第４章

「奥さん、ずいぶん派手だったよ」
　いつの間にか、当たり前のように、遠藤が乗っていた。
　既に怒張が挿入されていたのだ。
　ゆっくりとした動きだった。
　いつの間にか、男を迎え入れるように、両足を広げきっているのが悲しかった。
「あぁ、もう許して」
　身体が鉛のように重たい。そのくせ、遠藤のゆっくりとした動きに合わせるように、うねうねと腰がうごめき始めてしまう。ふつふつと、快感の泡が立ち上ってくる。
　今ナカに入っているモノ。さっき握ったときは、ごく普通のモノだった気がした。
　夫のモノより小さいし、会長のモノのように形が変わっているわけでもない。
　それなのに、なんでなんだろう、夫のモノより大きな快感を送り込んでくる気がする。
「あぁ、だめなのにぃ」
　そう言いながら、オトコが動きやすいように、さらに足を広げてしまう。
「あぁん」
　甘い声が出てしまう。その声を聞きながら、遠藤がニヤニヤしながら、腰を使ってくる。
　くやしい。
　それなのに、エッチな声がガマンできない。
「ほら、奥さん、さっきの後始末」
　会長の声。
　横を見ると、目の前に、さっきまでの力を失った、会長の黒い怒張が突きつけられていた。
『後始末？』
　ごく自然に、目で、ティッシュを探した。
　それを制するように、口元に、先端が近づいてくる。
『あぁ、そうよね、そうしなきゃいけないのよ』
　夫にだってそんなことをしたことがないけれど。そうしなくてはいけない気がした。
『このオ○ン○が、あんなにスゴかったのね』
　春佳は、このオ○ン○に、完全に支配されてしまったことに、改めて驚いてしまう。
『オンナの悦び』
　言葉では聞いたことがあったけど。
　シティーホテルでは、ダメだというのが分かった気がした。
『この松ぼっくりに』
　目をそっと閉じて、唇をわずかに開けてしまう。
　容赦のない勢いで、さっき、春佳の中で射精したままの、どろどろの怒張が、口の中に入ってくる。
　精液の、あの生臭い味がした。
　表面には、膜を張ったような、ヌルヌルが張り付いている。
　春佳自身の恥ずかしいヌルヌルだ。
「ほら、ちゃんと舌を使って」
　力をなくした亀頭の周りに、そっと舌を使っては、コクリと舐め取っていく。
　屈辱と汚辱に満ちた行為のはずだった。
『お、おいしい？』
　屈辱を飲み下すごとに、身体の中で、泡が生まれ、汚辱を舐め取るごとに、泡がはじける。
　遠藤は、面白そうに上から眺めたまま、動かない。
　春佳が焦れたように腰を動かしてしまう。その度ごとに、今度は、さらに鋭い快感が背中を貫いてしまう。
　何で、こんなものをおいしいと感じてしまうのか。
　おいしいのではなかった。
　快楽なのだ。
　さっきまでの快楽が麻薬のように、春佳の脳を支配している。だから、その快楽を与えてくれたものを飲み込む度に、快楽の記憶が春佳をせめるのだ。
　合意の上とはいえ、春佳が思っていた以上に、いやホンのかけらも想像できなかったほど、恥ずかしく、なぶられてしまった。
　夫以外の男性に、これほど、思うままにされてしまうなんて。
　憎んでもおかしくなかったはずだ。
　それなのに、憎むどころか、夫にもしたことの無いような濃厚なフェラチオを、それも自分の秘蜜まで舐め取る、汚辱にまみれたフェラチオをしている。
　ぺろぺろとなめ取るだけでは、物足りなかった。
　喉の奥にぐにゃりと当たるのもかまわず、一度深く飲み込んで、根本から、柔らかくなった怒張を唇でしごき上げる。もちろん、中のものを吸い上げるように、舌をからめている。
　先端から、わずかに残った精液がポトリと口の中に落ちる。
　コクリ。
『え、そんな、ウソ、ウソ、そんなあ、あう、い、いっちゃう、いくぅ〜』
　その瞬間、春佳の身体が痙攣したように、震えた。
