６．

　そこではまだ、サトミとヨウコの二人がセックスに耽っていた。
　其々、取り巻きの若い男数人を周りに侍らせ、思い通りに彼らの身体を使っている。
　サトミは、椅子に座らせた男の股の間に、同じ側を向いて腰を降ろし、自分で尻を上下させながら、他の男二人に胸を舐めさせている。
　ヨウコの方は、ソファの上で四つん這いの格好で尻を高く突き上げ、後ろから交代で挿入させながら、自分でクリを弄り回していた。
　どうせ気にしないだろうと思った俺は、ずかずかと二人の近くに歩み寄り、知りたいことを彼女たちに訊ねた。
「プロデューサーの人はどこに行った？」
「あんっ・・はあぁ〜・・あぁ・・なに？、あっ！、いいッ・・そこっ〜〜」
　サトミの方はこちらの話など耳に入らない様子で、夢中で自分の割れ目を引き拡げ、真っ赤に充血したクリを男に吸わせている。
「さっきここにいた人だよ、二人と愉しんでた。」
　代わりにソファに顔を伏せたヨウコが、身体を揺すられながら返事をした。
「ハッ、ハッ・・あっ・・彼ならお楽しみの最中よ。邪魔・・んっ、くっ・・邪魔しないでね。あの人怒りっぽいから。」
「誰と・・誰と一緒なんだ？」
「ひっ・・もっと・・し、知らない・・あ゛ぁ〜〜」
　嫌な予感がした俺は部屋を飛び出した。
　智佳がどの部屋にいるか判らないが、とりあえず先程の寝室に行ってみることにした。
　廊下を全速で駆ける。酒のせいか足が縺れて、うまく走れない。
　息を切らせながら、目的のドアの前に辿り着くと、急いでドアノブを掴んだ。
　だが、ドアには鍵が掛けられていた。
　ドアをノックしようとすると、中から男の大きな声が聞こえてくる。
「よし、押さえつけるんだ。」
　続いて女のかん高い声。
「お願い！、止めて。何でこんな事をするの？」
　俺は激しくドアを叩こうとしたが、その前に、落ち着き払った別の男の声が聞こえてきて、すんでのところで上げた手を止めた。
　話の内容を理解してしまった俺は、思わず聞き耳をたてていた。
「ドラマが中止になってもいいのか？、俺からお袋に頼んでやったんだぞ。」
「えっ？」驚いたような女性の声。
「別にいいんだせ。お袋と共演したくないなら。君の小さな事務所で、勝手に仕事を探せばいいんだ。」
「そんな・・酷い・・」
「俺は、一言、君の素性をお袋に告げ口すれば、それで済むんだ。」
「どうして？・・何が望みなの？」
「わかってるだろう。大勢の老人に犯される君の姿が見たいんだよ。」
「変態・・・獣！・・」
　ここで、もっと年上の嗄れた男の声が聞こえてくる。俺はドアに耳を近づけた。
「ねえ・・一度だけ、私たちの言いなりになってくれたら、後は悪いようにはしないよ。」
「その後は、なんでも君の望みどおりだ。ね、簡単だろう？・・さあ・・優しくするから・・」
　その後、女性の声は全く聞こえてこなくなった。
　何人かの年老いた男の声が、途切れ途切れにドアの外まで漏れてくる。
「・・下着を着けたままがいいんだ。」「頼むよ、もう一度セーラー服を・・」「あぁ、綺麗だ・・」「堪らん。凄い興奮する・・」「頼む、見せて・・」「さあ、してくれ・・おぉ〜・・」「ああ、気持ちがいい・・このまま飲んで・・」「おい、まだ中には出すなよ。たっぷりと・・」「あぁ、凄い。まるで天使・・」
　俺は耳を塞ぎ、目を瞑ったまま、そこから後退った。
　よほどドアを蹴破ってやろうかと思ったが、一言も声をあげようとしない智佳の心中を察して、思いとどまった。


　どうしようもない憤りを感じていた俺は、智佳のことが心配で、帰りたくても帰れずに家の中を彷徨いていた。
　廊下を歩いていると、遊戯室から出てくるレナと出くわした。
　彼女は男物のシャツを羽織り、うっとりとした表情で、微笑みを浮かべながら歩いてくる。
　足取りは意外としっかりとしていたが、髪の毛には白い精液がべっとりと付いていた。
　俺と擦れ違う時に、「あぁ〜、気持ちがいい・・もう溶けちゃいそう。」と、独り言を呟いた。
　彼女はそのままキッチンに入っていった。
　俺は彼女が出てきた遊戯室に入ると、そのまま闇の中に紛れ込んだ。
　彼女のように、嫌なことは何もかも忘れて、夢中になりたかったからだ。
　服を脱ぎ捨てた俺は、何も考えずに、誰だか判らない人の股間に手を忍ばせる。
　それからすぐに、何人かの舌と唇で下腹部を包み込まれた俺は、そのまま時間が経つのを忘れてしまった。

　遊戯室から出てきた時は、午前２時過ぎになっていた。
　その間の事は、何も憶えていない。妖しくくねる女体の感触と、啜り泣くような喘ぎ声以外は・・
　ただ、俺の一物は、数え切れないほどの陶酔と絶頂の繰り返しの末、何をしても勃たなくなっていた。
　廊下に出た俺は、腰の奥の鈍痛を抱えながら、ふらつく足でバスルームへ向かった。
　部屋の前に着いてみると、先程は開いていた扉が、今は閉まっていることに気づいた。
　そっと扉を開けてみると、誰かがシャワーを使っている。
　引かれたカーテンの向こう側で、女性のシルエットが揺れていた。
　俺は相手が誰であろうと、一緒にシャワーを浴びるつもりで、服を脱いだ。
　そのまま、そっとシャワーカーテンに近づき、声をかけずに一気にそれをどける。
　カーテンの反対側には、目を瞑ったまま顔を上に向けて、シャワーの中に佇む智佳の姿があった。
　俺に気がつくと、静かに眼を開け、じっとこちらの顔を見つめる。
　それから、「したいんでしょう？、いいわよ・・手伝ってあげる。」と、覚めた笑顔を見せながら、俺にそう告げた。
　小さなピンクの乳輪と、涙滴型の形のいい乳房。流れるように滑らかな曲線を描く、ツンと上を向いた見事なヒップ。
　ぎゅっと括れた撓るようなウェストと、ため息が出るような真っ白で豊かな太もも。
　思わず見蕩れてしまう程の、細い首となで肩の女らしい対比。
　そして、化粧を落として、更に見蕩れてしまうような美しく整った顔だち。
　彼女は、何もかも神々しいまでに美しかった。
　俺は彼女の引き攣った笑いと、射るような視線を痛いほど感じながら、シャワーの中へ入った。
（この時、何をしても反応しない状態で本当によかった、と心の底からそう思った。）
　彼女の腰に腕を回しながら、
「もういいだろう？・・そろそろ帰らないか、送っていくから。」と、心にもないことを口走っていた。
　彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにその眼から涙が溢れ出した。
「どうしたんだよ。嫌な事があったのなら、もう忘れろよ。パーティも終わりだし・・」
　俺は慌ててそう言い添えたが、これは完全に逆効果だった。智佳はもう俺の胸に額を預けたまま、声をあげて泣き出してしまっていた。

　その晩は、一緒に歩いて智佳を自宅まで送り届けた。
　それから半年後、俺は、人気女優、智佳との婚約を発表した。