２．

　奈津子は一通り片づけを終えると、リビングの奥の和室に入った。
「お布団敷いておかなくちゃね。」
　来客用の布団を押入れから出し、中西の寝床準備をする。
「そうだ！中西さん着替え持ってないわよね。取り合えず、健治のでいいかな。」
　一組の布団を敷き終えると、二階へ駆け上がった。
　ドアを開けると同時に声を掛ける。
「健治〜中西さん着替えない．．．．．．なんだ、もう寝ちゃってる。」
　健治は高鼾を掻いて眠りに就いていた。
　夫を気遣って、静かにタンスから新品の下着とTシャツを出すと、浴室へ向かった。
　その足運びは、どこか軽やかでそして時めいていた。
「でも、これじゃあサイズ小さいわよね．．．あの体格じゃあ。」
　僅かに高鳴る心臓の鼓動を押さえつつ、脱衣所のドアを開けた。
　入った直後、目線の先に磨りガラスを透して中西の裸体がぼんやりと映し出されていた。
　声をかけようとしたのだが、奈津子の中に潜む何かがそれを拒んだ。
（いけないわ、早くここから出なくちゃ）
　後ずさりしようとする体に対し、顔は一点を向いている。
　欲求妻の陰が陽を上回ってしまった。
　男の裸体に釘付けになり、自分の体が熱を帯びていくのが解る。
　ふらふらとガラス戸の方へ引き寄せられていった。
　中西は、まだ奈津子の存在に気付いて居らず、熱いシャワーを体全体に浴びせていた。
　中西は普通にバスタイムを楽しんでいるのだと思っていた。
　だが、脱衣所に潜む奈津子にとんでもない言葉が届く。
「あ〜奈津子さん．．．」
　奈津子は耳を疑った。
（えっ？．．．な、何してるの）
　中西は己の股間に手を這わせていた。
　小刻みに震動する右手は、明らかに下半身を弄り、徐々にそのストロークを速めていく。
（オ、オナニー．．．してるの？）
「あああ、奈津子さん．．．うう．．．ふん！」
　捌け口の対象が自分であると解ると、恥ずかしくも愛しくなり、奈津子は顔を赤らめていった。
（私を思ってしてるなんて〜）
　その本人に見られているとも知らず、手淫の激しさが一段と増した。
　ぎゅぎゅっと脚をふんばり、腰をめいっぱい突き出した。
（あ〜ん、すごい．．．あんなに荒々しく動いて）
　奈津子は下半身に茹だる様な痺れを受けると同時に、他人の自慰行為を覗いてしまったという背徳の罪を感じ、着替えをその場に落とすと、脱衣所から逃げた。

　奈津子は後悔の念を振り払う様に、ソファで缶ビールを口にしていた。
　しかし、一度点いた欲情の炎は、ビールごときで払拭する事などは無理に決まっていた。
　リビングの沈黙が我慢できなくなり、テレビの電源を入れた。
　内容などはどうでも良く、ただ静寂の空間に耐えられなかった。
　しばらくして、中西が戻ってきた。
「あの、パンツとシャツをどうも．．．」
　奈津子の振り向いた先に、今にも裂けそうなTシャツを着た中西がいた。
　若しかして覗かれていたのかという羞恥心と、この後何かが起こるかもという期待感が、彼の表情に出ていた。
　やっぱり中西にとっては、小さすぎていた。
「ごめんなさいね、それしかなかったの。今晩は我慢して。」
「いや、いいんです。僕も泊めていただけるなんて思ってなかったから。」
　奈津子の目は若い肉体に釘付けだった。
　胸部の筋肉が張り出し、僅かに乳首が透けていた。
　パンパンに膨れた上腕部が、今にもシャツの袖を切り裂いてしまいそうだ。
「それで、僕はどこで寝れば．．．？」
「．．．．．．」
「あの、奥さん。」
「えっ？．．．あ、奥の和室にお布団敷いてあるから。」
「それじゃ、おやすみなさい．．．」
　中西は逃げる様に、和室に消えた。
（あ〜もう、頭が変になりそう．．．）
　奈津子は洗濯を終わらせようと、脱衣所へ入っていった。
（あんな逞しい体を見せつけられたら．．．）
　床に散らばった衣服を洗濯機へ放り込んでいく。
　そして、もう一枚残っていた下着。
「もう、健治ったら脱ぎっぱなしで．．．あれ？健治のじゃない。」
　残されていたのは、中西のものだった。
　彼は覗かれていた事を知っていた。
　だから、奈津子が再び来るだろうと予測して、態と置き忘れていた。
　その餌にまんまと獲物が掛かったのである。
　奈津子は思わずそれを手に取ってしまった。
　汗とアルコール、それに野性的な男のフェロモンが混ざったブレンド臭が沸き立っていた。
　気付くと、貪るように嗅いでいた。
（．．．健治とは違う男に匂い.．．．あぅん！）
　保たれていた理性の殻は、脆くも破れ去り体に疼きが湧き始める。
　男の残り香を感じようと、誰もいない浴室に入り込んだ。