　信じられないことに、自分をこれだけ弄んだ男の精液を飲み下した瞬間、春佳は、オーガズムに達してしまったのだ。
　コクリと音を立てて飲み込みながら、しびれるような快感に震えてしまう。
『あぁ、もっと、もっとほしい』
　何がほしいのか。
　男の精液なのか、それとも、もっと快楽がほしいのか。
　自分でもわからなかった。　
　チュポンと音を立てるように、会長のものが引き抜かれた。会長のモノを追うヒマもなく遠藤が動き始める。
「あ、あ、だめえ、もう、あう、また、恥ずかしいのに、あう、あ、あ、あ」
　身体のナカの怒張を目一杯締め付けている。
　そんな自分の淫らさが、どうしようもなく恥ずかしいのに、そのくせ、どうしようもなく感じている。
「ほら、奥さん、こっち」
　会長の優しい声が春佳の真上で聞こえる。
　ハッとして、春佳の目が見開いた。
　会長が真上から被さるようにして、ビデオを撮っていたのだ。
『うそぉ！』
　このビデオを夫に見せるって言ってた。
　それなのに。
　さっき、会長のものをコクリと飲み込んだところが撮られてしまった。
　セックスしているところなら、まだ、言い訳もできた気がした。
『だって、二人がかりだったのだもの』
　オンナは、焦らされたら、仕方ないのよ。その言葉を飲み下せたのに。
　でも、自分から、会長のものを飲み込んでしまったのだ。飲み込んだ瞬間、自分がオーガズムに震えたのも映っちゃっているはず。
　さっきのように焦らされたせいでもない。
　もう春佳には、隠せるものなどなかったのだ。
　男に好きなように入れられ、好き放題にオンナの恥ずかしい瞬間を掘り起こされる。
　いつだって、好きなようにオ○ン○されるのだ。
『奴隷にして』
　さっき叫んだ言葉を思い出していた。
　あぁ、たまらない。そんな風に言わないで。だめ、春佳はいやらしいオンナになっちゃったの。あぁ、だめぇ。
　いつの間にか、叫んでいた。
　遠藤の背中に手を回しながら、奴隷にして、オ○ン○して、と叫びながら、恥ずかしいオーガズムに向かって、一心に駆け上っていったのだ。
「だめ、あ、あ、あ、いく、いっちゃう、あ、だめ、いくう！」
「ほら、出すよ。一番奥にね」
　子宮にまで届いた遠藤の精液で、春佳は子宮が溶けるような快感を感じていた。

　驚いた。
　夫の達也でさえ、一度放出すると、春佳をいじったりして、インターバルを置かないと回復しない。
　最近は、一日に二度求めることもほとんど無かった。結婚した相手なら、いつでもできるからムリする必要はないというところなのか。
　この遠藤は、ついさっき、春佳が達したときに、一緒にたっぷりと出したはずだ。
　春佳の奥は、確かに、熱いしわぶきを浴びたのだ。
　子宮が収縮するようなオーガズムになったのもそのせいだった。
　その瞬間、春佳は、遠藤の唇を、いいえ、舌を、自ら求めてしまったのも、子宮を満たされたオンナの、本能のような動きだった。
　ビデオで撮られているはずなのに、止められなかったのだ。
　犬のような格好をさせられていた。
　高く突き出したお尻を会長の指が、ヌメヌメとあふれ出したモノをかき回してくる。
　それだけも、子宮がずきーんとする。
　膝立ちの遠藤が、春佳の顔の前にいた。
　今目の前に突き出されている怒張は、さっきの射精を忘れているかのように、隆とそそり立ち、たくましい姿を見せている。
「おっきい…」
　糸を引きそうなまでにドロドロとしていた。
「さ、これを」
　春佳は目を閉じて、ゆっくりと、顔を近づけていった。
『オンナは、しかたないの。子宮まで精液をあふれさせたオトコには従うしかないの』
　いつの間にか、酔ったような顔になった春佳には、被虐の素質があったのだろう。
　秘唇を会長の指に弄ばれながら、オトコにご奉仕する悦びに、背中がゾクリとした。
