４．Ｋｎｏｗｎ

「いやーっ・・・痛い･･･痛い・・・・痛い・・・」
　ひなたの絶叫は続いた。ひなたは、自分自身、おしっこをもらしていることに気づいてはいなかった。
　ひなたのまわりの人の輪が広がった。
「ああ･あ･ああ・・・・・・・・・ああ・・・・」
　広がった輪の中から、男がひとり、ひなたのほうに向って近寄った。背の高い男。顔に見覚えがあった。痴漢の男だ。
「うう・・うう・・・ううう・・・・・」
　今度は、何をされるのか？ひなたは恐怖で唇が震えた。
　男は、大きな手を広げると、ひなたの首に両手を置いた。
（締めるの？・・・・・首を？・・・・）
　ひなたの緊張はピークに達した。男は、ひなたの首で大きく広げた左右の手の平をそのままにして、いっきに下に降ろした。
「キャーッ・・・・」
　ひなたの体中にとまっていたクリップが、いっせいに外れた。さらに太股まで、男はその手で、ひなたのクリップをすべて弾き飛ばした。
「うわぁ・・・・」
　ひなたの嗚咽が、部屋中に響いた。

　入れ替わるように、女が一人、近づいてきた。
「はじめまして・・・」
　どこかで、聞き覚えのあるだったが、ひなたには、それを認識する余裕がなかった。
　女は泣きじゃくるひなたの顔からアイマスクを外し、ひなたの目と涙で濡れた頬を舐めた。
「どう、わたしが見える？」
　さらに何かをされるわけではないと気づいてひなたは、少し落ち着いて彼女を見た。と言って、見覚えがあるわけではない。彼女の問いかけに、ただ、黙って頷く。
「はじめまして・・・この声はわかる？」
「・・・あっ・・・・・」
　ようやくひなたは、それがＫｎｏｗｎの声であることに気がついた。
「そう・・・驚いた？」
　ひなたは、ずっと、Ｋｎｏｗｎが男だと思っていた。
（そう言えば・・・・見たことがある・・・・駅でメールが来て、見回したときに・・・いたわ。でも、女性だったから・・・・・・）
　実際、ひなたは、何度か彼女を目にしていたのだが、まさか、女性だとは思わなかったので見過ごしていた。
「女の人だったの・・・・」
　ひなたは、小さな声で呟いた。
「残念・・・本当は男なのよ、わたし・・・真希っていうの」
「真希・・・さん」
「そう」
　真希は、研二と拓也に合図して、ひなたを降ろし、手足の拘束をはずした。
　ひなたが、ふらつくのを徹が横で支えた。
「徹・・・・・」
　徹は、思わず、徹に抱きつこうとしたひなたの背中に回って、ひなたを周りの男達に見えるように立たせた。
（徹？・・・・なんで・・・・・）
「ここにいる方々はね、みんな、あなたのブログのファンなの」
　横から、真希が横から話しかけた。
「わたしのブログの？・・・・」
　徹の左腕が、ひなたの乳房を下からせり上げるように持ち上げ、２本の指で乳首を挟んだ。
「俺が書いてる、ひなたのブログ」
　今度は、後ろで徹が答えた。
「徹が書いてる？」
「後で説明するよ。でも、ここにいる人達は、間違いなくひなたのファンだから・・・」
　そう言うと、徹は、ひなたをくるっと一回転させた。今度は、前からひなたを抱き、左手をひなたの右足の太腿にかけると、ゆっくりと持ち上げていった。ひなたは、片足立ちになり、倒れないように徹の首にしがみついた。
「ひなたは、見られて恥かしい思いをするのが好きなんですが・・・ご覧のように、縛られたり、痛いのは、まだ慣れていません。それらは、まぁ、これから徐々にということで、そういう様子もブログに書いていきますから、今後とも応援よろしくお願いします」
「ありがとう」
　真希から声がかかると、徹は、ひなたを抱きかかえたまま、ステージを降りた。
　ステージでは、真希が、
「はい、では、ひなちゃんの後は、第２、第３のひなたを目指すうちのモデルを紹介します」
　と言うと、降りたひなたと入れ替わるように若い女の子が数人、ステージの上に上がっていった。

「徹・・・・・」
　会場の外に出たひなたは全裸のままだったが、もはや、それがどうということでもなかった。入ってきたとき以上に、裸であることの羞恥はなくなっていた。
「今度は、本当に部屋に行くよ」
　ひなたには、そのひとことがたまらなく嬉しかった。

