２．

　まず、廊下の一番手前、右側にあるドアを開けてみる。
　そこは広い遊戯室のようだった。
　照明は部屋の隅にあるスタンドだけで、室内に置いてあるビリヤード台やソファ、簡易ベッドの上では、無数の人影が闇に紛れて蠢いていた。
　闇の中から、ざわざわとした波のような喘ぎ声が聞こえてくる。
　誰も、開け放したドアから部屋の中を覗き込んでいる俺に、注意を向けるものはいない。
　彼らは１対１、１対複数など、時々相手を変えながら、恥も外聞もなく快楽を貪っている。
　よく見ると、ほとんどが若い人のようだった。
　その時、スタンドの近くのソファに、見覚えのある人がいることに気がついた。
　腰を前に投げ出すようにして座って、頭を後ろへ仰け反らしている。
　ワンピースの股間部分が丸く盛り上がり、その中の頭が激しく上下しているのが判る。
　快感に目を細めた元キャスターは、口から尖った舌先をチロチロと覗かせながら、為すがままに身体を揺らされていた。
　俺がそのまま歓ぶ彼女の横顔をじっと見つめていると、徐々に男たちが彼女の周りに集まり始める。
　彼女の美しい顔に興奮し、その憧れの舌と唇を、自分の体に使うつもりなのだ。
　周りの男たちが、剥き出しにしたペニスを一斉に扱き始めると、彼女は自らドレスの裾を捲り上げて、愛撫される局部をみんなに曝した。
　俺はそれを見て、カチカチに勃起してしまった。
　さすが外人の血が入っているだけのことはある。長くてかっこいい、もの凄く色っぽい脚だった。
　彼女は、さらに見せつけるように股を大きく開いて、自分の指で無毛の陰唇を左右に引き拡げる。
　興奮した男、何人かが、彼女の股の間に群がって跪くと、彼女は近くにある勃起したペニスに手を伸ばした。
（「信じられないな。」）
　それは全く信じられないような光景だった。
　教養ある美貌のニュースキャスターが、股の間を自由に舐めさせながら、何本ものペニスにフェラチオを施している。
　噂通りの凄いテクニックだった。男たちは次々に絶頂へと昇りつめてゆく。
　まぁ、テクニックなんかなくたって、あの美しい唇で自分のペニスが咥えられてるのを見たら、誰だってすぐに射精してしまうだろう。
　すぐに彼女のドレスの胸元は、飛び散った精液で白く汚れてしまった。
　彼女は一旦立ち上がると、服を脱ぐ。
　それからソファの上で四つん這いになると、白くふくよかな尻を男たちに差し出した。
　ペニスを垂直に勃起させた若い男が、彼女の尻に取りつき腰を振り始めると、彼女の口から「あっおぉ〜〜」という牛が鳴くような低い歓声が響いた。
　すぐに別の男が、自分のペニスでその口を塞ぐ。
　やがて彼女の身体は、取り囲んだ男たちの背中で隠れて見えなくなった。
　その部屋の状況に完全に圧倒されてしまった俺は、次の部屋に行ってみることにした。


　廊下の左側にある、書斎のような小部屋を覗き込んだ時、珍しく初老の男に出会った。
　その男は、ソファに浅く座り、ズボンの前を開けて、弛んだ腹の下にある、小さな一物を若い女の子にしゃぶらせていた。
　男の股の間に跪いて、口を使っているその女の顔には見覚えがあった。
　元グラビアアイドルのサトミ。
　１６才の時にスカウトされて、その凄い肉体を武器に、現役女子高生アイドルとして華々しくデビューした子だ。
　あれから２、３年しか経っていないのに、まさかこんなところでこんな事をしていようとは・・
　もう一人、男のソファの横に座り、はちきれそうな乳房を男に吸わせながら、なにかを耳元で囁きかけている女がいる。
　こちらも元グラビアアイドルのヨウコ。
　同じく、きりりと引き締まった目元と、大きな胸が売り物だったオナドルだ。
　二人ともとろりとした焦点の定まらない眼で、頻りに笑いながらなにかを口走っている。
　その姿はまるで、客の接待をするジャンキーの娼婦のようだった。
　俺は近くにいた若い女の子に、その男の事を訊ねた。
「あの人、誰？」
「プロデューサーよ、私たちがデビューした番組の。」
「へえ、そんな人も来るんだ。でもこのパーティって、あまり歳のいった人はいないよね？、若い人ばかりで・・」
「うん、あの人いつもは人数の多いところには来ないんだけど、今日は特別なの。」
「え？、何が特別なの？」
「目当ての子がいるのよ。ずっと狙ってた。」
「そうなんだ、で、誰なの？、その目当ての子って。」
「智佳よ。真ちゃんの後輩の。」
「ここの息子さんの友達？、でも、それはまずいんじゃ・・」
「ええ、普段はここのママの影響で手が出せないのよ。でも、今夜はみんな隙だらけだから・・」
（「そうか・・」）
　俺は、先程見た遊戯室の様子を思い浮かべていた。
　あれでは相手が誰だかきっと判らないだろう。それに、好きな子がなにをしてるかも・・
　智佳・・期待の新人女優。
　清楚な雰囲気のお嬢様タイプの女優で、歳は確か、１７才。
　最近、深夜の連続ドラマの主演をつとめていて、人気もうなぎ登りだったはず・・
　サトミやヨウコとは違って、薬に酔って複数の男に抱かれる姿など、とても想像が出来なかった。
「でもあの子なら、こんなパーティには参加しないんじゃないの？」
　俺は今の話がどうしても信じられずに、相手の子にそう言った。
「特別な理由があるのよ。嫌でも真ちゃんと付き合わなきゃいけない、特別な訳が・・」
「どんな理由？」
「それは言えない。私の仕事が無くなっちゃうもの。」
　彼女はそれっきり、口を閉ざしてしまった。
　なんとなく嫌な気分になった俺は、その部屋を出て、さらに奥へ向かった。