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　この日から僕らの関係が変わった。なんて言えばいいんだろう。信頼関係が深まったとか言葉にすると違和感がある。僕らを結びつけていた絆がロープから鋼鉄製のワイヤーになった感じかな。そばにいれば安心するし、離れていてもお互いが結びついている感覚があった。これは瞳も亜理咲も同じらしい。だから、これからは先輩のことを瞳って書く。

　瞳は無断で学校を休むのは初めてだと言ってよろこんでいた。

　亜理咲はそんな瞳のことを不良になるのはいいことだと言って笑った。

　夢のような一日を過ごして僕らは普段の生活に戻った。

　親のこととか、言い訳に困ることもあったけど、なんとかやり過ごした翌々日のことだ。

　通学路には学校と同じ高台にある公園を抜けるのが便利なので僕らはいつものように三人で一緒に帰る途中だった。

　公園の出口にある階段からいきなり人影が飛び出してきた。

　タカシだった。

「お前らだな、余計なことをしやがったのは」

　憎悪で目がギラギラ光っている。

　亜理咲が息を飲む。

　僕は一歩前に出て瞳と亜理咲を隠すようにした。

「そのネエちゃんにも覚えがあるぜ。お前ら、グルで俺を嵌めやがった・・・」

「なんのことですか」

　僕はできるだけ静かに言った。知らぬ振りをするのが一番だと思ったからだ。

「とぼけるんじゃねぇ。ちゃんと調べはついているんだ。あの吉川って弁護士の娘がそっちのネエちゃんだってこともな」

　タカシが何かを手にした。ナイフだった。瞬間、僕は自分が自分じゃなくなったように感じた。別の自分が僕を支配したんだ。

「瞳！　亜理咲！　逃げるんだ！」

　そう叫ぶと同時に僕はタカシにぶつかって行った。

　鈍い衝撃、僕とタカシは地面に転がった。

　僕がタカシの襟首をつかんだとき脇腹がカッと熱くなった。

　亜理咲の悲鳴が聞こえたような気がする。

　何が起こったかわからないまま立ち上がって、僕はナイフを持ったタカシの手を蹴った。

　熱を感じる脇腹に手をやると手のひらが血で染まっていた。

　それを見たとき怒りのような感情が湧き出してきて何も考えられなくなった。

　瞳や亜理咲を傷つけさせてはならない。

　僕は叫びながら、ふたたびタカシに向かって突進した。

　僕とタカシは公園の階段を転げ落ちた。

　覚えているのはそこまでだ。

　逆さまになった植え込みの緑が記憶に残る最後の景色だった。