第二章 宴

　誰だって、むしゃくしゃして、飲みたくなるときがあるだろう。
　その日の俺は、まさしく、そんな気分だった。理由は仕事上のトラブルというありふれたものだったが、沈んだ気持ちは、そう簡単に収まりそうもない。同僚と飲んで憂さを晴らすのも趣味ではないし、ひとりで飲むのも気が滅入る。
　そんなとき頭に浮かんだのが啓子の顔だった。
　彼女は、けっこう飲める。以前、家族同士でバーベキューをしたときなど、ワインをひとりで一本開けた上に、ウオッカベースのカクテルをスイスイ飲んで見せた。明るい酒で好感は持てたが、俺など、とてもかなわないと思ったほどだ。
　さっそく「今日、一緒に飲まないか」と、彼女の携帯にメールを入れる。顔文字入りでオーケーの返事がすぐに帰ってきた。しかし、近所の居酒屋に行ったり、酔って一緒に帰ったりするわけにはいかない。仕事を早退して、酒を買って彼女の部屋で飲むことにした。
　奮発して、シャンペンとつまみを近所のデパートで仕入れ、啓子の部屋のチャイムを鳴らした。
「今日は、どうしても飲みたい気分なんだ」
　などと、月並みな文句をいいながら彼女の部屋に上がり込む。
　料理好きな啓子は、俺が買ってきた生ハムやキャビア、クラッカーなどをカナッペにして盛りつけ、二人だけの酒宴が始まった。
「なんだか、とっても不思議な気分」
「なにが？」
「あなたと、こうしてお酒を飲んでることが」
　二人でいるとき、啓子は、俺のことを「あなた」と呼ぶようになった。自然の成り行きと言ってしまえばそれまでだが、多少、危ういものを感じてしまう。その不安の正体が、家族にばれて争議を呼ぶことなのか、それとも、今の二人の関係がどんどん深みにはまり抜き差しならなくなってしまうことなのか、漠然として分からない。しかし、そんな感情は、一瞬頭の中をよぎるだけで、彼女と一緒にいると、どうなるか分からない未来のことなど、どうでもいい気分になってしまうのも事実だ。それは、啓子の方も同じらしい。
　二本目のボトルが残り少なくなり、彼女の眼の縁がボウッと赤くなって、くだらない冗談を言ってもケタケタと笑い出すほど酔ってきた。いままで、会えば、すぐセックスという関係だったから、こんなことでも新鮮で楽しいらしい。結婚以来、友人と会うこともなくなってしまったとこぼしていたから、ひとり暮らしのさみしさもあったのだろう。啓子は、とても楽しげだった。
　互いに、思い出話をするうちに、だんだん話題がきわどい方向になっていく。
「啓子の初体験っていつ？」
　酔った勢いもあり、知りたかったことを、ストレートに切り出すと、驚くべき答えが返ってきた。彼女は処女のまま嫁ぎ、俺が二人目の相手だというのだ。
　酔ったせいで、理性のネジが外れかけているらしい。いつもだったら、こんなことを口に出来るはずがないのだ。調子に乗った俺は、もっと、いろいろ聞き出そうと思った。
「じゃあ、オナニーを覚えたのはいつ？」
「中学生くらいから、自分でいじることはあったんだけど‥‥　なんだか、途中で怖くなって最後まではできなかったの。でもね、高校三年のとき、受験勉強で椅子に座っていて、ペンであそこを触ってたら、とっても感じちゃって。だから、あのときが初めてかも」
「えっ！　ペン、入れちゃったの？」
「そうじゃないったら。シャープペンのうしろの方で、あそこのところを押したら、電気が走ったみたいになっちゃって」
「あそこって？」
「もう、意地悪なんだから。あそこは、あ、そ、こ」
「どんな風にしたのかみせてよ。ほら」
　持っていた万年筆を渡す。普段はパンツルックが多い啓子なのだが、その日は都合のいいことにスカートを履いていた。おまけに生足。俺は、テーブルの下に潜り込んで、早く見せろと催促する。
「エッチなんだからぁ」
　普段からは考えられないおおらかさで、万年筆を手にした彼女は、少し脚を開いて、キャップの先をクリトリスのあたりに押しつける。純白のショーツにしわが寄りワレメの形が露わになる。
「これって、シルクのショーツだよね。いつも、こんなの履いてるの？」
