17 　翌日、登校すると机の中に一枚の紙切れが入っていた。 　一行目には携帯の番号、二行目にはメールアドレスが書いてある。アドレスの中に「alisa」とあるので林亜理咲のものだろう。さっそく登録して、ためしにメールを打ってみる。書く内容に悩んだ末、携帯の番号と雄一郎と名前だけを送信した。打てば響くという感じで1分も経たないうちに返信が来た。昼休みに会いたいと書いてあった。「昨日の場所で弁当を食ってる」と返すとハートがちりばめられたデコメが返って来た。 「いつも、ひとりで食べてるんだね」 「うん。その方が気楽だから」 　うららかな昼下がりだった。このベンチは木の陰になって校舎からは見えないから、僕と林亜理咲がこうしているのに気がつく生徒はほとんどいないはずだ。 「あのさ・・・」 「うん・・・」 「あたしのこと嫌いにならないでね」 　この脈絡のない話し方にも慣れてきた。むしろかわいい。 「嫌いになんかなるはずないよ」 「だって・・・」 「なに？」 「昨日もお兄ちゃんが・・・あたしのこと・・・」 　表情が曇る。 「そうなんだ・・・つらいね・・・でも、それはアリサのせいじゃない・・・」 　僕は林亜理咲の兄さんに腹を立てていた。それは、いけないことに対する怒りというよりかは嫉妬に近い感情だった。そんな気持ちが顔に出てしまったのかもしれない。林亜理咲は僕の顔を覗き込むと作り笑いをして言った。 「ううん・・・ユーイチローはやさしすぎるよ・・・お兄ちゃんに抱かれるあたしなんか嫌いでしょ・・・」 「いや・・・好きだよ・・・それは昨日も言ったとおりアリサは女神なんだと思うから・・・」 「ど・・・どうして・・・」 「アリサは女神だよ。肉体を投げ出すのは女神のすることだ。でも、アリサは生身の人間でもあるんだ。だから苦しいんだと思う」 「あのね・・・」 「うん」 　話しにくそうな感じだったので相づちを打つ。 「感じなかったの・・・でも・・・感じなくてよかったって思った・・・お兄ちゃんにあんなことされて・・・感じたら・・・どうしようかと思った・・・」 「そっか・・・」 　僕は二の句が継げなかった。顔を見たこともない亜理咲のお兄さんと亜理咲が絡み合っているところを想像してしまっていた。昨日見た亜理咲の姿がイメージをリアルなものにしていた。本気で亜理咲を守ってあげたいと思った。でも僕にできることってなんなんだろう？ 「こうしてユーイチローと二人で会っちゃいけないんだ」 「どうして？」 「昨日、瞳と約束したの・・・二人だけで会ったら瞳に悪いから・・・なのに約束破っちゃった・・・」 「こうして話をするだけだったらいいじゃない」 「そう・・・だけど・・・」 「だけど？」 「ばか・・・」 　いきなり立ち上がって林亜理咲は走り去った。 　わかってるよ・・・たぶん。でも、キーパーソンは先輩だ。僕にどうしろっていうんだ。林亜理咲を誘って思いを遂げるのは簡単かもしれない。そのときだけはね。でも、その先がどうなるのかを考えたら、やはり先輩抜きでは話が進まないと思った。 　僕は先輩にメールを打った。林亜理咲が落ち込んでいるから相談に乗ってあげて欲しいと。

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2011.6.15掲載

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