとは世界を失っていた。縛られた不自由な両手を蛇のように宙にくねらしながら、男に合わせた唇をしっかりと男に重ねて吸った。ああ凄いと思った。ああ、すごい！
「ああ……」
　チチチチっと、眼の底に真っ赤な火花が舞った。男が沈み、さら激しく沈み、そしてまた沈んだ。瞬間、限りのない深い真紅の、さらに深い真紅の底に、自分を、いまこの瞬間の自分を、まさに果てて行こうとする自分を、恭子は激しく感じた。と、止めを刺すように、そのほとんど同じタイミングで、背骨の底に達するすざまじい、しかし生温かい奔流が、間髪を入れず、短く、二度、三度、四度、鋭い間隔で体の底の壁で激しく炸裂するのを恭子は感じた。
「わっ、イ×ッ」
　さらに卑猥にいい、それから、う、うううっ……と絶望的な呻きを発すると、ぶるっと全身を痙攣させた。
「イ×っ、イ×っ、イ×っ！」
　鋭く、短く、そして、明確に、同じ語彙を三度繰り返した。それから呼吸を整えるように、ほんの僅かな時間をおいて、
「イ×イ×イ×イ×イク×」
　……湖底に魂に刻みこむような絶望的な響きで、自らがが極限に身を委ねたことを、恭子は、はっきりと男に告げていた。