第１章

「初めまして」
　夫の達也が立ち上がると、ほんの一瞬遅れて、春佳は立ち上がった。意識すらしてないが、小さいときからの躾の通りだ。
　離婚寸前なのに、今さら、夫を立ててどうなると言うものでもないが、それが春佳には自然なことなのだ。
　深々とお辞儀をしながら、朝一番に、思い切ってショートにしてきた首筋がひんやりするのを春佳は感じた。
　高校時代から、二十六になる今日まで、つやのある黒髪の、肩までのストレートヘアーは、春佳のトレードマークのようなものだったのだ。
『今なら、知り合いとすれ違っても分からないかもしれないな』　
　そう思いながらも、そうあって欲しいとも思っていた。
　チラリと、夫の達也を見る。ガラにもなく緊張した顔をしていた。
　もちろん、多分、自分の顔も、達也以上に緊張しているのだろうと思った。
　会ったばかりの男達に、これから抱かれるのだ。　
　夫以外のオトコに。それも複数で。
　いくら、夫に懇願されてのこととはいえ、春佳自身の決断だ。
　夫を愛していても、浮気をされ続けていれば、愛は憎しみへと変わる。
　一方で、妻を愛していながら浮気してしまう夫の性。
　夫がたどり着いたのがこの「会」だったのだ。
　この会に入れば、生涯浮気なんて「つまらないこと」をしなくなる。
　そう説得されたのが決め手だった。
　離婚を決意していても、夫への愛が喪われたわけではないのだ。ううん、愛していればこそ、浮気が許せない。
　浮気が止まるのなら、何でもしてみよう。どうせ、このままではいられないもの。
　わらにもすがりたい心境で受け入れてしまったのだ。
　これから、入会の「儀式」が始まる。
　もちろん「儀式」といっても、簡単なものだ。
　目の前にいる二人に、ほんのしばらくの間、身を任せるだけ。
　夫以外の男性経験を持たない春佳にとっては、愛していたはずの夫との離婚が掛からなければ決して受け入れなかったはずだ。
　半ば捨て鉢になって決断したのだ。
　会ってみれば、二人とも、春佳が想像していたよりも年配なので、驚いた。
　特に、会長と呼ばれている男性は、初老と言っても良い。
　春佳の父親と同じくらい、あるいは、もう少し年配だろうか。
　しかし、どちらの男性も、やや痩せ形で、見るからに立派なスーツを自然に着こなしている紳士に見えた。
　とてもではないが、互いに夫婦を交換してセックスする、などという変態的な行為をする人間には思えなかった。
　まさか、この人達が、と一瞬、頭に浮かんだが、すぐに、頭を振って苦笑い。
『私だって、今から、そのナカマになるんだ』
　もちろん、緊張している。
　しかし、ホテルの明るいロビーで世間話を交わしているこの瞬間、自分がこの二人に、これから身体を預けることになるというのは、実感がわかないというのも本当なのだ。
「それでは、そろそろ」
　だから、穏やかな顔で皆が立ち上がった瞬間、達也と一緒に帰るのだと錯覚した。
「奥様は、こちらへ」
　そう言われて、慌てて顔を赤らめたのは、この後の淫らな行為を想像したというよりも、うっかり間違えてしまったことが、我ながら恥ずかしかったのだ。
「じゃあ」
　達也が、何とも言えない、苦いモノを含んだ顔をして、目を合わせないまま、春佳のことを促した。
『あなた、本当にいいの？私、この人達に、されちゃうのよ、あなただけなのに。あなただけの妻なのよ』
　今さらながら、決断したことがあまりにも重すぎたことに気がつかされる。
　心の中で、春佳は叫んでいたが、今さら、ここでだだをこねるわけにはいかなかった。
　二人にとって、これは、最後の賭なのだから。
　これに負ければ、どのみち離婚しかないのだ。
「下に車がありますから」
「え？ここではないんですか」
　ホテルで会う以上、てっきり、このまま、上の部屋へ行くのだとばかり思っていた。違うらしい。
「こういうシティーホテルは、防音が意外にダメなんですよ」
　地下の駐車場に向かうエレベータに乗り込みながら、若い方の、と言っても、達也よりも年配の紳士が申し訳なさそうに説明した。遠藤と、名乗った方だ。