　ゆっくりと飲み込んでいく。
　精液の匂いと、自身の匂い。惨めなはずなのに、甘く、危険な予感が春佳の脳髄を貫いてしまったのだ。
　ピチャ。ピチャ。
　湿った音を立てながら、ゆっくりと舐め始める。
　さっきと違って、そそり立つ、逞しい怒張だ。いつの間にか夢中になってしまった。
　ちゃぷ、ちゅぱ、ずずっ。
　時折すすり、たまったモノを飲み下す。
　生臭い、精液の名残が喉の奥を落ちていく瞬間、首までオトコに犯されている気がした。
　そのうえ、春佳の秘唇に使われている会長の指が、だんだんと早くなってきた。
　ふつふつと脳が煮え立つ気がした。
『あぁ、もう、私ダメになっちゃった、あう、あん、なんて、みだらな、あう、また、感じてしまって』
　汲めどもつきない快感を絞り出している自分の身体が恨めしい。
　そのくせ、唇でしごくように、遠藤の怒張を吸い上げ、根本の方にまで舌を伸ばしながら、懸命にフェラチオを続けてしまう。
　じゅば、じゅぶ、じゅば。
　湿った音をさせながらの春佳の唇が、舌が、遠藤の怒張に絡みついていた。
「良いぞ、奥さん。なかなかいい顔をしてる。どうだ、おいしいか？」
　春佳は、くわえたまま、小さくコクリと頷いて、おいしいと言う代わりに、ずずっと音をさせて吸い上げて見せた。
「う、なかなか、奥さん上手だ。あぁ、いいぞ。さ、奥さん、ご褒美だ。受け取れ」
　急に喉の奥にまで、ずん、ずんと突き入れられて、春佳はぐぇっとむせかえりそうになる。
「出すよ、ほら、奥さん」
　気がついたときには、怒張は春佳の口の中で、ドクン、ドクンと脈打つように律動していた。
　独特の匂いのする、精液が、春佳の口に出されていく。
　２度目なのにビックリするほどの量だった。
　その瞬間に合わせるように、会長が春佳のクリトリスに、強烈な一撃を加える。
『え、うそ、だめ、い、いっちゃう、あぁ、だめ、い、っちゃ、うぅ〜』
「ふぐぅ、むぐぅ」
　懸命に歯を当てないようにするだけで精一杯だった。
　春佳は、夫以外の精液を飲み込みながら、オーガズムに達してしまったのだ。
　口から、遠藤のモノを外すようにして、ガクリと、ベッドの上に崩れ落ちた。
「はぁ〜」
　尻だけが、高く突き上げたまま、崩れずにいる。
　そんな淫らな姿勢も気にならないほど、春佳の全身から、力が抜けてしまったのだ。
『とにかく、これで、終わった、の、ね』
　ボーッとしてしまう頭の中に、とりあえずの休息が浮かんで、ホッとしていた。
『後のことなんて。今は、休みたいの』
　ガクリと足の力が抜けて、身体が横になりかけたときだった。
『え？』
「奥さん、もう一度。今度は、こっちでね」
　高く掲げたままの尻をガッチリと掴まれていた。
　じゅぽ。
　ねっとりとした、湿った音をさせて、遠藤が再び入ってきたのだ。
「あぁん、うん、え、うそ、だって、遠藤さん、いま、終わって」
　信じられなかった。
　今出したばかりのはずの遠藤が、逞しく、硬い怒張を突き入れている。
「あぁ、遠藤さんはね、抜か三の遠藤って、会では有名だからね」
　後ろからの姿勢は、今まで届かなかった部分を掘り当ててしまってのか、さっきとは、全く別の快感が吹き上げている。その春佳の耳元で会長は愉快そうに話すのだ。
「まだまだ。奥さんは、こんなに若いんだからね」
「あぁ、もう、やめてぇ、こんな、もう疲れて」
　無理ですと言おうとした。その瞬間、遠藤がパンパンと春佳の尻に身体をぶつけるような激しい動きをしてきたのだ。
「あぁ、あう、あ、あ！あうう、いい、いい！」
　口をついて出たのは、既に声もかすれかけていた春佳の淫声だった。
「ほら、遠藤さん、さすがに、二回も出してるから、今度は奥さんを満足させてくれますよ」
　ブルブルと首を振った。
