16．５０２号（北川 愛美−１）

　日曜日、徹は朝一番の新幹線で大阪に向かい、３時過ぎに打合せを終え、とんぼ返りで帰途に着いた。

（ふぅ〜時間がかかったなぁ・・・）
　徹は帰りの新幹線の中で、ぐったりとしていた。
　30分ほどうたた寝をしていただろうか、目を覚ました時、車内販売のワゴンが徹の横で止まった。
「はい、合計で600円になります」
　通路を挟んで反対側の乗客が何かを買ったようだ。
（眠気覚ましに熱いコーヒーを飲もうかな）
　徹は販売員の女性の方に目を遣った。
（なかなかいいお尻をしてるな・・・太股も絞まって・・・おっ！足首の締り具合が抜群だな！こういうタイプは名器が多いみたいだが・・・）
「あっ、あのぉ〜ホットコーヒーをお願いします」
　清算を終え、ワゴンを押し出そうとしていた販売員に声を掛けた。
「はい、300円になります」
　販売員の女性は徹の前にコーヒーとミルク、シュガーを置いた。
「あら！岩下さん・・・」
「えっ!?」
　徹は女性の顔を見上げた。
「こんにちは〜わたしです。502号の北川です」
　女性は小さな声で挨拶をした。
「あぁ〜どうも！」
「ご旅行？」
「いえ、残念ながら、仕事です」
「そうですか！それは・・・それじゃ、また・・・」
　私語を続けるのはマズイので、簡単な会話で過ぎていった。
（北川さん・・・ご主人は確か・・・レストランのコックさん？）
　徹はコーヒーを口に運びながら、北川 愛美のことを考えていた。

（北川さんの奥さん、ここで働いていたんだ・・・随分前に一度会ったことがあったけど・・・あんなにいいオンナだったなんて・・・）
　徹は愛美のお尻から太股、引き締まった足首を思い起こしていた。
（僕も元気がいいと言うか、節操が無いと言うか・・・今更、何を言ってるんだって、アハッ、そりゃそうだ！）
　徹は自嘲的に苦笑いをしていた。
　コーヒーを飲み終えた徹は、今日の打合せ事項を再確認し、仕事の段取りと日程、デザインを考えていた。
　その間、愛美が通り過ぎたことにも気づかないほど、仕事に集中していた。
（団地でも評判の岩下さん・・・相談してみようかな？）
　愛美は岩下の横を通り過ぎながら、考えていた。

　再度、岩下の居る車両に入った愛美は、岩下の横でワゴンを止めた。
「コーヒーはいかがですか？」
「えっ!?あぁ、どうも！えぇ、お願いします」
　愛美はコーヒーと一緒にメモを徹に渡して過ぎていった。
（ん・・・？）
　徹はコーヒーを飲みながら、愛美からのメモを開いた。
『お忙しいとは思いますが・・・もし、お時間がありましたら、明日の午後、お会いできないでしょうか？
　ご相談したいことがあるのですが・・・明日は休日なので、ご連絡をお待ちしています。連絡は、1234@****.jp まで、お願いします』
（何なのかな〜？今まで話しもしたことが無いのに・・・）
　徹は皆目見当もつかず、首を傾げていた。

　自宅に戻った徹は、ＰＣに向かって仕事を始めた。
　３時間余り集中して仕事をし、やっと一息入れた。
（ふぅ〜ひとりじゃキツイなぁ・・・結花の手が空いていれば・・・）
　少し寛ぎながら携帯のメールをチェックした。
（夕子と恵子・・・結花に未来に京香、それと弥生か・・・）
　先ず、結花のメールを開いた。
（仕事を手伝ってもらえると助かるのだが・・・）
『１週間ほど、取材旅行に行ってきます。帰ってきたら、必ず逢ってくださいね！』
（まいったなぁ〜居ないのか！）
　未来と京香は、同じような内容だった。
　夕方、外で逢いたい・・・というセックスの誘いだった。
（ん〜ボチボチ逢ってあげなきゃなぁ〜）
　弥生からは、今日逢えなかった辛さが書かれていた。
（次の土日には逢ってあげないと・・・）
　徹は、今日は出張だったこと、次の土日には逢う気持ちをメールに書いて返信した。
　夕子と恵子のメールには、目を通さなかった。
（何となくイヤな予感がするから・・・）
「そうだ！忘れていた・・・北川さんに返事を・・・」
　そう思った徹だが、仕事を考えると即答できなかった。
　その夜、徹は久し振りに徹夜で仕事をした。

