| 4 月曜日、学校で先輩に会うのが怖かった。 正確に言えば、僕の家から出て行ってしまったときの取りつく島もない感じの先輩だったら・・・そうだったら・・・すごく悲しいし、それが怖かった。 でも、あんなことがあった後だから、いままでと同じに接するのは無理なんじゃないだろうか？ それに、僕もどういう態度をとればいいのかわからなかったから不安だった。 部活は火曜日と金曜日だから教室から出なければ今日は先輩に会わずにすむ。 でも、先輩に会いたい、・B いつもの口調。 怒っている感じじゃないし、また先輩と会える、話ができると思うとすごくうれしかった。 5 「昨日のこと・・・」 「はい・・・」 「だれにも言わないでね」 「も、もちろんです」 「約束よ」 「はい」 「それだけ」 「ええっ？」 「じゃね」 あっという間だった。気がつくと先輩はきびすを返していた。 僕は呆然と先輩の後ろ姿を見ているしかなかった。 チェック柄のプリーツスカートの下から伸びている脚の白さだけが印象に残った。 振られたんだろうか？ なにも理解できず、僕は図書室の片隅で座っていた。 6 家に帰って、いろいろ考えた。 このまま放っておけば先輩と疎遠になってしまいそうだ。 勇気を出すときだと思った。 引っ込み思案というか、あまり明るくない性格のせいで、いままで人と付き合うのが苦手だったし、なんとなく避けられていると感じたときは自分から積極的になるのが怖くて付き合いが途絶えてしまうことがよくあった。 でも、先輩とだけはそうなりたくなかった。 昨日のようなことがなくてもいい。ただ先輩と会って話ができるだけでいいんだ。 いまの状況だとふたりで会うのは難しそうだったので携帯にメールを打った。 【どうしても先輩と話がしたいんです。これからiChatを開いてずっと待っています】 iChatの設定は初日にやってあるし、あのとき隣同士で使い方の確認もしている。メンバーリストには先輩の名前しかない。僕はMacの画面を凝視し続けていた。 一時間くらい待っていると電子音が鳴った。「許可」をクリックすると画面に先輩の顔が映し出された。背景は先輩の部屋だろうか、白い壁にベッドの端が見える。 「なんの用？」 先輩の声はちょっと冷たい感じがする。 「このままだと先輩が遠くに行っちゃうような気がして・・・図書室で、すごく悲しい気分になって・・・」 いざ話すとなると、なにから言っていいのかわからなくなってしまった。 「今井君・・・君は危険すぎるわ・・・」 「ど、どうしてですか？」 危険だなんて言われる理由がわからない。 「わたしの秘密を知ってるし・・・」 「も、もう・・・いきなりキスなんてしません。ごめんなさい。謝ります。僕も、なんであんなことをしちゃったのか・・・ほんとうに、ごめんなさい。僕は、いままでどおり先輩と仲良くしたい・・・先輩の役に立ちたいんです」 「君はわたしの秘密の箱を開けてしまったの」 「ひみつの・・・はこ・・・？」 「だから危険なの」 「そ、そんな・・・先輩・・・わけわかんないですよ・・・」 そう答えながら、もしかすると・・・あの妖しい目になってしまった、別人のようになってしまったことを言っているのではないだろうかと思った。 そう・・・きっかけは石造りの螺旋階段と洞窟の話だ。思い出せ、思い出すんだ！ 僕は頭をフル回転させた。 「もしかすると・・・階段を下りていった先の暗闇にある箱のことですか？」 やっと答えらしきものを見つけて僕はそう言った。 「やっぱり・・・」 先輩の表情が変わった。 「先輩・・・秘密は守ります・・・だから・・・僕を鍵にしてください」 きっとそうだ。箱の中に隠してあるのは先輩の誰にも言えない欲望なんだ。そして、きっと僕が箱を開けた最初の人間に違いない。鍵は、その箱だけのものになるという意味だ。主人公は鍵を恐れながらも求めていた。 「どうして・・・わかったの・・・」 「たった今わかったんです。僕が先輩の鍵になる運命だったこと・・・僕は先輩の鍵になります。僕にできること・・・先輩の知りたいことならなんでもします・・・」 小さな画面でも先輩の眼に妖しい光が宿ったのがわかった。そう、昨日、僕に「射精したの？」と聞いたときの吸い込まれるような眼だ。 「来て・・・」 「えっ？」 「いますぐ来て」 「せ、先輩のところへ・・・ですか？」 「君は鍵なんでしょ？」 「わかりました！」 僕はパソコンのスイッチも切らず玄関にダッシュした。 |
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| 2011.4.23掲載 |
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