　まさか、大騒ぎをするはずもなく、単にセックスをするだけのことだ。なぜ、防音が必要なのか春佳には分からなかった。
　確かに、達也とのセックスで絶頂に達するときに声が出てしまうが、その程度の声も、漏れてしまうほど、音が筒抜けとも思えない。
　一瞬の春佳の怪訝な表情を見抜いたのだろう。
「あぁ、旦那さんとの時とは、ずいぶん違いますよ。それはこれから分かります」
　含みを持たせた言葉は会長と呼ばれている初老の男性だ。相澤という名前だった。
　さっき、二人とも、社会人の経験の少ない春佳も知っているほど、名前のしれた会社名が入った名刺を、慣れた仕草で差し出してくれた。
　こんな小娘に、と育ちのよい、春佳が恐縮してしまうほど慇懃な態度だった。
　二人にはさまれるように出口を向いて立つ。
　エレベータの扉が閉まる一瞬、達也が、こっちを見た気がした。
『あなた』
　春佳の心が叫ぶのを遮るように、ゆっくりと扉が閉じていった。

　そこからの春佳は、何を話したのか、覚えていないほど、緊張していた。
　ただ、車の後部席に並んで座った会長は、大変穏やかな紳士で、春佳に断ってから、右手をそっと、掌に包むようにしてそっと撫でてきたことだけが印象的だった。
　別に、いやらしい触り方ではなく、大事な猫を日向で優しく撫でるような、そんな触れ方に、少しだけ春佳の気持ちも落ち着いてきた気がした。
　ただ、続くうちに、妙に下腹部に、重たい感じがしてきてのも、どこか上の空で感じていた。
　だから、部屋に入って、どうぞよろしくお願いしますと挨拶されれば、よろしくお願いしますと、どこか場違いな挨拶を返していたのだ。
「まず、最初に、確認いたしますが、奥様の身体に傷をつけないこと、本当に嫌がる行為をしないこと。というお約束でよろしいですね」
　会長は、この手のホテルにしては珍しい、立派なイスに向き合って座って、春佳の前に穏やかに話しかけてきた。
　遠藤は、姿が見えないということは、そのまま、シャワーでも浴びに行っているのだろうか。
「あの、ほんとに、本当に、達也さんは、浮気をしなくなるのでしょうか」
「もちろんです。我々の会に入ってから、メンバー以外の女性としたがる男性はいませんね。むしろ、妻とのセックスがたまらなくいとおしいモノになるのです」
「でも、それなら、何で、他の人と」
　さんざん、達也に聞かされてきたことだった。それでも、もう一度聞かずにいられなかったのだ。
「そうですね。自分の妻が、他人と交わっている姿を見て、切なくなる。その切なさの中に、妻に対する愛を再確認しているのではないでしょうか」
　年上でもあり、社会的地位もある会長が、すこしも、そんなところを見せず、むしろ、じっくりと対等に話し合うような口調で、ゆったりと説かれると、そうなのかと思わせる説得力があった。
　しかし、だからといって、この、目の前の人間とこれからセックスをすることになると言う戦慄は別なのだ。
　膝の上で、静かに、重ねられた、シワのある両手を組んでいる姿を見ながら、手をなで続けられた感触がぼんやりと、思い出されていた。
　くすぐったさを感じさせず、そのくせ、微妙な感触を送り続けてきた手。
　その感触は、春佳のお腹の下の方に、なぜか、重たいような、妙な感触をもたらしていた。
　はっと、したときには、その両手を見つめていた春佳の目が覗き込まれていたのだ。
「…、そんなところでしょうか。奥さんも、今日、家に帰れば、きっとご理解いただけますよ。」
「それより、奥さん。どうでしたか、さっきの感触は。それほど嫌ではなかったでしょう？」
　手に視線を注いでいたのを知られてしまった。
　ハッとなって、つい、恥ずかしくなってしまった。でも、じっと手を見ていた以上、違うとは言えず、曖昧に頷くしかなかった。
「今、遠藤さんは、シャワーを浴びています。私もその次に、浴びてきますので、まあ、準備運動代わりに、少しマッサージでもさせてください」
　そう言いながら、ベッドに誘われれば、まだ、という気持ちと、いよいよだという緊張感が、戦慄のように背中に走るのは仕方のないことだった。
「あの、まだ、私も、シャワーを浴びてないし」