　その頃、和室では敷布団の上でモゾモゾ動く中西がいた。
　一度放出したにも関わらず、下着を膨張させていた。
　ところが、サイズの小ささが枷となり、暴れ始めた肉柱を押さえつける。
　中西は、たまらずパンツを下ろした。
　薄暗い和室灯に、肉の突起物が照らし出される。
　他人の家で股間を露出させているのが、余計に彼を興奮させた。
　それに奈津子が部屋に入ってくるとも限らない。
　いや、入ってくる事を期待していた。　　　　　　　　　　　　
　完全にパンツを脱ぎ去ると、体格に比例した大きな手で肉柱を掴んだ。
　もちろん一物もその巨体に見劣りしない肉砲だった。
　脳のビジョンに、まだ見ぬ奈津子の裸体を想像しながら扱き始めた。
　全裸の奈津子が、自分の下半身に跪き勃起した肉の巨砲をやさしく愛撫していく。
（あ〜奥さん、もっと激しく扱いて下さい．．．）
　手の平を、上下にスライドさせていくと、さらに筒先が膨らみ腰がぐっーと浮いてしまう。
　引き締まった下半身に力が入り、発達した筋肉が浮き出る。
　腰を小刻みに震えさせ、奈津子に見立てた手の動きと相乗させた。
　他人の家にいる事など既に忘れ、人妻とのバーチャル淫戯に没頭していった。
　筒先からクリアーな我慢汁が滲み出すと、スライド運動の摩擦が緩和され、一段と興奮のボルテージが上がった。
　ぬちゅ、ぬちゅとヌメった濁音が、静まり返った和室に響いていく。
（奥さん．．．俺、往きそうです．．．）
　絶頂へのロードを走り出した時だった。
　リビングの明かりが、突然こちらへ差し込んだ。
「あっ！．．．な、何？！」
　バスタオルを羽織った奈津子が、照明を背にして立っていた。
　中西は、体を硬直させ呼吸する事すら忘れてしまった。
「お、奥さん！」
「いいの、やめないで．．．続けて。」
　奈津子は後ろ手に襖を閉じた。
　再び、静寂と薄い闇に包まれた。
「すみません、俺．．．つい．．．」
「言わないで．．．解ってるの。」
　奈津子はやさしい口調で答えると、動揺の隠せない中西のそばにゆっくりと腰を下ろした。
「私の事をこんなに思ってくれてるなんて．．．ああ、おっきい。」
　中西の羞恥心とは裏腹に、肉砲は天井を向いたままだった。
　奈津子は、薄明かりに揺れる肉の陰影に吸い寄せられていく。
　巻かれていたバスタオルがはらりと畳に落ちた。
「あっ！．．．すごい。」
　たわわに実った二つの肉房が、中西の目の前に晒された。
　頭に描いていたバーチャルの裸体が現実化した。
　手を伸ばせば届く距離にある。　　　　　　　　　　　　　
　奈津子は恥らう素振りもせず、眼下にある肉砲に口を近づけていった。
「あうっ！．．．そ、そんな．．．」
　体格に似合わない少年の様な声を上げる。
　体のある一部分が生温かいヌメリに包まれたからだ。
「うふ．．．いいのよ、楽にしてて。」
　ヌメリは肉先を通り根元まで移動してくる。
　男の物を久しぶりに手中に収めた事で、押さえていた淫欲は一気に飽和した。
　口を大きく開けると、肉先を呑みこんでいく。
（す、すごい．．．おっきくて太い．．．）
　奈津子の口中は、健治の物を記憶していた為、そのあまりの差に驚き、そして淫悦してしまった。
　中西の上半身を跨いで、前もって浴室で豊潤させた生貝を露にした。
　人妻から醸し出される刺激ホルモンの淫臭と、熟しきった淫びらが、中西を誘惑していた。
「．．．あああ、奥さんのオ××コの匂いが．．．」
　腰を引き寄せて、その陰影と匂いを堪能していった。
　お互いの思惑が一致した瞬間だった。