　前面に細かいレースがあしらわれて、高級品だと言うことは、素人の俺にも分かる。
「だって、分かってるくせに‥‥」
「だったら、もっと、見えるようにしてよ」
「え？」
「脚をもっと開いて。せっかくなんだから、もっとよく見せてよ」
　啓子は、ためらうことなく、脚を開く。
「さてと。さっきの続きをやってもらおうか」
　ダイニングテーブルの下は窮屈なので、啓子の隣に行って、椅子を九〇度回転させ、彼女の前にあぐらをかいた。
　フレアスカートを腰までまくり上げ、肩幅ほど開いた脚の付け根に、彼女は右手で持った万年筆を押しつける。その様子を目の前で楽しんだ。
「初めてペンでオナニーしたときって、何を想像しながらやってたの？」
「高校のとき、素敵な先生がいて‥‥」
「なんの先生？」
「英語‥‥」
「その先生に、どう、されているところ？」
「勉強を見てもらってるとき、うしろから抱きしめられて、いろんなところをいじられるの‥‥」
　たぶん、酔いと、見られている興奮のせいで、羞恥とかの感覚が飛んでしまったらしい啓子は、催眠術にかかってしまったかのように喋る。
「でもね、あこがれているだけで、あまり話も出来なかったの。だから、家に帰って、いろんなこと考えてると、なんだかあそこが変な感じになっちゃって、ペンで押したら‥‥」
「どうなったの？」
「あそこが溶けたみたいに熱くなっちゃって‥‥もう夢中になって，気がついたら‥‥」
　啓子の眼は虚ろで、焦点も合っていない。思い出と現実の狭間を浮遊するように喋っている。
「それから、毎日‥‥誰もいない教室で、机の角を押し付けたり、トイレの中で、先生にいじられてるところを想像したり‥‥」
「使ったのはペンだけ？」
「うん」
「入れたの？」
「こわくて、できなかったわ」
　エロティックな話を、しとやかな啓子の口から聞いているとゾクゾクしてくる。
「大学に入って彼氏とかできなかったの」
「いちど、合コンに誘ってもらったことがあったんだけど、なんだか、ああゆうの嫌いで‥‥」
「で、ひとりで楽しんでたわけだ。お尻の方を触ったのはいつ？」
「それは、結婚してから。風邪引いたとき、お薬飲んだら胃が荒れちゃって、座薬を処方してもらったの。軟膏つけて、入れたら、すごく感じちゃったの。それから、たまに‥‥」
　啓子が座薬を入れているところを想像しながら、むっちりとした太ももを撫で回すと、甘いため息が聞こえた。
　こうやって遊んでいると、すっかり、俺の気分も直ってしまった。
「じゃあ、こんどは初体験のこと教えてよ。旦那とは、いつ知り合ったの？」
「大学を卒業してすぐ、お見合いさせられたの」
　啓子は有名なお嬢様学校の出身で、ごく真面目なキャンパスライフを送り、すぐに結婚させられてしまったらしい。
「旦那と初めてしたのはいつ？」
「新婚旅行に決まってるじゃない」
「本当？　いまどき、珍しいぜ。で、初めての体験はどうだった？」
「‥‥」
　遠くを見るような表情になり、彼女は黙り込んでしまったが、気まずい雰囲気ではない。かわいらしい膝小僧に軽くキスをすると、夢の世界から戻ったかのように、また話を続ける。
「あのね、はじめてのとき、うまくいかなかったの。ディズニーランドのホテルに行って、とってもうれしかったんだけど、最初は、私の中に入ってくる前に終わっちゃって‥‥」
「えっ？　じゃあ、旦那も初めてだったわけ？」
「そうみたい。私も、すごくドキドキして、おっぱいにキスされたときは夢みたいだったのに、そのまま終わっちゃって、ほんとにがっかりしたの。次の日も、ちょっと入ってきただけで、あっという間に終わり。すぐ寝ちゃって、自分だけ良ければ、あとはどうでもいいみたいなの」
「で、いまはどうなの？」
「おんなじよ。帰ってきても、私には全然分からない仕事の話ばかりして、ムードも何もないの。ベッドに入ってからも、何もしないで、いきなり抱きついて、すぐに終わっちゃうの。すっごく、自分勝手」