「はは、大丈夫ですよ。とりあえず。準備ですから、そう緊張しなくても。大丈夫、奥さんが本当に嫌なことはしない約束ですからね」
　さりげない動作に促されながら、春佳はいつのまにか、上着を脱いで、ベッドに横になっていた。とっさにうつぶせになったのは、表情を見られるのが恥ずかしかったからだ。
『あぁ、失敗、見えない』
　そう。自分の表情が見られない分、会長が何をするのか、自分で見る術を喪ってしまったということだ。
「ひゃう！」
　だから、背中に触れられた瞬間に、ヘンな声を出してしまったのは、緊張が破られた驚きであって、別に、嫌だとか、感じたとかではない。
「大丈夫ですよ。リラックスしていただくためですからね」
　柔らかい声に包まれながら、背中をそっと滑り降りてくる感触があった。
　ふうぅとため息が漏れてしまった。
　ゾクゾクするような感触。くすぐったくはないけれど、何か甘い感触の予感。
　背中を両手で包むようにしながら、そのまま肩胛骨の方にそっと、撫で上げられる。８本の指先が、脇を羽根のような感触で撫でる。そのくせ、親指は、背骨に沿って、微妙な感触を送り込んでくる。
　春佳は、夫の手しか知らない。漠然と、夫のテクニックは上手だと思ってきた。
　苦笑混じりに、さすが経験が多いのねと、夫にチクリと言ったこともある。
　しかし、今、自分が受けている感触は、そんなのが子どものレベルだと思ってしまった。　いくら夫しか知らなくても、人妻である以上、それなりに開発されてきている。
　夫の若いときからの女遊びで培ったテクニックを一心に受けて開発されただけに、今では、人一倍感じやすくなってしまてっているらしい。
　夜のベッドで、身も心も満足しきった春佳は、このテクニックを夫が他のオンナに使っているのかと思うとやるせなくなるのだ。
　それだけに、会長の、テクニックが抜群だとも思うし、早くも身体が熱くなってきたのに気づかされるのだ。
『でも、だめ、抱かれるだけ』
　そう、夫の浮気を止めるために、他の男に抱かれに来ただけなのだ。夫は、一度だけで良いと言った。会に入る入らないは、その後きめればいいと。
　だから、春佳は、感じる必要などないのだ。
　それなのに、背中をほんの少しさすられただけ、それも服の上からなのに、ザワザワとお腹の下の方に熱いモノが降りてくる。危険な予感。
　その感触を振り払うように、枕に埋めた顔を振るが、ちっとも効果がない。
　もちろん、そのわずかな動きを、手管に長けた会長は見逃してくれなかったのだろう。
　背中を這い回る指先の動きが加速する。
　何度も何度も、上へ、上へと撫で上げながら、同時に、スカートから、少しずつブラウスが引き上げられていく。
　いけない、と思うのだが、指先につい気を取られてすそを直せない。
　それに、なんだか、手の動きを妨げてはいけない気がしたのだ。
　春佳が気にしている通り、すでに、背中の一部が見えている。
　こんな至近距離で、素肌の背中を他人に見せるコトなんてなかった。
　突然、スッと両手が忍び込んできた。
　乾いた手だった。
「あふっ」
　思わず、声が出てしまった。
　慌てて、押さえようとした時には、既に両手がブラウスの下に入り込み、さっきまでの妖しい動きで、直接触られていた。
「まあ、こんなジジイの手で申し訳ないですね」
　そんな風に言われたら、嫌と言えるわけがなかった。
「いえ、そんなことは」
　と言うしかないのだ。
　でも、もうやめて欲しいと、春佳は思ってしまう。
　もちろん、この男性に抱かれに来ている以上、断ることなどできるはずもないが、このまま続けられれば、どうにかなってしまいそうで怖くもなっていたのだ。
『どうしよう、やめてもらわないと、でも、そんな風に言うと、お気持ちを害して、でも、あぁ、どうすれば』
　春佳の葛藤に気がつかないだろうか。
「ああ、それならありがたい。おいやでなければ、このまま続けさせてくださいね。いや、若いというのはうらやましい。まして奥さんのような別嬪さんになら、もう、極楽と言うもので」
　心から嬉しそうな声が聞こえる。