　たまらない。
　尻を掴まれたまま、春佳の美肉に硬い怒張が突き立てられている。
　オトコに完全に屈服した姿勢だった。
「あ、あ、あ、う、いい、あうぅ」
　尻がいつの間にかうねっていた。男を誘うように、微妙に左右にうねっている。
「ほら、奥さん、旦那さんに、もう一度、逝くところを見せてあげなよ。ほら、ほら、ほら」
　パンパンパンと乾いた音の合間に、時折、ブシュっという空気が漏れる音がする。
　春佳の美肉に押し込められた空気が、時折、こぼれるのだ。
　怒張に絡みつくように、春佳の美肉が締め付けているせいだ。
『あ、夫が、あう、見ているのに、あ、ダメになっちゃう、あぁ、あ、あなた、私、また、恥をさらしてしまうわ、あぁ、許して』
　夫に見られる。その言葉が春佳に夫を思い出させていた。
　夫の視線を意識した瞬間、またも、身体の奥から、ドロドロとしたマグマが吹き上げてしまったのだ。
「あぁ！いっちゃう！いく、いくぅ！あなたぁ、ごめんなさい、春佳、いく！」
　腰から下が、真っ白なマグマに飲み込まれていた。
　マグマはあっという間に、背中を駆け上り、春佳を包み込んでしまう。
　真っ白な閃光の中で、春佳の意識が宙に飛んだ。

「旦那さんの所に帰るんだよ」
　そう言われて、鉛よりも重い身体を引きずるようにして、シャワーを浴びた。
　石けんでいくらこすっても、違うオトコの匂いが消えない気がした。シャワーを逆手に持って、中まで指を入れながら、違うオトコの精液の名残を洗い落とす。
　不思議なほど後悔はしていなかった。
　でも、夫に顔を見せられないと思った。
　夫以外の男性に、思い出すのも怖いくらい、感じてしまったのだ。
　バスルームで身支度をした春佳に、男達は元の紳士に戻っていた。
　ただ、春佳の身体を、そして、反応を車の中で褒めちぎってくるのが、恥ずかしかった。
　歯も浮くようなお世辞を重ね、時には、春佳を恥ずかしがらせることをジョーク混じりに語る。
　さすがに、社会的地位はダテではないと思った。
　すっかり安心しきった春佳だったから、じゃあご主人の所に送ります、と言われれば、素直に信じてしまった。
　それがいけなかったのか。
　部屋に入るやいなや、両手を押さえられ、スカートから、ショーツが抜き取られる。
　だから、ストッキングを履かせてもらえなかったのかと、今頃になって理解する。身支度をしているときに、ストッキングは破れてしまったから、と渡してもらえなかったのだ。
「え、ダメ、いや、もうしないって。だめ、やめて」
　重い身体を懸命に動かそうとするが、いくら年配とはいえ、男性二人がかりでは、あらがうのも難しい。
　まして、さっきまで、身体をくっつけていた相手だ。
　必死になるのも、なんとなく、できないことだったのだ。
「奥さん、もう、さんざん、セックスした中じゃないか。旦那さんが来るまで、もう一回頼むよ」
　それを見透かしたように、遠藤が、ニヤリと笑いながら、スカートをまくり上げてくる。
「あぁ、ダメ、お願い。やめて」
「いいんだよ。奥さん。ほら」
「あ、あぁ、いやあ」
　絶望の声を上げるしかない。しかも、抑えてだ。
　さっきまでと違い、大声を上げれば外に漏れる。誰かが駆けつけてくるのは、春佳とて望んでいないのだ。
「うん、うん、ちゃんと、濡れているよ。奥さん」
「ダメ、お願い、やめてください、あう！」
　一度、怒張を入れられてしまえば、身体の慣れ、が春佳を不利にする。

　捲り上げられた、スカートをそのままにして、遠藤が硬くなった怒張を自由に抜き差しし始めたのだ。
「あぁ、うそをついたのね、夫がいるって」
「ウソなんてついてないよ。あと十五分もすれば、旦那さんは、ここへくる」
「ひぃ！うそ」
　春佳の動揺をよそに、会長がいつの間にか、春佳の上着を剥ぎ取って、ブラウスの前を開けていた。