　啓子の旦那は女の経験などまるでなく、自分が果ててしまえば、それでいいという、ほとんど鶏並みのセックスしかしないらしい。以前聞いた通り、乙女の身体を自分の指で開発してきた啓子にとって、夫婦生活は失望の連続だったようだ。
「で、いつも、そうやって自分で慰めていたわけだ」
　話をしながら、万年筆の先がクリトリスのあたりを行き来しているのを、俺は見逃さなかった。そっと、内ももを撫でると、じっとりと汗ばんでいるのが分かる。思わず唇をあて強く吸ってしまった。
　つきたての餅のような白い内股に赤い跡が残った。
「ああ、もうだめ。お願い。啓子を好きにして」
「どんなふうにされたいのか、言ってくれなきゃ分かんないよ」
「あなたのすること、みんな好きなの。だから、お願い‥‥」
　俺は、彼女のショーツを脱がせると、両手の親指で大陰唇を押し広げた。ピンクに濡れ光る蜜壺が口を開け、糸を引いている。ジュルジュルッと、クリトリスのあたりを、わざと大きな音を立てて啜ってやる。
「ああっ！」
　啓子は両手で俺の頭をあそこに押しつけるように抱え込んだ。俺は、ミルクを飲む子猫のように、オ○ンコを舐める。啓子の声がだんだんと高くなっていく。しかし、俺の方は酒が入っているせいで、まだ半分しか勃起していない。そこで、彼女がどこまでクンニに耐えられるのか試すことにした。
　あぐらをかいて、啓子の股ぐらに顔をうずめ、俺は、ひたすら舐め続ける。
　どれくらいの時間が経ったのかは分からない。啓子は身体を痙攣させながら何度も絶頂を迎えていた。それでも休まず、舌を使い続けると、最後に脚をピンと伸ばしながら、ひときわ高い喜びの声をあげるとグッタリしてしまった。
「もう許して。お願い‥‥」
　啓子の声を聞き、俺は顔を離した。
　蜜壺からは愛液が大量に流れ出て、スカートまでがグッショリと濡れている。その眺めに、やっと息子が反応してズボンを持ち上げた。
　俺は彼女を抱き上げ寝室へと運ぶ。
　啓子は半ば失神状態らしく、ベッドの上で服を脱がされる最中も、身体にまったく力が入らない感じで、簡単に丸裸に出来た。夕闇に浮かび上がる裸体が、まるで、ひとつの芸術作品のようで、それを自由に出来るという喜びが俺を支配した。
　服を全部脱ぎ、俺もベッドに上がる。
　唇を重ね、舌を差し込むと、彼女の舌が別の生き物のようにからみついてくる。
　勃起した乳首を指ではさむようにして、乳房をやさしく揉みあげると、低く呻いて、彼女は腕を俺の背中にまわす。俺は、身体を下にずらし、空いた方の乳首を口にふくんで舌先で転がす。
　啓子は両手で俺の頭を抱えるようにして、下半身を蠢かせている。
　俺は舌をくびれたウエストへ移すと、むっちりと張りのある太ももを撫でまわす。
「ああっ」
　熱い吐息が漏れる。しっとりと汗ばむ彼女の肌の感触を楽しみながら、身体を裏返す。ノーブルな背中のラインが息を飲むほど美しい。たまらず、舐めまわすと、背中も性感帯らしく喘ぎ声がいっそう高くなる。
　尻の割れ目から手を入れ、中指で蜜壺を掻きまわし、背骨に添って舌を這わせていくと、感極まった啓子は哀願するように俺を求めた。
「お願い、早く来て！　ああ、もうだめ」
　しかし、全身を舐めたいという欲求に駆られた俺は、そんな言葉を無視して、尻や太股に舌を這わせ続けた。
「だめぇ！　もう、どうにか、なっちゃう」
　啓子の声は泣き声に近い。
　そこで、また仰向けにすると、こんどは足の指先から舐めはじめる。
「ああ！　そんなとこ‥‥　だめよ‥‥　恥ずかしい‥‥」
　指の股は塩味が若干きつかったが、汚いという感じはせず、隅から隅まで征服する快感の方が強かった。
　啓子も言葉では抵抗しているものの、けっこう感じている様子で、なすがままの状態だ。右と左の脛を舐め終え、次は柔らかな内股へと舌を這わせていく。
「早く‥‥　早くぅ‥‥」
　責めどころが快感の中心に近づいたせいか、彼女は腰を浮かせて催促する。そこで、一回だけオ○ンコを舐め上げてやる。
「あうっ！」