　そうなると、ますます断りづらい。
　まして、両手は、直接触れ始めた今となっては、はっきりと、快感を送り込んでくるのだ。
『だめ、がまんしなきゃ、大丈夫、このくらいなら、あぁ、でも、もうやめてぇ』
　声を出さないようにガマンするのが大変になりつつあったのだ。
「　…ですか？」
　だから、つい聞きそびれ、え？と思う間に、あっという間に、ブラのホックが外されていた。
　鮮やかな、手並みだった。
「ちょっと、ヒモが邪魔ですね」
　今度は、聞きもせず、外れたブラのヒモを、身体の下に押し込んでくる。もちろん、その押し込む動作そのものが、胸の裾野を背中側から愛撫する動作そのものだった。
「あぁ」
　思わず、ため息のような声が出てしまう。
『ずるい、そう言って触るなんて、でも、上手、何なのこの指』
「良いんですよ。ゆったりしてください。何もガマンなんかしなくていい」
　何度も、そう言いながら、妖しい指先が背中を這い回り、胸の裾野をサワサワと刺激してくる。
　ムズムズした動き。胸の裾野からはっきりと、危険な信号が出ていた。
　ブラウスの裾は、すでに大半がスカートから抜き出されているみたいだ。
　だから、今や、背中は自由に両手が動き回れるのだ。腰の辺りがずーんと重くなっていた。
『ダメ、感じちゃ。私は、そんな女じゃないの』
「良いんですよ、人妻が、長い間背中を撫でられれば、当たり前なんですよ。誰でもそうなるんです」
　呪文のように遠い声が、やさしく、春佳の耳に届いている。
『そうなのかな。誰でもって』
　どうなっているのか言わずとも、春佳の状態が手に取るように分かっているみたいだ。
　それが、よけい春佳には恥ずかしい。そのくせ、仕方ないのかなと頭のどこかで考え始めていた。
「さ、今度は、足をほぐしましょう。上を向いて」
　突然、背中から手を抜かれた瞬間、送り込まれていた甘い感触がなくなって、寂しさを感じてしまったのかもしれない。
　さっきまで、遠い声だったはずの会長の声が、きっぱりとした、そのくせ優しい声で命令したからかもしれない。
　とにかく、春佳は「はい」と返事をしてしまった。
　そうなれば、素直に上を向くしかなかったのだ。
「恥ずかしい」
「良いんですよ。リラックスして。そうだ、これを」
　恥ずかしさと、思わぬまぶしさから、右手で両目を隠した春佳に、ふわりと何かが被される。
　どうやら、備え付けのタオルがかけられたらしい。
　それでも、春佳は、動くのがなんだか怖くて、そのままでいた。
「あふぅ」
　今度は、はっきりと、感じた声を出してしまった。
　膝からそっと、上に撫で上げる動き。両方の足の違う場所を、違う動きで触れてくる。
　悪魔のように、くすぐったさの限界をホンのちょっとだけ超えた、微妙な感触なのだ。
　こんな風に触られれば、カラダの奥がキュンとなってしまう。
　オンナの場所を意識せずにいられなくなるのだ。
　特に、膝から、太ももに上がる瞬間、思わず両足をすぼめてしまうほど、強く感じてしまう。
　そのくせ、サラサラと太ももの半ば。スカートの裾あたりまで来ると、スッと引いてしまい、また、膝まで戻る。
　また、サラサラと上がって、思わず太ももに緊張した力が入ると、今度は、すっと、足先に指先があてられ、ストッキング越しに、足指の付け根をサラサラと掃くように撫でてくる。
　そんなところが、こんなに強く感じるなんて。
　いつの間にか、左手はシーツを掴んでいた。
　そうしないと、ふわふわと身体が浮き上がりそうな感じなのだ。
　指先に誘われるように、膝が開き、サラサラと撫で上げられる度に、ハッとなって足を閉じる。それを何度繰り返しただろう。
　いつの間にか、呼吸が、ハアハアとあえぐように荒くなり始めていた。
『でも、止められない。どうしよう』
「少々暑いようですね。 とりあえず、ストッキングを脱ぎましょうか」
「え？あ、やめ…」
　やめてと言いかけたときには、すでに、両手がスカートに入り込んでいた。
　ベッドと腰の間に、スッと割り込んだ両手が、スルスルと下側から、ストッキングを降ろしてくる。もちろん、この状態で抵抗すれば、スカートがめくれてしまうかもしれない。