　会の決まりだと言われて、ブラジャーは、二人に渡していたのだ。駐車場から、部屋に行くまでの間だから、と言われて、仕方ないと思ったのに。
『こんなこと。夫が来るのに』
　あと十五分で夫が部屋に来る。
　それなのに、今、二人にセックスされている。
　信じられなかった。
「ほら、奥さん、シャワーを浴びたとき、中まで洗ってしまったでしょ？」
「あう、やめて、あうう、それが、あう、何か、ああう、もう、やめて」
「旦那さんの浮気を止めたいって言ってましたよね」
「あう、だからぁ、ああ、何なの、あう！」
　真剣な話をしながら、なのに、指先はこれ以上なくわいせつな動きで、春佳の乳首をいらっている。
　だから、いやなのに、頭の中にピンク色の霞がたなびき始めている。いや、軽いオーガズムさえ、感じてしまっている気がした。
「旦那さんがこれを見たら、必ず、奥さんの中に入りたがります」
『そんな、きっと、私、嫌われてしまう。だって、あんなに、淫らに』
　春佳の否定を見透かしたように会長は、静かに続けた。
「大丈夫、奥さんがあんなにキレイに映っているからね。それでね、その時。旦那さんが入った瞬間、他のオトコのモノがこぼれてくる。その瞬間を教えてあげたいんだよ」
『そんな、そんなことできない、ああ、でも、このまましてたら…』
「奥さん、奥さん、さ、一緒に、子宮の奥に入れてあげるからね」
「え？だめ、あう、あん、だめぇ、いやあ、いやなのぉ、あうぅ」
　身体の奥で遠藤のモノが膨らんだ気がした。
　乳房がギュウッと絞り立てられながら、指先で強烈にはさまれる。
　春佳の限界だった。
「ああ、あ、ああ、あうぅ！だめぇ、いっちゃう！ああ！いく、いくっ！」
　確かに子宮の奥に熱いしわぶきを浴びながら、春佳はほんの短い交合なのに、激しいオーガズムに達してしまった。
「奥さん、さ、私たちは、これで帰ります。あ、それから、実は旦那さんは、今隣の部屋にいるんだ」
　しどけなく乱れた服装を直す気力もなく、会長の言葉に声も返せないほど、ぐったりとした春佳だ。
「大丈夫、ついさっきまで、旦那さんも、ちゃんとしていたからね。今、こっちの部屋に来るから」
　え？今？
　慌てて身体を起こそうとしたが、身体が言うことを聞かない。
　なんとか、身体を起こした瞬間、ガチャリとドアが開かれた。
　遠藤が夫を招き入れたのだ。
　夫には、さすがに年はそれなりだが、二人の美女が付き添ってきたのだ。
　さっきまで、春佳を弄んだ二人のオトコの、つまりは自分たちの妻だと会長は言う。
　唖然としていた。
「あの、これ、相澤、さん、あの」
　ほうけたように、春佳に視線を送った後、フラフラと数歩、歩み寄ってくる。
「ダメ！来ないで！」
　夫に見せられないと思った。
　だって、ついさっきまで、セックスしてたの。あなた以外の人と。
『逝っちゃったの』
　ごめんなさいと小さな声が我知らず出てしまう。
　身体を隠すこともできず、いやあとため息のような鳴き声を吹きこぼしながら、春佳は枕に顔を埋めてしまう。
「ほらほら、奥さんがお待ちですよ。さ、こっちに座って」
　さすがの夫も毒気を抜かれのだろう。
　妻が、ついさっきセックスをしたばかりの、恥ずかしい淫声を吹きこぼしたベッドに、そっと腰掛けてくる。
「さ、ビデオ、ビデオっと」
　遠藤の楽しげな声。
　どっと笑う声。
　春佳は、恥ずかしさでパニックを起こしていた。
　だから、みんなが帰ったことも気がつかず、ふと我に返ると、ベッドの上で、夫に裸にされていたのだ。
　もちろん、夫と二人っきりだった。
　ギュウっと抱きしめられる。
「あぁ、あなたぁ」
　そう思いながらも、夫にキスするのをためらってしまう。だって、ほんの十数分前まで、この唇は、あなた以外の男の人をくわえていたのだもの。