５．シナリオ

「徹」
　部屋のベッドで徹に抱かれながら、ひなたは話しかけた。
「うん？」
「どういうこと？」
　ひなたは、聞きたいことは山のようにあったが、どこからどう聞いていいのかもわからなかった。
「ひなたには、俺に内緒にしてた秘密があった。・・・・俺にもある・・・・っていうことかな？」
「徹の秘密？」
「ああ・・・・」
「何？」
「他の男に弄られてるところ見たいって言えばいいかな・・・」
「他の人に？」
「ああ」
「いいの？妬かないの？」
「さぁ、どうだろう。嫉妬しないわけでもないんだろうが、それもいい」
　徹の曖昧な答えに、ひなたは困惑した。
「どういうこと・・・・」
「俺のことなんか忘れてしまって抱かれている男に夢中になるのも、いい感じだ」
「わたしを、嫌いにならない？」
「ならない、ひなたが好きだ」
「でも、わたしが他の男を好きになったら？」
「しょうがない。自分がまいた種だ」
「変な人」
「嫌か？」
「わからない・・・急に言われても・・・」
　しばらく考え込んだひなたが、おもむろに口を開いた
「ねぇ、徹が仕組んだってこと？」
「何を？」
「今回のこと・・・・真希さんって、だれ？」
「そうだな・・・ひなたのブログを見つけて・・・しばらくして本社に呼ばれたんだ」
　徹が独り言のように話しだした。
「真垣っていう人・・・新規事業部門のトップなんだけど、その人が、親会社に、供給過多で空き室が大量に出ているオフィスビルをワンルームのマンションに変えさせてたんだ。知ってるだろ、ラブホみたいなマンション。うちは、そのマンションのオーナーと借り手を探すっていう事業。立石さんとこのような会社を使ってね・・・・」
　はるか遠くからの説明だったが、ひなたは黙って聞いていた。
「立石さんのキャットハウスもそうだけど、素人の女の子をモデルとしてサイトで紹介してたんだよ。写真のモデルとか、写真集やＤＶＤ、それからライブチャット、系列の店にも出させて・・・。自分のブログを書いてる女の子もいてね」
「それが、真希さん？」
「いや、違う。彼女は、ＮＯＡｈっていうそういうモデル事務所の人。うちと業務提携したんだ」
「業務提携？」
「ああ、で、そこのサイトにお前のブログのリンクを貼って紹介したら、結構反応があって・・・」
「そうなの？そういえば、急にアクセスが増えたけど・・・気づかなかった」
「リンクはすぐに外したからね。そのかわり、ひなたのブログをコピーしてそっくり同じブログを始めた」
「勝手に・・・？」
「ああ、厳密に言うと同じじゃない。この子をどうしたいですか？って問いかけた」
「わたしを・・・・ひどい」
「反応がすごかった。そこからシナリオが出来た。それを実行して記事にした」
「それを公開してたの？」
「ああ、でも、一般公開じゃない。そこからのストーリーは会員限定」
「会員？」
「ひなたのオーナー会員」
「オーナー会員？」
「まぁ、ファンクラブみたいなもんだ」
「そんなのがあるの？」
「今、見ただろ、今日の参加者はみんなそうだ」
「ひどい・・・どうして黙ってたの？」
「そういうシナリオだから・・・」
「わたしは、シナリオ通りに踊らされたの？」
「いや・・・シナリオ以上に官能的に踊ったよ」
　普通に聞けば、噴飯ものの白々しいセリフだが、ひなたは不思議に怒りの感情はなかった。
「わたし・・・・こういうのも・・・いいかもしれないって思った」
　小さな声でひなたが呟くと
「知ってたよ・・・だから続けた」
「ほんとうに嫌じゃない？」
　ひなたは、徹に念を押した。
「ああ・・・・嫌なわけがない」
「そう・・・・よかった」
　ひなたは、ほっとした。嫌がられても、もう後には戻れそうもなかった。
「今度の事務所は、ＮＯＡｈっていうクラブの中に置かれるんだよ」
「わたしもそこへ行くのよね？」
「ああ、そういうこと」
　ひなたは、横になって自分を見ている徹のほうを向き、唇を突き出した。すぐに徹の唇がそこに重なった。ひなたは、徹の股間に手をやると、まだ柔らかい徹のものをぎゅっと握った。
「ねぇ、まだ、できる？」
「ひなた次第だ」
　ひなたは、上半身を起すと、徹を仰向けにし、肉棒を咥え、徹の胸の辺りで跨った。それから、徹の顔の前までゆっくりとお尻をせり上げていく。
　やがて、そこに徹の唇がかぶさると、ズキンっと走るものがあった。