「はい、ちょっと上げてくださいね。スカートがまくれてしまうから」
　その春佳の心を知っているかのような会長の声。
　幸い、紳士的に優しく、慣れた手つきだった。
　言われたとおりにした方が、スカートが乱れずにすむ。
　とっさにそう思って、思わず腰を浮かせてしまった。
　パンティーストッキングが、あっという間に、スカートの外まで脱がされてしまう。
　こんなに薄い一枚であっても、脱ぐという行為は、また一つセックスに近づくのだと思えてしまう。
　素早く、そのくせ、丁寧な手つきで脱がされていく。
　スカートの中の空気がわずかに動いた気がした。思わぬほど空気は湿っている。
「さ、今度は僕が担当しますね」
　急に声が変わって、触る手の感触が、温かで、しめったものになった。
　ビックリした。
「あ、あの」
「大丈夫。今、会長は、シャワーを浴びに行きました。まだ、準備でしょ。今度は僕がマッサージしますね」
　そう言いながら、両足が温かい両手に包まれた。
「あの、そこ、汚いから」
「え、大丈夫。ちゃんと洗ってきましたよ」
　声だけでもにこやかな笑みが伝わってくるような、優しい声だった。
　春佳は慌てて、相手の勘違いを直そうとする。とんでもない。
「違います、私まだ、お風呂に入ってないから」
「何を言っているんですか。あなたのような美人の奥さんに汚い部分なんてないですよ。ほら、んっぐ」
　湿った音と主に、春佳の右足のさきが、ヌルヌルするものに包まれた。
　むずがゆさとともに、なぜだか、子宮に微かに共鳴現象を引き起こす感覚が、ビビンと響く。
　甘い衝撃。
「何を？」
　思わず、タオルをはねのけてしまった。
「それは！だめぇ」
　遠藤は、シャワーを浴びたばかりだ。だから、当然裸だ。
　夫よりも遠藤が、さっき、ハイヒールを脱いだばかりの春佳の足指を、おいしそうにしゃぶっていたのだ。　
「ダメ、汚いですから」
「いえ」
　そう短く答えるだけで、また、春佳の足にむしゃぶりつく。
　春佳はどうして良いのか分からない。
　まさか足蹴にするわけにもいかないし、暴れるのもためらわれる。
　嫌と言いながらも、むしろ、申し訳ない気持ちだ。
『こんな汚いところを。そんなあ』
　そのくせ、その舐められている場所は、くすぐったさより、妖しい感触の方が強い。
　さっきまでの、悪魔のように動く指先と違う、何となくダイレクトで、そのくせ、もどかしいような快感が、指先から、ジンジンと子宮に伝わってくる気がした。
「だめぇ」
　そう言いながらも、妖しげな感触に、両膝をこっそりとすりあわせてしまう。
　指の股まで、シャブリ尽くすように舌が這い回り、足先を甘噛みされる。
「はぁあ〜、だめぇ」
　甘やかな拒否の言葉を口にするが、その言葉の半ばは、感じている声だった。
　舌が、春佳の足先を這い回りながら、その両手が、そっとスカートの裾から侵入してくる。
　太ももをなぞるように両手が奥に入ってくる。
『あぁ、だめぇ、そんなことしたら、ヘンになっちゃう』
　ザワザワと奥に入ってくるにつれて、思わず両足に力が入ってしまう。
　大事な場所に、妖しい予感。今にも、指先が、大事な場所を襲ってくる。
『さわられてしまう。だめぇ、そんなことをしたら感じちゃう。ガマンしなくちゃ、ああんでもぉ』
　しかし、春佳の緊張をヒョイッとからかうように、指先が外される。
　決して奥には届かない。
　ほんの手前まで来ては、また、足先から、やり直してくる。
　指先をピチャピチャとしゃぶられながら、内ももの敏感な肌をたどられれば、背中がザワザワとしてしまうのが止められない。
　既に、春佳の大事な部分に、熱い何かがこもっている。
　膝をこすり合わせる度に、ジーンとした快感がわき上がってくるのが、もはやはっきりしてきた。
「あぁ、だめぇ」
　何がダメなのか。
　ひょっとして、感じてしまう自分にダメと言っているような、そんな気さえする。でも、そんな風に、何かを言っていないと、限りなく淫らな声を出してしまいそうなのだ。
　いつまで耐えられるのか。
　恥ずかしい予感に春佳は震えていた。