| 24 「タカシ・・・学校には来ないでって言ったじゃない」 「小遣い足んないんだよ。すぐにいるんだ」 「いま持ち合わせが・・・」 「じゃあ、あの写真ネットにバラ蒔くよ。それとも学校の方がいい？」 「ま、待って・・・いま持って来るから・・・」 水島先生が職員室へ走っていく。 場所は学校の通用門。 帰ろうとしたときに向こうからやって来る水島先生を見つけて脇にある購買コーナーのかげに隠れたんだ。だって亜理咲のことをまた聞かれるのが嫌だったからね。 そっと覗いてみると、ふてくされた感じの若い男が通用門に寄りかかっていた。 財布らしきものを持った水島先生が走ってきたのを見てまた隠れる。 「いま、これしかないのよ」 「ちぇっ、これだけかよ。今晩、姉ちゃんのところに行くからな」 水島先生は男にお金を渡していた。 男は捨て台詞を残して去っていく。 ただならぬ様子に驚いていると目の前に水島先生がいた。 「い・・・今井君・・・」 水島先生の顔は真っ青だ。 「見てた・・・の・・・？」 「すみません。わざとじゃないけど・・・見ちゃったし、聞いちゃいました」 「お願い。誰にも言わないで。お願いだから・・・」 こんな水島先生は見たことがない。いや見たくなかった。 「先生がそう言うなら誰にもしゃべりません。けど、大丈夫ですか？ なんだか脅されてたみたいだけど」 「大丈夫・・・大丈夫だから・・・誰にも言わないで。約束して」 「わかりました。噂になんかしませんよ」 そう答えると、水島先生は「お願いね」と弱々しく言ってトボトボと職員室へ帰っていった。 約束はしたけど「噂にしない」と言っただけだ。 僕は家に帰って着替えると先輩の家に行った。 最近は先輩の家のリビングが三人の集会場みたいになっているんだ。 そして、今日見た出来事を先輩と亜理咲に話した。 僕だけが秘密を持っているのは嫌だし、文芸部の顧問だし、これからのことを考えると僕らだけは情報を共有した方がいいと思ったからだ。 「あっ・・・それっ・・・」 話し終えると亜理咲が言った。 「アリサはなんか知ってるの？」 「そうじゃなくって、それ、あたしとおんなじだよ。きっと」 「どういうこと？」 「水島Tは弟に脅されてるんだ。でしょ？」 「うん」 亜理咲は水島先生のことを「みずしまティー」と呼ぶ。TはティーチャーのTだ。 「写真をバラ蒔くって・・・きっとエッチな写真だよ。弟にエッチな写真撮られているんだよ」 「まさか・・・」 「きっとそうだよ。だって今晩行くからなって言ってたんでしょ。あたしのお兄ちゃんもそう言ってきたことあったもん。水島Tは弟にエッチされてるんだ」 確かにそう考えた方が腑に落ちる。 「確かめてみようよ」 「ええっ」 「瞳ぃ・・・学校の名簿に水島Tの住所あるよね」 「あるけど・・・どうするつもり・・・？」 「わかんない。でも、もし、あたしとおんなじことで苦しんでいるなら・・・なんとかしてあげたい・・・できないかな・・・」 「アリサの気持ちはわかる・・・けど・・・」 話はしたものの、どうしたらいいのか僕にもわからない。 「確かめてみよう」 「せ・・・せんぱい・・・」 「顧問だからってだけじゃなくって、ひとりの女として林さんの勘が当たってたらなんとかしてあげたいもん」 先輩がこんなに積極的なのが意外だった。 結局、三人で水島先生が住んでいるところに行ってみることにした。 名簿で調べると隣の駅で歩いても行ける場所だ。 部屋番号の104は鉄骨造りらしい新しいマンションの一番奥の部屋らしい。 オートロックの脇にあるポストに「Mizushima」って書いてある。まだ一階のどの部屋にも電気が点いていないので、僕らは向かい角にある喫茶店で待つことにした。 窓際の席に座ってコーヒーを飲んでいると駅の方から水島先生が来た。 ひとりでスーパーのレジ袋を持っている。 「今晩行くからって・・・メシ食いに来るんじゃないかな・・・」 「ユーイチローのバカ。そんなわけないじゃない」 ヒソヒソ声でしゃべっていると 「私、部屋の位置確かめてくるから」 先輩が言って喫茶店を出て行った。 先輩がマンションの裏の方へ行くのが見える。 「アリサの勘が当たってたとして・・・どうしたらいいんだろう？」 「たぶん瞳には考えがあるんだよ。そうじゃなきゃ、ここまで来るわけないもん」 「そうかなあ・・・」 「あっ、瞳が帰ってきた」 僕が亜理咲と話をしていたのは五分くらいだっただろうか。けっこう長く感じた。 「やっぱり一番奥の部屋だった。外から見た感じだとワンルームか1Kみたい。生け垣の奥に非常階段と裏門があるから、そこからバルコニーまで行けるわよ。もうすこし様子を見ましょう」 「かっこいい。瞳ったら探偵さんみたい」 亜理咲にとって先輩は救済策を考えた人物だから全幅の信頼を寄せているんだ。表情からよくわかる。僕はここにいて、なんか役に立つのだろうか？ 「ここで食事して、あと一時間だけ待とうよ。このお店9時までらしいから」 先輩のやることにはそつがない。僕の出る幕なんかないんだと思うとちょっと落ち込んでしまう。 「夜遅いんだから今井君は私たちのボディガードよ。しっかりね」 やっぱり、そつがない。ちょっとだけいい気分になった。 僕らはオムライスとかミックスサンドとかエビドリアとかバラバラの注文をした。頼んだものがやってきたときマンションの入り口に人影が現れた。 「あいつだ」 「間違いない？」 「うん。着ている服は同じだし、顔にも見覚えがある」 「そう。じゃあ急いで食べて確かめに行こう」 僕が頼んだのはオムライス。ソッコーでかき込む。ちっとも味がわからなかった。 |
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| 2011.8.9掲載 |
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