　それだけで、啓子は全身を硬直させ、絶頂を迎えてしまった。尖ったクリトリスの感触が舌に残る。もう一度、舌の先で転がすように刺激してやると、どんどんと固くなっていくのが分かる。
「ああっ、だめっ！　いくっ、いっちゃう〜！」
　大きな波に襲われた彼女は、腰を突きだして絶叫した。足の甲までピンと伸ばしている。
　それでも俺は舐めるのをやめず、場所を脇腹やヘソのまわりに移す。舌を這わせるたびにヒクッと腹筋が収縮する。
「啓子、美味しいよ。ほんとに食べちゃいたいくらいだ」
「ああ、もっと食べて」
　荒い息をしながら、そういった彼女は、太股を摺り合わせるようにしながら、俺の髪の毛を掻きまわす。
　俺は、啓子の乳房をつかみながら、匍匐前進のように身体の位置を変えて、その頂を口にふくんだ。
「ああっ」
　大きく息を吐いた彼女は、眼を閉じて快感に浸っている。
　軽く歯を立てながら、舌で先端を嬲ってやると、新しい波が押し寄せてきたらしく、呼吸が速くなってきた。
「ああっ。そこ。もっと」
　まだ、酔いが残っているのだろうか。今日の啓子は積極的に求めてくる。
　乳房を噛んでやると弾力のせいで歯が滑る。そんな感触を楽しんでいると、啓子は脚を俺の腰にまわして引き寄せてきた。
「お願い。来て」
　燃えるような視線を俺に向けて、そう言ってきた。
　俺は、キスをしながら、身体を重ね合わせ、右手を添えて息子を蜜壺へ誘導すると、ゆっくりと根本まで挿入した。
　満たされたよろこびが、俺の背中にまわされた彼女の指先から伝わってくる。
　まだ、余裕があった俺は、少し意地悪がしてみたくなり、一気に息子を引き抜いてみた。
　瞬間、彼女は背中を弓なりにのけぞらせる。唇をふさがれたままなので、くぐもった声をあげる。どうやら、抜くときも相当感じるらしい。もう一度、ゆっくりと入れ、素早く引き抜いてみる。
「んっ、んんっ！」
　眼を見開き、何かを訴えかけるように喘いでいる。
「どうだ！　こっちの方が感じるか？」
　唇を離して聞いてみると
「やめてぇ、身体が裏返っちゃうみたい」
　絶え絶えに答える啓子。どうやら、入れるときとは違った快感があるらしい。
　俺は、「ゆっくり入れては素早く引き抜く」を繰り返し、次第にそのリズムを早めていった。
「ああっ！　やめてぇ〜っ！」
　ストロークの長い挿送に彼女は絶叫する。
　それでも、激しい挿送を繰り返す。右手で、弾力に満ちた乳房を揉み、もう一度、舌をからませる。啓子は脚を天に投げ出すように伸ばし、やがて、つま先で腰を浮かせて、俺の腰に押しつけてきた。腹と腹が合わさり、彼女の体温が伝わってくる。その感覚を楽しみながら、酔いのせいで普段の倍以上長続きした。
　やがて、じわじわと熱い塊が股間に集中してくる。オルガスムス寸前の硬直。そして、射精の熱を蜜壺の中で受け入れた啓子は腰を何度もバウンドさせ、俺の背中に爪を立てた。
「溶けるぅ〜。溶けちゃう〜」
　恐ろしく艶っぽい声をあげると、最後に腹を一度突き出すようにしてのけぞる。そして、四肢を投げ出すように伸ばして痙攣した。
　萎えていく息子に、グッ、グッと収縮を繰り返す膣の様子が伝わる。
　きわめてノーマルなプレイだったが、その激しさに、十分満たされ、もう、これ以上の行為は出来そうもなかった。満たされているのは、啓子も同じらしく、背中に回した手を離そうとせず余韻に浸っている。
「最高だったよ」
　髪の匂いをかぎながら、耳元でささやくと、背中の指先に力が入った。

「啓子。お願いがあるんだけど、いいかな？」
　ぴったりと合わさった下腹の感触を確かめるように小さく動かしながら尋ねる。眼を合わせると、恥ずかしげにうなずく啓子。
「これからも、こうやって啓子を抱きたいし、もっと、いろんなプレイも試してみたいんだ。いいね？」
　ちょっと怯えた表情を見せたあと、彼女は小さくうなずいた。
「じゃあ、こんどは夜這いをしてみたいんだけど、合い鍵を作ってくれないかな？」
　返事をするかわりに、彼女は俺を下から抱きしめてきた。
　縛ってみるのも興味がある。まだまだ、やってみたいことは山ほどあるのだ。