　明け方になってベッドに入った徹は、10時過ぎに目を覚まし、シャワーを浴び、喫茶店に向かった。
（とりあえずモーニングでも食べて・・・）
　濃いコーヒーと軽食を摂り、仕事の段取りを考えていた。
（レンダリングできるところまで片付けて・・・そう言えば・・・北川さんに連絡しないと、失礼だよな・・・）
　愛美は24歳、夫はレストランのコックで29歳で、結婚後１年余りだった。
（何を相談したいのかな？しかし・・・いいオンナだよな〜顔もまぁまぁだし、何と言っても下半身が気になるな〜）
　徹は新幹線の中で愛美とは知らずに見ていた愛美の下半身が、どうしても気になって仕方が無かった。
（レンダリングのセットさえ済めば・・・そうすると・・・）
　徹は時計を見ながら考えていた。
（今が11時だから・・・１時には行けるかな）
『連絡が遅れまして済みません！１時頃で宜しければ・・・お宅に伺いますが？』
　徹はメールを送信すると、喫茶店を出て自宅に向かった。
（早く段取りしないと・・・）
　団地の近くまで来た時、後ろから声を掛けられた。
「岩下さん？」
「ん？」
　徹が振り返ると、そこには愛美が立っていた。

「今、お返事を送信しようと・・・偶然ですね！」
　ソフトジーンズにブラウスという軽装の愛美が歩み寄ってきた。
「１時でもいいですか？」
「えぇ、構いませんわ！それより大丈夫ですか？お時間・・・」
「えぇ、自宅でやってるから、何とでもなりますよ！」
「お疲れのようですけど・・・？」
「アハッ、昨日は徹夜だったので・・・少し」
「じゃあ、もし宜しければ・・・昼食を一緒に？」
「えっ！いいんですか？じゃあ、１時に伺います」
　徹は急いで部屋に戻り、仕事に取り掛かった。
　愛美は昼食の準備をしながら、何となくウキウキしていた。
（誰かの為に食事の支度をするって気分は、やっぱり最高ね！これじゃ、相談することもないかも・・・）

　１時近くになった。
（ふぅ〜間に合ったぞ！）
　徹は急いでレンダリングのセットをして部屋を出た。
　愛美は昼食の準備を終え、徹を待っていた。
　ピンポ〜ン！
「はぁ〜ぃ！」
　愛美がドアを開けると、徹が息を切らして立っていた。
「どうぞ〜何か、無理をさせちゃったみたい・・・」
「イヤ、そんなことは無いですよ！チョッとバタバタしてたもんで・・・何でもないですよ！」
「良かったわ！じゃあ、食事を・・・」
　愛美は徹をテーブルに案内し、食事を運んできた。
「嬉しいなぁ〜お昼にこんなご馳走とは・・・」
「ご馳走だなんて・・・あまりレパートリーが無くて・・・」
「いえいえ、本当に・・・じゃぁ、いただきます！」
　徹は久し振りの手料理を喜んで食べた。
（本当に美味しそうに食べてくれてる！やっぱり誰かに食べてもらうって最高なことよね・・・）

　食事を終えたふたりは、コーヒーを飲み始めていた。
　愛美が食器を片付けている間・・・コーヒーの支度をしている間、徹は愛美の後姿を舐めるように見ていた。
（不安定な新幹線の中で歩いているから、やっぱりお尻は引き締まってアップしてるよ！少し堅そうだけど・・・あぁ、触ってみたいなぁ〜
　それ以上に、あの脚は・・・味わってみたいよ！絶対に、締り抜群のオマ○コに違いないな！あぁぁ・・・
　バカ！何を考えてるんだ！相手は若い人妻だぞ！人妻であろうが何であろうが、節操の無いのはいつものこと）
　徹は愛美のソフトジーンズに包まれた下半身を妄想し、股間の一物を熱くしていた。
「ご馳走さまでした！」
「お粗末でした」
「とんでもない！美味しかったですよ！ご主人が羨ましい、毎日、奥さんの手料理を食べられて」
「・・・・・・・・・」
　愛美の顔が急に曇った。
「どうかされたんですか？僕、何か失礼なことでも・・・？」
「いえ・・・ご相談したいことって、実は夫婦のことなんです」
「ご夫婦の？」
「えぇ、実は、わたしたち結婚して１年になるんですが・・・まだ一度も一緒に食事をしたことがないんです」
「えっ!?どうして？」
　徹は本当に驚いて聞き返した。
「主人はレストランに勤務してるので、朝８時頃出かけ、帰ってくるのは夜中なんです。わたしは２交替で、６時〜14時、13時〜22時の勤務で・・・」
「すれ違い・・・ってことですか？」
「そうなんです・・・休みも都合がつかず、どうにも・・・岩下さんは団地内の評判も良く、親切だと聞いています。結婚の先輩として、ご意見を伺えればと思いまして・・・」
「ん〜〜」
（結婚が失敗した僕が、話せる訳が無い！かと言って・・・離婚したことは誰にも言っていないし）
　徹は考え込んでしまった。
　愛美に何か言ってあげたいと思ったが、すぐには何も出てこなかった。