　唇には、まだ、会長の柔らかい感触が残っていた。さんざん春佳の口を要求しながら、とうとう固くはならなかったけれど。
　でも、あの先端からこぼれてくる、ヌルヌルを、春佳は確かに、この舌で舐め取っていたのだ。
　春佳の気持ちも知らず、夫は、春佳の中にヌルッと入ってきた。
「あぁ、あう、あ、いい、あう」
　さっきまで、さんざんに快感を絞り出されたはずの春佳の身体の奥から、汲めども尽きない泉のように、あっさりと新たな快感が湧き出してくる。
「どうだったんだ？ん？あれ？」
　ずぼっ。
　夫が何かにあわてて、引き抜いてしまう。
「春佳！これ。誰のだ！」
　突きつけた指先には、春佳の中からこぼれた、トロリとしたものがついていた。
『そんなあ』
　遠藤のだった。
『もうだめ。だって、他の人のがこぼれるなんて』
　このまま、起こって出て行ってしまう。春佳はそれを恐れた。
　さんざん達也が浮気をしたことなど、今の春佳は忘れていた。他のオトコ達にあれほど弄ばれても、やっぱり春佳の心には達也しかないのだ。
　だけど。
　他の男の残滓を妻の身体から見つけた夫が怒らないわけはない。もちろん、夫が言い始めたことだけれど、それとこれとは別な気がしたのだ。
　しかし、達也は全く別な反応をした。
「この、スケベな春佳！さんざんしたんだな。さっきまでセックスしてたんだろ！」
　そう怒った顔をしながらも、その怒りをたたきつけるように春佳に侵入してきたのだ。
「あう、あぁ、あなた、あぁ、ごめんなさい。でも、あなたが、あなたが言い出したんだから。あうう」
「くそ、誰が中に出していいと言ったんだ。お前が嫌ならしないって約束だったろうが！」
　すさまじい勢いで、腰を打ち付けてくる。
「あ、あ、だめ、だって、あう、あなた、仕方ないの、だって、ああん、あなた、すごい、あぁ」
　その時、夫の動きが急に止まった。
「え？」
　恐る恐る夫の視線の先を見る。
『ダメ！』
　夫の目をふさぎたかった。
　そこには、会長のものを入れられながら絶頂する姿が映し出されていた。
「やめてあなた！」
　夫がリモコンで、ボリュームを上げた。
　春佳の断末魔のような激しい声が響く。
「あう、もう、あぁ、お願い、奴隷にして、めちゃめちゃにして、あう、もう、お願い、あぁ、奴隷にして、あぁ、毎日オ○ン○して」
　耳をふさいだ。
　でも、ビデオの中で春佳は、次々と、淫らな叫びを上げるのだ。
『あ、な、た？』
　夫の様子が変だった。
『え？泣いてる？』
　夫は、ポタポタと涙をこぼしていた。
　熱い雫が、春佳の張り詰めた胸にぽたりと落ちた。
「あなた…」
　急に我に返ったように、血走った目を向ける。
「くそ、これか、このオ○ン○！これが、こんなに感じたのか！くそ！くそ！」
「あなた、あなた、あう、ダメ、すっごい！あぁ、ごめんさい、あん、だって」
「クソ、これが、どうだ、ほら、俺のほうが、どうだ！ほら、どうだ、どうだ」
　春佳の胸に涙をポタポタこぼしながら、すさまじい勢いで抽送する達也。
　熱いものが春佳の心を満たした瞬間、わかってしまった。
　あの会長の言葉。
「自分の妻が、他人と交わっている姿を見て、切なくなる。その切なさの中に、妻に対する愛を再確認しているのではないでしょうか」
　ゆったりした、あの言葉。
　春佳は夫が二度と自分を離さない、自分だけ見てくれる。そう確信できたのだ。
　心の中が膨らんで、突然、身体ごとどこかに吹き飛ばされるオーガズムの波。
「あなた、あなた、愛してる、愛してるの！あなた、あう、ああああ！いくぅ、いくぅ！」
　春佳は、賭に勝ったのだ。
　心も満たす大きなオーガズムに包まれながら、止めどない快楽の道に今、歩き始めたことがわかったのだった。

了